このところ著作権関係のニュースがいろいろ喧しいですな。
【著作権】とんでもない法案が審議されている
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/977113.html
まず「法案」ですが、いくつかのサイトの論調を総合すると、これは即「同人誌」等取り締まりというわけではないようではあります。ただ、たけくま氏らの抱く危惧は私も感じます。
たしかに現行の著作権法はいろいろ甘いところがありますので、現代の諸問題に対応するような形に更新しないといかんでしょう。ただ、法運用を的確に行わないと、国家全体の経済的利益を大きく損なうことにもなりかねません。
たとえばコミックマーケットで売買されている同人誌は、主にアマチュアの手による活動であるものの、れっきとした経済活動であり、しかもそれは相当に大きな規模のものです。改訂著作権法がこれを取り締まり対象としない保証はどこにもないと思いますし、法倫理的にこれをとどめることはなかなか難しいと思います。
ただ、日本がこれだけのコンテンツ発信国になることができているのは、コミックマーケットに代表されるようなシミュラークルの巨大な糠床を持っていることがひとつの大きな成功要素となっている可能性はかなり大きいのではないかと思います。諸外国において、国家プロジェクトでコンテンツ産業振興を行ったにもかかわらずあまり有効な効果を得られなかったのは、コンプライアンスを建前にし、通常の職能と同じレベルで人材育成を試みた結果ではないかと私は考えています。
著作権法の適用範囲をより厳格化することは、海賊版などの排除という形で目先の経済的利益確保につながるとは思いますが(そしてたしかにこれは必要な措置ではあると思いますが)、法運用によってはせっかく育てた金の卵を産むニワトリを鍋にしてしまう結果になりかねません。逆に、国内法で取り締まれないチャイナ・コリア等の方々がより大きな漁夫の利を得る結果になりそうな予感がします。
現行の著作権法では、いわゆるWaresなどソフトウェアの違法コピーを取り締まるのもいろいろとやっかいな部分があるようですし、アキハバラの海賊版業者の取り締まりに親告罪では負担が大きいというのもある程度うなずけます。ただ、現在の日本の司法判断による法運用のあぶなっかしさを見ると、どうも不安を持ってしまいます。
ネット上にデータを保存するサービスはすべて著作権侵害で違法
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/980026.html
とか。
これは、判決の原文を見ていないし法律用語とかよく知らんのではっきり断言はできませんが、日常言語の論理性確保のレベルでおかしい考え方ですね。どうも札付きの変な判決出す裁判官みたいですが、まずこの判決についてブログに載ってる情報を素直に信じるとすれば、これはアクセス制御や個人認証方式の理解がまったくなってないように思えます。
ネット上における「不特定多数」には、いくつものレベルがあります。思いつきで分類しただけでも、
・URLの秘匿性
・URLの恒常性
・情報発信者の承認の有無
・情報発信者の承認のレベル
・認証機能の有無
・認証機能のレベル
などを複合的に吟味する必要があります。さらに、個人認証機能の信頼性とか、いろんな要素を勘案しないで一元的に「不特定多数がアクセスできる」などというのはまさに暴論です。
著作権や知的財産権の保護という概念はもちろん必要だと思いますし、仕事をした人間にこそ権利を与えることは重要だと思います。しかし、それが唯一の思想ではありません。『伽藍とバザール』という有名なレポートがありますが、知的成果物をシェアしたいという思想も確実にあるし、それが人類全体の発展に寄与するという考え方に私はある程度賛成します。なにしろ「地球市民」なので。
WWFも、同人誌に掲載されたコンテンツを公開しています。言っときますけどWWFの執筆陣には博士号とか修士号とか持ってたりする人もライター等で喰ってる人もいて、けっこうマジで価値あるコンテンツも多くあります。しかしわれわれの同人誌はアマチュアであり、「バザール」の側の住人であることをつねに主張しています。
知的財産権を経済財として取り扱うのは自然な流れなのでしょうが、特に著作権で扱うコンテンツの世界は、「伽藍」のモデルと「バザール」のモデルをじゅうぶん注意して峻別しつつ扱う必要があると思います。コンテンツを「伽藍」のモデルで扱っている代表格はハリウッドでしょうが、そのハリウッドで最も上流工程にあるべきシナリオや原案が不足しているのは、そういったコンテンツの生成が「伽藍」のシステムだけではなかなかうまくいかないせいでしょう。ガルブレイスもこうしたモデルを「計画化体制」と「市場体制」というように分類していた気もしますが、「バザール」のモデルを軽視してそれをつぶしてしまうようなことをすれば、おそらくはとても手痛いしっぺ返しを食うことになると私は考えています。
ちなみに個人情報保護法のほうは規制緩和の動きですね。これもまあ産業界から文句が出たことがその要因なんでしょうけど、経産省のガイドラインでは、サーバを貸してるホスティング等の事業者は、貸してるサーバの中に格納されてる個人情報保護については考えなくていいようになりました。なんか一貫性がない気もしますね。
写真はポトフ。ビールにあいます。