吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期 大阪から小樽 六

2006年10月30日 05時18分01秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  六                          
 ビー玉の謎
 列車のすぐむこうで機関車がシャーッ!シャーッ!と騒いでいる。
 重い客車に何百人もの人やかもつを乗せて、山坂をはしりぬいてきょうとについたんやから、シャーッ!シャーッ!とさわぐのもあたり前と思った。
 そうや!すっかりべんとうをわすれとった。
 …母ちゃんべんとうほしい!…
 ぼくは父ちゃんが梅田で買うたべんとうを思い出して言った。       
 …ちーとはやいけんが食べるかい!…                       母はあみ棚から弁当を下ろした。  
 父は小さな瓶からコップにうすい黄色の水…もちろん酒やった…をついでは飲みながら …小樽はまだ街にぎょうさんの雪がのこっちょるがァ!…と言った。
 ぼくは土佐のいなかの弓うちまつりで見た真っ白い雪を思い出したがつもった雪の上を歩いた記憶はない。
 あの時はばぁちゃんの背中やった。
 …雪やったらスキーできるんやろ!…
 …できるもなんも、街がスキーじょうでスケートじょうや!…
 ぼくは絵本で見たスキーのいさましい姿を思った。 
 …ぎょうさんつもるんやろな!…
 …お前の背丈をこすほどつもるでェ!…
 ぼくはおそろし!とつぶやいた。
 大阪のほうがなんぼええかわからんに、なんでそんな雪だらけのところへ?…と大人はどうかしとる!と思った。
 べんとうはごはん箱とおかず箱とふたつもついとった。ふたをとるといままでかいだこともないごちそうのええ匂いがあたりにたちこめよった。
 絵本の竜宮さんみたいなごちそうがぎっしり箱につまっている。
 一、二、三、とかぞえて、たまご焼き、ハモ焼き、金時甘煮、牛肉つくだに、栗、こうなごの釘煮、赤いふちのカマボコ、だいこんとにんじんとレンコン、ゴボウの煮物、竹の子、はまぐりの佃煮、ヨウカンにタクアンと十二ケもあるぞね…と母が数えた。