2024/8/21
・脚本家の橋本忍の生涯を様々な資料や本人への聞き込みをもとにまとめたノンフィクション。
・橋本忍は『七人の侍』『切腹』をはじめとする数々の代表作があり、日本で最も偉大な脚本家のひとり。
・ただ、黒澤明という大きすぎる存在の陰に隠れがちで、一般的な知名度はそれほどでもないように感じる。
・自分も作品自体はそんなに観ていないので、本書を読むまでは人となりが想像もできなかった。
・幼少期の父親との関係、戦時の療養所で若くして余命宣告を受けていること、会社員と修業時代、七人の侍と黒澤明との関係性、松本清張作品、自身のプロダクション設立とその後、最晩年の様子まで。
・著者が製作エピソードにまつわる事実確認をしていくくだり、考古学者のようであり、事件の真相を探っていく刑事のようでもあった。
・本人によるアイディアノートのようなものがしっかり残っていて、重要な資料になっている。
・残っていること自体がすごいことだし、年月が経てば失われるものもあるだろうから、著者が橋本忍の晩年に間に合ったのはとても大きい。
・これからの作家は全部データになっていくと思うので、同じような追跡は難しそう。
・多少の無理筋を筆力で通してしまう、腕力で勝負をするタイプの作家という。同じような比喩は自分も使うので図々しくも親近感がわく。
・取材対象との距離感がしっかり保たれていて、内容面、興行面など、筆者独自の評価がなされている。
・創価学会との関係にも触れている。自分の日常生活で宗教を意識することはあまりないけど、大きいところなら映画の興行成績を左右するくらいの力を持っていることがわかる。
・本書は脚本の指南書ではないけど、橋本忍の推敲に推敲を重ねるしつこさ、大きな紙に書くことで脚本の構造を視覚的に上げること、長時間机に座って何かしらの文字を書き続けるフィジカル面の訓練が紹介されていた。
・特にフィジカル面の話はそのまま真似するにはリスクが高いけど、一理あるような気がしないでもない。
・企画から出版まで12年かかった労作だけあって充実のノンフィクションだった。
・あとがきに触れられていた執筆時のエピソードも楽しみに待ちたい。
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