どんぴ帳

チョモランマな内容

くみたてんちゅ(その7)

2009-06-09 04:30:14 | 組立人
 まずは手近にあった店で、小麦粉を練った物に肉を挟んだ饅頭らしき物と、春巻状の物の購入に挑戦する。
「コレ、一個ね!」
 私は二つの品を指差し日本語で言うが、何故か店のオバサンは二本指を立てる。
「いや、一個でイイから」
 オバサンは中国語で何かをまくし立てて来る。どうやら隣に佐野が居るので、
「二人なら、饅頭は二個でしょ!」
 とがなっているみたいだ。
「もう、じゃあいいよ二個で」
 日本人特有の押しの弱さで、オバサンの提案を受け入れることにする。
「春巻も二個でしょ!」
 さらにオバサンが喚くので、さすがに私も激しく拒絶する。
「一個だよ、一個!わかんねぇオバはんやなぁ!」
「一個かい?」
「一個だよ!」
 日本語と中国語でのやり取りだが、意思の疎通は出来ているはずだ。
「いくら?」
「5元よ!」
「ハイよ!」
 佐野が脇から金を支払い、無事に初めてのお買物に成功する。
「これだけじゃ足りないよ」
 続いて佐野と一緒に中ほどまで歩き、一軒の店の前で立ち止まる。
「ここは?」
「ああ、この店の飯はなかなか美味いよ」
 店の斜めになった台には巨大な飯物の写真メニューが貼り付けられている。
「ほぉ、なんか石焼ビビンバみたいのがありますね」
「それは結構オススメだよ」
「これにしちゃおうかなぁ…」
 私はじっと店の巨大写真メニューを見つめる。その私と佐野に向かって、『柴咲コウ』に似た店員の女の子が、中国語と英単語で話かけて来る。
「これはビーフよ」
「佐野さん、この石焼ビビンバは牛だって言ってますけど…」
「ああ、何だか知らないけど中国人は、こっちが日本人だって分かると、やたらと『牛』を勧めるんだよ」
「そうなんですか、別にそういうこだわりは無いけどなぁ…」
 私は他のメニューも見る。
「これは鶏ですよねぇ」
「チキン、チキン!」
 中国の柴咲コウが、すぐに英単語で反応する。
「ふーん、じゃあこれは?」
「ポーク!ポーク!」
 どうやら豚らしい。
「じゃ、俺はこれを一つね」
 メニューに記載されている15元(約225円)を支払い、席に戻る。

 石焼ビビンバらしき料理が出来るまでに、まずは佐野と一緒に饅頭らしき物と、春巻らしき物を食す。
「お、この饅頭みたいな奴、見た目よりもボリュームがありますね」
「この春巻みたいな奴のほうが美味いよ」
 二人でそれを食べていると、店員の柴咲コウが何かを大声で叫んでいる。
「お、なんか呼んでますね」
 私は佐野と席を立つと、店に向かった。
「コレはアナタのよ!」
 柴咲が怪しい英語で叫びながら、ジュウジュウと音を立てているトレイに乗った石鍋を手渡してくれる。佐野も鶏の石焼ビビンバを受け取る。
「おいおい、スプーンがプラスチックだよ…」
 席に戻ってかき混ぜようとすると、スプーンがプラスチックなのが判明する。
「ちょっと変形した気がするなぁ」
 熱々の石鍋をかき混ぜると、プラスチックのスプーンはちょっとだけ反ってしまったが、機能的には問題ない。
「おおっ、これ美味いよぉ!」
 米の味は微妙に異なるが、味付けは絶妙だ。
「日本で食べるよりも美味いかも!」
「でもこれ、韓国料理だよな」
 遅れて清水も熱々の石鍋を持って来る。
「これはねぇ、牛だよ」
「新垣さんは?」
「僕は焼きそば」
「ちょっと味見させて下さいよ」
「このビビンバ、なんかボリュームが凄くない?日本の1.5倍はあるよね!」

 ビールと合わせて日本円で四百円程度の金額で、我々は腹が一杯になったのだった。

くみたてんちゅ(その6)

2009-06-07 05:37:32 | 組立人

 さあ、怪しいマーケットに突入だ!


怪しいマーケット入口
 入口を入った最初の列には、カバンやアクセサリー、そして衣料品の非常に小さい個人店がギッチリと並んでいます。
 他の列にも衣料品店や下着屋、おもちゃ屋、ネイルサロンなども入っていて、非常に賑やかです。
 そして多くの店が扱っているブランド商品は、微妙にロゴやデザインが異なっています。
「なんかさ、このラ○ステのワニ、微妙に小さくない?」
 という分かり易い違いから、
「確かにN○KEっぽいけど、こんな質感だっけ?」
 という微妙な違いの物まで、様々です。もちろん怪しい高級ブランドも多数存在しますが、何せ立ち止まった瞬間から店主のセールス攻勢が始まるので、落ち着いて見ることなんてとても出来ません。
「キーちゃん、写真はダメだよ」
 カメラをポケットから取り出した私を見て、佐野がすかさず釘を刺します。
 佐野の話によると、このマーケットの中には制服を着用したガードマンが大勢ウロウロしていて、写真を撮っている奴やタバコを吸っている奴を見つけると、即座につまみ出すらしい。
「俺が先月、ライザープレート(機械の基礎レベルを出す為の部品)の設置に来た時も、外人が摘み出されてたからね」
「本当ですか?」
「本当だよ。ホラ、そこにもガードマンが居るべ」
 確かに警官のような服装の男がウロウロと歩いている。
「ま、とにかく飯だ、飯!」
 佐野を先頭にした我々は、両脇に個人店が並ぶ狭い通路を、早足で通り抜けます。通路を建物の真ん中まで通り抜けると、ガラスの仕切りの向こうにいきなり飲食店が現れます。
「うははは、イイじゃないですか!」
「だろ?ここで好きな店の飯を食べるんだよ」
 そこはショッピングモールのフードコート形式になっていて、小さい店舗が十数店ほど並んでおり、中心部にはたくさんのテーブルと椅子がセットされています。
「まずはビールを飲みましょう!」
 新垣が皆に提案をすると、唯一の飲料販売店に直行し、『燕京啤酒(Yanjing Beer)』という銘柄の瓶ビールを注文します。値段は10元(日本円で約150円)。
「あ、結構高いなぁ」
 新垣が呟きます。
「でも日本円で150円ですよね」
「うん、まあそうなんだけどね」
 新垣は苦笑いをする。
「俺の『カカカーラ』は4元(約60円)だ」
 アルコールを一切飲まない佐野は、コーラを注文します。
「カカカーラって、コカコーラのことですか?」
「そう、こっちじゃ『可口可楽』だからな」
「へぇ」
 清水が妙に納得した顔で頷く。
「とりあえず二人ずつで買いに行こうか?」

 私は佐野と一緒に確保した席を立つと、未知なる飲食店に向かって歩き出した。
 

  


くみたてんちゅ(その5)

2009-06-05 04:35:35 | 組立人

 木箱の開梱作業には、無くてはならない物がある。
 それはバールだ。
「金(キム)さん、バールは?(純日本語)」
 佐野がお客さんのA社の中国人担当者を捕まえて、工具を要求する。
「ア、バールね、チョット待ってネ、今探して来るカラ!(たどたどしい早口な日本語)」
「え?無いの?」
「アルよ、アルよ、大丈夫」
 今回の工事は、非常に特殊で、日本から一切工具が持ち込めないという条件だったので、必要な工具は全て客先で用意をしてもらうという話になっていた。
 五分後、鉄筋を加工した謎のバールが現れる。
「これ?これしか無いの?」
「コレじゃダメですか?」
「・・・」
 佐野は小さなため息を吐く。
「あ、インパクト(電動インパクトドライバー)は買った?」
「ア、買ったよ、買った、ダイジョブ、明日中には来るカラ」
「明日中なんだ…」
ヒルティのドリルは?」
「ア、ソレも明日来ます」
「キリ(ビット)はあった?」
「ソレは今探してるネ」
「まだみつかってないの?」
「大丈夫、大丈夫デス、必ず用意しますカラ!」
「・・・」
 佐野は私に小声で、
「一年前から工具をリストアップして、カタログもプリントアウトして、この中のどれでもイイから必要数量を揃えておいてくれって頼んだんだけどなぁ…」
 とブツブツ言う。
「ま、とりあえずこの『チョイ軽バール』だけでも持って来ておいて良かったよ」
 佐野は手荷物から小型のバールを取り出すと、清水に手渡した。
「どれから空けるんだ?こっちじゃ本体の据付工事が始まるし、あんまり広げられないよな」

 ここで早速、B社のアメリカ人監督、ジェイクの出番がやって来る。
「No.1からNo.5までを、まずは開けてくれ(純正英語)」
 ジェイクはすでに一度リタイアしたが、持っている技術を会社に評価され、六十歳を過ぎても現場で工作機械を組み上げているプロフェッショナルだ。
 もう一人は、毛深くてやや太めな典型的なアメリカ人デュークだ。
 彼らとの会話は英語なのだが、不思議と仕事のことに関しては、なぜか意思の疎通はさほど難しくはない。片言の英語でもそれなりに通じるのだ。

「うぉおおおらぁああ!(中国語)」
 機械本体の方では、中国人たちがバールを手に持ち、乱暴に木箱の解体を始めている。
「メリメリメリ、ドっばぁあああああん!」
 無理やり割りながら引き剥がした木箱の天井を、上から床に投げ捨てている。
「あーあーあー、なんでそこまで壊しながら開梱するんだよ、ウチよりも乱暴だな」
 佐野が笑いながら青龍の開梱作業を見ている。
「佐野さん、なんかこっちの木箱もウェハースみたいにパリパリと板が割れるんですけど…」
 私が初めての開梱作業で慣れないのもあるが、木箱の板は、バールを突っ込んで力を入れる度にバリバリと音を立てて割れてしまう。
「北京は空気が乾燥してるから、少しずつ釘を浮かして行かないとすぐに割れるからね」
 開梱作業にも、それなりのコツが必要な様だった。

 その日の仕事が終わると、私と佐野と清水、そして機械メーカーB社の日本人スタッフである新垣は、夕食を食べるためにちょっとだけ怪しい市場に向かった。


くみたてんちゅ(その4)

2009-06-03 21:46:28 | 組立人

 さて、仕事で中国に来たので、仕事をしない訳にはいきません。
 朝はホテルに迎えのバスが到着することになっています。
「えーと、どれかなぁ?」
 新垣さんがバスを通りまで探しに行きます。
「こ、これ?本当にこれ?」
 迎えにやって来たのは、なんと49人乗りの観光バスが一台…。しかもベンツのバスです。


こいつが49人乗りの観光バスだ!
「あの、新垣さん、いくらなんでも贅沢すぎませんか?」
「いや、僕はこんなのは頼んでないよ…」
 そりゃそうです。現段階での工事メンバーは、日本人4人、アメリカ人2人、中国人3人の総勢9人です。
「うははは、めっちゃ贅沢ですね!お金は誰が払うんですか?」
「い、いや、ウチはこんなの払わないからね…」
 初日の朝から責任者の新垣さんは、渋い顔で困惑しています。

 お金の問題は横に置いておいて、とりあえずは客先の工場に向かいます。
 今回の工事内容は本体100t、周辺パーツを合体させると150tになる巨大な工作機械の設置です。
 もっともメインのお仕事となる100tの本体の設置は、中国の日通みたいな会社『青龍』が行うので、我々は周辺部品の木箱(航空輸送にしろ海上輸送にしろ、大概の機械は梱包用の木箱に入った状態で運ばれて来る)の開梱や洗浄、組み付けが主となります。

 客先の工場内に入ると、すでに巨大な門型(重量物を吊り上げる為に組み上げた鋼製の部品)が設置され、木箱に入ったままの工作機械本体が横たわっていました。
「佐野さん、やってますねぇ、結構デカイですね」
「まあ、中国の日通さんのお手並み拝見だな」
 佐野の本業は、彼らと同じ『重量屋』なので、佐野は興味深く青龍の道具類を観察している。
「このタイプは日本で入れたことは無いんですか?」
「まず無いね、ウチが普段やってるのはこの下のタイプだからな。下って言っても、この機械の三分の一程度の大きさだけどね」
「それにしても、木箱のまま工場の中に入れちゃったんですね」
「ああ、なんか契約上の問題らしいよ。工場の中に入れるまでは運送会社の責任だから、工場の外の通路で木箱をばらすのは出来なかったって」
「でも会社の敷地の中ですよね」
「敷地の中でも何があるかは分からないから、絶対に木箱は開けるなって指示だったらしいよ」
「それでシャッターと壁を壊したんですか?」
 工場の入口は、壊したばかりの壁と柱の補修工事が進んでいる。
「ま、そういうことだね」

 本体はこれから木箱の開梱が始まるので、我々も周辺部品の開梱作業を開始することにした。


くみたてんちゅ(その3)

2009-06-01 01:31:29 | 組立人

 ホテルに到着すると、いよいよ二週間の我が家となる宿へチェックインです。

いきなりダブルベッド…
 まあこちらとしては構いませんが、キングサイズのダブルベッドです。そもそもこちらには『ビジネスホテル』なんて物は無いらしく、従って『シングル』という設定も無いらしい。


アルコール類も完備
 呑みませんけど、一通り揃ってます。中国のホテルにしては、かなりまともらしい。


日本から中国に持ち込んでしまったボルビック…
 もちろん悪意は無く、完全に忘れていて、機内持込荷物の検査を綺麗に通り抜けてしまったボルビックです。
 余計なお世話かもしれませんが、もう少しきちんとチェックをした方が…。


パソコンもセットアップ
 UX-70をデスクに設置。今回は有線LANが使えます。
 ちなみにUX-70のボディの右端を支えているのは、袋に入った砂糖です(笑)


LANコンセントがちゃんと有ります。しかも無料。
 LANコネクターの形状は世界共通なので、なんの問題もありません。
 ちなみに、2ちゃんねるにはアクセス出来ませんでした。いわゆるお国の規制なんでしょうか…。


デジカメも充電出来るようにセット
 ゴーコンプラスキットを使い、快適にデジタル生活を送ります。
 このホテルは日本のコンセントが直接繋げますが、電圧はそのままなので、海外対応のACアダプターが必須です。ACアダプターの表示に『AC100-240V』と記載されていれば、そのまま使用可能です。現在のACアダプターはほとんどが海外電圧に対応しているので、変圧器を必要としない場合が多いです。

 さて、まずは明るいうちにホテルの周辺を散策します。

街路樹の根元が異様に窪んでいる
 夜にうっかりと足を入れると、確実に捻挫しそうです。


日本では見ることの無い『連結バス』を発見
 日本ではこいつの運転には『大型二種』と『けん引二種』が必要になります。
 ちなみにバイクはほぼ全員がノーヘルです。別に中国の人たちが全員ヤンキーな訳ではありません。普通にノーヘルなだけです。

 さらに歩いていると、異様な光景を発見。

タクシーを手で押して歩行
 なぜかある大きなホテルの前に来ると、運転手たちはエンジンを停止し、そして手でタクシーを押して歩きます。これは決まりごとらしく、後続の運転手も次々と手で押して歩き始めます。エコ?なのか理解不能な光景です。

 とある市場の外壁にも謎を発見

送風機を壁の上部に設置
 どうやら換気扇の役目をしているらしい。

 歩いていると、街路樹の窪みの謎を解く鍵が!

水をやっている?
 もうこの窪みが完全に水没するまで水をやるらしい。
「ああ、なんだか知らないけど、中国は『水をやる』って言うと、完全に周辺がビチャビチャに水没するまでやるみたいだからな」
 以前中国に来た事がある佐野が言います。

 えーっと中国って確か、一部の地域では水不足が原因で、砂漠化が進んでいたんじゃありませんでしたっけ?