旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

世界の見え方が変わった瞬間。

2007年10月26日 | 旅行一般
1997年のUAEデザートチャレンジ。生まれて初めて走る本格的な砂丘群の中、通勤バイクで私は苦戦していました。速いライダー達はGPSを頼りに入り組んだ地形をものともせずに最短ルートで走り抜けていったようです。それ以外のライダーは概ね最短ルートで、かつ走り易いルートを走り抜けていくわけですが、極端に遅い私の前にはバイク、4輪、カミオン(トラック)が既に通過。ルートブックに指定されたルートには深い轍が刻まれていて、とても自分には走れそうにありません。とは言ってもルートから外れてトラブルを起こすと救援を受ける事も難しくなり、生命の危険も感じます。

私はそれでもルート上を進もうとして何度もスタックを繰り返し、どんどんと体力を消耗し続け、飲料水も底をついた状態で何とかチェックポイントへ辿り着きました。チェックポイントのスタッフから水をもらい、そこでしばらく休ませてもらった私は再び走り始めたのですが、すぐまたスタックして、更に消耗の度合いを深めてしまいます。

何とかスタックから脱出して、"次に、もう一度、スタックしたらリタイヤしよう"とまで思いました。

"ルート上を走り抜く力はないのだから、自分が走れると自信が持てる所だけを慎重に選んで走ろう。"と決めて再び走り始めました。それからはとにかく前方に広がる風景の中で自分が走れる場所を選ぶ事だけに集中していました。

しばらくして、あれほど苦労をしていた砂丘を、全くスタックする事もなく走っている自分に突然、気がついたのです。砂漠の地形のどこに自分が身を置くべきかだけをシンプルに感じる事ができるようになっている自分に気がついた時、大きな壁を乗り越えた事を実感する事ができたのでした。

ついさきほどまで悪夢の光景に思えた砂漠が、突然、自分貸し切りの広大な遊び場に見えはじめました。自分の走れる場所をジグソーパズルのように繋ぎ合わせてゴールを目指すのが楽しくて仕方なくなりました。世界の見え方が変わった瞬間ですね。

生まれ変わった自分を実感して、やたらハイな気分の私の前に日本人カメラマン&ライターの方が乗ったプレスカーが現れました。手を振りながら通り過ぎようとする私に止まれと合図をしています。話を聞いてみると、先に休憩したチェックポイントから、消耗があまりにも激しい私をルート上で収容して、救助してほしいとの要請を受けて、仕事を放り出して助けに来てくれたようでした。

やたらと元気な私を見て、"どうも話が違うなぁ。何を誤解されたんだろうなぁ"と言っておられましたが、実はチェックポイントからの情報が完璧に正確なものであった事を知っているのは私だけでありました。

情報を収集して、そこにある困難に恐怖するのもよいでしょう。そんな困難な所へ自ら出向くのはアホだと笑うのもよいでしょう。でも、そこに自ら身を置いて、足掻いてみてこそ感じられる新しい感覚があるのですよ。それを感じてみる事を拒むなんて勿体無いと思います。


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