koshiのお部屋2

万年三歳児koshiの駄文のコーナーです。

坂の上の雲-第1回「少年の国」

2009年11月29日 20時23分27秒 | TV&エンターティメント
 まことに小さな国が,開化期をむかえようとしている。
 
中略

 この物語の主人公は,あるいはこの時代の小さな日本ということになるかもしれないが,ともかくもわれわれは三人の人物のあとを追わねばならない。そのうちのひとりは,俳人になった。俳句,短歌といった日本のふるい短詩型に新風を入れてその中興の祖になった正岡子規である。

 中略

「信さん」
 と言われた秋山信三郎好古は,この町のお徒士(かち)の子に生まれた。
(司馬遼太郎著「坂の上の雲」第一巻「春や昔」より抜粋~文春文庫刊)



いよいよ始まりました。
数年前から構想はあったものの,脚本家の自殺等で頓挫しながらの制作であったと聞いていますが,本日の朝日新聞による番組評では「語りが多くて,人物像が浮かび上がってこない」と珍しく厳しく評価されていましたが,どんなものなのか,期待と不安が交錯する中,早めに夕食を済ませて6時から見ました。


原作を読んだのは随分前です。
したがって,記憶自体がかなり曖昧であり,さらには秋山兄弟の少年期のエピソードは原作では散発的に語られるだけなので,如何に違和感なく脚色がされるかが今回のポイントとなると思いました。
また,どうやら主人公は真之と子規のようなので,好古の青年時代のことはカットされたのが少々残念に思われました。
補足するなら,銭湯の釜焚きや水汲みをやった後の明治8(1775)年,大阪師範学校を受験して半年で卒業。
大阪と名古屋で代用教員をやった後に上京して陸軍士官学校を卒業。
明治18(1885)年に真之が上京した際は,中尉に任官して陸軍大学校へ通っていました。
それらがすっぽりカットされていたので,今後好古の動きがカットされなければ良いのですが・・・。


全編がフィルム撮影のような撮り方で,古い映像とシンクロさせたような効果が随所に見られ,苦心の跡がうかがえました。
また,後半の鉄道馬車(犬山の明治村?)や新橋駅での下車シーン,さらには横浜港での軍艦の抜錨シーン等は,原作には無い描写でしょうが,実に良くできていて感心させられました。
役者さんたちは,ごく一部を除いて皆巧いですね。
子役がまた素晴らしい。
特に(子役とは言えませんが)好古の青年期を演じた染谷将太くんには感心させられました。
当年とって17歳だそうで,この時期の好古を演じるにはうってつけと思いました。
子規の妹である律は原作には出てきませんので完全な創作となりますが,年齢的に無理があるのを承知で菅野美穂が体当たりで演じていました。
それに比べると,松たか子の佐久間多美子は??でした。
役者としての血筋は,松たか子が正統なんでしょうけど・・・。
高橋是清役の西田敏行はそっくり,というくらい似ていました。
あの英語の発音が上手いかどうかは分かりませんが・・・。
主役級三人はどれもさすがの存在感と演技だったと思います。
特に,予想通り阿部寛の好古は騎乗姿が抜群に格好良く,ちょっと饒舌かなと思いつつも今後に期待が高まります・・・。


しかし,この作品を読んでみて改めて思ったのは,明治という欧米列強に追いつけ追い越せの時代を是とするか否か,ということです。
これは今も司馬史観を論ずる際に話題となっていることらしいですが,維新の原動力となった藩閥がやがて軍閥を形成し,帝国主義の先鋒となり他国を侵略する元となり,未曾有の大戦争を起こして昭和に至って多くの有為な青年等の命を散らしてしまうことに・・・と考える人たちからは非難されているようですし,若い頃から私の周囲で反体制を標榜していた人たちは皆司馬遼太郎が嫌いでした。
さらには,漫画家の小林よしのり氏も,明治を是・昭和を否とする司馬史観(そんな単純に色分けして良いものか,と思いますが)には懐疑的であることを著書で述べていました。


ただ,当時の若者たち三人が現代人の我々とは比べものにならない程高邁な志を持って上京し,藩閥全盛の時代を切り開いていったことへの共感は,帝国主義とか軍閥といったものを超越して,群像ドラマとしての魅力を裏打ちしていると思います。
言ってしまえば,若い頃(というか10代の)私が「竜馬がゆく」や「功名が辻」といった司馬作品に触れた時に,夢中でページを繰ったわくわくするような高揚感が本作でも感じられ,それは映像作品として形を変えても(原作者は映像化は不可能と生前語ったそうですが),私の心を捉えました。
好古・真之兄弟の離郷シーンや前述の是清との横浜行等,創作追加された内容は有ったものの,原作の良さを損なうことなく明治という時代の若々しい息吹を伝えてくれた点でも今日の第一回は成功だったのではないでしょうか・・・。
「少年の国」という題名は,文字通り当時の日本のことであり,伊予松山のことではないでしょう・・・。
明治という時代が,秋山兄弟+子規に代表されるように若者の志が高かった時代だとしたら,今回の映像作品は制作に携わったスタッフの志の高さがひしひしと伝わってくるものとなっていたと言っても差し支えないと思いました。
少なくてもこれに比べれば,辛辣な言い方をすれば同じNHKの「天地人」や「功名が辻」など稚戯に等しいと言えるかもしれません(勿論大まじめで作った制作担当者の苦労は並大抵ではなかったと思いますが・・・)。
今日は特別枠の1時間半という長丁場でしたが,全く飽きることなく良いものを見た,という充実感でいっぱいです。
とにかく来週が楽しみでなりません。


最後に余計な補足を。
子規が通った共立学校とは現在の開成高校だそうです。
東大受験の名門として筋金入りということでしょうか。
また,横浜港に回航された巡洋艦「筑紫」ですが,もともとはチリ海軍が発注した巡洋艦「アルトゥーロ・プラット」だったということです。
南米諸国は当時極めて政情不安だったようで,太平洋地域での戦闘が行われていたらしいですが,勝敗の帰趨が見えたためにキャンセルになって,日本が買ったということのようです。
そして日清戦争に於いて,この「筑紫」の艦長となったのが,秋山真之でした・・・。


因みに,私は自分の子を好古・真之と名付けようと考えたことがありましたが(笑),周囲で既に行った方が居られまして,断念しました・・・。
うちは下が女なので,いずれにしても叶わなかったわけですが・・・。


日記@BlogRanking

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お待ちかね・・・ (アメリカン・ブルー)
2009-11-29 23:33:55
始まりましたね・・・
今日も、しっかりスタンバイして、見られたようで、本当に楽しみにされていたことが、伺えました。

前半、古い映画のようだ・・と思って観ましたが、そんなことだったのか・・・と納得です。

ご自分のお子さんに同じ名前を・・・とは、余程、好感の持てる描かれ方をしているのだろうと、興味が深まりました。

以前、息子のピアノの先生が、ご自分のお子さんを出産されたときに、うちの息子と同じ名前をつけてもいいですか・・・と言われた時は、本当に嬉しく思いました。彼も、もう、高校生になったことでしょう。
余談になってしまいました・・

明治維新からの事は、勉強不足で、「歴史」の中でも、今一つです。
今回も映像に加え、渡辺謙のナレーションとkoshiさんの解説本で3倍楽しもうと、欲張り計画です。楽しみにしていますね♪
返信する
司馬さんについては色々ありますね。 (空想野郎)
2009-11-30 02:12:45
こんにちは。トラバが通らなかったので、コメ失礼いたします。
実はウチの父親も、歴史小説が大好きで「燃えよ剣」の
愛読者でしたが、司馬さんの明治観については批判的でした。
私は父親っ子だったので、彼の意見を頭から呑み込んでいた節がありました。
でもこのドラマでは、そういうベクトルより青年たちの
青春期として楽しみたいと思います♪
また来週もお邪魔しますね。
返信する
いや-良かったです・・・ (koshi)
2009-11-30 23:15:13
アメリカン・ブルーさん,今晩は。
過度の期待は禁物,と思ったのですが,いやいや良くできていました。
一体あの「天地人」は何だったのでしょう・・・。
お子さんと同じ名前を・・・とは光栄ですね。
私も絶対嬉しいと思います。

好古・真之は,何と言っても我が国を救った英傑の名前ですからね。
そして,明治期に薩長閥以外からこうした人物が出てきたことも,実は明治という時代の柔軟性を感じたりもします・・・。

とにかく次回以降が楽しみでなりません。
これだけの内容ですから,ついつい期待してしまいます。
現在,原作を再読中ですが,江川達也の「日露戦争物語」も読んでみたいものです・・・(床屋で1巻だけ読みましたが・・・)。

返信する
お出でくださいまして,ありがとうございます (koshi)
2009-11-30 23:22:53
空想野郎さん,今晩は。
TBくださったばかりかコメントまで残してくださいまして光栄でございます。
ご覧の通り,開店休業のようなサイトですが,ご覧いただけると有り難いです。

列強に追いつけ追い越せの明治が是,帝国主義と戦争へ突き進んだ昭和が否,というのが司馬史観であると思ってきましたが,司馬氏ご本人も著作(「世に棲む日々」だったか「竜馬がゆく」だったか)に於いて,禁門の政変に代表されるような激烈にして暴発的な長州藩の性格が,やがて陸軍閥にはびこり,不幸な戦争に突入していった・・・といったことを述べられており,必ずしも薩長が是という単純な維新肯定論・明治賛美論に偏ってはいないと思います。
でも,そんなことより,仰るように高邁な理念と青雲の志を抱いた若者の群像劇として楽しんだ方が健全でしょうね。

せっかくお出でいただいたので,今からTBを辿っていきたいと思います。

返信する

コメントを投稿