日曜日に銀座三越の地下でパンを買ったときのこと。
「三越伊勢丹カードかTポイントカードはお持ちですか」
報道で知っていたとはいえ、一瞬戸惑いました。
ちなみにエムアイカード(三越伊勢丹カード)も都内では、つい先日まで現金払いではポイントは付きませんでした。そのころに京都伊勢丹地下で食品を買ったときに、現金でもポイントが付くことを知りました。割引がなくなったのを機に、統一したのでしょう。MIカードの特典が変わったことは、すでに書いています。
今度はTポイントカードと提携をしたようです。5月25日から使えるようになったとのこと。(Yahoo!ニュース)
高級百貨店のイメージを損なうとの批判的な意見に、簡単にいえば「客層を広げるため」というような理由づけをしているそうです。Tポイントの運営会社が保有する顧客データにも魅力はあるのでしょう。
パンを買ったとき、あまり深く考えず「両方持っていますけど」と言うと、「どちらかで」と冷静に考えれば当たり前のことを言われ、やっぱり深くは考えずMIカードを出しました。常に行列状態のベーカリーショップですから、内心面倒な仕事が増えたと思っているスタッフもいそうです。
実際、どうなのだろうかと疑問に思います。元来、百貨店のような業態がマーケティングの一環として行うカード戦略は、フリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)に基づいたものでした。詳しい用語解説はリンクに飛んでいただくとして、要するにロイヤリティーの高い優良顧客情報をとり、その人たちに対するサービスや情報提供を的確にすることで、店舗への貢献度の高い顧客に対して、さらに購入額を増やしてもらう。さらには彼らと似た属性や嗜好を持つ新規顧客にアピール力の高い品ぞろえをしていくということです。
しかし、Tポイントカードを持つ顧客層は多岐にわたっており、戦略として同じベクトルは向いていません。二兎追う者は一兎をも得ずになるのか、狙いどおり若い顧客層の取り込みに繋がるのか、どうなのでしょうか。
もうひとつここに踏み込んだ意図として、地方店を中心に本店以外のテコ入れはあるのではないかと思います。伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店は、東京の百貨店のなかではブランド力、売り上げ、品ぞろえともに高いレベルにあります。実際、伊勢丹本店は売り上げでも単店では百貨店業態で日本一です。
ところが、伊勢丹は大阪では短期での撤退を余儀なくされ、大都市部以外の支店でも業績の厳しい店は現在の営業店でもあるでしょう。三越も同様です。両本店と大都市の一部店舗だけを残し、ほかは手を引くのであれば余計なことはしない方がいいのかもしれません。しかし全国規模での店舗面積を維持または拡大し、雇用を守り、売り上げや利益効率の向上を図らなければ、たださえ業界再編で寡占化している百貨店業態はますます縮小し、株価も含め自社グループの企業価値も守れません。結果としてブランド力も損ないかねない。ブランド力=イメージ力ではありません。イメージはブランド力を形成する一部に過ぎないのです。
そう考えれば、今回の提携は、既存顧客層やインバウンド客からだけではたえきれない店舗にとっては、重要なことかもしれません。
でも「Tポイントが使える」だけでは十分ではありません。Tポイントカードが使える店は山ほどありますが、顧客単価の低い業種業態がほとんどです。そもそもまだ日本では低単価の店は、現金払いが主流ですから、それほどポイントはたまりません。Tポイントでためたポイントがあるから、(単価の高い)百貨店で買い物をしようかという発想にはなりにくいのではないでしょうか。
結局、間口を広げ、蓄積され、日々変化する顧客データをどう生かすか。ここが大切だと思います。