風呂敷担いだ女の子は、メモ帳に書かれていた通り、住むところを探すことにしました。
(でもいったいどうやって探せばいいんだろう)
女の子は悩みました。
1時間、真剣に悩みました。
でも本当は、真剣に悩んだのは10分程度で、あとの50分は食べ物のことを考えていました。
(またあのお姉さんのお弁当、食べたいな)
中でも特に、舞美のお弁当の味を思い出していました。
「ピッピー、シンキングタイム終了ー!!!」
女の子は街中で一人、叫びました。
そして風呂敷から紙とペンを取り出すと『大安売り』と書き、看板を作りました。
「いらんかねー可愛い女の子はいらんかねー」
女の子は、看板を持ち大声で言いながら歩き回りました。
「安いよ安いよー」
すぐにお巡りさんがやってきました。
(おや、警察がスカウトにやってきた。きっと婦警さんになってくださいっていうのね。それも悪くないかな)
女の子はお巡りさんに連れられ、交番へ行きました。
……それから2時間、お説教です。
いかがわしい商売だと思われたのです。
(スカウトじゃなかったんかい!)
女の子は心の中でツッコミをしました。
(しかし長いなあ。えらい時間の無駄やわっ)
当然、関西弁になってしまいます。
「君、家はどこ」
お巡りさんが女の子に尋ねます。
しかし、女の子は口を開きません。
「早くこたえなさい」
お巡りさんは怒っています。
「軽くみないで。あたい、そういうチャラいナンパは無視することにしてるのさ」
女の子はナンパなんてされたことないのに、そう言いました。
「それじゃここから帰すわけにいかないな」
お巡りさんが腕組みして言いました。
「まあ、今日のところはここで泊まってもいいや。でもベッドとお風呂は用意してくれなきゃいやよ。あと晩ご飯」
女の子がそう言うと、お巡りさんの顔はだんだんと怒りで紅潮していきました。
危険を察知した女の子は「あ、あんなところにMM号!」
と叫びました。
でも、女の子はMM号がなんなのか知りませんでした。
アドリブで勝手に思い浮かんだ言葉なのです。本当です。信じてね。
それを聞いたお巡りさんが
「どこどこ?」
と気を散らした隙に、女の子は交番から逃げていきました。
そしていつの間にか、日が暮れていました。
その頃。
木宇戸家。
サキ・チサト・マイの3人は内職をしていました。
元々、舞美が家にいる時にやる仕事でしたが、3人は舞美が少しでも楽になればと、部活にも入らず自ら手伝っているのでした。
その内職というのが『妖怪おまじないカード』をランダムに袋詰めし、100枚集まったところをホチキスで留めるというものでした。
『妖怪おまじないカード』は小学生女子向けのカードでしたが最近は大人にも人気がある、玩具です。
カードの絵柄によってレア度が大きく異なる為、コレクター心をくすぐるのだそうです。
「よし、集まった」
100枚分集まったサキが言いました。
「今日はマイがやる」
マイが元気に手をあげました。
3人はいつも、ホチキスで留める前に、買った気分を味わうため、遊びで一枚ひいてみるのでした。
たいていは『あずきあらい』『あかなめ』『まくらがえし』などレア度1のカードしか出ません。
「じゃあ、これ」
マイはサキが手にしたカードからひとつ、目を閉じて選びました。
袋から出してみるとそれは『カッパ』のカードでした。
3人は瞳孔を開いたまま、しばらく動くことができませんでした。
「カッパのカード……本当にあったんだ」
かすれ声で、チサトがやっと言葉を発しました。
カッパのカードはレア度5000とも言われる超レアカードで、本当はないんじゃないかという疑惑まであるカードでした。
実際この内職を1年近くやっている3人も、目にするのはこの時が初めてでした。
オークションにもめったに出ず、出れば数百万円はするんじゃないかという噂も出ていました。
「これ、売ったらいくらになるかねイヒヒヒヒ」
サキが悪い顔で言いました。
と同時に、チサトの平手打ちがサキの頬に炸裂しました。
「そんなことしちゃ駄目」
チサトの目は潤んでいました。
「どんなに貧乏でも、悪いことはしちゃいけない。舞美お姉がいつも言ってるじゃん」
「冗談で言っただけなのに、ぶつことないでしょ」
サキも怒って、チサトにカッパのカードを投げつけました。
……はい。
恒例の喧嘩が始まりました。
マイは冷静にカッパのカードを拾うと袋に入れ、他の袋と一緒にホチキスで留めました。
(つづく)
(でもいったいどうやって探せばいいんだろう)
女の子は悩みました。
1時間、真剣に悩みました。
でも本当は、真剣に悩んだのは10分程度で、あとの50分は食べ物のことを考えていました。
(またあのお姉さんのお弁当、食べたいな)
中でも特に、舞美のお弁当の味を思い出していました。
「ピッピー、シンキングタイム終了ー!!!」
女の子は街中で一人、叫びました。
そして風呂敷から紙とペンを取り出すと『大安売り』と書き、看板を作りました。
「いらんかねー可愛い女の子はいらんかねー」
女の子は、看板を持ち大声で言いながら歩き回りました。
「安いよ安いよー」
すぐにお巡りさんがやってきました。
(おや、警察がスカウトにやってきた。きっと婦警さんになってくださいっていうのね。それも悪くないかな)
女の子はお巡りさんに連れられ、交番へ行きました。
……それから2時間、お説教です。
いかがわしい商売だと思われたのです。
(スカウトじゃなかったんかい!)
女の子は心の中でツッコミをしました。
(しかし長いなあ。えらい時間の無駄やわっ)
当然、関西弁になってしまいます。
「君、家はどこ」
お巡りさんが女の子に尋ねます。
しかし、女の子は口を開きません。
「早くこたえなさい」
お巡りさんは怒っています。
「軽くみないで。あたい、そういうチャラいナンパは無視することにしてるのさ」
女の子はナンパなんてされたことないのに、そう言いました。
「それじゃここから帰すわけにいかないな」
お巡りさんが腕組みして言いました。
「まあ、今日のところはここで泊まってもいいや。でもベッドとお風呂は用意してくれなきゃいやよ。あと晩ご飯」
女の子がそう言うと、お巡りさんの顔はだんだんと怒りで紅潮していきました。
危険を察知した女の子は「あ、あんなところにMM号!」
と叫びました。
でも、女の子はMM号がなんなのか知りませんでした。
アドリブで勝手に思い浮かんだ言葉なのです。本当です。信じてね。
それを聞いたお巡りさんが
「どこどこ?」
と気を散らした隙に、女の子は交番から逃げていきました。
そしていつの間にか、日が暮れていました。
その頃。
木宇戸家。
サキ・チサト・マイの3人は内職をしていました。
元々、舞美が家にいる時にやる仕事でしたが、3人は舞美が少しでも楽になればと、部活にも入らず自ら手伝っているのでした。
その内職というのが『妖怪おまじないカード』をランダムに袋詰めし、100枚集まったところをホチキスで留めるというものでした。
『妖怪おまじないカード』は小学生女子向けのカードでしたが最近は大人にも人気がある、玩具です。
カードの絵柄によってレア度が大きく異なる為、コレクター心をくすぐるのだそうです。
「よし、集まった」
100枚分集まったサキが言いました。
「今日はマイがやる」
マイが元気に手をあげました。
3人はいつも、ホチキスで留める前に、買った気分を味わうため、遊びで一枚ひいてみるのでした。
たいていは『あずきあらい』『あかなめ』『まくらがえし』などレア度1のカードしか出ません。
「じゃあ、これ」
マイはサキが手にしたカードからひとつ、目を閉じて選びました。
袋から出してみるとそれは『カッパ』のカードでした。
3人は瞳孔を開いたまま、しばらく動くことができませんでした。
「カッパのカード……本当にあったんだ」
かすれ声で、チサトがやっと言葉を発しました。
カッパのカードはレア度5000とも言われる超レアカードで、本当はないんじゃないかという疑惑まであるカードでした。
実際この内職を1年近くやっている3人も、目にするのはこの時が初めてでした。
オークションにもめったに出ず、出れば数百万円はするんじゃないかという噂も出ていました。
「これ、売ったらいくらになるかねイヒヒヒヒ」
サキが悪い顔で言いました。
と同時に、チサトの平手打ちがサキの頬に炸裂しました。
「そんなことしちゃ駄目」
チサトの目は潤んでいました。
「どんなに貧乏でも、悪いことはしちゃいけない。舞美お姉がいつも言ってるじゃん」
「冗談で言っただけなのに、ぶつことないでしょ」
サキも怒って、チサトにカッパのカードを投げつけました。
……はい。
恒例の喧嘩が始まりました。
マイは冷静にカッパのカードを拾うと袋に入れ、他の袋と一緒にホチキスで留めました。
(つづく)