昭和初期の大阪 五十三
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
学校からもどると玄関にまた木箱のおおきいのがおいてあった。
いなかのばあちゃんの木箱の倍はあるお大きな箱やった。
…小樽の父さんからじゃき、リンゴにかわらん、またチョンチュさん開けてもらうけん言うといて!と母はぼくのすがたをみるなりそう言った。
…おんちゃん!おんちゃん!また来たんや!こんどはリンゴや!…
ぼくははよう見たくておんちゃんおんちやんと裏にいたので二度呼んだ。
…よっしゃよっしゃ!あけたるさかい…リンゴのええ香りやな、朝鮮の田舎の匂いや… …ちょうせんの田舎でもリンゴとれるんか?…
…こんまいサガァやけどぎょうさんとれるでェ!…
チヨンチュおんちやんは器用な手つきでキユーッと釘抜きで抜いた。
…サガァってチヨウせん語のリンゴ?…
…そうや、ナシはペと言う…
…ナシがペーやら食べたことないけどリンゴよりうまくないんやな?…
…そりゃぁリンゴは果物の王様よ!…そう言ってチョンチュウおんちゃんはトントンキートントンキーと抜いてたちまち木箱の蓋を取った。
いつもより大きい釘やったので王様釘になる。
王様釘は全部で十四本もあった。チョンチュウおんちゃんは一本づつトンカチたたいて真っ直ぐ延ばしてくれた。それまで持っていた釘は皆さびて茶色だっちのでクギたおしめいじんのウメちゃんは手をたたいて喜んだ。・
リンゴはカランコロンおばちゃんの黒猫の頭くらいもある大きなものだ。麦わらの間にぎっしりと詰まって麦わらを筵に開けてリンゴを数えたら四十六ケもはいっていた。母ちゃんはチョンチュウおんちゃんに十二ケ、カランコロンのおばちゃんに三ケ、いつもお参りに行く金光さんに八ケ、ぜんぶで二十三ケをわけ、キシャの村田さんにもおしるしや、と四ケ、風呂敷につつんだ。
それでも半分ものこったので毎日たべてもたべきれないほどだ。
リンゴの匂いは家の路地いっぱいに広がってときどきやってくるイカケ屋さんや、カサ直し、トーフ屋、沢カニ売り屋のオッチャン達は皆、ええにおいやな!と言った。
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
学校からもどると玄関にまた木箱のおおきいのがおいてあった。
いなかのばあちゃんの木箱の倍はあるお大きな箱やった。
…小樽の父さんからじゃき、リンゴにかわらん、またチョンチュさん開けてもらうけん言うといて!と母はぼくのすがたをみるなりそう言った。
…おんちゃん!おんちゃん!また来たんや!こんどはリンゴや!…
ぼくははよう見たくておんちゃんおんちやんと裏にいたので二度呼んだ。
…よっしゃよっしゃ!あけたるさかい…リンゴのええ香りやな、朝鮮の田舎の匂いや… …ちょうせんの田舎でもリンゴとれるんか?…
…こんまいサガァやけどぎょうさんとれるでェ!…
チヨンチュおんちやんは器用な手つきでキユーッと釘抜きで抜いた。
…サガァってチヨウせん語のリンゴ?…
…そうや、ナシはペと言う…
…ナシがペーやら食べたことないけどリンゴよりうまくないんやな?…
…そりゃぁリンゴは果物の王様よ!…そう言ってチョンチュウおんちゃんはトントンキートントンキーと抜いてたちまち木箱の蓋を取った。
いつもより大きい釘やったので王様釘になる。
王様釘は全部で十四本もあった。チョンチュウおんちゃんは一本づつトンカチたたいて真っ直ぐ延ばしてくれた。それまで持っていた釘は皆さびて茶色だっちのでクギたおしめいじんのウメちゃんは手をたたいて喜んだ。・
リンゴはカランコロンおばちゃんの黒猫の頭くらいもある大きなものだ。麦わらの間にぎっしりと詰まって麦わらを筵に開けてリンゴを数えたら四十六ケもはいっていた。母ちゃんはチョンチュウおんちゃんに十二ケ、カランコロンのおばちゃんに三ケ、いつもお参りに行く金光さんに八ケ、ぜんぶで二十三ケをわけ、キシャの村田さんにもおしるしや、と四ケ、風呂敷につつんだ。
それでも半分ものこったので毎日たべてもたべきれないほどだ。
リンゴの匂いは家の路地いっぱいに広がってときどきやってくるイカケ屋さんや、カサ直し、トーフ屋、沢カニ売り屋のオッチャン達は皆、ええにおいやな!と言った。