蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

羅甸語事始(十八)

2005年10月01日 22時17分51秒 | 羅甸語
"Societatem jungunt leo, equus, capra, ovis. Multam praedam capiunt, et in unum locum comportant. Tum in quattuor partes praedam dividunt. Leo,autem, "Prima pars," inquit, "mea est, nam leo rex animalium est. Et mea est pars secunda, propter magnos meos labores. Tertiam partem vindico, quoniam major mihi quam vobis, animalibus imbecillis et parvis, fames est. Quartam, denique, partem si quis sibi arrogat, mihi inimicus erit."(注1)「ライオン、馬、山羊そして羊が同盟を結んだ。彼らは多くの獲物を得て一箇所に集めた。そして彼らは獲物を四等分した。しかしライオンが言った。「最初の四分の一は私の物である、というのもライオンは動物たちの王だからである。そして二番目の四分の一も私の大きな働きのゆえに私の物である。三番目の四分の一を私は自分の物とする。というもの弱くて小さな動物であるお前たちよりもより酷く餓えているからである。さらに、四番目の四分の一をもし誰かが自分の物にするならば、私の敵となるであろう。」」
今回の長文も基本的には簡単なのだがいくつか注目すべき点が在る。まず与格の訳し方についてだが"mihi~fames est."を直訳すると「私により多く餓えがある」となってしまい不自然なので「私はより酷く餓えている」とした。つぎに"arrogat"は"sibi (acc.) arrogo"で「あるもの(acc.)を我が物とする」という意味になる。なお"sibi"は三人称再帰代名詞"se"の与格。また最後の"erit"は"sum"の未来形単数三人称でこの二つの単語は今回新しく出てきたもの。未来形について今回検討することにする。"mihi inimicus erit."の直訳は「私にとって敵であろう」だがこれを「私の敵となるであろう」した。こちらの方が日本語らしい。また"jungunt","capiunt","comportant","dividunt","inquit"はすべて現在形単数三人称だがこの文章は物語なので歴史的(物語的)現在(historical present)と解釈してすべて過去形の和訳にしてある。歴史的現在は英語でも使われるがラテン語のほうがより頻繁に使用されるのだそうだ(注2)。こんな簡単な文章でさえ、いろいろとわたしたちの言語感覚にそぐわない言い回しが出てくるがこればかりは慣れるほかない。基本的には外国語というものは翻訳不可能だと思ってかかるべきなのだと思う。
そこで未来形について。まず"sum"の未来形から見ることにする。"ero","eris","erit","erimus","eritis","erunt"と活用するのだそうだ。長母音は"ero-"のみであとの活用はすべて短母音となる。意味はもちろん一人称単数で「わたしは在るだろう」あるいは「わたしは~であろう」となり他の活用もそれそれの人称に合わせて訳せばよい。
ついでなので一般の動詞についても直接法能動相未来形の活用を見てみると、第一変化動詞"amo"は"amobo","amabis","amabit","amabimus","amabitis","amabunt"となる。最初のうちは未完了過去と似ているように感じられで紛らわしいかもしれない。因みに未完了過去の活用は"amabam","amabas","amabat","amabamus","amabatis","amabant、だった。第二変化動詞もあまり変わらない。"moneo"(忠告する)で活用を見てみると"monebo","monebis","monebit","monebimu","monebitis","monebunt"となる。ところが第三変化、第四変化動詞はいささか趣が異なってくる。「羅甸語事始(七)」の回で取り上げた第三変化動詞(A型)rego(支配する)、同(B型)capio(捕まえる)、そして第四変化動詞audio(聞く)を使って活用を確認すると、第三変化動詞(A型)"rego"は"regam","reges","reget","regemus","regetis","regent"となり単数二人称、複数一人称二人称の語尾母音が長母音となる。第三変化動詞(B型)"capio"は"capiam","capies","capiet","capiemus","capietis","capient"、第四変化動詞が"audio"が"audiam","audies","audiet","audiemus","audietis","audient"で長母音は第三変化動詞(A型)と同断。
しかしそれにしてもこれを書いている私自身、とても退屈だ。いくら基礎知識とはいえこんなことを延々と勉強させられたらたまったものではないだろう。古典語学習を恨んだ欧州の先哲の気持ちが判るような気がする。今回はこの辺りで止しにしてさっそくビールでも飲もう。

(注1)『新羅甸文法』97頁 田中英央 岩波書店 昭和11年4月5日第4刷
(注1) "Latin Grammer"p.157 B.L.Gildersleeve Gonzalez Lodge Macmillan 1974

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