本朝徒然噺

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歌舞伎座六月大歌舞伎・夜の部(6/17)

2007年07月01日 | 芝居随談
「後日アップします」と言っておきながらすっかり忘れてました……。
大変遅ればせながら……、歌舞伎座の六月大歌舞伎、夜の部の観劇日記です。
書くほうも読むほうも「いまさら……」という感じですが、「後日アップします」と言ったからにはとりあえずアップ……。

夜の部の演目は、「御浜御殿」「盲長屋梅加賀鳶(めくらながやうめのかがとび)」「船弁慶」でした。

昼の部からぶっ通しで観たので、夜の部が始まるころにはかなり集中力が低下していた私。なので、かなりうすーい感想になってしまいますが、なにとぞご容赦を……。
普段は、昼夜通しで観てもめったに疲れない、体力勝負だけは得意な私なんですが、この日は昼の部の「妹背山婦女庭訓」で一日あたりの気力と体力の大半を費やしてしまいました(笑)。

■御浜御殿

昨年10月から12月にかけて国立劇場で通し上演された「元禄忠臣蔵」で、この場面も上演されたので、なんだか「ついこの間観たばっかり」という印象だったのですが……、国立劇場で御浜御殿が上演されたのは11月だったので、よく考えたらもう半年以上経っているんですよね
月日の経つのは本当にあっという間ですね……。

昨年11月に国立劇場で上演された時には、主役の甲府宰相(徳川綱豊卿)を中村梅玉丈が演じたのですが、今回は片岡仁左衛門丈が演じました。

仁左衛門丈の甲府宰相は、賞をとったこともある当たり役だそうで、さすがの貫禄でした。
台詞の一つ一つに強い思いが込められている感じで、客席にもその気迫がひしひしと伝わってきて、心を動かされました。

いや、よかったと思いますよ。よかったです。でも、でも、1つだけどうしても気になって……。

この芝居の中での甲府宰相は、「将軍の後継者をめぐる政治的動きに嫌気がさし、その現実から逃れるように御浜御殿で連日遊興にふけっている」という役どころとして描かれています。

仁左衛門丈の熱のこもった芝居には感動しましたが、その一方で「この甲府宰相は、『将軍の座には興味ない』みたいなことを言ってるけど、実は将軍になりたい気満々なんじゃないの……!?」というふうに見えてしまったんです……。

そうなっちゃうと、この話の本質がくつがえってしまうような気がするんですよね……。

そう考えると、梅玉丈の甲府宰相のほうが、どことなくのどかでがっついてなくて、「厭世的になっている(けど、「武士としての」熱意と情は心の中に持っている)殿様」という雰囲気がよく出ていたんじゃないかなあ……と思ったりして。

まあ、そのへんの好みはわかれるところなのかもしれないので、あくまでも私の好みには梅玉丈の甲府宰相のほうが合ってた、というだけなんですけれども。

■盲長屋梅加賀鳶

通称「加賀鳶」と呼ばれるこのお芝居。

その名のとおり、幕明きにはいなせな鳶が花道にずらりと並びます。
中村吉右衛門丈をはじめ、中村歌六丈、中村歌昇丈、大谷友右衛門丈、片岡芦燕丈、片岡愛之助さんなど、花道にずらりと並んだ役者さんたちが次々に口上を述べていく様子は圧巻です。
私は、歌六丈のほうについつい目線が行ってしまいました……。鳶姿の歌六丈は、なんだかすごく身のこなしが軽そうに見えて、役にハマっていて素敵だったのです。

このお芝居では、喧嘩に向かう鳶たちを制止する頭(かしら)と、人殺しや強請(ゆすり)などの悪事に手を染める按摩(あんま)・竹垣道玄という対照的な役を、一人の役者さんが演じわけるのが定法になっています。
この二役を演じるのは、芝居の中心となる役者さんで、今回は松本幸四郎丈でした。

幸四郎丈が演じると、頭(かしら)も強そうだし、按摩の道玄も凄みがあるし(笑)、なかなかハマっていてよかったです。

按摩の道玄は、人殺しまでやらかしている極悪人で、自分の姪を遊里に売り飛ばして金を手に入れようと考えているトンデモナイやつですが、どこか滑稽なところがある役どころです。

姪の奉公先の主を、根も葉もないことをでっちあげて強請ろうとするのですが、あえなく失敗してしまいます。
悪事が露見して捕り手に囲まれ、暗闇の中で捕り手をかいくぐって逃げようとするのですが、その様子もどこか滑稽です。

憎らしい悪党だった道玄が、強請の手口を見破られてあたふたしたり、暗闇の中をあの手この手で捕り手から逃れようとしたりしているうちに、観客はどこかスッキリした気分になり、道玄が憎めないキャラになっていきます。
これも、演じる役者さんによっては滑稽な部分を強調しすぎてしまって悪ふざけに見えてしまうことがありますが、幸四郎丈の場合はそういった嫌みがなくてよかったです。
スゴみのある顔立ちの道玄が、暗闇の中を手探りでもがいているだけで十分面白いですもん(笑)。

道玄と、その強請の手口を見破った鳶頭・松蔵(中村吉右衛門丈)との掛け合い台詞が、手妻(手品)や怪談噺など、寄席にちなんだものになっているのも聴きどころでした。
こういうところになると、やたらと脳が反応した私です(笑)。

夜の部の演目のなかでは、やっぱり「加賀鳶」がいちばん好きでした、私は。

■船弁慶

うーん、これに関しては、言いたいことはただ一つ……。

「染五郎さん、摺り足のお稽古をもっとやってください……」

歌舞伎の「船弁慶」は、ご存じのとおり能の「船弁慶」に題材をとった松羽目物です。
能と同じで、前シテが静御前、後シテが平知盛の霊となっており、一人の役者さんが両方を演じます。

前シテの静御前を見ているうちに、「なんだか動きがヘン!?」と思ったんです。
で、どこがヘンなんだろうと思って上から下まで見たら……ズバリ、摺り足がヘンでした……。

誤解されている方も多いようなのですが、能の摺り足って、足の裏を床にくっつけたまま歩を進めているわけではないのです。

腰に力を入れ、軸足のほうに重心をおき、動かすほうの足の裏をグッと床に押し付けるようにして前に出します。
「これ以上、足の裏をつけたまま動かすのは無理」っていうところまで来たら、重心を反対側の足(次に軸足になる足)に移します。
これを繰り返して歩を進めていきます。

重心を移す瞬間は、「腰に力を入れた状態でこれ以上足を前に出すのは無理」っていう瞬間ですから、必ずつま先が上がるんです。

つま先がいつまでもあがらずどこまでも前に出てしまうのは、腰ではなく足に力が入ってしまっている証拠なんです。

腰に力が入っていないと、立っている場面では木偶の坊みたいに見えてしまうし、動いている場面ではおもちゃみたいに見えてしまいます。

「能は摺り足が基本」と言われるのは、言い換えてみれば「腰が基本」ってことなのです。
能だって日本舞踊だって、基本は腰ですからねえ……。

あまり足元ばっかり見てても……と思い、上のほうに視線を移してはみたものの、「なんかここも動きがヘン」と思ったらやっぱり摺り足がヘンだったりして、途中から足ばっかり気になってました。
おかげで、この芝居の間じゅう、人の足元ばっかり見ているヤなやつになってしまいましたよ、私は(笑)。
私をそんなふうにさせないように、摺り足のお稽古をしっかりやってくださいね……。

あと、泣く時の型も、ちょっとヘンでした。
能では、泣く時の型は決まっていて、顔を少しうつむけ、指をそろえて手のひらをのばし、その手を目のあたりにもってくるんです。つまり、涙をおさえているような形です。

この時、目の位置に手をもってきてしまうと、客席から見たら鼻をおさえているように見えてしまうのです。
目のあたりではなく、おでこのあたりに手をもってくるぐらいの心づもりでやると、客席から見た時にちょうどいいのです。

いちおう、シロウトがかじった程度でも、このくらいは習ったんだけどなあ……。
思いっきり鼻をおさえているみたいに見えちゃいました……。



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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
勉強になります (agma)
2007-07-01 22:53:41
6月は夜の部しか観ることが出来なかった私です。


藤娘さんのこの観劇の日記は 本当に勉強になります。
有難うございます!!

ざっと読んでから また2、3度ゆっくり読み返しますわ。

御浜御殿の甲府宰相について。
一緒に観た友人の感想は 多分この事を言いたかったのだわ、と 納得した次第です。

返信する
勉強になります (agma)
2007-07-01 22:53:43
6月は夜の部しか観ることが出来なかった私です。


藤娘さんのこの観劇の日記は 本当に勉強になります。
有難うございます!!

ざっと読んでから また2、3度ゆっくり読み返しますわ。

御浜御殿の甲府宰相について。
一緒に観た友人の感想は 多分この事を言いたかったのだわ、と 納得した次第です。

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agmaさま (藤娘)
2007-07-02 02:41:47
昼の部の「吉野川」に熱中しすぎて精気を失いかけていたため、ピンポイントな感想になってしまい大変恐縮でございます……
agmaさまにそのようにおっしゃっていただけて、とても励みになります

今回の御浜御殿、至るところで絶賛されていたようなのですが、私はどうしてもここのところが引っかかってしまって、今ひとつ芝居に入り込めず……
考えすぎかなあ……とも思ったのですが、同じ感想をお持ちになった方がいらして嬉しいです
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お能の (るるる)
2007-07-13 01:15:32
知識がないのでとても勉強になりました。
有難うございます。
ひとつの芝居を観るのに、皆さん視点がいろいろあって面白いですよね。
仁左衛門さんの、頑張って芝居を作り上げようとされる気概が裏目に出てしまうということなのでしょうか。(^^;
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るるる様 (藤娘)
2007-07-14 01:17:15
はじめまして!
お越しくださってありがとうございます

お能は、学生時代に習っていただけなので、ほんのかじった程度でお恥ずかしい限りでございます……

お能は「型の組み合わせ」でできていますが、ただ型をなぞるのではなく、たとえば月を見る場面であれば「月を見ている心持ちで」やらなければいけないと教わったのがすごく印象に残っています。
坂東三津五郎さんが、踊りの心構えについてある本で語っておられたのですが、やはりそれと同じようなことをおっしゃっていて、「ジャンルを問わず根底にあるものは同じなんだなあ……」と感動しました


仁左衛門さんのお芝居は、台詞に気持ちがこもっていて、心に迫ってくるのでとても好きです
でも、梅玉さんの「春風駘蕩」然とした甲府宰相を観た後だったので、ついつい比べてしまったのかもしれません……

とりとめのないブログで恐縮ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします
またぜひお気軽にお立ち寄りいただければ幸いです
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