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旧える天まるのブログ
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だれかさん

2019-07-29 03:43:15 | 雑記の宿

<だれかさん>

 1980年4月から9月まで放送されたテレビ(学園)ドラマ『1年B組新八先生』。

 1980年といいますと、いろんなブームがありました。漫才ブームを皮切りに『俺たちひょうきん族』や『Drスランプアラレちゃん』が放送され始め、山口百恵の引退や松田聖子のデビュー。甲子園では、荒木大輔がデビューし、第一次『大ちゃんブーム』がおきました。当時はフィーバーと呼ばなかったかもしれませんが、流行語では『ナウい』が定着し、『なめんなよ』『ツッパリ』『ぶりっ子』といったのが流行しました。79年から年跨ぎで『3年B組金八先生』が話題になり、その第二弾で『1年B組新八先生』が放送されました。主役は岸田智史で、ほんとは金八先生をやる予定が、スケジュールの都合で武田鉄矢に代わり、武田鉄矢主演『3年B組金八先生』シリーズから始まったようです。これを機に武田鉄矢と西田敏行は天狗になったそうです。

 『3年B組金八先生』第一弾は、私の姉がちょうどそのとき中3でした。なので姉と両親は高校受験勉強の合間によく見てました。

 1980年、姉が高校に入学し、僕は中学に入学しました。『1年B組新八先生』の放送が開始され、金八先生の後番組と言っても、金八先生ほど関心がなかったようで、僕は見る気満々でしが、家族は他の番組に興味がゆき、チャンネル主導権の関係で毎週は見れませんでした。

 たぶん、野球中継がないときに観てたかもしれません。ああ、原辰徳ブームも、なんか篠塚に変えて原を入れてから云々もめて、原をサードにして篠塚が打つようになって、ぐちゃぐちゃしてたんで、しばらく巨人はみないことにしてました。僕はプリンスホテルから入った石毛が気になってました。母親は大正琴ブームでよくお稽古事で夜はいませんでした。

 僕は新八先生のドラマがないときは、友達から録音したYMO(イエローマジックオーケストラ)を聴いてました。それも80年からです。声変わりはまだ、その時点はしてませんでした。

 『1年B組新八先生』でのテーマは不登校の生徒や今でいうマイノリティーといった感じの内容だったかと思います。金八先生第二弾は不良生徒から校内暴力を取り扱い話題に。翌年の『2年B組仙八先生』では、生徒が全員で教科書を燃やしてしまう事件から始まります。女子では三田寛子が一番人気で、シブがき隊も『2年B組仙八先生』から人気になりました。

 仙八先生役のさとう宗幸が宮城県の鬼首に課外授業で生徒を連れていったのを覚えてます。その後『3年B組貫八先生』が放送され、僕はその時それどころじゃなくて、あんまりみなくなりました。たしか用務員から教師になって、教師の地位がテーマなようなきがしました。やがて僕の母校でも遅い校内暴力ブームになるのですけど・・・

 で、中学1年にもどりますが、中1生活の中でテレビドラマで新八先生と出会い、それと同時に篠原久美子役(遥くらら)先生と出会いました。新八先生役の岸田智史さんは『きみの朝』でヒット曲をだしてたシンガーで、遥くららさんも番組中にレコードをだしました。

 僕はこの年に買ったレコードが、数あるレコードの中で『遥くらら『だれかさん』でした。それまでの人生で、自分ひとりで買ったのが『いとしのエリー』『燃えろいい女』3枚目が曖昧なのですが、おそらくこれです。

 遥くららさんもすてきな方だったのですが、僕は『1年B組新八先生』のドラマで気にいった生徒が中にいました。

 丸く書いた生徒に夢中なりました。手前の丸い生徒じゃないですよ。そのむかって左から二番目の席に座ってる女子生徒に惚れました。ちなみにまだ声変わりは完全ではなかったので純粋無垢に追っていました。セリフもそんなにない役柄だったので、このジャケット写真が唯一じっくり見れる写しであります。

 ドラマは毎週見ることはできませんでしたが、当時、学年誌というものがありまして、『中1時代』だったか?『中1コース』だったか?は忘れました。お名前も忘れてしまいましたけど、その雑誌に『1年B組新八先生生徒名簿』みたいのが特集されまして、好きな生徒にファンレターを送ることができました。

 内容は各生徒のプロフィール。芸能活動や生年月日などが紹介していました。中1という設定なので、せいぜい上は中2ぐらいで、小学生はいなかったと思います。

 学年誌からファンレターならぬラブレターを人生で初めて書こうと決めたわけですが、なにせ字が下手なのを自覚してましたので、字の上手い友達を家に呼び、手紙を書いてもらうことにしました。 

 その友達は同じクラスの男子生徒で、「好きなんで」とお願いしました。そして友達の隣りで口頭で伝え、便箋に書いて住所も書き封筒に入れて送りました。

 内容は直で『好きです』とかは、恥ずかしくて伝えられなかったので、あのシーンの表情がどうのこうのとか、しぐさがどうのこうのとか「演技が上手い」とか、遠回しに好意を伝えました。

 そして、返事は待っても待っても来ませんでした。まあ、「いつか来るんだろうな・・・」と思いつつ、中1を過ごしました。

 9月の『1年B組新八先生』が最終回の日は、マイク付きカセットデッキで音声録音をしました。時々、その生徒の声が聴こえたときはうるっとしました。今でもそのカセットは探せばどこかにしまってあります。レコードもどこかにしまってあるかと思いますが、どこにしまったか?は思いだせません。

 そのレコードなのですが、番組が終了してから翌年に同級生の女子生徒と付き合うことになりまして。その頃だったのかな?と、思うのですが、

 ある日、ジャケットに写っていた彼女の顔をマジックで塗りつぶしていました。理由はなんなんだろう?忘れたかったのかな?照れ隠しみたいな感じで塗ったのか?気持ちが尖ってたのかは?定かではありませんが、他人がみたらいじめてるようにみえますよね。彼女だけ見れるようにするならまだしも、自分も中学生だったとはいえ、バカだったなー。

『遥くらら だれかさん』はYouTubeで見れました。提供元様に確認してませんが、僕もこのレコードを買ってあるので許してもらえるのなら幸いです。

 


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クロックサンダル

2019-07-25 20:56:39 | 日記

<クロックサンダル>

Several years ago, I threw a red sandal into the river from the top of the bridge in a gloomy mood.I felt relieved to think that you had picked it up.

 

数年前,私は憂鬱な気分で橋の上から川に赤いサンダルを投げた。私はあなたがそれを拾ったと思って安心しました。

 

 これはある方に書いたメッセージです。

 数年前に東京に旅行に行きました。東京を歩き、下北沢の通りを歩いていた頃には、履いてたスニーカーがきつくなって、サンダルを求めました。

 季節は9月が過ぎてましたので、靴屋さんも街中でも歩けるようなサンダルはごくわずかになっていました。けれど、やっと自分のサイズにあったサンダルが赤いクロックサンダルで、赤色と言っても男性でも履けるような色とデザインで、クロックサンダルでも、それなりの値段でちゃんとしたものでした。

 靴屋さんは、親身なって僕のサンダルを探してくれました。履き替えただけで気持ちがすっきりし、いい買い物ができたと思いました。

 しかし、足の痛みはなかなか消えませんでした。帰宅後は、心まで痛むように募って、ある日、その赤いサンダルを橋の上から川に投げ、身代わりのように犠牲にしてしまいました。

 それで憂鬱な気持ちが晴れたわけでもありませんでした。ただ単に、貴重で高価な物を投げ捨てることによって、自分なりの主張をしたつもりでいました。

 一度だけではありません。その後、また同じように自分が履いていたクロックサンダルを川に投げ捨てています。今、家にあるクロックサンダルは、一足だけになってしまいました。

 なんて愚かなことをしたんだろうと思います。

『私はあなたがそれを拾ったと思って安心しました。』こんなのは言い訳です。言い訳にもなりません。

僕の過ちです。ごめんなさい。I'm sorry for my mistake.

 

 


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『DQX毛皮を着たヴィーナス』ゼフェリン

2019-07-23 19:51:02 | DQX毛皮を着たヴィーナス

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

<ゼフェリン>

 ゼフェリンは貴族の地主で、まだ三十を過ぎていなかったが、おどろくほど節制とまじめさと、学者ぶりを身につけていた。そして時計のように正確に組み立てた哲学者で実際的な方法で、寒暖計か晴雨計のように生活してきた。しかしときどき彼は不意に激情の発作におそわれて、まったく無茶な振舞いをしてきた。

「ただ、うまい思いつきで、キューピッドに鏡をもたせだっち、」

「だっち・・・・」

「なにしてるだっち!まだ夢心地だっちか?」

「あ、いや、ティチアーノは単にメサリーナの肖像を描いただけのことだろう」

「その中に彼女の威勢ある魅力をうつしてだっち冷静な満足ぶりを示しているのだっち。その絵には阿諛(あゆ)があるだっちよ。美しいモデルが風邪をひくのをおそれてだっち毛皮をまとっていただろうがだっち、この暴君のような毛皮がだっち、いまでは女性の本質と美になっている暴君と残酷のシンボルにされているにすぎないだっち」

「もういいだっち、いまではその絵はだっち、われわれの愛欲に対する辛辣な風諷だっちさ。北国のヴィーナスはだっち、風邪をひかないために大きな黒い毛皮のなかにつつまれてならないのだっちさ」

 そのときドアが開いて、魅力たっぷりの小肥りの金髪の乙女がはいってきた。

「ドーナッツはもっとやわらかく揚げるものだと、いっておいたじゃないかだっち!」

 彼は長いムチを、ぐいとひっぱってびゅんと振った。

 金髪の乙女はふるえあがった。

「でもゼフチュさまが・・・・・」

「あいつがなんといおうとだっち、どうでもいいだっち、おまえはだっち、いいつけられたとおりすればいいのだっち。わかったかだっち!」

「まてだっち!ひっとらえてやるだっち!」

 金髪の乙女はおじけづいて、牝鹿のような早さでさっと身をひるがえして部屋から逃げ出した。

「ゼフェリン君、まてよ。なんだって君は、あんな可憐な娘をいじめつけるんだい」

 わたしは彼の腕を押さえた。すると彼はおどけた調子で、

「甘やかしておくとだっち、おれの首のまわりに愛の輪縄をなげかけてくるにきまっているんだっち。おれがこの長いムチできびしく仕込んでいるからこそだっち、おれをあげめているのさだっち」

「バカバカしい!」

「君だって、女を馴らすにはこれよりほかにないだっちよ」

「そうかね、君がそのつもりならそれでもいいが、ボクにまでその理屈を押しつけるのはごめんだね」

「どうしてだっち?ゲーテもいってるじゃないかだっち、ハンマーにならなければ、カナシキになるってねだっち。男と女の関係はそんなものだっち。君が夢に見たヴィーナス夫人もだっち、そのとおりだと証言してくれなかったかね?だっち女は男の情欲のなかに自分の足場を持っているのだっちよ。」

「男がそれを承知してないとだっち。女はかならずその力をふるいだすからねだっち。男にたいしてはだっち、暴君になるだっちか、奴隷になるだっちか、ふたつにひとつだっち。男が服従すれば首にクビキをかけられだっち、ムチをふるわれるばかりだっちさ」

「奇妙な原理だね」

「原理ではなくて経験さだっち。ぼくはそのムチの威力を味わって知っているだっち。いまではだっち、もうそうではなくなってるがだっちね。しかしだっち、知りたければ教えてやるだっちよ」

 彼はそういって一束の原稿を取り出し、わたしの前にずしんと置いて、

「これを読んでみたまえだっち」

 そして彼は椅子に腰をおろすと、瞑想にふけった。

 わたしは原稿をめくりはじめた・・・・・。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』告白

 


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理想の恋人COM

2019-07-22 12:49:16 | 雑記の宿

<理想の恋人COM>

理想の恋人.com (字幕版)
ゲイリー・デイビッド・ゴールドバーグ,ゲイリー・デイビッド・ゴールドバーグ,スザンヌ・トッド,ジェニファー・トッド
メーカー情報なし

 ダイアン・レインマイブームで、『理想の恋人.com』を鑑賞。

 婚活サイトで恋人に出会うという内容ですが、恋愛疲れの人、仕事に専念したい人、投票(社会性を身に着けたい人)をしてみたい人にはお勧め。うちの家内もこれを見て、今回珍しく家内の口から投票に行くと言ってきました。それまでは、ぐずって投票に行かないこともありました。

 


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DQX毛皮を着たヴィーナス

2019-07-18 01:55:51 | DQX毛皮を着たヴィーナス

<DQX毛皮を着たヴィーナス>

 そのとき、ヴィーナス夫人はとても色っぽかった。

 彼女は、ヴィーナスという匿名で、競争相手のクレオパトラ嬢などにいどみかかる世間なみの気まぐれな女性などとはまったく違っていて、愛の女神そのものであった。

 彼女の目は動かず顔は無表情であったが、すばらしく美しかった。豪華な毛皮のなかに大理石のような肌の五体をすっぽりとつつんで、猫のようにふるえながらじっとうずくまっていた。

「どうも僕にはわからない」

「この二週間ばかり、陽気はすっかり春めいてきたのに、あなたはちょっと神経質すぎるんじゃないですか?」

「ご親切さま」「クシュ!」「クシュ!」

 彼女は石のようにかたく低い声で答えてから、二度ばかり、女神のようなしぐさで、くしゃみをした。

「わたし、こんな土地にもう、がまんできないわ。わたしにも様子がわかってしまったから・・・」

「なにがですか?」

「わたし、信じられないようなことが信じられはじめたので、それでわからないようなことが、わかりはじめたのよ。つまり、ドイツ人の婦徳とか、哲学とかが、急にわかってきましたのよ。あなたのような北国の人が恋の仕方をご存じなくても、わたし、もうおどろかないわよ」

「クシュ‼」「クシュ!」「クシュ!」「くしゃみが」

「ふふ、それだからこそ、わたし、いつもあなたのために、つくしてあげてきたのよ。こんな毛皮を着ていても、風邪ばかりひいてるけど、ちょいちょい会いにきてあげているではないの。はじめてお会いしたときのことを、おぼえていらっしゃる?」

 

 「忘れてなんかいるもんですか。あなたは髪の毛を鳶色のカールにして、鳶色の目と紅の唇をしていました。リスの毛皮を着て緑どった紫がかった青いアクセサリーをつけていました。」

「あなたは、わたしの衣装に恋したのね。ですからあなたって人は、わたしには扱いやすかったわ」

「それであなたは、ボクに恋愛がどんなものかを教えてくれたのですね」

「わたしがあなたにつくしてあげた誠実は、なにものにもくらべようがなかったほどよ」

「それが誠実というものであったのなら」

「まアひどい、恩知らずの義理しらず」

「いや、ボクはあなたを責めているわけではありません。あなたはわたしの女神です。しかし女はやはり女ですから、恋愛には残酷ですね」

 「女性の愛情の根源で、女性の持って生まれた性質なのよ。愛する者には、自分の全部をあたえるし、喜ばしてくれるものなら、なんでも愛するという自然の要素なのよ」

「愛する女性が不実、これ以上、男性にとって残酷なことはありません」

「わたしたちは、愛しているかぎりは決して心変わりなんかしないわ、それなのに男って変よ。愛していないのに女には貞節を要求するし、なんの喜びもあたえてくれないのに、身を捧げろ、身体を許せとおっしゃるですもの。これではどちらが残酷でしょうか。女のほう、それとも男のほう?北国のかたは恋をするにもかた苦しく考えすぎるわね。たのしみだけを問題にしてればいいのに、すぐに義務がどうの、こうのというのね」

「それは、わたしたちの愛情が尊敬すべきもので、誠実なもので、わたしたちの関係が永遠のものだからですよ」

「そのくせいつも満足しないで、異教の裸像であるわたしを慕っていらっしゃるのね。神様の純粋な恋の最高の喜びは、反省の子供のような近代人のものではないわね。喜びの恋愛は、あなた方の心のなかでは、悪徳にだけ結びついているのだわね。あなた方の世界ではわたし、こごえてしまいますわ ゴフォゴフォ」

「しかし男と女とは・・・」

「あなた方の明朗な太陽の輝く世界でも、ボクたちの霧が立ち込める世界でも、仇同士ですよ。これだけは、いくらあなたでも否定できないでしょう。ほんの短い間だけならば、恋愛のなかで男と女は融合してひとつの人格ともなり、ひとつの思想、ひとつの感覚、ひとつの意志にもなれますが、そのあとでは前よりずっと遠くへ離れてしまいます。どちらかが相手を服従させそこなうと、たちまち足で首根っこをふみつけられます。それだからこそ、ボクは幻想を抱かないのです」

  するとヴィーナス夫人は傲然としたあざけりの調子で叫んだ。

「するとあなたは、なんの幻想も抱かないで、わたしの奴隷になっているわけね。いいわ、それならその意味で、これからはわたしは、容赦なくわたしの足の重みを十分感じさせてあげるわね」

「そんなバカなこと!」

「そうよ、わたしは残酷よ、あなたはこの言葉をとても好んで喜んでいらっしゃいますからね。・・・・どういうふうに男を征服し、奴隷にし、おもちゃにし、笑いながら裏切ってやるか、それを知らない女性は利口じゃないわね」

「それはあなただけの考えでしょう」

「何千年もの経験の結果よ」

 彼女は白い指で暗色の毛皮をもてあそびながら、皮肉にいった。そして言葉をつづけて、

「女が献身的になればなるほど、男はいよいよ落ちついて権威をふるうけど、女が薄情になり、不実になって、手ひどく男を扱い、勝手気ままにほかの男たちとたわむれれば、それだけ男の欲望をそそり、男から愛され、崇拝されるものよ」

「たしかに」

「このうえもなく男をひきつけるのは、美しく情熱的で残虐で暴虐な女でしょう。移り気で平気で男をかえて気ままな恋をする女で・・・」

「そのうえで毛皮を着ている女」

「それはどういう意味ですか?」

「あなたのお好みよ」

「あなたは、この前あったときにくらべて、ずいぶん魅力的になりましたね」

「どこが?」

「あなたの白い肌のからだをひきたてるには、黒い毛皮以上に効果的なものはありまん。それから・・・」

「あなたは夢を見ていらっしゃるのよ。さあ、お目をさまして!」

 といって、白い手でわたしの胸をぎゅっとつかみ、「さあ、お目をさまして!」と低音のしゃがれ声でくり返した。

 わたしはハッとしてその手を見た。すると、耳に響いたのは、コサック生まれの酒のみ下男のドラ声であった。六尺豊かな大男の彼が、わたしの前にぬっくと立っているのだった。

「おきてくだせえ、旦那さま、みっともねえですよ」

「なにが?」

「外出着のまま、本をほうり出してねむっているなんて!」

「哲学者ヘーゲルの本か。それはともかく、もうゼフェリンさまのお宅へお出かけねばならぬ時刻です。お茶の用意をして待っておられるそうですから」

「奇妙な夢ですなア」

 毛皮につつまれているヴィーナス!わたしはその絵を指さして、そう叫ぶとともに、

「ボクが夢のなかでみた彼女も、あんなふうでしたよ」

 と、そばのゼフェリンに言葉をかけた。すると彼も、

「そう、ぼくも見たのだ」と応じてから、

「ただ君と違うのは、ぼくは目を開いたままあの夢をみたのさ」

「ほんとうですか?」

「そう、でもぼくのはつまらない話さ」

「しかし、とにかくこの絵はボクの見た夢を暗示しているようだ」

「それなら、こちらの複製画をみてくれ」

「鏡のヴィーナス」と呼ばれてる絵の写しであった。

 ゼフェリンは身を起こして、指先でその絵の愛の女神のからだに着せてある毛皮を示しながら、

「これも毛皮を着たヴィーナスさ」といって、かすかに笑った。

 次回

『DQX毛皮を着たヴィーナス』ゼフェリン

 


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