*** FL41幻~FL42匂兵部卿 ***
FL41幻 春の光を見給ふにつけても、・・・
春の光を見給ふにつけても、いとどくれ惑ひたるやうにのみ、御心一つは悲しさの改まるべくもあらぬに、外には、例のやうに人々参り給ひなどすれど、御ここち悩ましきさまにてもてなし給ひて、御簾の内にのみおはします。
[角川ソフィア文庫 第八巻]匂兵部卿~総角
FL42匂兵部卿 光かくれ給ひにし後、・・・
光かくれ給ひにし後、かの御かげに立ち継ぎ給ふべき人、そこらの御末々にありがたかりけり。
*** FL43紅梅~FL44竹河 ***
FL43紅梅 その頃、・・・
その頃、按察使の大納言と聞こゆるは、故致仕の大臣の次郎なり。
FL44竹河 これは、・・・
これは、源氏の御ぞうしにも離れ給へりしのちの大殿わたりにありけるわるごたちの、落ちとまり残れるが、問はず語りしおきたるは、紫のゆかりにも似ざめれど、かの女どもの言ひけるは、「源氏の御すゑずゑに、ひが事どものまじりて聞こゆるは、我よりも年の数つもりほけたる人のひが事にや」などあやしがりける、いづれかはまことならむ。
*** FL45橋姫~FL46椎本 ***
FL45橋姫 そのころ、・・・
そのころ、世にかずまへられ給はぬふる宮おはしけり。
FL46椎本 二月の二十日のほどに、・・・
二月の二十日のほどに、兵部卿の宮、初瀬にまうで給ふ。
*** FL47総角~FL48早蕨 ***
FL47総角 あまた年、・・・
あまた年、耳なれ給ひにし川風も、この秋はいとはしたなくもの悲しくて、御はての事いそがせ給ふ。
[角川ソフィア文庫 第九巻]早蕨~東屋
FL48早蕨 やぶし分かねば、・・・
やぶし分かねば、春の光を見給ふにつけても、「いかでかくながらへにける月日ならむ」と、夢のやうにのみ覚え給ふ。
*** FL49宿木~FL50東屋 ***
FL49宿木 その頃、・・・
その頃、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御になむおはしける。
FL50東屋 筑波山を分け見まほしき御心はありながら、・・・
筑波山を分け見まほしき御心はありながら、端山のしげりまであながちに思ひ入らむも、いと人聞きかろがろしう、かたはらいたかるべき程なれば、思しはばかりて、御消息をだにえ伝へさせ給はず。
[角川ソフィア文庫 第十巻]浮舟~夢浮橋
*** FL51浮舟~FL52蜻蛉 ***
FL51浮舟 宮、・・・
宮、なほかのほのかなりし夕べを思し忘るる世なし。
FL52蜻蛉 かしこには、・・・
かしこには、人々、おはせぬを求めさわげど、かひなし。
*** FL53手習~FL54夢浮橋 ***
FL53手習 その頃、・・・
その頃、横川に、なにがし僧都とかいひて、いと尊き人住みけり。
FL54夢浮橋 山におはして、・・・
山におはして、例せさせ給ふやうに、経仏など供養せさせ給ふ。
*** 「源氏物語」各巻初行 完了 ***