――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■――
50代からの「ストレスと健康」の新常識/杉山直隆(ライター)
PHP Biz Online 衆知(Voice) 9月14日(金)12時55分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120914-00000002-voice-bus_all&pos=1
その“身体にいい習慣”が、老化をもたらす!?
メタボ、うつ、喫煙……寝たきりに陥ることなく、死の直前まで元気に暮らす「健康長寿」をまっとうするために、避けるべきほんとうの「敵」は何か。3名の凄腕ドクターへの取材から、まったく新しい“健康常識”を提示する。
◆ストレスか寿命を縮めるこれだけの根拠◆
自他共に認める長寿大国・日本。今年7月の厚生労働省発表によると、2011年の日本人の平均寿命は男性が79.44歳、女性が85.90歳。女性が今回世界2位に下がったとはいえ、依然、世界トップクラスの水準を保っている。
もっとも、数値上では長寿でも、健康で長寿な人が多いかというと、なんともいえない。実際には、いつ亡くなっても不思議はないが、延命処置によって何年も命をつないでいる高齢者が少なくない。
「いまの日本には、百歳以上のお年寄りが約4万8千人いますが、そのうちの7~8割はほぼ寝たきり状態。元気に暮らしているのは2割程度でしょう」と話すのは、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授の白澤卓二氏。
これは百歳以上の人に限った話ではないだろう。60~70代ですでに寝たきりになっている人も少なくない。
誰しも、自分が寝たきりになるのは避けたい。数字上だけの長生きではなく、死ぬ直前まで元気に暮らす、真の健康長寿をめざすにはどうすればいいのか。
「そう考えると、がんや心臓病といった生活習慣病の防止が思い浮かぶかもしれませんが、認知症と骨粗しょう症も厄介です。これらは、一度なってしまったら治療はほぼ不可能ですが、死に直結しない。だから、寝たきりで長生きするというパターンが多いのです。これらは予防できますが、病院は予防医学に力を入れていないので、当てになりません。50歳を越えたら、自分自身で予防を始めましょう」
ほとんどの読者の方は、すでにさまざまな健康習慣を採り入れているかもしれない。健康食品やサプリメントを毎日欠かさず摂る、ウォーキングやストレッチをする、規則正しい生活を送る、といったことに日々気を配っていることだろう。
ただ、意外と見落としがちなのが、「心の健康」を保つことだ。
「心の健康対策は、その他の健康対策と同じくらい、いやそれ以上に大切です。ストレスは、長寿にものすごく関係していますから」
と話すのは、順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村康氏。
その根拠は、ストレスとNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の関係だ。NK細胞とは、リンパ球に含まれる免疫細胞の1つ。身体に異変がないか、つねに監視を続けていて、ウイルスが体内に入ってきたり、がん細胞が増えてきたりすると、致命傷になる前に退治する。
「NK細胞が元気なら、そう簡単にがんにはなりません。ところが、NK細胞は、ストレスを受けるとガタンと働きが弱まる、という欠点がある。ただでさえ、NK細胞は50~60歳ぐらいから弱くなりますから、高齢になってから大きなストレスを受けると、非常に弱くなってしまうのです」
一方、「強いストレスを受け続けることは、活性酸素を生み出すことにつながる」と指摘するのは白澤氏だ。活性酸素とは細胞内にあるミトコンドリアで酸素が消費されるときに生じる、酸素の残り滓のようなもの。
「活性酸素が生まれると、ミトコンドリア自身を攻撃します。そして、細胞自体を壊して老化を促進させる、がん細胞をつくり出す、とさまざまな悪さをするのです。活性酸素が多ければ、それだけ老化は早まってしまいます」
また、精神科医で国際医療福祉大学大学院教授の和田秀樹氏は、「過剰なストレスがかかれば、うつ病になる。意欲が低下すれば、脳や身体を使わなくなるので、老化がどんどん進みます」と語る。とくに高齢者は要注意だという。
「高齢者はうつになりやすいのです。まず、親や親友など大切な存在を失う『対象喪失』に遭ったり、病気や死に対する不安も起こりやすい。それが原因でうつになる人が少なくありません。また歳をとると、心を安定させる働きをもつセロトニンという神経伝達物質の分泌が少なくなります。若い人以上に、気をつけなくてはいけません」
降りかかってくるストレスからいかに身を守るか。健康長寿をめざすなら、その対策は欠かせない。
◆健康対策によってかえって健康を損ねる人◆
ところが皮肉なことに、健康によいことをしようとして、無用なストレスを生み出しているケースは少なくない。
「その筆頭が、メタポリックシンドローム対策です」
こう指摘するのは和田氏だ。ご存知のとおり、メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満によって高血圧、高血糖、脂質異常が引き起こされている状態。これを気にして、日々食べたいものをガマンしている人は多いのではないだろうか。
「そのガマンがストレスになっている人も多いでしょう。それでも、そのガマンが健康長寿に結びつくのなら、苦労も報われますけどね。実際には、かえって健康を損ねているケースがあるのです」
その代表的な例が、牛や豚などの肉の摂取を控えることだ。肥満や動脈硬化を防ぐためとはいえ、行きすぎると思わぬ弊害を招く。うつ病になりやすくなるのだ。
セロトニンという神経伝達物質が心を安定させることはすでに述べたが、このセロトニンの原料になるトリプトファンは、肉に多く含まれている。つまり肉を控えていると、セロトニンの量が増えないのだ。
「じつは、うつ病の治療薬は、セロトニンを脳に取り込みやすくするだけで、セロトニンそのものを増やす働きはありません。だから、元の量が少ないと、薬が効かないのです。
まして歳をとると、セロトニンが減るわけですから、若い人以上に肉を食べないといけない」
また白澤氏も、「70歳以上になったら、肉や魚をどんどん食べたほうがいい」という。
「歳をとると活動が減るので、粗食がいい、と思われがちですが、まったく逆。70歳を過ぎたら、寝たきりや要介護状態を防ぐために、栄養をどんどん摂って、体力をつけたほうがいいのです。なかでもタンパク質が減るので、肉や魚を積極的に摂るべきなんですね」
そもそも、メタボ対策は中高年までの話だ、と白澤氏はいう。
「70歳を越えたらメタボは気にしなくていい。少しぐらい太めでも問題はないんです。20歳のときと比べてブラス5キログラムぐらいならまったく気にする必要はありません」
一方、奥村氏は、コレステロールを多く含む食品を避ける風潮に対して、警鐘を鳴らす。
「『コレステロール値が高いのは問題』というのは大間違い。むしろ数値が低いほうが問題です」
そもそもコレステロールとは、身体の細胞を構成する有機化合物。細胞をつくるためには欠かせない物質だ。コレステロールが少ないと、細胞が壊れやすくなる。すると、血管の細胞が弱くなって脳卒中のリスクが高まるし、NK細胞もつくれなくなるので、免疫が下がるというわけだ。
「いまは総コレステロール値が 220mg/dl以上だと高コレステロールとみなされますが、大阪府の調査では、『男女ともにコレステロール値が 240~260mg/dlのグループが最も死亡率が低かった』という結果も出ています。私は、心臓が悪い人でなければ、総コレステロール値が 300mg/dlまでなら放置していいと思います。へンに気にして、気に病んでいたらもったいない」
コレステロールには善玉と悪玉がある。悪玉は悪者とされているが、和田氏は悪玉も大事だという。悪玉コレステロールが低い人はうつになりやすく、回復しにくいからだ。
「悪玉コレステロールは、脳にセロトニンを運ぶ役割があり、血中の悪玉コレステロール濃度が低いとうまくセロトニンを運べない。決して『悪』ではないんですね」
にもかかわらず、なぜコレステロールは悪者のようにされてきたのか。理由は、循環器病(心臓など)車門医が動脈硬化のリスクが高まると指摘していたからだ、と和田氏はいう。
「この例に限らず、健康常識の多くは、臓器別専門医によって流されています。ただ、臓器別の医師は自分の専門分野だけをみている。だから、身体全体でみたらどうか、という視点が抜け落ちる傾向があるんです。そこは注意したほうがよいでしょう」
「ガマン」といえば、タバコについて、気になる人も多いだろう。さかんに喧伝されるタバコの害を気にして、すでに禁煙した人も少なくないはずだ。そんな風潮に対し、奥村氏は待ったをかける。
「タバコは悪者にされすぎている。免疫学の観点からいえば、タバコのメリットは小さくありません」
奥村氏が挙げるのは、ある研究機関が2000人の自殺者を対象にした調査。その人たちがタバコを吸っていたかどうかを調べたところ、喫煙者は1人もいなかったそうだ。
「逆にいえば、喫煙者に自殺者は少ないといってよいでしょう」
その要因として考えられるのは、タバコに含まれるニコチンだ。
「ニコチンは、脳の神経細胞や免疫細胞にあるアセチルコリン受容体に作用し、細胞を活性化させる効果があります。それによって、心を安定させるセロトニンや、意欲にかかわるドーパミンを分泌するといわれています。だから、タバコを吸うとストレス軽減につながるのでしょう」
免疫学の観点からみれば、このストレス軽減効果は見逃せない。先にも述べたとおり、免疫のカギを握るNK細胞はきわめてストレスに弱いからだ。
「タバコは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や心筋梗塞を引き起こすといわれます。しかし、1日に何箱も吸わなければ、そう簡単にはなりません。そのリスクと、NK細胞の活性が下がるリスクを比べたら、後者のほうがはるかに怖い。そう考えると、タバコが悪とは必ずしも言い切れないんです。理由は不明なのですが、喫煙者は潰瘍性大腸炎やパーキンソン病になりにくいというデータもありますしね」
50歳を過ぎている人で、これまでタバコで身体に異常が出なかった人は、そのまま吸い続けても寿命に影響はない、と奥村氏はいう。
「むしろその歳になって強引にタバコをやめれば、ストレスも大きい。それでNK細胞が弱ったり、うつになったりするほうが問題です」
ちなみに、「せめて身体への影響を軽くしよう」と低タール・低ニコチンのタバコに変える人がいるが、まったく意味はないという。
「それどころか、かえって本数が増え、悪影響になることもあります。どうせ吸うなら、おいしいと思えるタバコを少なめに吸いましょう」
一方、和田氏も、「70歳を過ぎたら、タバコをやめてもやめなくても、大した影響はない」と話す。かって和田氏が勤めていた浴風会病院に併設する老人ホームで、喫煙者と非喫煙者の生存曲線を調べたところ、65歳を過ぎると、あまり変わらなかったそうだ。
「理由は定かではないのですが、考えられるのは、老人ホームに入る前に、タバコでがんや心筋梗塞などを起こしていない人は、タバコに強い遺伝子をもっていること。また、メンタル面で何かよい影響をもたらしていることも考えられます。私はタバコ否定派ですが、この結果をみると、一概に『やめなさい』とはいえない。高齢者の身体にとって何がよくて何が悪いのかは、ほんとうに判断がしづらいんです」
◆数値に一喜一憂していてはストレスをためるだけ◆
以上で紹介したのは、ほんの一例。健康に気をつかうあまり、ストレスをためてしまっては、本末転倒だろう。そうならないためには、何を心がけるべきだろうか。
「世の中で流布している理想的な検査数値などを気にしすぎないことが大切」というのは、奥村氏だ。
「理想的な数値なんて、1人ひとり違うものです。まして、70歳を過ぎたら、検査結果が平均より外れるのなんて当たり前。それに合わせようとして、一喜一憂していても、ストレスをためるだけです。私は70歳を過ぎたら、検査自体しなくていいとすら思っています」
数字を気にしすぎないというのは、和田氏も同じ意見だ。
「歳をとると血圧の高さが気になりますが、降圧剤で下げれば、意欲の低下やふらつきなどの副作用が出てきます。それなら多少正常値を超えていても、降圧剤を飲まないほうが元気に生きられるかもしれません。データ上の健康を手に入れたけどフラフラするのと、データ上では不健康だけどエネルギッシュなのでは、どちらが幸せか。日本人は、数字で自分の人生を計るのが好きですから、前者を選ぶ人が多そうですが、後者を選ぶ道だってあると思います。案外、後者のほうが長生きしても不思議はありません。精神的にポジティブですからね」
「数値でしかものをみない、日本の医療の悪癖に乗せられないほうがいい」と白澤氏はいう。
「日本の医学部は、人体を数字でみることばかり教えて、患者の心に関することを教えませんからね。それを如実に表わしているのが、終末期医療。安らかな死を迎えるためにメンタルケアをするという考えがなく、生物学的な死しかみていません。幸せな人生を送りたいなら、医者の言いなりにならずに、自分にとってほんとうに幸せな人生とは何かを考え、それに沿って生きていくことが大切だと思います」
自分にとって楽しく、ストレスのない生き方とは何か。それを明確にすることが、巷に溢れる健康常識と賢くつき合うコツといえそうだ。
【関連記事】
[メタボに朗報!]やせたい人は、今夜もビールを飲みなさい/安中千絵(管理栄養士)
[KOBA式 体幹トレーニング]まず「ドローイン」を覚えよう/木場克己 (プロトレーナー)
香山リカの「逃げる技術」:“SNS”からの逃げ方/香山リカ(精神科医)
[40代管理職]サポート型マネジメントを目指せ/小室淑恵(〔株〕ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
[夏野 剛 の「本の読み方」]・私がビジネスマンに小説を勧める理由
――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■――
アメリカで増加を続けるセリアック病
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 12月25日(火)21時10分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121225-00000003-natiogeo-sctch
目にも楽しいジンジャーブレッドだが、グルテンを摂取できないセリアック病患者には縁がない。 (Photograph by Jeffrey LaMonde Saginaw News/AP)
アメリカでは1980年代以降、セリアック病の患者数が倍増している。体がグルテンを有毒と判断してしまう自己免疫疾患の一種で、クリスマスのお菓子など、グルテンを含む食品は生涯口にできない。もし食べれば小腸の組織が破壊され栄養を摂取できなくなり、どんなに沢山食べても栄養失調・低栄養になってしまう。
グルテンは小麦粉に含まれる粘りのあるタンパク質で、サクサクしたピッツェル(薄焼きクッキー)からバターたっぷりのショートブレッドまで、伝統的なクリスマスのレシピに欠かせない。また、粉末の香辛料も避ける必要がある。容器の中で塊にならないよう、グルテンが添加されているからだ。つまり、スイートポテトやペカンパイ(ペカンナッツで作るパイ)も体が受け付けない。
パンにもグルテンは不可欠だ。滑らかでフワフワ、しっとりした食感が生まれ、形も崩れないのはグルテンのおかげ。生地は混ざりやすくなり、のし棒で伸ばしても割れにくくなる。朝食用のドーナツも多くの場合、グルテンが添加されている。ふっくら仕上がり、べたべたした糖衣などをかけても壊れないからだ。市販のお菓子はグルテンが使われている可能性が特に高い。有名ブランドの焼き菓子は均質性が求められる。見慣れた形、食べ慣れた味を維持し、長持ちする必要もある。つまり、市販の人間の形をしたジンジャーブレッドやコーヒーショップのシュガークッキー、ギフト用のパネトーネ(イタリアの菓子パン)もグルテンを使わざるを得ない。
メリーランド大学セリアック病研究センター(Center for Celiac Research)を率いる胃腸科専門医のアレシオ・ファサノ(Alessio Fasano)氏によると、現代の食事には以前より多くのグルテンが含まれているという。「祖父母の世代が口にしたのは、パンとビール、パスタぐらい。はるかに少なかった」。
クリスマスの食卓では、どこに潜んでいるのだろうか。まず、缶詰の肉は避けたい。多くの場合、タンパク質の量を増やすためにグルテンが添加されている。プロセスチーズも控えめにした方がいい。プラスチックの包装材料が剥がれやすいのはグルテンのおかげだ。ナッツも要注意。ドライローストされたナッツの多くは、塩などの調味料が定着するようグルテンでコーティングされている。
ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックの胃腸科専門医ジョセフ・マレー(Joseph Murray)氏によれば、1年前のクリスマスに祖母の家でクッキーを何十枚も食べたとしても、今年も大丈夫とは限らないという。「セリアック病は幼少期に発症すると考えられてきたが、この説の信頼性は揺らいでいる。大人になってから発症するケースも確認されているからだ」。
Johnna Rizzo for National Geographic News
【関連記事】
アトピー性皮膚炎の原因蛋白質を特定
免疫システムから身を隠すマラリア原虫
甘い物を食べ過ぎると頭が鈍くなる
古代都市の子孫は免疫系が進化?
トマト食べると酔いにくく覚めやすい?
――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■―― ――■■――