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旧える天まるのブログ
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夏休みお盆ノミネート

2019-08-15 07:44:21 | ノミネート(雑記の宿)

<正しい保健体育>

みうらじゅんの正しい保健体育
みうらじゅん,柏木美里,福島勝美
メーカー情報なし

 『みうらじゅんの正しい保健体育』を鑑賞。

 2011年発表の作品で、カテゴリーはコメディーですが、保険体育の授業をみうらじゅんさんなりの表現をしていた内容でした。

 内容のひとつひとつにためになるお話しが散りばめられていますが、その内容そのものを逆手にとり、2011年から2019年現在までに、都合のいいように悪用されていないか?チェックしておく必要にも感じました。ある意味での公文書とでもいえます。

 

50歳の恋愛白書 [DVD]
ロビン・ライト・ペン,キアヌ・リーヴス,ウィノナ・ライダー,ブレイク・ライブリー,モニカ・ベルッチ
ポニーキャニオン

<50歳の恋愛白書>

 この作品をどう紹介していいのか?しばらく悩みました。各所の作品レビューを見ると、わりと好意的に書かれてますが、『白書』というだけあって、これは一種の報告書だと僕はとらえました。

 『ジェーン・スーは生活は踊る』にある『相談は踊る』的に考えると、作者(主人公)の幼少期、母親は神経質なところもあったようで、薬に(おそらく覚醒剤)に手を染めてしまいます。主人公からやめるようにと神の前でも誓いますが、1週間で再び手を染め、やがて主人公は家出をしてしまいます。父親のシーンもちらりと映りますが、その表情は我知らず、言うならば逃避状態でした。母親の過去を詳しく紹介されてませんでしたが、主人公が産まれる前に、おそらくではありますが浮気事があったのかもと、思うことも。

 まず、ここで母親の薬物依存をなんらかのかたちでやめさせる必要があったのかもしれません。神に誓ったぐらいでは、効果がなかったのですから。

 その後、主人公は家出をし、さまざまなドラッグに手をつけたと語ってました。ドラッグもでしょうけど、さまざまな男性にも手をつけていたのでしょう。

 そんな最中、母親の死を知りますが、主人公は葬儀にでなかったと語ってました。

「いやいやいや、母親が死んだとわかったのなら、がんばって葬儀ぐらいでましょうよ」

 そういうことで悩んでいる方々は沢山いるかと思いますが、遅かれ早かれ、出れるものは出ておくべきかと僕は思います。お盆中ではありますが、我が家でもお墓参りをいたしました。娘はまだなのですが、新たに墓地を作る必要もないだろうし、先祖の墓地はひとつあれば十分、どんなに遠く離れてても、いつかはお墓参りができるようにしておかなければなりません。と、娘には気づいてほしいものと考えています。

 『50歳の恋愛白書』にもどりますが、主人公は家出後、ドラッグに染まっていたある日、年上の男性作家と出会います。その男性は妻のあるかたでしたが、主人公と恋愛関係になります。

その男性作家にひとめぼれしたのか?妻はパトロン的な関係で大きな屋敷まで建ててくらしてました。その作家は「自分にはそれほどの才能はない」と自負していただけに、ひとりじめされている妻には不満を抱いていたようでした。

 男性作家は主人公と出会い、離婚を決断しますが、離婚する妻と主人公とが会食を行うこととなり、その会食中に作家の妻は目の前で拳銃自殺をしてしまいます。

「いやいやいや、拳銃所持してちゃだめでしょ」

「日本と外国の違いはあるものの、日本では銃刀法違反ですよ。ナイフ持ち歩いてても違反ですよ。そもそも薬事法違反もしてますし」

拳銃を持ってなければそこまで悲惨なことはおきなかったかもしれません・・・

 その後、男性作家の妻は死亡しますが、主人公との婚姻関係は継続します。主人公への唯一の利点は男性作家との出会いによって、ドラッグ生活から抜け出せたことかもしれません。

 そして50歳をすぎるまで主人公は良き妻として夫を支えていくようになります。子宝にも恵まれます。ただし、夫の老いに不安を感じるようにもなっていました。

 50歳を過ぎると、介護というものがちらついてきます。介護する側も受ける側もストレスに感じてくるものです。

「病気をすると早く死んでほしいと思っているんじゃないか?」とか、さまざまないらぬ考えが頭の中を過ります。主人公も良き妻としてくらしてきましたが、ある日、自分が夢遊病であることが判明します。

 そんな中、隣の家で出戻った(離婚)した若い男性(キアヌリーヴス)と出会います。主人公はなんとなく、その隣りの若い男性に惹かれてゆく最中、夫の浮気がバレてしまいます。

 夫は気の狂いだったと釈明しますが、主人公は即決で離婚を告げた途端、夫が心臓発作で倒れ、脳死状態になります。やがて、家族の判断で人工呼吸器は外され夫の死亡が確定しました。

 隣の男性とは、ペッティングなどでエクスタシーを感じていたようですが、夫の死後、子供達と葬儀の話になり、主人公は葬儀には出ず、若い男性とともに旅に出かけエンディングを迎えます。

 そのシーンのすがすがしさが、同世代に好感を持たれたか?は知りませんが、死んですむ話しじゃないんじゃないか?と、僕は思いました。第二の人生云々はあるとは思います。けど「葬儀にはちゃんとでなさいよ」と、少なくとも離婚前のお話しであるのならば。

 ただし、気の病んでいるときには無理強いはしません。映画では子供達からの最低限の許しのシーンでした。

 白書を見れば、言い訳と後悔だけでまた新たな道を進むことだけでいいのか?といったようなメッセージを主人公は含み描いていたような映画でした。


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『毛皮を着たヴィーナス』スリッパ

2019-08-11 10:14:58 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』ヴァンダ

<スリッパ>

 それから毎日、わたしは彼女といっしょに暮らしている。

 階下の忍冬亭でいっしょに朝食をとり、二階の彼女の居間でお茶を飲む。そしてときどき彼女の美しい姿をありのままに絵に描いてみたく思う。

 昨夜は彼女のためにゲーテのローマ非歌を読んでやった。即興詩も作ってやった。

彼女は喜んでわたしの詩の言葉に夢中になって、

ふくらんだ胸を大きく波打たせた。彼女に対するわたしのこれまでの心のへりくだりは取りのぞかれ、わたしは恐怖心をすっかり忘れて、彼女の白い手に熱烈に接吻した。そして彼女の足もとにすわって、詩を読みあげた。

君の足を、君の奴隷わたしのうえに置き

ああ、君はなかばは地獄、なかばは夢の人

暗く沈む影のなかに、しなやかに

伸ばした君のからだは輝やく・・・・・

 今日、ふとこんなことをいった。

「あなたは、わたしに興味を起こさせてくれますわね。たいていの男のかたは平凡で、感激も詩も持っていないのが普通ですけど、あなたの熱中ぶりや真剣味には、なかなか深みと雅量がありますわ。それがわたしを喜ばしてくれますの。わたし、これからつとめてあなたを愛するようにしてあげますわ」

 猛烈な驟雨(しゅうう)のあと、わたしは彼女と連れ立って、牧場のヴィーナスの像のところへ歩いていった。地面からは水蒸気が立ち、もやが沸いていた。それが香料の煙の雲のようになって大空へのぼっていく。虹がまだ空の一角に残っていた。木々の梢からしずくが落ちている。雀やウソが枝から枝へ飛びかい、陽気にさえずっている。すべてが新鮮な香気に満ちあふれていた。

 牧場の日の光のなかで小池の水面のように見えた。愛の女神ヴィーナスの像は、その水面の波間から起きあがっているようだ。女神の頭のまわりには昆虫の一群が舞っている。それが尊い円光のように見えた。

 わたしの愛する未亡人ヴァンダはこの景観を楽しんだ。

「わたしを愛してくれませんか」

「愛せないなんてことありませんわ」

 彼女は、澄んだ瞳でじっとわたしを見つめた。つぎの瞬間、わたしは彼女にひざまずいて、燃えたつ顔を彼女のかぐわしい衣のはしに押しつけた。

「ゼフェリン、そんなことをなすってはいけないわ」

「あなたはだんだん悪くなるばかり!」

 彼女はさっと身をひいて、宿の二階へ逃げ去ってしまった。

しかしわたしの手のなかには、彼女の愛らしいスリッパの片方が残っていた。

「わたしのスリッパは?」

「部屋においてあります。あれをボクにください」

「いいえ、持ってきてちょうだい。そしたら、いっしょにお茶を飲みながら、お話しでもしましょう」

 わたしがスリッパを取りに行ってもどってくると、

彼女はお茶を入れていた。わたしはうやうやしくスリッパをテーブルの上に置いて、こらしめを待つ子供のようにおそるおそる立っていった。

彼女は唇のあたりに冷酷と優越の表情を浮かべて、

「あなたは、ほんとうにわたしを愛していらっしゃるのね」

 と、ほがらかに笑いだした。

「そうです。そのためにわたしは、あなたの想像以上に苦しんでいます」

「苦しんで? オホホホ」

 彼女の嘲笑に、わたしは憎悪をおぼえ、屈辱を感じ、打ちのめされたような気持ちになった。

「わたしも、心からあなたが好きなのよ」

 彼女は手をさしのべて、親しげにわたしを見つめた。

わたしもじっと見かえし、

「では、ボクの妻になってくださいますか?」

「どうして急に、そんなに勇気がでてきましたの?」

「勇気が?」

「そうよ。女性にむかって妻になってくれるかどうかってきけるのは勇気よ。わけてもわたしにむかって、ホホホ、冗談はぬきにして、ほんとに、わたしと結婚したいと思っていらっしゃるの?」

「そうですとも!」

「おお ゼフェリン!それはよく考えねばならない問題よ。わたしは、あなたを信じているわよ。あなたを深く心にかけていますわ。」

「わたしたちの間には、すぐに退屈になるような危険はありませんわね。でもわたしは、もともと浮気っぽいのよ。」

「それだからこそわたしは、結婚をいっそう厳粛に考えていますの。でも気がかりよ、きっと、あなたに・・・・」

「どうぞ率直におっしゃってください」

「それなら、いうわ。わたしには一人の男の人をそういつまでも愛しつづけそうにないのよ。せいぜい・・・・」

「一年ぐらいですか?」

「きっと、一ヵ月くらい」

「それっぽっち!」

「じゃあ、二ヶ月くらい」

「たった二ヵ月!」

「二ヵ月といえば、ずいぶん長いわよ」

「あなたは、ギリシャの神さまたちよりひどい!」

「そらごらんなさい。あなたは事実を知れば、たえられなくなるじゃありませんか」

 彼女は暖炉に背をむけて、わたしのほうをじっとみつめて、

「これからなにをして遊びましょうか?」

 と話題をそらせた。

「なんでも、あなたを喜ばすことができるならば」

「それは理屈に合わないわよ」

 と彼女は叫ぶようにいった。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』分担

 


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うーめん三昧

2019-08-08 11:51:31 | 雑記の宿

<うーめん三昧>

 夏の暑さと貧乏神と暮らす中、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。

 我が家の食卓では、『白石温麺』で暑さと飢えを凌いでおります。白石温麺は、宮城県南部の白石市の名産ですが、私の住む宮城県北部の食料品店でも白石うーめんは売ってあります。直線距離でいえば、約100キロ地点の差がありますが、我が家では身近な食料品になっています。

 そうめんと似た麺類ですが、長けがそうめんより短いのが特長です。その特長を生かし、さまざまな具材と絡め、食べるフリー共同体。自由じゃなくてフリーです。勘違いをする人もいるだろうから、ここではフリーです。free community。

 納豆かけうーめん。刻みネギと小皿に種なしスイカと揃えました。

 明太子と玉子豆腐とニンジンの醬油漬け盛り冷やしぶっかけうーめん。

長けが短い麺なので、明太子のようなものでも絡めやすく、玉子豆腐はよく冷えたのをのっけました。ニンジン漬けは、父親が福島出身で、スルメニンジンが我が家のおかずになっていました。かみさんは松前漬けのようにして食べていたようですが、今は貧乏ぐらしなので、スルメも昆布もない、ただのニンジン漬けを添えました。シャキシャキ感がほしかったので。わさびはお好みということで。

 みそ汁うーめん。

 冷えた身体にはあったかいうーめんも食べたくもなり、インスタントのみそ汁を入れた、みそ汁温麺です。小鉢にわさび和えきゅうりとオムレツとチャーシュー。チャーシューは総菜コーナーのものをそのまま揃えました。

 宮城の秋の食文化、芋煮会は味噌味です。県北地区でも自家製味噌作りの講習会をやるほど、味噌にはこだわりがあります。醬油は身分が高い人にしか味わえなかった。なので、貧乏人は味噌を自前で作ってました。うちの祖父母の家でも昔は味噌を作ってました。

 競売に負けて、爺さん婆さんんちが人の手に渡り、いまではその上にアスファルトの道路が通り、その景色をみるたび私はいつも悲しんでいます。なにもかも、そこの家の倅が悪いんですけどね。長生きはしたくないと、思う日も沢山あります。

いずれその道路には幽霊が現れるでしょう。

 

 


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『毛皮を着たヴィーナス』ヴァンダ

2019-08-06 11:54:21 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』告白

<ヴァンダ>

 

 太陽が森の上から光をそそぐとき、ぼくはモミの木の葉の下から横たわって本を読む。

 夜中に出かけていって、この冷酷で残酷な愛人を訪れる。そして彼女の足元の台座に顔を押しあてて折れると、ぼくの気持ちは彼女の足から腹、そして胸へのぼっていく。

そういうときに月がのぼってくると、いうにいわれのない感動をおぼえる。月光の木々の間でためらいながら、牧場ぜんたいを銀の光の中に溺れさせてしまう。すると、たちまち女神はやわらかい月光のなかで沐浴してるように見えてくる。

 ある夜、ぼくが恋の祈願をこめてから散歩道をたどってもどってくると、月光の下の一列の木々のむこう側に、大理石のように白い女性がちらりと目にうつった。大理石の彼女がぼくに同情して、生きた姿なって来てくれたと思ったからだ。

が、ぼくは名状しがたい恐怖にとられて、

心臓ははげしい鼓動で張り裂けんばかりだった。

 ぼくは恐怖のあまり、ものすごい早さで逃げ出してしまった。

「バカな奴め!」

ぼくは自分で罵倒した。すると、この言葉が不思議な魔力でぼくのなにものかから解放してくれた。ぼくは平静にもどった。

 「彼女の名はヴァンダ・フォン・ジュナウ。だっち」

「偶然にもあるユダヤ人の美術商からティチアーノの「鏡のヴィーナス」の複製画を入手しただっち。」

 彼女が美しい裸体を毛皮でつつんでいる図だ。ぼくはそれに魅せられて空想にふけった。

「バカ者め!」

 ぼくはもう一度繰り返した。いっさいのものがはっきりとぼくの目にうつってきた。泉、ツケの森のなかの小道、ぼくの宿、忍冬亭。またもさきほどの白衣の女性が迫ってきた。ぼくはいよいよおそれて家の中へ飛び込んでしまった。

 こうしてぼくと彼女のつきあいははじまったのである。

「あなた、何であんな仕草を考えついたのですか?」

「あなたのご本のひとつに、小さい絵がはいっていましたからよ」

「ぼくはすっかり忘れていました」

「あの絵のうらに妙なことが書いてありましたわね」

「妙って?」

「わたし、いつも本当の夢想家というものにあってみたいと思っていましたのよ。ちょっと気まぐれにね。そうしたら、あなたが目についたのよ」

「・・・・・」

 ぼくはすっかり口ごもって、顔を真っ赤にしないではいられなかった。

「昨夜は、あなたひどくわたしをこわがりましたわね」

「そうです。まア、どうぞ、おかけになって」

 彼女は腰をおろして、ぼくの当然ぶりをおもしろがった。ぼくはいま、真昼の光に満ちあふれたなかにおりながら、昨夜よりいっそうおもしろく感じた。彼女はそれを見て、唇のあたりに喜ばしげな軽蔑の色をはっきり浮かべて、

「あなたは恋愛や女性について、ほかの男とは全く違った、敵対的なものをお考えになっているらしいですわね。あなたには、恋愛や女性はたのしい苦痛、刺激の強い残酷、そんな気持ちを抱かせるもの、そんなふうに考えていらっしゃるのね。それが近代的とでもいうのでしょうが・・・・・」

「あなたはそう思わないのですか?」

「そうよ」

 彼女は決然とした態度で首を横にふった。そして髪の毛を真っ赤な焔のように逆立てて、

「わたしの理想は、むかしのギリシャ人のような静かで感覚的な考え方、苦痛のない快楽よ。」

「キリスト教が唱道する恋愛なんか、わたし信じていないわよ。わたしは邪教の信者よ、わたしには、

 神々と女神たちが恋をした

 という詩の一節にあるように、古代の英雄時代の恋があるだけよ。そのころには、

 ひと目見たあと、すぐに身体を求め

 求めたあとに、たのしみがあった

 のよ。それ以外のことは、みんな不自然な作りもので、ウソよ。理性と感覚の戦い、それが近代人の奉じている信条ね。でも、わたしはちがうわ」

「あなたには、ギリシャのオリンボスの山がいちばん適しているでしょう。ボクたち近代人には、恋愛の場合には、そんな古代の静寂なんか支持できません。ほかの男といっしょに女を共有するなんて、たとえそれが有名な遊女であっても、ボクたちにはたえられません。思うだけで胸が悪くなります。ボクたちは古代の神さまたちと同じように嫉妬します。ヴィーナスがどんなにこうごうしくても、今日はアンキセスを愛し、あすはアドニースを愛すというのだったら、ボクはそれを悪魔的な残酷だと見なします」

「あなたもやっぱり女性観については、気狂いじみた近代的な考えをなさるおひとりね。」

「しかし、あなたは・・・・・」

「まア、終わりまで聞いてちょうだい。女性をたいせつな宝のようにするのはいいけど、自分の懐中にしまおうなんてのは、男性のエゴイストよ。」

「バカ者め!」

「!!」

「恋愛に永続性を見いだそうといくら努力したって、そりゃ無理よ。この変わりやすい人生で、恋愛くらい変わりやすいものないですから、法律上の義務づけや宣言などはなんの効き目もありませんわ」

「しかし・・・・」

「あなたは、こうおしゃりたいのでしょうー正義人道に反する人は、社会から追放され、こらしめられるとね。」

「わたしの主義は異端よ。自分でたのしい生活だと思ったら、そういう生活を送るつもりよ」

「わたしを愛してくれれば、だれでもわたし幸福をさしあげあげるわよ。それが醜いことかしら?そうじゃないと思うわ。相手の人がわたしの美しさに刺激されて苦しんでいるのを見ながら、わたし自身が残酷にたのしんでいたり、わたしに恋こがれている人を目の前にしながら、わたしがもの固くことわりつづけるよりは、喜びには喜びを、愛には愛をさしあげるほうが、ずっと美しいことよ。」

「あなたの素直さはうれしいです。それだけじゃなく・・・・・」

「とおっしゃると?」

「・・・・」

 しばらく沈黙をつづけたが、気の弱い大バカ者で、とうとう思いきって、

「あなたは、どうしてそんなふうにお考えになるようになったのですか?」

「それはなんでもないことよ。ほかの子どもたちがシンデレラ姫に夢中になっているころに、わたしはヴィーナスやアポロに夢中になっていましたの。そして大きくなって、結婚してから、結婚後まもなく不治の病にとりつかれてからも、顔を曇らせることなんか一度もなかったわ。夫は亡くなる日の前夜、わたしを抱いてくれましたが、ときどき、冗談めかして、もう好きな人がみつかったかね?と、いうのよ。わたし恥ずかしくて、顔を赤くしてしまいましたわ。そうしたら、ぼくには隠さなくてもいいよ。隠されると、かえっていやな気がする。君は美しい愛人を選ぶのだから、おもちゃがいるよ。・・・・」

「そういってたわ。って?」

「ギリシャの女神のようにだっち」

「どの女神?」

「ヴィーナスだっちさ」

 と、反問して、彼女は微笑んだ。

「もちろん、毛皮を着てだっち」

 彼女はまた微笑した。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』スリッパ


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『毛皮を着たヴィーナス』告白

2019-08-01 17:42:55 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『DQX毛皮を着たヴィーナス』ゼフェリン

 

<告白>

 ロシアの小説家ゴーゴリは、どこかで述べている。

「真の喜劇は、笑いの仮面の下で涙を流しているのじゃ!」

 この告白を書こうとして、ぼくはいま実に妙な気持ちになっている。刺激の強い花の匂いに満ちあふれた雰囲気に圧倒されて、頭痛がする。暖炉の煙はただよい集まって凝り固まり、

白いひげの小妖精になってぼくをあざ笑っている。

下ぶくれの頬っぺたをしたキュービッドはぼくの膝のうえや、椅子の腕のうえに乗っている。

ぼくはいま、恋の冒険書を書きながら、ひとりでほほえんだり、声をたてて笑ってたりしている。しかしこのインキは、ぼくの心臓からほとばしり出たまっ赤な血汐だ。心臓の傷口は鼓動するたびに、ぼくの苦痛をあたえている。紙の上に、ときどき涙の粒が落ちる・・・・・

「みんなあたいのことを木だと思い込んで、これであたいも完璧な森ガールだわ。」

「うまいことをいったものだ。」

「ある官能のすぐれた男の告白だっち」

「官能?」

「官能だっち」

 さてこのカーぺイシアン山脈の保養地では、毎日がのろのろと過ぎている。ぼく以外にだれもいない。自然の風景、田園の情景なんか書くのは退屈だ。できるなら、十分の暇を得て画廊いっぱいの大きな絵を描いたり、1シーズンの間劇場をにぎわす新作ドラマを書いたり、十数人の音楽家を養成して世間へ送り出したいものだ。しかしいまのぼくは、せいぜい画布をひろげ、楽弓をみがき、楽譜の線をひく程度だ。要するにぼくは、人生芸術のデレッタント(お道楽者)にすぎない。

 ぼくはいま、窓際で横になってくつろいでる。この小さな町はぼくをひどく失望させているが、詩にあふれた町のように見える。高い山脈の青い壁面には太陽の金色の光が織り込まれていて、素晴らしい景観だ。ぼくがいま泊まっている家は公園の一隅にあるとも見えるし、森林のなかに建っているとも見える。見る人の気持ちしだいだ。

ここに住んでるのは、レンベルグ市から来た未亡人と

宿の女主人タルタコフスカ夫人とぼくだけだ。

 宿の女主人は年寄りで、日が経つにつれだんだん小さくなっていく。

 未亡人はなかなかの美人だ。まだ二十四、五にはなっていまい。ぼくの部屋のまえで、いつも黒のブラインドがおろしてあり、黒のつる紐のからまったバルコニーがある。

 階下のぼくの領分には、気持ちいい忍冬亭がある。ぼくはここで本を読み、原稿を書き、鉛筆をもてあそび、小鳥のように歌ったりする。

そして二階のバルコニーを仰ぐと、黒の紐の網目から白い上衣がチラチラ見える。

 この未亡人は、しかし、ぼくの心をそれほど強くはひきつけない。というのは、ぼくにはほかの恋人がいるからだ。

 それは、実は大理石のヴィーナスなのだ。その点、ぼくはこのうえなく不幸だ。このヴィーナス像は、大きな屋敷内の美しい牧場の中にある。今までみたことのない美しい女像である。

 この女像は美しいといえば、もうそれで十分だ。それ以上いうことはない。ぼくは病的なはげしさで情熱的に彼女を恋している。

永遠にかかわらず、静かで、石の無言の微笑みのほかはなにひとつぼくの恋に答えてくれない。ぼくにできるのは、この女像に恋をするだけだ。そんな狂おしさでぼくは彼女をあがめ、その前にひざますいている。

次回

『毛皮を着たヴィーナス』ヴァンダ


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