それはごく時々起こることだ。
ある人が突然、それまでの会話の流れを忘れたように、私にある書籍について話し始めた。
私はその人が何の話を始めたのか、なぜその話題を選んだのか考えることに必死で、肝心の内容が頭に入ってこないし、どんな風にその話が始まったのかもわからない。
ただ、アートやカルチャーに関するところがあり、その本を私が読んだらいい、好きかもしれない、とその人は言った。
私は何一つとして頭に入らなかったけれど、どうにか本の正式なタイトルを聞き出した。
そこで別の誰かが別の何かを話し出して、本の話は始まったときと同じくらい唐突に終わった。
相手は私をさほどよく知らないし、私も同じで、お互いの名前と関係性と、挨拶程度に話した休日の過ごし方を知っている程度。
それでも私とその人には、何かしらの共通点があることはわかる。
次の髪型を決めるときにどんな基準で判断するかといったことや、自分の好きな音楽について考えるときにどんな気持ちになるかといったこと。
ささやかで人の目には見えない、その上、人と共有することのあまりない部分において、私とその人には共通点がある。
実際の髪型やら好きな音楽やら表立った部分は同じではないから、人の目には共通しては見えないだろう。
その人はきっと、私が感じたように、2人の間に横たわる何かを感じたのだと思う。
私はその本を読むだろう。