みぃちゃんの頭の中はおもちゃ箱

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寂しい夜を温めるために!?

2008年11月04日 23時29分08秒 | 日常のあれこれ
BOYS TOWN GANGが歌う「Can't Take My Eyes Off You」のCDを2枚買いました

ジャケットに目が描いてあるほうのCD (写真右の「BOYS TOWN GANG feat. P.K.G.」) には歌詞の対訳が付いていました。せっかくなので対訳を読んでみましたが、残念ながら翻訳調でした。普通の女性は「……わ」という言葉使いをしませんし、意訳しすぎている感もあります。原文で暗ににおわせているイメージは訳文でも表に出したくありません。

一番気になったのは、クライマックス部分の訳です。
I love you baby
And if it's quite all right
I need you baby
To warm a lonely night

CDに付属していた対訳では、この最後の「To warm a lonely night」が「寂 (さみ) しい夜を温めるために」と翻訳されていました (ふりがなは筆者注)。

えーっ!? 日本語で「寂しい夜を温めるために」とは言わないでしょ。

「夜を温める」という表現は言葉が硬くて、口語的ではありません。文学作品ならいざ知らず、好きな人へのメッセージとしてはふさわしくありません。「……するために」という表現も理屈っぽくて、言われた相手が身構えてしまうでしょう。言葉を置き換えただけの逐語訳になっています。

原文に忠実に翻訳することで歌詞の理解を助けることも重要ですが、日本語として成立しない表現はいただけません。

改訳してみます。

夜 (night) を温める (warm) という解釈が日本語になじまないなら、どのように解釈すれば日本語になじむイメージを引き出せるでしょうか。

温めたいのは夜ではなくて、発話者の心のはずです (体という解釈は露骨すぎるので避けます)。原文では、発話者がひとりでさみしい (lonely) 気持ちを夜に投影しているのです。「心を温める」というイメージは日本語にもなじみます。

ただし、そのまま日本語で「心を温めて」と言うのもまた口語的ではありません。一工夫が必要です。

翻訳を勉強している人や、学生時代に英語を勉強した人は、ここで自分なりの改訳案を考えてから読み進めてね。英語が苦手な人は、すぐに先に進んでOKよん。

私は以下のように改訳しました。

原文: To warm a lonely night
元訳: 寂しい夜を温めるために
改訳: ひとりの夜はさみしいの

「温めて欲しい」という直球を、「さみしいの (だから温めて)」という間接的なメッセージに置き換えました。日本語で「温めて」と言ってしまうと、露骨すぎます。また、直球を避けることで女性らしさを強調できます。

心を温めるという解釈に基づいて翻訳しましたが、心を温めるというイメージは前面に出しませんでした。心を温めるという解釈に固定せずに、体という解釈の可能性も残してドキッとさせられるのがポイントです。

改訳にあたって、特別な翻訳テクニックは使っていません。もともとlonelyは孤独な様子を表す言葉です。「さみしい」はそこから派生した意味です*。a lonely nightを「ひとりで過ごす夜」→「ひとりの夜」と訳出し、warmを「温めて」ではなくて間接的に「さみしいの」と表現すれば、私の改訳案になります。原文と訳文を一対一に対応させたまま、翻訳臭を取り除きました。

*注: lonely - 1 a: being without company: LONE b: cut off from others: SOLITARY ... 3: sad from being alone: LONESOME ... (Merriam Webster's Collegiate Dictionary Tenth Editionより抜粋)

ここまで読まれた方はお気づきだと思います。

一般に、翻訳にあたっては感性やインスピレーションが重要だと思われがちですが、感性やインスピレーションの比重は意外と低いんです。もちろん感性やインスピレーションも大切ですが、ひらめきにばかり頼っていると、原文の意味から飛躍した「飛訳」(当然、誤訳) を生んでしまいます。

翻訳って怖いよ。本当に怖いよ。