第11話 バックラッシュ補正回路って何じゃ?
マークX用の初代モータードライブ(MD)の開発は第8話でお話ししましたが、その次世代型が3年後の1979年に発売されました。DC5速型と呼ばれたこの新製品は、恒星時に対して±2倍、±4倍速のスピードレンジを持っていました。ここで新しい問題が発生したのです。-4倍速時には赤経モーターが逆転するということです。赤経用MDは常に一定方向に回転しているため、ギアのバックラッシュ(噛み合いの遊び)は無視できるのですが、逆回転が発生するとこの遊びの大きさが、ボタンを押してから動き出すまでのレスポンスに影響してくるのです。
そこでこのバックラッシュを電気的に最小限にする回路が考え出されました。逆転のボタンを押すと、バックラッシュの量だけモーターが高速で逆回転を行うよう、タイマーコントローラーが付加されたのです。MDのコントローラーの裏面に小さなドライバーで動かすボリュームが付いていて、これでバックラッシュの量を調整していました。
発売と同時に、この技術の質問がアマチュア天文家から多く寄せられました。当時の赤道儀の常識からして赤経モーターを逆転させるなど殆ど考えられなかったからです。
この回路は当時実用新案を取得していましたが、長い年月とともにその工業所有権も切れて、現在では各社のMDに同じような考え方の回路が内蔵されています。特に2軸のMDでは赤緯の回転で重宝します。しかも現在のマイコンでは、操作状況からバックラッシュ量を自動判定してくれる機能も一般的になっています。(suzu)
画像 : DC5速型MD