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水神少女あいりん(3)

2011-01-22 | 水神少女あいりん
風呂敷担いだ女の子は、メモ帳に書かれていた通り、住むところを探すことにしました。


(でもいったいどうやって探せばいいんだろう)

女の子は悩みました。

1時間、真剣に悩みました。

でも本当は、真剣に悩んだのは10分程度で、あとの50分は食べ物のことを考えていました。


(またあのお姉さんのお弁当、食べたいな)
中でも特に、舞美のお弁当の味を思い出していました。


「ピッピー、シンキングタイム終了ー!!!」
女の子は街中で一人、叫びました。

そして風呂敷から紙とペンを取り出すと『大安売り』と書き、看板を作りました。



「いらんかねー可愛い女の子はいらんかねー」
女の子は、看板を持ち大声で言いながら歩き回りました。
「安いよ安いよー」


すぐにお巡りさんがやってきました。


(おや、警察がスカウトにやってきた。きっと婦警さんになってくださいっていうのね。それも悪くないかな)


女の子はお巡りさんに連れられ、交番へ行きました。

……それから2時間、お説教です。
いかがわしい商売だと思われたのです。



(スカウトじゃなかったんかい!)
女の子は心の中でツッコミをしました。

(しかし長いなあ。えらい時間の無駄やわっ)
当然、関西弁になってしまいます。



「君、家はどこ」
お巡りさんが女の子に尋ねます。

しかし、女の子は口を開きません。

「早くこたえなさい」
お巡りさんは怒っています。


「軽くみないで。あたい、そういうチャラいナンパは無視することにしてるのさ」
女の子はナンパなんてされたことないのに、そう言いました。


「それじゃここから帰すわけにいかないな」
お巡りさんが腕組みして言いました。


「まあ、今日のところはここで泊まってもいいや。でもベッドとお風呂は用意してくれなきゃいやよ。あと晩ご飯」
女の子がそう言うと、お巡りさんの顔はだんだんと怒りで紅潮していきました。


危険を察知した女の子は「あ、あんなところにMM号!」
と叫びました。

でも、女の子はMM号がなんなのか知りませんでした。
アドリブで勝手に思い浮かんだ言葉なのです。本当です。信じてね。


それを聞いたお巡りさんが
「どこどこ?」
と気を散らした隙に、女の子は交番から逃げていきました。


そしていつの間にか、日が暮れていました。




その頃。
木宇戸家。


サキ・チサト・マイの3人は内職をしていました。

元々、舞美が家にいる時にやる仕事でしたが、3人は舞美が少しでも楽になればと、部活にも入らず自ら手伝っているのでした。


その内職というのが『妖怪おまじないカード』をランダムに袋詰めし、100枚集まったところをホチキスで留めるというものでした。


『妖怪おまじないカード』は小学生女子向けのカードでしたが最近は大人にも人気がある、玩具です。
カードの絵柄によってレア度が大きく異なる為、コレクター心をくすぐるのだそうです。


「よし、集まった」
100枚分集まったサキが言いました。


「今日はマイがやる」
マイが元気に手をあげました。


3人はいつも、ホチキスで留める前に、買った気分を味わうため、遊びで一枚ひいてみるのでした。

たいていは『あずきあらい』『あかなめ』『まくらがえし』などレア度1のカードしか出ません。


「じゃあ、これ」
マイはサキが手にしたカードからひとつ、目を閉じて選びました。


袋から出してみるとそれは『カッパ』のカードでした。


3人は瞳孔を開いたまま、しばらく動くことができませんでした。


「カッパのカード……本当にあったんだ」
かすれ声で、チサトがやっと言葉を発しました。


カッパのカードはレア度5000とも言われる超レアカードで、本当はないんじゃないかという疑惑まであるカードでした。

実際この内職を1年近くやっている3人も、目にするのはこの時が初めてでした。
オークションにもめったに出ず、出れば数百万円はするんじゃないかという噂も出ていました。


「これ、売ったらいくらになるかねイヒヒヒヒ」
サキが悪い顔で言いました。


と同時に、チサトの平手打ちがサキの頬に炸裂しました。
「そんなことしちゃ駄目」
チサトの目は潤んでいました。
「どんなに貧乏でも、悪いことはしちゃいけない。舞美お姉がいつも言ってるじゃん」


「冗談で言っただけなのに、ぶつことないでしょ」
サキも怒って、チサトにカッパのカードを投げつけました。


……はい。
恒例の喧嘩が始まりました。


マイは冷静にカッパのカードを拾うと袋に入れ、他の袋と一緒にホチキスで留めました。


(つづく)


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