ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

NHK の広場、19、ドイツ語(18、冠詞、接続法第二式)

2005年07月21日 | NHKの広場
 平高史也さん(慶応大学教授)への質問は2回ですが、返事
をまとめていただきましたので、こちらも1回にまとめます。

第1回の質問

NHKラジオドイツ語講座中級篇、平高様

 前略
 皆さんの中級篇を面白く聞いています。

〔2003年〕06月07日放送の中で関係文の練習がありました。

テキストの中に出てきた文例は次の通りです。
A: Das ist eine Torte, die viel Buttercreme hat.

 しかし、練習問題に出た文例は次の通りです。
 B: Kennen Sie die Dame, die vor dem Aufzug steht?
 C: Handkaes' mit Musik ist das Essen, das in Frankfurt
sehr bekannt ist.

 私が質問したいのは、限定的関係文で修飾された先行詞に定
冠詞が付いている場合と不定冠詞が付いている場合とでは意味
が違うのではないか、ということです。

ですから、テキストの文例の先行詞には不定冠詞が付いてい
る時、説明なしに、先行詞に定冠詞の付いた文例を問題として
出すのは不適切ではないか、ということです。

 又文例Cの先行詞には不定冠詞を付けて、
D: Handkaes' mit Musik ist ein Essen, das in Frankfurt
sehr bekannt ist.
という表現も場合によっては十分可能ではないのだろうか、と
いうことです。

もしそうならば、CとDの違いについても説明してほしい、
ということです。

 日本人には冠詞の問題は難しいですし、翻訳を見ていても、
特に限定的関係文で修飾された先行詞に不定冠詞の付いている
場合に「1つの」と訳す人が多いように思います。こういった
現状を見ても、きちんと説明するべきではないでしょうか。

よろしくお願いします。
                         草々
2003年06月08日
                  牧野 紀之


第2回の質問

 NHKラジオドイツ語講座中級篇、平高様

 前略
 皆さんの応用篇を面白く聞いています。

08月01日分のテキストに次の文があります。
A・ Das waere gut, wenn ich schon hier fuer alle etwas
einkaufen koennte. Dann haette ich es hinter mir.

これらの接続法第2式について貴下は次のように説明してい
ます。「この話をしている時点では仮定の話で、まだ現実にな
っていないので、動詞は3つとも接続法第2式になっていま
す。」

 では質問します。次の文を見てください。
B・ Wenn ich morgen Zeit habe, besuche ich dich.
(クラウン独和辞典)

この文ではなぜ定形は直接法なのでしょうか。この場合も
「話をしている時点では仮定の話で、まだ現実になっていな
い」と思います。

 条件と帰結から成る複合文(ないし本質的にそれと同じ文)
で接続法第2式が使われている場合の「仮定話法」とは、正確
には「反実仮想」と言うべき所を略して言うのだと思います。

その本質について関口存男さんは次のように説明していま
す。

「直接法と違い、裏面に横溢している反対事実をわざわざ利
かさんがために約束話法〔仮定話法〕を用いるのだと言っても
構わない。」(初版独逸語大講座・ 229頁)

又、『新ドイツ語文法教程』 267頁では次の比較で説明して
います。

C・ Ich taete es gern, wenn ich nur die Zeit dazu
haette.
   (言わんとする事は「出来ません」ということ)

D・ Ich tue es gern, wenn ich nur Zeit dazu habe.
(その条件が満たされたら、結論の方も実現される可能
性があることを示す)

つまり、仮定には現実的仮定(可能性のある仮定)と反現実
的仮定(可能性のない仮定)とがあり、どちらの場合でも「仮
定」(仮想)を表すのは wenn なのだと思います。そして、「
反実」(現実ではないこと)を表すのが接続法第2式なのだと
思います。

文例Aで言うならば、「仮定」を表しているのは接続法第2
式ではなくて、 wenn であり、 dann だと思います。その接続
法第2式は「まだ現実になっていない」といった可能性のある
ことを表しているのではないと思います。

 文例Aは意味から考えて「反実仮想」ではありません。つま
り、条件と帰結から成り接続法第2式を使っている文でも「反
実仮想」ではない表現があるということです。ではそれは何の
表現なのでしょうか。これが次の問題です。

私の知っている限りでは、これについて説明している文法書
はありません。しかし、こういう文は沢山使われています。N
HKラジオドイツ語講座の中でも、私が記録しただけでも、次
の2例があります。

1, A: Bekomme ich denn schon dieses Jahr meinen Urlaub?

 B: Selbstverstaendlich haben Sie ein Anrecht auf
Urlaub. Mir waere es am liebsten, wenn Sie Ihren
Urlaub erst im September nehmen wuerden, falls
Ihnen das nichts ausmacht. (NHK,R.84.8)
   (9月に休暇を取っていただければ一番ありがたいので
すが)

2, A: Ich wuesste gar nicht, welche CD ich auswaehlen
sollte.
 B: Also, wenn du heute nachmittag Zeit haettest,
koennten wir in die Stadt fahren und zusammen eine
passende CD aussuchen. (NHK.R.95.04)
   (今日の午後君の都合がいいなら、町にいって一緒に見
てもいいけど)

 もちろんほかでも沢山使われています。それなのに文法書に
これが記載されておらず、説明がないのが問題だと思います。
そのため、今回のように単に「仮定であってまだ現実でないか
ら」といった説明になるのだと思います。

ドイツ語では接続法第2式が難しいという定説ないし神話が
ありますが、このように新しく遭遇したものをきちんと考えな
いでごまかしていくからそういう神話ができるのだと思いま
す。つまり学者が怠慢なのだと思います。

何事も(日本語の文法でさえ)完全に理解することは出来ま
せんが、直面した問題をごまかさないできちんと考えていけ
ば、8割は分かると思います。

今後もがんばって下さい。
                       草々
2003年08月03日
                     牧野 紀之



 平高史也さんからの返事

 拝啓

 いつもNHK ラジオドイツ語講座をお聞きいただきまして、あ
りがとうございます。お便りを2通いただき、ありがとうござ
います。ご返事が遅れましたことをまずお詫び申し上げます。

 関係代名詞の先行詞に定冠詞がついたものと不定冠詞がつい
たものを、何の説明もなく同時に出すのは不適切であるとのご
指摘、その通りだと思います。

今回の講座では6月になってようやく関係代名詞を扱いまし
たので、まず先行詞と関係代名詞の性数格の一致を導入しよう
という意図が先にありました。そのため、定冠詞と不定冠詞の
違いを考えずに、2つとも入れてしまいました。

 お書きの点は関係代名詞がなくても、名詞に定冠詞や不定冠
詞をつけるだけの場合にもあてはまることであり、その点も含
めて、今後はもう少し慎重に対さなくてはと反省したしまし
た。

 また、「反実」を表すのが接続法2式であるとのご教示、あ
りがとうございました。これを拝見して、手元の文法書(G.He
lbig/J.Buscha(1980): Deutsche Grammatik. Ein Handbuch fu
er den Auslaenderunterricht. Leipzig: VEB Verlag Enzyklo
paedie) を調べましたところは、やはり直説法による「現実的
仮定」は確率の高い実現可能性、接続法2式による「反現実仮
定」は確率の低い実現可能性という説明がなされておりまし
た。

 これからはご指摘のような違いも考慮しながら、講座を進め
てまいります。

 今後ともどうぞよろしくご指導ご鞭撻のほど、お願い申し上
げます。
                    敬具
2003年09月07日
平高 史也


 批評

 私の意見を入れてくれたからというのではありませんが、こ
れまでいただいた返事の中ではもっとも誠意のあるものでし
た。

しかし、疑問に思うのは、大学の授業でこれらの点をきちん
と教えているのなら、講座でこのような不用意な事はしないだ
ろうということです。逆に言うと、大学でも、これらの点につ
いてはきちんとした説明をしていないのではないか、というこ
とです。

 慶応大学は会話の教育に熱心のようですが、そしてそれは一
つの方針ではあると思いますが、大学での語学はあくまでも本
当の文法にあるのではないのだろうか、というのが私見です。

    (2005年07月21日)

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