旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

先入観と偏見

2019年10月15日 | 旅行一般

 旅していると偏見と向き合う機会が頻繁に訪れます。自分自身が抱いている偏見に気づかされる事もあれば、偏見に満ちた人々との関係に翻弄されることもあります。あるいは傍観者として”それって偏見でしょ?”と感じる事もあります。誰にとっても日々の暮らしは偏見に満ち満ちているのかもしれません。

 数年前のスーパーカブで旅するタイ北部での事でした。チェンマイのゲストハウス付属のレストランでいつものようにビールを飲んでいた我々。目の前の道路を中国人の若者たちが通りすぎていきました。

 皆さんが偏見で判断を曇らせないように書いておきます。実は私たちの生息範囲とオーバーラップする中国人の旅行者は日本で話題に上るような大きな団体の旅行者ではなくて数人の若者グループ。たいていは私たちのように安宿に泊まっていますし、”爆買い”とは無縁の人達。なんとなく肩ひじ張っていなくて、それでいて好奇心旺盛。達者な英語を使って誰とでも朗らかに交流しています。どこか30年前の日本人の旅人を思わせる印象もあります。私個人にとってはとても好印象な若者たちなのです。

 この時の中国人の若者たちも楽し気に語り合いながら、それでも大騒ぎしているわけでもなく通り過ぎて行ったのですが、それを見ていたゲストハウスのスタッフが、”中国からの旅行者が増えて、どこを見ても中国人ばっかりだ”と不満げに話すのです。

 実際、中国からの旅行者は増加しています。もともとタイには中国系の人が沢山住んでいますから、小さなレストランなどでも中国語を話す人がいるケースは多く、私たちが食事に入るとよく中国語で話しかけられるようになりました。中国語が話せないと判るとハングル語で声を掛けられ、それにも反応できずにいると”何処の国の人?”と英語で尋ねられ、日本であることを告げると、”そういえば日本というのもあったな”といった具合。少なくとも私たちの生息エリアでは日本人の旅人は忘れられるほどのマイノリティになっています。

 だから、中国からの旅行者が増えた事はゲストハウスなどの観光関連業者は歓迎すべき事だと思うのです。そこで、どうして中国人旅行者が増えるのが好ましくないのか尋ねてみたのです。

 彼が言うには、中国人旅行者はお金を落としてくれないという点で不満なようなのです。

 タイのゲストハウスではミニツアーを沢山扱っていて、そういうツアーを販売することがゲストハウスの収入となります。また、長距離バスや鉄道、場合によっては航空券、あるいは我々が利用するようなレンタルバイクの手配を行ってくれます。この手数料もゲストハウスの収入になります。

 そういった事を何もせず、ただ町を歩き回っているだけで何の利益ももたらしてくれないというのです。

 ところがこの不満点、実は私たちにも見事なまでに当てはまるのです。

 例えばチェンマイ到着翌日、ツーリングスタートまでの準備が整った後はどこかへ観光に行くことが多いのですが、そういった交通手段も私が思いつきで手配してしまう事が多いのです。レンタルバイクも以前からの付き合いがあって独自手配。空港との交通手段も独自手配。

 せめてビール代ぐらいは儲けてもらおうと以前は思っていたのですが、酒飲みの多い私たちグループはいつも宿の在庫のビールを全部飲んでしてしまい、”これからは外で調達してきてね。その方が安いから”と言われてしまう始末。

 宿泊代以外、全然お金を落としてくれない客といえば私たちの右に出る人はいないでしょう。

 なのに、我々を差し置いて(?)の中国人旅行者批判はやっぱり偏見なのだと思います。こういう事には歴史的な背景や社会情勢の背景などいろいろあるのでしょうが、私にとっては好都合に働いている偏見なのであえて掘り下げずに今に至っています。

 最近は日本人旅行者としての自分たちでなくて”時々遠くからやってくる友人”を演出しておくことに決めました。いずれ”日本人旅行者は全然お金を落としてくれない”とバレてしまわないように...。

 偏見はいつの間にか自分の中に育ってしまっているものですから、偏見を持って物事を見ている事すら気が付かない事がほとんどです。ただ、おそらく確かに言えるのは属性で括って何かを判断することは全て偏見に基づいた判断であるという事です。
 
 日本人だからとか、中国人だからとか、バイク乗りの連中は...とか、男は...とか、女は...とか、そういう判断には常に先入観とそれに基づく偏見が入り込んでいるものです。偏見を捨てる事はおそらく不可能ではありますが、自分が偏見をもって何かを判断しているかもしれないという事に気がつけば、自分の周りの出来事がまた違って見えてくるかもしれません。


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