本朝徒然噺

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二代目中村錦之助襲名披露興行へ(4/15)

2007年04月15日 | 芝居随談
4月15日(日)、再び歌舞伎座へ行ってまいりました。今回は昼夜通しでの観劇です >>当日のキモノはこちら
もともとは夜の部だけ行く予定だったのですが、タナボタで昼の部も観ることになり……
昼の部の観劇日記は先週書いたので、演目など詳細は先週の記事をごらんいただくこととして……(手抜きで申し訳ありません……)。

夜の部は、「実盛物語(さねもりものがたり)」、「口上」、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)より「角力場(すもうば)」、「魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)」です。

「実盛物語」で、思慮分別があり情に厚い武士、斎藤実盛を演じるのは、片岡仁左衛門丈。さすがの貫禄でした。
かっこいいのは言うまでもありませんが、品格ある堂々とした侍の姿と、幼い子どもに対する愛情あふれる表情の演じ分けというかバランスが絶妙で、観ていてスッキリしたりホンワカしたり感動したり、とても後味の良い一幕でした。

続く「口上」では、二代目中村錦之助襲名を祝って大看板がずらりと舞台に並びます。中央に控える新・錦之助丈を含め、その数なんと22人! 本当に圧巻でした。
みなさんの心のこもった口上に、先代と二代目のお人柄がしのばれました。

口上の後はお食事タイムだったのですが、せっかくなので「襲名弁当」を予約しておきました。
二代目錦之助丈の襲名を祝う献立になっているのですが、お吸い物の中のかまぼこや煮物の中のニンジンが蝶々の形(錦之助丈の紋が「揚羽蝶」なので)になっていて「おおお!」と思いました
このお弁当を予約すると、襲名記念の一筆箋がもらえます。

お食事タイムは30分なんですが、結構あっという間なんですよね……。2階または地下のお食事処まで行ってお弁当を食べて戻ってきたらギリギリです。
いつも思うんですけど……やっぱり食事時間の幕間は40分くらい欲しいです……

続いての幕「角力場」は、二代目錦之助丈の襲名披露狂言です。
錦之助丈は、ナヨっとした若だんなと血気盛んな若い力士・放駒(実は米屋さんの丁稚なんですが)を、早がわりを交えながら演じ分けます。
放駒と取組をする濡髪を、新・錦之助丈の師匠である中村富十郎丈が演じます。天王寺屋さん(富十郎丈)の表情がどことなく嬉しそうに見えました


夜の部のキリ狂言は、「魚屋宗五郎」。

さて、ここからは少々(というかだいぶ)辛口になります。心臓の弱い方はどうぞお読みにならないでくださいましね(笑)。

話が少しそれますが、私は寄席である場面に出くわすと、「絶対に許せない」と感じます。それはどういう場面かと言いますと……、

芸人(噺家・色物を問わず)が余計なこと(つまんない「クスグリ」を入れたり客席をイジったり)をして間(ま)をはずす

お客さんがしらける

客席がしらけているのを見て、ふてくされた芸人が高座を「投げる」(=いいかげんな気持ちでつとめる)

という場面であります。

もちろんこの場面において、「お客さんがしらける」ことを責めるつもりは毛頭ありません。
だって、初めて寄席に足を運んだお客さんだって、高座の雰囲気は感知しますから。
客席がしらけるのにはそれなりの理由がきっとあるはず。
それなのに、それでオマンマ食っているはずの人が勝手にやる気なくして高座を投げるなんざ、言語道断! お客から言わせれば「100年早ぇよ」ってなもんです。悔しかったら、一生懸命やって客席を惹き付けなさい、と。
もしも、もしもですよ、寄席でトリをつとめる人がこんなことをやった日にゃあ、あたしゃあ間違いなく途中で帰りますよ!

このことは、寄席だけではなく芝居の世界でも同じだと思います。

キリ狂言というのは、その日のおしまいを飾る大切な一幕です。
この幕がどうであったかによって、お客が劇場を出る時に「今日は楽しかったな、面白かったな、来てよかったな」と思えるかどうかが決まると言っても過言ではありません。
そこのところを、キリ狂言の立役者(あえて名前は出しませんが)は肝に銘じてほしいと思います。

もしかしたら、この日初めて歌舞伎を観るという人がいるかもしれない。
もしかしたら、体調が悪いのをおしてわざわざ来た人がいるかもしれない。
もしかしたら、この日のためにわざわざ遠くから足を運んだ人もいるかもしれない。
もしかしたら、「歌舞伎は今日が見納めになるかもしれない」と思って足を運んだ人がいるかもしれない。
そんな人たちが「ああ、楽しかった、よかった」と思って劇場を後にできなければ、エンターテインメントとしては失格だと思うんです。

それまでの幕でどんなにほかの人ががんばっても、最後の一幕が後味悪ければ、その日の芝居がすべて台無しです。
さらに言えば、最後の一幕までみんなががんばっても、一人がそれを崩してしまったら、その日の出演者全員の苦労が水泡に帰してしまうということです。
いくら大看板でも人気役者でも、そんなことをやる権利なんてないと思います。
そのへんをきちんとわきまえられているはずだから、キリ狂言の立役者をまかされているんじゃないんですかね

噺家さんのなかにも、時々勘違いしちゃう人がいるんですよ。
マスコミに露出している人なら、ファンも多くなりますよね。
で、客席の大半がその人のファンで埋まっているところで高座をやっていると、当然、ウケがいいわけです。
でも、それはあくまでも「限られた世界」での実績でしかないわけで、寄席の高座に上がれば、自分のファンばっかりとは限らないわけです。
ほかの噺家を目当てに来ている人もいるかもしれないし、自分のことをまったく知らない人もいるかもしれないし、落語なんて興味ないけどたまたま入って来ちゃったって人だっているかもしれないわけです。
そういう時にお客さんを惹き付けて、「おもしろかったね」「よかったね」と言わせることができるか……そこで噺家さんの真価が問われるのだと思います。
別に、上手い・下手の問題ではなく、噺の世界や人物、そして客席と真摯に向き合っていれば、それは必ず客席に伝わると思うのです。

で、くどいようですがこれも、寄席だけではなく芝居の世界にも言えることだと思います。

と、いうわけで……。
3月も昼夜通しで観て、その時はたとえ熱があっても「観に来てよかった」と思いながら劇場を後にしたのに、今回は劇場を出た時の第一声が「あー、疲れた」だったのでした……

せっかくみなさんが頑張ってたのに、もったいないなあ……。
よく役者さんたちが「行儀の悪い芝居はしてはいけないと教えられた」とおっしゃいますが、本当にそれって大事だと思います。
あの温厚かつ知的な片岡我當丈がさすがにちょっとムッとしていたように見えたのは、私だけかしら……(でも、我當丈はさすがです! どんな時でも流されず、丁寧に演じておられるのがよくわかりました)。

おめでたい襲名披露興行なのに、なんだか怒りの観劇日記になっちゃいました……。二代目錦兄、ごめんなさい……(錦兄はちっとも悪くないです)。


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4 コメント

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共感します・・・ (神奈川絵美)
2007-04-17 16:36:54
こんにちは! 何だか残念なお芝居になってしまったようですね。お気持ちお察しします。
私も、数少ない経験の中ですが、昨年寄席を観にいったとき同じ思いをしました。
トリは歌丸さんで、それは素晴らしかったのですが、途中で出た方(もうお名前を忘れてしまいましたが)が、楽屋オチみたいな話に終始し(しかもつまらなかった)、だらだらと時間をつぶすような形になって、場がしらけてしまいました・・・。
その人は「投げた」というほどではなかったかも知れませんが、何だか最初から「適当」という印象がぬぐえなかったです。

歌舞伎の舞台でもそういったことがあるのですね。ちょっとびっくりしました。
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>神奈川絵美さま (藤娘)
2007-04-19 00:02:28
コメントありがとうございます!
絵美さまの優しいお言葉のおかげで、気が休まりました

「喜劇役者は、おかしみのあることを真剣にやっているから人を笑わせることができるのだ」という話を聞いたことがあります。
単に表面的におかしく見せようとするだけでは、「適当」な感が否めなくなってしまいますよね……

歌舞伎でも寄席でも、「適当」になってしまっている人の数は少なくて、ほとんどの方が丁寧に仕事をなさっているのだと思うのですが、たとえ一人でも「適当」な人がいると、全体に響いてしまいますよね
ましてや、それが世間で人気を博している役者だったりすると、ほんとにガッカリしてしまいます……。

役者さんも人間ですから、その日の体調や気分によってやる気に差が出てしまうのは仕方ないのかもしれませんが、お客さんはその日のために来ているのですから、「一期一会」の精神でつとめていただきたいですよね……
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辛口じゃないです (agma)
2007-04-22 19:57:40
心臓の弱い方は…なんて仰るから~(笑)
辛口ではありませんでした、当然のことだと思います。
うーーんそして誰のことかは何となく見当がつくような…。

先日私の体験した折の静御前も 後ろに下がった時の表情で この後どうなることかと思いましたが、ご自分の役は投げずに最後まで笑顔でなさったので むしろこちらが居たたまれない気持になりました。

役者さんもひとりの人間ですが、舞台に出た瞬間からはその「役」の人であって すでに個人ではなく「観客のもの」なのだと思います。
例えば舞台で何らかの失敗があったとしても その後の役者さんの一生懸命で真摯な態度が そのことを救う(許す)ことに繋がるんですよね。

観客側の私が言うのも変ですが 観客ってコワイものだと思います。
たった一度のことでも許してくれない時がありますからねー。
それが「生」の怖さでもあり、醍醐味でもあるでしょう。

今回のことは アドリブで観客と一体になるのとは少し意味が違ったようですね。

「あー疲れた」は本当にお気の毒でした。
私の夜の部は来週 またまた千秋楽の観劇です。
ふふ、今月は会えないかな?(笑)
 
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>agmaさま (藤娘)
2007-04-22 21:07:26
優しいお言葉、ありがとうございます!

この日の「魚屋宗五郎」は、前半でなんとなく舞台の上の間(ま)が合っていない感じで、その時は「相手役が変わるとなかなか間が合いにくいのかなあ……」という程度に思っていたのですが、後半の「玄関先「庭先」になると明らかに「投げてる」感じで……。
相手役の萬屋のお兄さんもやりにくそうでした
やっぱり、舞台の上の「気」は客席にも伝わりますよね

でも……!
実は、昨日(4/21)にもう一度観に行ったのですが、その時は見違えるように気合いが入ってました!
心を入れ替えたのかな……
(なので、千秋楽もきっと大丈夫だと思いますヨ!

芝居はナマモノなので、その日の体調や客席の雰囲気によって仕上がりに差があるのは仕方ないと思うのですが、「投げる」ことだけはしてほしくないですよね
歌舞伎役者さんにも、「一期一会」の精神を大切にしていただきたいなあ……と思います
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