イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

紋白蝶の佳人

2008年05月29日 03時12分25秒 | 小説
 三十路だろうが儚く嫋やかな男を欠片も感じさせぬ主人公・沙内深(さうち・しん)のような人間はいると思います。『月に濡れる蜜約』の主人公アレクシス・藍のように。但し、アレクは猫のようにしなやかでじゃじゃ馬ですが。

 深は僅か10歳の時に主家・広瀬家の跡継ぎである6歳年上の秋信(あきのぶ)に凌辱され、それ以降、夜昼問わず伽を秋信に強要される内に周囲に知れますが誰も深を救おうとはしませんでした。それどころか、広瀬夫妻は子を孕むことのない同性ならば図々しく妾の座を要求することもあるまい、そして、思春期の秋信が性の捌け口を求めるのは仕方のないことだと深を秋信の性の玩具として与え、深の両親も我が身可愛さに深を守るどころか差し出してしまいます。幾ら、主人の命令は絶対であり使用人は逆らうことを許されないのが当然の時代でも酷すぎますね。

 しかも、我が子を守るべき両親が自分たちと下の子供たち(深の弟妹)が生きていけなくなるからと、同じ我が子である深を人身御供に差し出した挙げ句に母は良心を持っていたらしく深を案じて他界しますが、父親の方は次期当主たる秋信を誑かす淫売だと深を侮蔑し見捨ててしまいます。自分たちが人身御供にしたくせに何という身勝手すぎる、醜い輩か!人の心を深の父親は持っていなかったのです。