本朝徒然噺

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大阪松竹座 壽初春大歌舞伎・昼の部(1/4)

2008年01月14日 | 芝居随談
年明けからこっち、観劇&寄席に追われていた(笑)休日が一段落ついたので、やっと腰を据えてこれまでの観劇日記を書いております
まずは、1月4日に観た大阪松竹座・壽初春大歌舞伎(昼の部)の観劇日記から。

昼の部の演目は「葛の葉」「佐々木高綱」「芋掘長者」「沼津」。
各演目のあらすじについてはこちら(「歌舞伎美人」ホームページ)をごらんください。

■葛の葉

狐が化けた女房葛の葉と、安倍保名の許婚・葛の葉姫を中村扇雀丈が演じておられます。
女房葛の葉と葛の葉姫を早替わりで演じたり、子どもを残して去っていく女房葛の葉が、左手や口で筆を持って障子に歌を書いたりと、「ケレン」と呼ばれる派手な演出が次々と出てきます。
それに加えて今回は、狐の姿に戻った女房葛の葉が森へ帰っていくところを、扇雀さんが宙乗りで演じました。

扇雀さんのお父様である坂田藤十郎丈も、もちろんこれまでに「葛の葉」を演じておられ、私も歌舞伎座で観たことがあります。
その時はさすがに宙乗りはなさっていませんでしたが、藤十郎(当時・中村鴈治郎)丈らしい重厚な演技で客席をひきつけておられました。

しかし今回、扇雀さんは「扇雀型」としてご自身のやり方で葛の葉を演じたいとお考えだそうで、随所にそうした雰囲気が感じ取れました。
いちばんそれが感じられたのが、障子に歌を書く場面。
別れの歌を障子に書き始めた時、子どもが起きてくるのですが、葛の葉は泣く子をあやしながら歌を書いていきます。
この、泣く子をあやすところが、藤十郎さんの場合は凛としていて「厳格な母親」という感じだったのですが、扇雀さんの場合は「やさしいお母さん」といった雰囲気でした。どちらもよいのですが、好き嫌いでいうと、扇雀さんのほうがいいなと思いました。
子どもに対する愛情がよく伝わってきて、別れのつらさが引き立っていたように思います。

ただ、その前の場面、寝ている子どもの横で自分の正体を一人語る場面では、もう少し重厚さがあったほうがいいんじゃないかな、と思いました。
そのほうが、障子の場面がより引き立ったように思います。

おしまいの宙乗りのところは、動きは全体的に少なめでしたが、動きにキレがあってなおかつ形もくずれていなくてきれいでしたし、私はとても良かったんじゃないかなと思います。

それにしても……。
扇雀さんって、白塗りするとお母様(扇千景さん)によく似てらっしゃいますよね……。
女房葛の葉と葛の葉姫の早替わりで、どちらかが千景さんになっていてもわからないんじゃないかと思いました(笑)。

■佐々木高綱

岡本綺堂作の新歌舞伎なので、台詞も聞き取りやすく、初心者の方にもわかりやすいのではないかと思います。

戦で馬士を殺めたことを悔いながら生き、命がけで救った主君が約束を破って十分な恩賞を与えてくれず自分を冷遇していることを恨み、堕落した武士の社会に嫌気がさしてついに出家する、一本気で人間くさい高綱の姿を、片岡我當丈が好演しておられました。

一幕目の「葛の葉」では安倍保名を演じておられた中村翫雀丈が、ここでは、高綱に殺された馬士の娘を演じておられます。
女形の時の翫雀さんが、山城屋さん(坂田藤十郎丈)にやたらと似ていて、びっくりしました(笑)。
見た目もそうですが、気持ちが入ってきた時のちょっとした台詞まわしが、オトウチャンそっくり……。
関西歌舞伎の役者さんに「お父さんそっくり」というのは褒め言葉じゃないとされていますが、ここではあえて褒め言葉として書いておきます(笑)。
翫雀さんって、以前はわりと台詞が上滑りしてしまいがちだったように思うのですが、最近、すごく気持ちが入った力強い台詞まわしになってきた感じがします。
細かな点ではまだまだ課題は多いのかもしれませんが、気持ちが入っているから台詞がこちらにしっかり届く感じがします。だんだん、関西歌舞伎の役者さんらしい雰囲気になってきたのかもしれないなあ……と、ちょっと嬉しくなりました。
なんといっても、扇雀さんとともに「関西の成駒屋」をしょって立つ役者さんですから、今後にますます期待です!

■芋掘長者

何年か前に歌舞伎座で観て、すごく面白いと思った舞踊劇なので、今回また観られるのがすごく楽しみでした。
前回歌舞伎座で観た時と同じ、坂東三津五郎丈と中村橋之助丈のコンビ。

今回、ひさびさに観て、やっぱり面白かったのですけれども、三津五郎さんの踊るところが心なしか短くなっていたような気がするのですが……気のせいかなあ……。
「あれ、もう終わり!?」という感じで、ちょっと物足りない気がしました。
三津五郎さんご自身も、イマイチ元気がなかった気がします。大阪の初芝居に出演されるのは久々だそうで、まだ初日が開いてまもない時だったから緊張ぎみだったのかもしれませんが……。
むしろ橋之助さんのほうが、楽しそうに元気いっぱいに踊っておられるように見受けられました。
でも、全体的にはとても楽しかったし、良かったんじゃないかと思います。

そういえば、三津五郎さんの踊りのなかで、明らかに「そんなの関係ねぇ!」を取り入れたと思われる動きがありました(笑)。
でも、あまりにも自然に振付のなかに取り込まれていたので、半分くらいのお客さんは気づいてなかったんじゃないかと思います
坂東流お家元自らによる「そんなの関係ねぇ!」(たぶん)を見られて、良いお年玉になりました(笑)。

■沼津

「沼津」は、「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」という芝居の一場面です。

2004年10月、国立劇場で、坂田藤十郎(当時・中村鴈治郎)丈、片岡我當丈、片岡秀太郎丈をはじめとしたメンバーで「伊賀越道中双六」が通し上演され、私も観に行きました。
その時は、偶然にも通路寄りの席をとっていて、間近で藤十郎さんと我當さんを見られて大感激したのをよーくおぼえております。
そこで今回は、「確信犯」で通路側の席をとりました(笑)。

呉服屋十兵衛(坂田藤十郎丈)が、道中で出会った荷物持ちの平作(片岡我當丈)とともに歩いて行く場面で、お二人が舞台から客席に降りて、通路を歩いて行くのです。
客席の通路や花道を街道に見立て、客席を周りの景色にたとえながら、アドリブで楽しい会話を披露してくださり、客席も大いにわいていました。
真ん中より上手(かみて)寄りにある通路を歩き、前のブロックと後ろのブロックの間にある通路に折れ、花道に上がっていくという順路です。
私は上手寄りの通路の脇に座っていたので、真横で藤十郎さんと我當さんが見られて、もう大感激でした~! 藤十郎さん、間近で見ても若々しくて、さすがでした……。
上手寄りの通路を歩き終わったところでいったん立ち止まって、十兵衛と平作が一言二言会話を交わすのですが、十兵衛さんが「いやあ、ええ道やったなあ(←なじみの芸妓さんたちもお見えになってて、眺めが良かったらしい……笑)。もっぺん引き返したいけど、あかんやろなあ……」と言って、場内大爆笑でした(笑)。
もっぺん引き返してくれはったら非常~に嬉しかったんですがっ(笑)。

そんなこんなで、お芝居の前半は明るく楽しく事が運んで行くのですが、後半になると一気に悲劇に変わっていきます。
義太夫狂言特有の、意外性のあるストーリー展開で、観ているほうも知らず知らずのうちに作品の世界に引き込まれていきます。
※NHKの初芝居中継ですでに放映されていますので、以下にこの続きのストーリーを書きますが、ネタバレになりますから、これからごらんになる予定の方はご注意ください。

十兵衛は、平作が実の親だということを知るのですが、それに気づかないふりをし断腸の思いで平作の家を発っていきます。
その時の十兵衛のしぐさや台詞の一つ一つに、親と妹のことを思いやる切ない気持ちがよく表れていて、胸を打ちました。

その後、十兵衛がわが子だと知って後を追いかけてきた平作は、かたきの居場所を息子から聞き出すために、自ら腹を切ります。
平作が探しているかたきは、十兵衛にとっては大恩ある人物。だから自分が命を投げ打たない限り、息子は答えることができないだろうと考えたのです。
十兵衛に気づかれて止められることのないよう、暗闇の中でそっと腹を切る平作。
この後、様子がおかしいことに気づいた十兵衛は、平作が自害を図ったことを知り、命をかけた平作の気持ちに応えるため、平作にとってかたきとなる人物の居場所を断腸の思いで明かします。

我當さんの迫真の演技にも心を打たれましたが、なにげにスゴイと思ったのは、平作の様子がおかしいと気づいて「親爺どん、おーい、親爺どん」と手探りで声をかける時の藤十郎さん。
観客はすでに、平作が腹を切っていることを知っているわけです。なのに、藤十郎さんの台詞の間(ま)や呼吸で、再び緊張感が高まるのです。これは本当にすごいことだと思いました。

とても見ごたえのある一幕だったので、たとえ悲しいお芝居で一日が終わってもすごく充実感があったように思います。

夜の部も観たかったのですが、この日は夜の部が貸し切りになってしまっていたので、あきらめました

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