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さようならということ ダン・フランク  〈LES ADIEUX  Dan Frank〉

2007年11月22日 | 読書記録
主人公のマティアスは、画家である。
冒頭、ほんの少しページを読めば、彼が相当の変わり者である事が分かる。
ほとんど話をしない。一人暮らしのアパルトマンでは、管理人と犬猿の仲。

彼が唯一、まともに社会と接している事は、画廊の経営者フェルディナンに絵を売る事だけ。

絵を描いて一応生計が立てられているのだから、才能があるのだろう。

そんな彼が、一人の女性と知り合う。
二人は互いに惹かれ合うようになる。
…のはずなのだか…。


途中から、いや始めから、なんかおかしいな、と思いながら読んでいたが、結末がこうだとは。

どこまでが現実で、どこまでが幻想なのか、ページをめくって確かめようとしてしまった。

マティアスが余りにも…服装や生活スタイルだけでなく、内面の思考回路が…尋常でないほど特殊なので、読んでいるこっちが時々混乱してしまう。


それでも読んだあと、いい本だったな、と、割と良い気分になれたのは、後書きにもあったように『…(作者は)悲しみや悲哀を語らず、憐れみも甘えもなく大言壮語もしない』で、淡々と物語を語るからかもしれない。

ほら、マティアスはこうなんだよ、と言ったきりあとは読者まかせ、どうとらえてもこちらの自由。
…という感じで、押し付けがましいところがないのが良かった。

それに、こういう小説も、マティアスも、嫌いじゃない。
こういう本も、そしてこのような人生もあるだろうな、と思った。

この作者の別の作品も読んでみたいな、と思った。



原題の”LES ADIEUX”は、本文の中に度々登場するベートーベンの、そのなかの一つの作品(ピアノソナタの第26番だそうです)のフランス語名だそうで、最後のほうにこの曲が登場します。

”LES ADIEUX”…アデュ(さようなら、永遠の別れ)の複数形だそうですが、残念ながら私はこの曲は聴いた事がありません。




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