河田美恵子
『TOLEDO―その歴史と芸術』
サビール出版
1991
マドリードのやや南、イベリア半島のほぼ中心に位置するスペインの古都トレド。
美しい街並みが今も残り、1986年には旧市街全体がユネスコの世界文化遺産に登録された。
今回紹介する一冊は、旅行でスペインに行った方からお土産として頂いた同市のガイドブックである。
120頁にわたる本ガイドブックでは、多くのカラー図版(絵画、彫刻、建築、地図 etc.)とともに、トレドの各観光名所にまつわる歴史とその地でみられる主な芸術作品が紹介されている。
スペインを訪れたことのない私にとって、〈トレド〉と聞いて思い浮かぶものはただひとつ。
そう、エル・グレコである。
ギリシアに生まれ、イタリアでティツィアーノらヴェネツィア派の画家たちに師事したグレコ。
30歳を過ぎたころにスペインへやってきた画家は、トレドを中心に活躍をみせ、いまではベラスケスやゴヤと並びスペイン三大画家のひとりに数えられる。
本書では多くの画家の作品が取り上げられているが、なかでも質・量ともに群を抜いているのがグレコの絵画である。
掲載されている作品のうちから、画題としてトレドと関わりのあるものをいくつか抜き出してみよう。
● 《トレド全景》 (p.32, pp.34-35)
二点現存しているグレコの描いたトレドの風景画のうちのひとつ。
もうひとつはこちら。
どちらかといえば後者の方が有名なように思われる。
エル・グレコの絵は、スペインへ来た頃のイタリア的な肉体礼賛から一変し、人体描写はあたかも重力を失ったかのように、細長く引き伸ばされていく。
彼が描こうとしたのは、肉体を超えた精神の世界だったのだろうか? (32頁)
彼が描こうとしたのは、肉体を超えた精神の世界だったのだろうか? (32頁)
● 《オルガス伯の埋葬》 (p.90-92)
「静的な地上の埋葬場面と、動的な審判の行われる天上界を、ドラマティックに統一させ」た一作である(90頁)。
埋葬されているのはトレドに生まれた敬虔なオルガス伯ドン・ゴンサロ・ルイス。
大塚国際美術館(徳島)には本作の原寸大のレプリカが展示されている。
同美術館の〈エル・グレコの部屋〉も見どころである。
生命の炎を象徴するかのように異様に引き伸ばされた人体、しなやかで、表現力のある指先、いずれをとっても、画家の非凡な力量がうかがえると同時に、ほとんど狂気とも思われる彼の自由奔放な幻想の集大成ともいえる作品である。 (92頁)
● 《無原罪の御宿り》 (pp.98-100)
この主題はマリアがイエスを身ごもったいわゆる〈受胎告知〉とときに混同されるが、区別が必要である。
〈無原罪の御宿り〉とは、原罪を免れた状態で、マリアが母アンナの胎内に宿ったというカトリックの教義を指す。
[注:98頁右下のキャプションでは100頁に掲載されている本作品のタイトルが《聖母の被昇天》となっているが、おそらく誤りであろう。]
画面左下には、先ほど触れたトレドの風景画(参考)と同様の景観が描かれている。[下図参照]
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本書全体を通して―
例えば上で言及したように作品名が誤っていたり(98頁右下)、また画家名が違っていたり(104頁右下)など、現地で(おそらく)長年売られているガイドブックにしては誤植が多いようにも思われる。
しかし本ガイドブックはいわゆる美術書ではなく、著者ご自身も美術の専門家ではないため、これ以上深入りすることもなかろう。
スペイン。
ぜひ行ってみたい。
トレドもそうだが、プラド美術館(マドリード)は外せない。
トレドと「あのギリシア人」エル・グレコ。
マニエリスムを代表する画家につきまとう謎には、魅力が尽きない。
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