***旅に出るたび
**胸につもる何かを
*ほんの少し、眠る前に
夕方の混み合う街で
長く会っていなかった友人を見かけた
困ったことはないか
何か力になれることはないか
頭の隅で気にかかっていた人だった
力強い足取り
軽快でよく似合う服と靴
私と反対方向へ歩くその人の
ほんの一瞬だけ見えた顔は
自信に満ちて
明るい笑みがこぼれそうだった
声を掛けようか
迷った一瞬の後
その人の表情を思い返して
私が気にかかっていたことの
答えは全てそこにあったから
私も立ち止まらずに
振り返らずに歩き続けた
彼はベージュのトレンチコートを着ていた
久しぶりの再会だけど
私たちは今まで通りに見えて
肩を抱き合った
長い抱擁だった
彼の頰が私の頰に柔らかく触れ
その延長線上のように
唇が触れ合った
私は少し驚きながら
どういう意味だろうかと考えた
私たちは家族のように近しくて
お互いが大事で
だからきっと
それを彼は表したのだろう
長く柔らかな抱擁を経て
彼の顔を見たはずなのに覚えていない
ただ
彼の態度は変わっていなかった
そこで目が覚めた