初回
DQX毛皮を着たヴィーナス
前回
『毛皮を着たヴィーナス』スリッパ
<分担>
「さっき、 あなたはわたしに妻になって欲しいとおっしゃったでしょう。」
「ところがこんどは、わたしの慰みものになってもいいとおっしゃるのね」
「ヴァンダ!ボクはあなたを愛しているのです」
わたしは彼女の足もとに身を投げ出した。
「後生ですから、それだけはおやめになってください!」
彼女の嘲笑の言葉に、わたしは起きあがらないではいられなかった。
すると彼女は、
「それでは、あなたがわたしにうち勝つための期間として、一年間の余裕を上げるわ。わたしたち二人が似つかわしい夫婦で、いっしょに暮らすことができるということを、わたしに信じさせるために。もしもあなたが成功したら、あなたの奥さんになってあげますわよ。忠実な奥さんにね」
わたしは全身の血が逆流するかのように感じた。 彼女の目にも恋の焔が燃え立った。
「そうしたら、二人でいっしょに暮らしましょう」
と彼女はつづけた。
「毎日の生活を二人で分担して。わたしたちがほんとうに似つかわしい夫婦になれるかどうかを知ることができるようになったら、わたし、あなたの夫として、恋人として、友達としてのすべての権利を許してあげるわよ。そんならいいでしょう」
「承知しました。」
「ではお約束の握手を!」
わたしはこれまでの十日間、夜以外はいつも彼女といっしょに暮らしてきた。わたしの恋は底しれない深淵で、わたしはその中へ、ますます深く沈んでいくように感じられた。わたしはもうその中から自分を救い出すことはできなくなっていた。
今日の午後、わたしと彼女とは、またも牧場のヴィーナスの下で休んだ。わたしが花をつんで彼女の膝のうえに投げてやると、彼女はそれで女神に飾る花輪をあんだ。
とつぜん、彼女が異様に色っぽい目つきでわたしのほうを見た。わたしは理性を失い、欲情が大きな焔となって全身をかけめぐった。
暴れ狂う欲情にたえかね、わたしは両腕で彼女をすくめて、彼女の唇を求めた。
彼女も激しく波動する胸にわたしをしっかりと抱きよせた。
「怒っているの?」
「自然のことに怒りなんか」
と彼女にあえぐようにいった。
「でも、あなたのほうが苦しくはないかと、心配になって・・・・・」
「ああ、ボクは苦しい!」
「お気の毒なおかた!」
彼女は、わたしの乱れた頭髪をていねいにうしろへなでつけながら、
「わたしが悪かったら、ごめん遊ばしてね」
「いえ、そうじゃないです。あなたにたいする愛情が、すっかり気狂いじみてきたので、あなたを失いはしないか心配になって・・・・・」
彼女はもう一度、魅惑的で恍惚とさせるまなざしでわたしをじっと見つめた。そして立ちあがって、すき透ったかわいい白い手で青いアネモネの花輪をヴィーナスの石像の頭にかぶせた。わたしは彼女のからだを両腕で抱きしめた。
「ああ、ボクはもう、あなたなしでは生きていられない!あなたに去られたら、ボクの生命はメチャクチャになってしまいそうだ!」
「そんなこと、おっしゃる必要はないわよ。わたしはあなたを愛しているんですもの」
「トイレットペーパーきれてたから補充してきた」
彼女は白い手でわたしのあごをおさえて、
「おバカさんね」
となまめかしくたしなめた。
次回
『毛皮を着たヴィーナス』腰かけ