2020-21年度関東社会学会研究委員(テーマB)より、3月から延期になりました、8月22日(土)の研究例会の告知です。
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テーマ:「ワークショップ時代の統治と社会記述:ワークとアートの現場から」
日時: 2020年8月22日(土) 14:00~17:00
場所:オンライン開催(ZOOM)
松下 慶太(関西大学)「ワーケーションにおける『スタイル共同体』の形成」
高橋かおり(立教大学)「芸術を通じた場の構築――地域に対する現代美術とクラシック音楽の試みを比較して」
ファシリテーター: 加島卓(東海大学)、元森絵里子(明治学院大学)
公式告知:http://kantohsociologicalsociety.jp/meeting/information.html#section_2
研究例会に参加を希望される方は、8月16日(日)までに元森(motomori[at]soc.meijigakuin.ac.jp)まで、①お名前、②ご所属、③開催情報をお送りするメールアドレスを、ご連絡ください。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせします。
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主旨文(公式告知とは別に、研究委員の思いを前面に出して書きました。)
2020年度~21年度のテーマ部会Bでは、2回の研究例会と2回のテーマ部会(学会大会時)を通して、具体的な事例を常に念頭に置きつつ、現代社会の社会記述の問題を考えてみたいと思っています。一言でいえば、各領域で既存の記述が失効している感覚を、領域横断的に議論する場にしたいと考えています。
担当研究委員は、1990年代後半から2000年代半ばに大学・大学院時代を過ごした世代です。「近代」とはこういう時代で、今はその先の「〇〇化社会」を迎えているといった(今思えば紋切り型の)説明を、ぎりぎりわかった気になれた最後の世代のように思います。世間的にも、国家権力―住民自治、専門家支配―市民参画、教育―遊び、労働―余暇のように、近代的な大文字の諸価値に新しい価値を対置するという対抗図式も未だ定番でした。一方、研究の世界には、ニューアカと呼ばれた現代思想の空気が残っていました。歴史社会学や言説分析が流行し、「常識」の歴史性や構築性を明らかにしていった空気の最後にぶら下がって、近代社会と同義にも見えたそれぞれの領域の「常識」の歴史と現在を描こうと、フーコーなどを問い直しながら格闘しました。
しかし、そうこうしているうちに、社会学は格差社会批判や新自由主義批判へと傾斜していきました。近代の権力性や構築性を指摘することや、「新しい価値」と思われていた住民自治や市民参画の理想を掲げることが、コストカットと自己責任を旨とする新自由主義の統治を下支えしてしまう可能性も、反省的に指摘されるようになりました。さらに、そのころには社会学を教える立場になり、「〇〇化社会」と驚きをもって記述されていたはずの生のモードが自明となり、「新しい価値」が闘っていたはずの大文字の諸価値のリアリティがない、若い世代と向き合うことになりました。それぞれの研究対象としてきた領域にも、様々な変化が起きました。「〇〇化社会」型の記述はもちろんのこと、一時期それ自体で記述の「オチ」にできた「新自由主義の統治に組み込まれている」などの「診断」が通じない感覚があります。
今や、このリアルこそ、記述の対象なのではないでしょうか。「近代的諸価値から新しい価値へ」と称揚したり、「新しい価値の欺瞞」を批判したりするのではなく、そのように「オチ」をつけたくなること自体も組み込んだ記述が必要なのだと思います。フーコーの装置概念や統治論を洗練・修正させていこうとする研究群や、事物と言説や社会と社会意識といった二元論ではなく唯物論一元論として言説と人とモノの連鎖を追尾していくアクターネットワーク理論などが注目されているのは、わかりやすい対抗図式では描けない現実があるからでしょう。
時代が複雑になればなるほど、自分のテーマの目の前の事象の探求(と学務・事務)に追われがちになります。社会学のテーマとして、記述というテーマは流行遅れになった感もあります。だからこそ、共通のテーブルを設定して各人のテーマで見えてくることを紹介し合うことで、共通の問題や問題意識を浮かび上がらせ、現代社会がどのような社会でそれに社会学はどう挑むべきかという記述の問題への関心を共有したい…そのような思いで本テーマ部会を企画しました。
タイトルになっている「ワークショップ時代」とは、新しい時代の象徴であり対抗価値として読み解かれた「自治」や「参画」や「選択」の理想が、住民運動のレトリックではなく、新自由主義的な自治体政策(統治のモード)のなかに組み込まれて久しくなった時代を指しています。既存の権威が解体され、新たな価値の構築自体が公的な制度に組み込まれてしまう中、今までの(何段階かの流行の波があった)記述の「オチ」では記述できない現実があります。
例会当日は、キックオフミーティングとして、前半に、「アート」の権威も「ワーク」の正統性もゆらいだ時代の、「アートによるまちづくり」と「ワーケーション」の事例をご発表いただきます。寿ぐべき対抗的価値だとも、単なるアリバイづくりや統治・消費の技法だとも結論づけられそうなこれらの事例の、しかしそう「オチ」をつけることもできない現実がどのようなもので、それを記述するのにどのような悩みや苦労があるのかをご紹介いただきます。
後半は、フロアの皆さまの事例や悩みを募集します。「まちづくり」風のテーマに限らなくてけっこうです。皆様の格闘している既存の枠組み(「オチ」)では描き切れない事例と、それを描くのに使えそうな理論や方法論を、ぶっちゃけて共有しましょう。
なお、学会大会(12月)の折のテーマ部会では、文字通りワークショップを共通テーマとして、さらに議論を深めていく予定です。ワークショップが繰り返される時代には、ファンドレイジングやファシリテーションといったノウハウを持つ中間支援型の専門性の確立が模索される一方で、住民が疲れ弱小NPOが淘汰され、マネタイズに長けた既存資本がそのポジションに収まってしまったり、アリバイ的な住民ワークショップや地域の大学と提携した教育プログラムとしてけっこうな予算が計上されてしまったり……。あえて典型的なテーマにおけるこういった言説や人やモノの配置の現代的様相を共有することで、それを記述する際に考えるべきことのヒントを得て、2年目(例会3月、学会大会6月)につなげていけたらと思っています。
研究委員:元森絵里子(文責)・加島卓・牧野智和・仁平典宏