ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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教育の広場、第10号、大学教員のアルバイトこそ堕落の元

2006年03月23日 | タ行
 (2000年)10月06日付けの朝日新聞は、新潟大学医学部の教授の「兼業隠し」が発覚したと報じています。それによると、W教授が税務調査をうけて、外部の医療機関の依頼で行った仕事に対して受け取った診断料など合計7000万円以上を税務申告していなかったと認定されたといいます。

 同紙は説明のなかで、「国立大学付属病院の医師らは、許可を申請して本業に支障のない範囲ならば、アルバイト的な診断も認められているが、W教授は大学の兼業許可を得ていない期間があった」と述べています。

 国公立大学教員の兼業、つまりアルバイトは教育公務員特例法第21条によって「本務に支障がないと学長が判断した場合のみ」認められています。つまり、申請することと任命権者が「本務に支障がない」と認めて許可することとが条件です。

 今回はこの申請がなかったというものです。ですから当然許可もなかったわけです。つまり「隠れてした」ことが悪いというのです。そして、税務申告していなかったのが悪いというのです。後者は当然ですからここでは論じません。

 では、申請し許可を得てすれば「大学教員のアルバイト」は良いことなのでしょうか。いや、そもそも「本務に支障のないアルバイト」というのはあるのでしょうか。

 私はS県の情報公開条例を使って、S県立大学教員(教授、助教授、専任講師)のアルバイトの実態を調べました。そこでは全教員 180名の内、83名がアルバイト(この場合は他大学・専門学校・高校での授業)をしています。実にアルバイト率は46%です。

 特にアルバイト率の高いのが経営情報学部の教員で21名中16人、76%の教員がアルバイトをしています。率の低いのは薬学部です。これは、薬学部の教員は、今回の新潟大学医学部の例から推測できますように、医療機関や製薬会社でのアルバイトがあって、それの方が割りがよいという事情があるからだと思います。

 1人の教員が複数の学校でアルバイトをしている例も沢山あります。1人で2ヵ所でアルバイトをしている教員は沢山います。実に5ヵ所でアルバイトをしている教員が3人もいます。3ヵ所は4人です。

 では、これらのアルバイトは本当に「本務に支障がない」のでしょうか。私も大学や専門学校で授業をしていますが、私の場合は週に2日合計4コマ(1コマとは90分の授業のこと)です。しかし、学生参加型の授業をし、頻繁にアンケートをとったりして学生の意見を聞き、また学生のレポートに感想を書き、それをまとめた教科通信を発行すると、週2日が限度です。

 これ以上になると、学生のレポートの1つ1つに対する感想が書けなくなります。つまり、授業の質を落とさざるをえなくなります。私は年寄りで体力がないということを考慮したとしても、自分の担当している授業をすべてこのような「本当の授業」にするとしたら、そして本来そうしなければならない義務を教員は負っているのですが、週3日が限度だと思います。

 しかるに、専任教員はたいてい週3日の授業を義務付けられていますし、授業のほかに教授会もあり、大学の委員会などの仕事もあるのです。もちろん自分の研究もしなければなりません。

 ですから、アルバイトをするならば必ず「本務に支障をきたし」ます。つまり、研究をさぼり授業は手抜きすることになります。学生参加型の授業や学生との対話はできなくなります。現に或る語学教師は「小テストをすると採点が面倒だから小テストはしない」と言いながら、他大学でのアルバイトは面倒でないらしく、2つもしています。

 たしかにどうしてもその先生でなければならないという場合も稀にはあると思います。ですから、私は一切の兼業を否定しようとは思いません。しかし、そういうのは極めて稀です。大多数の兼業は小遣い稼ぎのためのアルバイトなのです。

 どのくらいの稼ぎになるかと言いますと、毎週1コマの授業を1年間担当すると、だいたい30万円前後の小遣いになります。多くの教員は4コマのアルバイトをしていますから、 120~ 140万くらいの小遣い稼ぎをしていることになります。そういう小遣い稼ぎを、1千万前後の年収があり、十分な年金と退職金が保証されている人がしているのです。皆さんはこれをどう思いますか。

 一番重大な事は、そういうアルバイトに精を出すことで教員本人が堕落し、授業が無気力でお粗末になって、折角勉強したいと思って大学に入ってきた学生の勉学意欲を奪っているということです。

 昨今、学生の学力低下が問題とされています。これについてはいずれ詳しく論じたいと思いますが、結論だけを言えば、大学教員の学力低下と熱意の低下が学生の学力低下の第1の本当の原因だということです。

 そして、この大学教員の堕落は大学教員のアルバイトに集約的に現れているのです。それは、許可を得てやれば良いというようなものではないと思います。
(2000年11月07日発行)




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