最近、池上 彰氏著の「おとなの教養」を大変、興味深く読んだので、読後感と内容の要約を紹介します。
読後感:
新書版のベストセラーのコーナーに「おとなの教養」が並んでいたが、タイトルからして、“今更、教養なんて”と余り興味を惹かなかったが、著者が説明上手の池上 彰さんであるので思わず手に取ってみた。内容は予想に反して、「目から鱗」の記述が各所に散りばめられており、視野を広げるのに頗る有益であった。話題が広範囲に渡っているので、教養に自信のない方は勿論、あると自負している方にも一読を勧めたい一冊と思う。
なお、著者は『「自分自身を知る」ことこそが現代の教養だろうと私は思います。』と言っています。でも「自分自身を知る」と言うとなんだか哲学的で分かり難いので、私なりに翻訳し、現在の「自分の立ち位置を知る」と言い換えて読んで見ると文脈に合うような気がした。
以下に、各章の「目から鱗」の箇所を幾つか紹介します。
このうち、序章の内容が特に、「目から鱗」でした。欧米では、ギリシャ・ローマ時代から、その時々の「現代の教養」がリベラルアーツとして発展して来た歴史と、最近の日本の大学でのリベラルアーツの取り組みが詳細に語られていて興味深い。
内容の要約:
序 章:
教養の起源はギリシャ・ローマ時代に遡り、現代でも、「リベラルアーツ」として、その基本理念を欧米の
名門大学は引き継いでいるそうである。遅ればせながら日本の大学でもリベラルアーツの考え方の
導入を行いつつある。
■リベラルアーツの起源は「文法」「修辞学」「論理学」「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」の7科で、ヨーロッパの大学では20世紀まで教えらていたそうである。
■工科大学で有名なアメリカのMIITに音楽科があるのは大変に興味深い。
■欧米で発展してきたリベラルアーツの7科に因んで著者は、現代のリベラルアーツとして以下に述べる「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」の7項目を選定し、解説している。
第一章 宗教:
■神(ゴッド):ユダヤ教、キリスト教(ゴッド)、イスラム教(アッラー)は同一の神を戴いている。
■各宗教の信者数(比率):
キリスト教徒(33%)、イスラム教徒(23%)、ヒンズー教徒((14%)、仏教徒(7%)であるが、一番遅く生まれた(7世紀)イスラム教徒が一番多くなるかもしれない。
■宗教紛争の本質:教義などの違いによる争いでなく、土地や資源を巡る争いである。
第二章 宇宙の誕生:
何とも壮大で、神秘的で、私如き凡人には不可解な宇宙科学へ案内してくれる。
■ハッブルの大発見:1929年にハッブル(米)は巨大な望遠鏡で銀河を観測し、宇宙は膨張し続けていて、その
膨張速度は距離に比例している事を発見し、「宇宙膨張説」を提唱した。
■インフレーション:138億年前にビッグバンに先立ち“無”から超高温・超高密度の火の玉ができた。
これが宇宙の始まりと言われる。
■ビッグ バン:インフレーション直後に超高温・超高密度の火の玉が大爆発(ビック・バン)により粒子が撒き散らされた。
■ヒッグス粒子:ビッグバンで飛び散った粒子がヒッグス粒子により減速されて質量を持つようになり引力で
集まって大きくなり、やがて星が生まれた。
因みに、この粒子の存在を予言したヒッグス(米)とアングレール(仏)の両氏は2013年にノーベル物理学賞を受賞している。
第三章 人類の旅路:
■生命の誕生:43億年前に海中で誕生
■人類の誕生:ミトコンドリアのDNA調査で、アフリカ大陸で誕生し世界に分散して行ったことが分かった。
■白人の誕生:アフリカ生まれの人類は強い紫外線から身を守るために肌が黒い(黒人)が、突然変異で
肌が白い人(白人)が誕生し、彼らは紫外線の弱い北方へ移動して行った。
■ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとの違い:ネアンデタール人とホモ・サピエンスとは
別人種であるが、両者が数十万年前の同時期に生存したことがある。その後、ネアンデタール人が
絶滅したのは、彼らの文化程度が我々ホモ・サピエンスのそれよりも低く、旨く環境に適用できなかった
ためらしい。
第四章 人間と病気:
■環境と病気:花粉症は吸血ダニが環境の清潔化に伴い減少したが、ダニに対する免疫システムは
人間の体内に残っていて、スギ花粉が入ってくるとダニと間違え活性化し、その結果、発症すると言われている。
■病気と共に進化してきた:突然変異で猛威を振るうようになったウィルスに耐えた者のみが生き残ってきた。
■病気は歴史を変える:
・スペイン風邪が第一次大戦で両軍の兵士にスペイン風邪(発生はスペインでなくアメリカと言われる)が
蔓延し、戦争継続が出来なくなった。
・アメリカインディアンの激減はヨーロッパ移民が持ち込んだウィルスによると病死が原因と言われる。
・中世に流行ったペストで多くの農民が死に、その結果、農民の地位が向上し、農奴解放へと
つながっていった。
第五章 経済学:
■経済理論が世の中を動かしている:
ある経済理論も一時的には旨く機能するが、やがて行き詰まり、それを補填した新たな学説が誕生してゆく。
即ち、アダムスミスの「自由放任主義経済」から始まって→マルクスの「社会主義経済」(失敗)→
「ケインズ経済学」(莫大な赤字財政)→フリードマンの「新自由主義経済」(格差拡大)→最近では
「行動経済学」が注目を集めている。
第六章 歴史:
■歴史は権力者により書き換えられる:事例として、北朝鮮、韓国、中国の歴史は為政者の都合の
良いように脚色されているようである。
■歴史との付き合い方:歴史とは勝者、権力者などの記録であり、言わば「氷山の一角」であり、知られざる
歴史も沢山あるのを知るべきである。
■「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」:初代ドイツ帝国宰相のビスマルクの言葉とされているが、
言わんとするところは、「自分の狭い経験だけで物事を判断しないで、広く他人の例に学ぶのが良い。」と
言うことである。
第七章 日本と日本人:
■日本人の定義:明治に戸籍法が制定されるまで法的には決まっていなかった。
標準語などの普及により日本人として共通意識が育まれた。
■日本、日本人の認識:国家からの押しつけ、教育、或いは外国との接触などによる相違の自覚などより
認識するようになる。
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