昭和初期 大阪から小樽 五
ビー玉の謎
いよいよホームに入る時間がきた。
ウメちゃんが先にぼくの手を握った。
おどろくほど強い力でにぎったまま手をひっぱった。
…ウメちゃん、がんばって中学へ雪や!父ちゃんにたのんでチョンチュウおんちゃん に手紙書いてもらうさかい!…
ぼくはそういって手を振りほどいた。
シュー!シュー!と機関車がおおきないきをしている。
阿倍野橋の上からかいだ匂いがすぐそばからしてきた。鉄工場の鉄が焦げる匂いがした。 ぼくの乗る客車は前から二番目で窓のしたに赤い横線がはしり、Ⅲの字が見えた。
座席からも匂いがした。
チョンチュウおんちゃんとこにあったエナメルの匂いだった。
外より車内があたたかいのは座席のしたに熱い蒸気が通っていると母が言う。
いつのまにか父の姿が消えている。するとまもなくにこにこした顔の父がさっき見たいい匂いの駅弁の四角いオリを三ケも抱えて乗り込んできた。
夕方に出発した列車は夜行列車で明日の午後、遅く青森につくと言う。
父と母はそろって座り、ぼくはゲンちゃんにもろうた幼年クラブの古い本を座席に広げた。なんど見てもタンクタンクロウは面白かった。
汽車は日のおちた夜の町並みをはしっている。
ゆっくり街の灯りが窓外を流れてゆく。
時々シグナルがチャンチャン!となって過ぎてゆく。
鉄橋のかかる川を渡り、やがて静かな森を通った。
いつのまにねむったんやろ!目覚めるときょうとと書いた駅札が目に入った。
ビー玉の謎
いよいよホームに入る時間がきた。
ウメちゃんが先にぼくの手を握った。
おどろくほど強い力でにぎったまま手をひっぱった。
…ウメちゃん、がんばって中学へ雪や!父ちゃんにたのんでチョンチュウおんちゃん に手紙書いてもらうさかい!…
ぼくはそういって手を振りほどいた。
シュー!シュー!と機関車がおおきないきをしている。
阿倍野橋の上からかいだ匂いがすぐそばからしてきた。鉄工場の鉄が焦げる匂いがした。 ぼくの乗る客車は前から二番目で窓のしたに赤い横線がはしり、Ⅲの字が見えた。
座席からも匂いがした。
チョンチュウおんちゃんとこにあったエナメルの匂いだった。
外より車内があたたかいのは座席のしたに熱い蒸気が通っていると母が言う。
いつのまにか父の姿が消えている。するとまもなくにこにこした顔の父がさっき見たいい匂いの駅弁の四角いオリを三ケも抱えて乗り込んできた。
夕方に出発した列車は夜行列車で明日の午後、遅く青森につくと言う。
父と母はそろって座り、ぼくはゲンちゃんにもろうた幼年クラブの古い本を座席に広げた。なんど見てもタンクタンクロウは面白かった。
汽車は日のおちた夜の町並みをはしっている。
ゆっくり街の灯りが窓外を流れてゆく。
時々シグナルがチャンチャン!となって過ぎてゆく。
鉄橋のかかる川を渡り、やがて静かな森を通った。
いつのまにねむったんやろ!目覚めるときょうとと書いた駅札が目に入った。