本朝徒然噺

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南座顔見世・夜の部(12/22)

2007年12月27日 | 芝居随談
山手線車内の広告モニターに「箱根駅伝(1月2・3日)まであと○日」と出ているのを見て、「ということは今年も残りあと○日……」と焦る年の瀬ですが、南座の観劇日記を書いて現実から目をそらしております……

まずは、12月22日(土)に観た夜の部の感想から。

夜の部の演目は、「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」「寿曽我対面」「京鹿子娘道成寺」「河内山」、そしておしまいは舞踊二本立て「三社祭」「俄獅子(にわかじし)」。
通常の歌舞伎興行に比べて演目が盛りだくさんなのも、南座の顔見世ならではですね。

■梶原平三誉石切

鎌倉の武将・梶原平三景時を主人公にしたお芝居。

史実で梶原景時が源平両氏に仕えた経験を持つこともあり、歌舞伎でも演目によってさまざまな描かれ方をしているのですが、この「石切梶原」では、知性と情を兼ね備えたイイ男(歌舞伎では「捌(さば)き役」と呼ばれています)として描かれています(その後の「寿曽我対面」では一転してワルイヤツに描かれています)。

「石切梶原」の景時をつとめるのが高麗屋さん(松本幸四郎丈)なので、「『石切』でも梶原がワルイヤツに見えちゃったらどうしよう……」(高麗屋さんのお顔立ちがはっきりしているせいか、メイクや台詞まわしによって、イイ人の役でもワルに見えちゃうことがあるんですよね……)と、観る前にいささか不安になっていたのが正直なところです(笑)。
でも、思ったよりワルく見えなかったのでよかったです(笑)。

高麗屋さんの体格がいいので南座だと舞台が小さく見えてしまったのと、六郎太夫とその娘・梢(こずえ)が松本錦吾丈、市川高麗蔵丈でわりとあっさりしていたので(それはそれでいいんですが)、全体的にやや盛り上がりに欠けるような気がしたのがちょっと残念でした。
でも、夜の部の一幕目だし、次の幕が襲名披露狂言なので、このくらいがちょうどよいのかなとも思ったり。

■寿曽我対面

二代目中村錦之助丈の襲名披露狂言ですので、錦之助丈の師匠・中村富十郎丈をはじめ大看板が揃っての華やかな舞台でした。
菊五郎丈の曽我十郎が見られたのもウレシイです!

1階中央ブロックの上手(かみて)通路ぎわの席だったので、高座にちょこんと座っている天王寺屋さん(富十郎丈)が真正面に見えたのと、ラストシーンで工藤祐経のほうに少し体を向けて見得をきる錦之助丈の五郎とバッチリ目が合ったのがラッキーでした(笑)。

劇中で襲名披露口上もありました。
初めに、後見人である天王寺屋さんが「あちらに控えおります中村信二郎儀にござりまするが、このたび……」と、おなじみの襲名披露口上を述べるのですが、東京ではすでに4月に襲名披露を終え「中村錦之助」の名前が定着していたので、8か月ぶりに「中村信二郎」の名前を聞いて逆に新鮮でした(笑)。
その後、出演者を代表して尾上菊五郎丈が口上を述べ、続いて錦之助丈ご自身が口上を述べて、お芝居の続きに戻りました。
役者さんたちが裃をつけて居並ぶ口上も圧巻ですが、劇中口上も独特の華やかさがあって楽しいです。

■京鹿子娘道成寺

「着物でお出かけ」日記でも書いたとおり、坂田藤十郎丈の喜寿を記念した一幕。
喜寿を迎えて道成寺を踊る歌舞伎役者さんは、これまで例がなかったのだそうです
さすが山城屋さん、いくつになってもチャレンジャー&パイオニアですね……
若いモンでもついつい無難にまとまってしまいがちな昨今ですが、山城屋さんのチャレンジ精神を見習わなくてはいけないなあ……とつくづく思ったことでした

昨年7月、大阪松竹座での坂田藤十郎襲名披露興行の際にも、山城屋さんが道成寺を舞われたのですが、そのときは山城屋さんの工夫で、道行の衣装を通常のものと変えて麻の葉模様の鹿子にしておられました(今年の4月に中村屋さんが「二人道成寺」を舞った際、羯鼓の踊りのところでこれをマネっこ、もとい取り入れておられましたけれども)。
その衣装で花道を出てきた山城屋さんを見た時、客席から「わあ~」みたいな歓声があがったのを今でも憶えています。
鹿子の衣装で花道を出てきたあと所化と問答をなさったのですが、その問答もすごく良かったし、あの演出でもう一度見たいなあ……と思っていました。

残念ながら今回は、上演時間の都合もあったのか一般的な演出だったのですが、それでも十分楽しめました!

特に印象的だったのは、やっぱり「クドキ」。
「クドキ」とは、女心を表現する場面で、娘道成寺では「恋の手習い つい見習いて……」で始まる部分(手ぬぐいの踊りのところ)です。

私は娘道成寺のクドキを見る時途中で飽きてしまうことが多いのですが、山城屋さんのだと不思議と全然飽きないのです。
舞踊を見ているというより「舞踊の形式をとったお芝居」を見ている感じとでも言いましょうか、前半のしっとりした恋の風情から、後半になって恋の恨みを表面に出すところまで、「白拍子花子」の心情がとてもよく表れていて、飽きるどころかだんだんと引き込まれていく感じがしました。

最後の、蛇体に変じて鐘の上にのぼり見得をきるところも、気合いの入れ方や表情に凄みがあって、ゾクゾクしてしまいました

喜寿を迎えてなお、意欲的にお芝居に取り組み、観客に感動を与えてくださる藤十郎丈。
これからもますますお元気で、私たちを楽しませてください!

次に山城屋さんが「京鹿子娘道成寺」をなさる時には、松竹座での襲名披露の時の演出で観たいなあ……
あと、博多座での襲名披露でなさっていた「大津絵道成寺」もまた観たい~!
昨年の南座の顔見世でやっていた「雁のたより」も、東京でやってくださるといいんだけどなあ……(去年は南座の顔見世に行かなかったので、観てないんです……)。
と、まだまだ観たいものがたくさんあるので、山城屋さんにはこれからもずっとお元気でがんばっていただかないと!

■河内山

片岡仁左衛門丈の河内山。
以前にも歌舞伎座で見たことがありますが、私は結構好きです、仁左衛門さんの河内山。

でも、今回の興行には高麗屋さん(松本幸四郎丈)も出ておられたのですから、幸四郎さんが河内山をなさって、「石切」の梶原を仁左衛門さんがなさるほうが「適材適所」だったのではないかと……
でも、仁左衛門さんの河内山は、観ていてスカっとした気分になるので、長時間の観劇の後半、疲れが出てくるころに観るならやっぱり仁左衛門さんのがよかったのかな……とも思ったり。

どうでもいいんですが……、インタビューなどを拝見するといつもおっとりとした関西弁で話をされる仁左衛門丈が「江戸っ子は気が短けぇんだ、早くしつくんねぇ」とタンカを切るのを見ると、つい笑ってしまいそうになるのは、私だけでしょうか……(笑)。

あと、腰元に懸想して無理難題をしかけるワガママなお殿様を中村翫雀丈がなさっていたのですが、不機嫌になって横を向いた時の顔が、11月の「摂州合邦辻」(国立劇場)で藤十郎丈の玉手御前がプイと横を向いた時の顔にそっくりで、やっぱり親子だなあ……と思いました(笑)。

■三社祭、俄獅子

「三社祭」を尾上松緑さん&尾上菊之助さんのコンビ、「俄獅子」を中村翫雀さん&中村扇雀さんのコンビが踊りました。

いわゆる「花形」世代のコンビが踊るだけあって、躍動感あふれるエネルギッシュな一幕で、観ているほうも元気をいただいて劇場を後にしました。

◆◇◆◇◆

ご存じのとおり、南座の顔見世はいつも、ほかの歌舞伎興行に比べて上演時間が長いです。
昼の部の開演が午前10時30分と早いうえ(歌舞伎座の場合、通常は11時開演)、夜の部の終演時間も遅めです。
今年は、夜の部の終演は何と夜10時!(初日は10時半ごろまでかかったらしい……)

そのぶん、演目の数も多く見応えがあるのですが、当然のことながら、幕間(休憩時間)も短めになります。
なので今回は、開演前に遅いお昼をがっつり食べておいて、幕間にはお菓子などでつないでおいて、終演後にゆっくりと食事をしました。

普段から、芝居を観た後まっすぐ家へ帰るのがあまり好きではなく、歌舞伎座の夜の部を観た後も喫茶店やなんかで友人と芝居の感想をやいのやいの言い合ってスッキリして帰るようにしているので、そうしないと落ち着かないんです(笑)。

といっても、10時でも開いている食べ物屋さんは限られているので、某お茶屋さんの若旦那がなさっている小料理屋へ行きました。
もともとおでん屋さんの看板を出しておられたのですが、最近は一品料理も充実してきて(若旦那のおかみさんがいろいろ工夫をなさっているらしい)、「和ダイニング」なんて小洒落た看板に変わってました(笑)。
カウンターと、掘りごたつ式の小さなテーブルが2つあるだけのこぢんまりとしたお店なのですが、結構常連さんがいらっしゃって、こちらが行くたびに(京都旅行の時だけですから決して頻度は高くないのに)必ずお見かけするオニイサマがいるんです。この日もガラガラっと入り口の引き戸を開けたらやっぱりいらしたので、いったいこの人は何者なんだろうと思いました(笑)。
歌舞伎座の中の喫茶店にも、しょっちゅうカウンターの定位置に座っておられるおばあさまがいらっしゃるのですが、思わずそのおばあさまを思い出してしまいました

観てきたばかりの芝居のことを熱く語りながら(←そんなに大げさなもんじゃない……笑)、日本酒を飲んで料理をつまんでいるうちに、気がついたら夜中の12時になっていたので、翌日のためを考えてあわててホテルへ戻ったのでした


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