木村 和美 Architect

建築家木村和美の日常活動とプロジェクトについてのブログ

偉大なるオブセッション/フランク・ロイド・ライト

2007-07-27 23:13:08 | Weblog
本日週末の金曜日、六本木の国際文化会館でフランク・ロイド・ライトのドキュメンタリー映画の会があった。
知人から誘われた会合で、知人の都合が悪くなったがせっかくの機会なので私だけが参加してきた。

国際文化会館は、建替えの話もあったが其の保存改修工事が建築学会賞を受けるなど緑豊かな環境ともども貴重な存在となっている。私は何度かこの地に足を運んでいるがほとんど変わらない環境とサービスに感心している。
私が学生時代に吉村順三氏の新建築のコンペがあり、我々の案は佳作入賞でここ国際文化会館でレセプションがあったことはもう遠い昔のことである。
又リスクマネージメント研究会に所属していた頃、富山大学の武井教授の会合によばれて出席したのもここであった。
この建物は、前川國男、坂倉準三、吉村順三氏三者の共同設計と言われているがほとんど吉村さんが実施設計をされたのだろう。そして前川さんと吉村さんはライトの弟子で日本の建築界に大きな影響を与えたアントニン・レーモンドの弟子であり、ここ国際文化会館は今日のライトの催しに相応しい舞台であった。

このドキュメンタリー映画はキャリン・セバンスと森晃一による脚本、編集、製作、監督の作品である。(二人は夫婦だと思う)セバンスさんはシカゴ生まれで父が建築家、ライトに以前から興味があったという。音楽はカーチス・パターソンによる箏の演奏のバック・ミュージック、主としてライトと日本の関係にスポットを当て、帝国ホテルの完成にまつわる挿話、彼を取り巻く日本の経済人や建築家の関係を通してライトの人間性を浮き彫りにしている。

帝国ホテルのプロジェクト(写真)はライトが50歳の時、日本に約6年滞在して完成させた作品であるが、其の前に彼は大変な災難に見舞われている。施主の妻と不倫をし、新たなスタートを切るために創ったタリアセンイーストで、火災が起こり召使に新しい妻と弟子7名を斧で殺害されたと言う。其の直後のプロジェクトが帝国ホテルであった。その後は良く聞かれている関東大震災における高い評価、其の影にある遠藤新をはじめとする日本人建築家の献身的な協力、これらを映画は淡々と綴っていく。
私は其の時の帝国ホテル支配人林愛作がライトの大きな力になったことを初めて知った。彼は以前からニューヨークに住みライトとも知り合い出会ったことが大きな力になったそうだ。
又自由学園の羽仁夫妻との出会い。帝国ホテルの保存運動と同様に自由学園の保存運動も日本と米国のライトに関係する絆を強くしたようである。
アントニン・レーモンド夫妻は帝国ホテルの設計にはそれほど協力していないようだが彼らのそれ以降の日本建築界に与えた影響は大きく優れた人材をたくさん育てていることは周知の事実である。
現在ライトの作品はアメリカ以外では日本だけしかないそうだ。

今日は色々なことを感じた夜であった。一人の建築家の情熱がこれほど大きな影響を後々まで与えることの偉大さと素晴らしさ。しかしそのエネルギーは想像も出来ない人間としての災難、苦痛に遭遇しそれを乗り越える過程で出てくる不条理。類まれな素晴らしい作品は多くの人間を動かし、映画さえつくらせ、このような文化的な催しを可能にしてくれる。
箏の演奏、照明にライトアップされた庭園の夜景の美しさと共に心に残る会合ではあった。