よく連れていかれた店
集まった店
そのひとはサラリーマンをしていたという
会社を辞めて、畑違いの仕事の料理を提供する店を始めたそうだ
そういう話が記憶にある
店は小さく
ほとんど貸し切り状態で
料理は半分くらいは希望、イメージで作ってくれた
突然でも
そのひとは、おやじと呼ばれ
地方から持ち込まれる食材には
いまだ全国一般的に、見たことも聞いたこともない
山菜などがあり
インターネットで調べると
確かに食べられそうだが
素人向けに調理法が見当たらないような
よくわからない食材もあった
仕事の後、その店で1日の4分の1ほどの時間を過ごすと
夜が明け始めることもあった
そんな仕事の延長のような束縛に
嫌気がさすこともあった
おやじは
我々の
長いくだらない話を聞きながら
合いの手を入れるでもなく
微笑んでいるだけだった
覚えているのは、最後のほうに出てくる料理が
ここで、それはないのではないか
もう食べられない
そんな第一印象のものが
多かったのに
食べ始めると
不思議に、見透かされたように
今、食べるべき味
まだ食べられる
そんな気になって完食し
納得した
創り手、不思議なひと
自身、仕事の延長のように、店に長くいることがなくなった頃
おやじは
いつの間にか
いなくなってしまった
どこを、さがしても
藤圭子 女のためいき