「座敷わらし」老舗旅館炎上…宿泊客ら無事(読売新聞) - goo ニュース
座敷わらしの宿が全焼した。
今から五年程前、私は行き先も決めずに二週間ほど北陸から東北をフラフラと旅したことがある。緑風荘はその時に泊まった宿の一つだ。
緑風荘は『IGRいわて銀河鉄道(旧東北本線で、現在は第三セクター)』の金田一温泉駅にある宿で、本館が築三百年以上の南部曲屋になっている恐ろしく古い旅館だ。
「三年先まで予約が埋まっている…」
などと言われているが、予約が埋まっているのは座敷わらしが住んでいると言われている『槐(えんじゅ)の間』のみで、他の部屋はそうでもなかった。
二月でオフシーズンということもあったが、旅の途中で、
「あ、座敷わらしが出る宿があったなぁ…」
という私の単純な思いつきで前日に予約を入れたのだが、何の問題もなく泊まる事が出来た。
もちろん人気の『槐の間』には宿泊客が居たが、
「さ、お客さん、今ならこちらのお客さんが居ないから、部屋を見れますよ」
と宿の主人に案内され、槐の間に入ることが出来た。
「ほぉー、ここですか…」
そこは大量のオモチャが置かれている広めの和室だった。だが霊感なんて1ミリも無い私には、座敷わらしの存在は分からなかった。
宿の庭には亀麿(かめまろ:座敷わらしの名前らしい)神社があったので丁寧にお参りをする。
「宿で写真を撮ると、白い丸い物体(オーブ)が写る事がありますよ」
と宿の人に言われたのだが、何枚携帯で写真を撮っても私の写真にはオーブらしき物は写らなかった。
「んー、俺には素質がないのか?」
などと思ったが、あってもそれなりに困りそうだ。
かつて私の大学時代の同級生の女の子は、旧陸軍施設だった宿泊所では、
「あ、あそこに日本兵がぁ!」
と叫んで怖がり、山中にキャンプに行けば、
「あ、あそこに落武者がぁ!」
と叫んで震えていた。もちろん私には何も見えなかったが…。
コンクリート造の非常に風変わりな二階建ての温泉風呂に入り、ボリューム十分の飯を食べると、あとは何もやることが無い。
布団の中でゴロゴロとして、二回目の風呂に入り、廊下の有名人の写真を眺めたりする。
「わらしは槐の間にだけ居る訳じゃありません。みなさんの部屋に遊びに行ってますので、見える人には見えます。特にお子さんは良く見えるみたいですね」
宿の主人の言葉を思い出す。
六畳の古い和室に戻ると、また静寂がやってくる。槐の間ほどの量ではないが、どの部屋にも、宿泊客が座敷わらしの為に持って来たオモチャが置かれている。
「ま、動き出すことはないか…」
なんとなく触ってはいけない気がして、オモチャを眺めるだけにする。
「座敷わらし、来ないかなぁ…」
やはりこういう宿に泊まった以上、どうしても期待してしまう。
期待しながら布団の中でゴロゴロとしていると、気づいたら深夜二時になっていた。
「風呂、行きたいなぁ…」
この宿の風呂は24時間入れるので何の問題も無いのだが、どういう訳だか行く気にならない。
「なんとなく行っちゃいけない気がする…」
何故だか分からないが、廊下に出ることを恐れている自分が居る。こういう時、私は自分の感覚に従うことにしている。
「うーん、仕方ないな、寝るか…」
座敷わらしが遊びに来たら見られるようにと、部屋の照明の豆電球を点けていたのだが、私は紐を引っ張って部屋を真っ暗にした。
「・・・」
古い木造建築が、全ての音を吸い込んでいる様な感覚だ。
「・・・・・」
吸い込まれる音と一緒に、私の意識も闇の中に引き込まれて行った。
「ドとんっ!」
突然だった。
「何かが降って来た!」
眠っていたはずの私の意識は、なぜか脳だけが覚醒していた。自分が寝ている布団の左側に、何かが落ちて来た振動を感じた。
「いや、これは人の感覚?」
ふと自分が子供の頃に、高い場所から飛び降りて遊んでいた時の感覚がよみがえる。
「子供くらいの体重?」
確認をしたい。だが私の目は開かず、体も動かない。意識だけが鮮明だ。
「たたたた、たたっ!」
いきなり小さな足音が、布団の左側から始まった。
「!」
床の振動が布団越しに背中に伝わって来る。足音はすぐに頭上から右側に移り、なんと私の掛け布団の上、丁度腹の上を通過して行く。
「!!」
腹に乗られても痛くは無いのだが、確かに子供の足の様な感覚が腹の上を通過して行った。だが不思議と恐怖感は無い。
「たたたた、たたっ!」
足音はまだ止まらず、もう一度左側から頭上へ、そして右側に回って行く。その時だった、
「どんっ!」
「!!!」
何かが、いや、誰かが私のお腹の上に飛び乗った。
「うわぁああああ!」
私は歓喜した。
「間違いない、小さな子供だ!座敷わらしだ!来てくれたんだっ!」
それは小さな子供が、父親のお腹に飛び乗ってくる様な感覚だ。
「嬉しいなぁ…」
私の目は開かず、体も動かないのだが、自分のお腹に乗っている存在が、とても楽しそうにしているのが伝わって来る。
「会えたぁ…」
そして私の意識はそこで吸い込まれるように薄らいで行き、そして消えて行った。
翌朝、朝食を取る為に大広間に向かう。
「わらしには会えましたか?」
着物姿の非常に物静かな女将が『槐の間』の家族連れに訊いている。
「私たちは会えませんでしたけど、子供たちが見たそうです」
母親が答える。
私の隣の部屋で、私と同じ様に一人で宿泊していた若い男性は、
「直接は会えませんでしたけど、お土産として床の間に置いたオモチャが、部屋の反対側の角に落ちていました。しかも袋が破れていました」
と答える。
「わらしには会えましたか?」
女将が味噌汁をよそいながら、私にも尋ねる。
「…ってことがありました」
私の少しだけ長い話が終わると、女将は淡々とした表情で答えた。
「そうですかぁ…」
女将は物静かにそれだけを口にすると、何も言わずに大広間から引っ込んで行った。
あれは私が自分で望んで見た夢だったのだろうか、いや、あの時の感覚はそれまで生きて来て、一度も感じたことのない感覚だった。
私は、今でもあれは実体験だったと思っている。
緑風荘が無事に再建されることを願っております。
座敷わらしの宿が全焼した。
今から五年程前、私は行き先も決めずに二週間ほど北陸から東北をフラフラと旅したことがある。緑風荘はその時に泊まった宿の一つだ。
緑風荘は『IGRいわて銀河鉄道(旧東北本線で、現在は第三セクター)』の金田一温泉駅にある宿で、本館が築三百年以上の南部曲屋になっている恐ろしく古い旅館だ。
「三年先まで予約が埋まっている…」
などと言われているが、予約が埋まっているのは座敷わらしが住んでいると言われている『槐(えんじゅ)の間』のみで、他の部屋はそうでもなかった。
二月でオフシーズンということもあったが、旅の途中で、
「あ、座敷わらしが出る宿があったなぁ…」
という私の単純な思いつきで前日に予約を入れたのだが、何の問題もなく泊まる事が出来た。
もちろん人気の『槐の間』には宿泊客が居たが、
「さ、お客さん、今ならこちらのお客さんが居ないから、部屋を見れますよ」
と宿の主人に案内され、槐の間に入ることが出来た。
「ほぉー、ここですか…」
そこは大量のオモチャが置かれている広めの和室だった。だが霊感なんて1ミリも無い私には、座敷わらしの存在は分からなかった。
宿の庭には亀麿(かめまろ:座敷わらしの名前らしい)神社があったので丁寧にお参りをする。
「宿で写真を撮ると、白い丸い物体(オーブ)が写る事がありますよ」
と宿の人に言われたのだが、何枚携帯で写真を撮っても私の写真にはオーブらしき物は写らなかった。
「んー、俺には素質がないのか?」
などと思ったが、あってもそれなりに困りそうだ。
かつて私の大学時代の同級生の女の子は、旧陸軍施設だった宿泊所では、
「あ、あそこに日本兵がぁ!」
と叫んで怖がり、山中にキャンプに行けば、
「あ、あそこに落武者がぁ!」
と叫んで震えていた。もちろん私には何も見えなかったが…。
コンクリート造の非常に風変わりな二階建ての温泉風呂に入り、ボリューム十分の飯を食べると、あとは何もやることが無い。
布団の中でゴロゴロとして、二回目の風呂に入り、廊下の有名人の写真を眺めたりする。
「わらしは槐の間にだけ居る訳じゃありません。みなさんの部屋に遊びに行ってますので、見える人には見えます。特にお子さんは良く見えるみたいですね」
宿の主人の言葉を思い出す。
六畳の古い和室に戻ると、また静寂がやってくる。槐の間ほどの量ではないが、どの部屋にも、宿泊客が座敷わらしの為に持って来たオモチャが置かれている。
「ま、動き出すことはないか…」
なんとなく触ってはいけない気がして、オモチャを眺めるだけにする。
「座敷わらし、来ないかなぁ…」
やはりこういう宿に泊まった以上、どうしても期待してしまう。
期待しながら布団の中でゴロゴロとしていると、気づいたら深夜二時になっていた。
「風呂、行きたいなぁ…」
この宿の風呂は24時間入れるので何の問題も無いのだが、どういう訳だか行く気にならない。
「なんとなく行っちゃいけない気がする…」
何故だか分からないが、廊下に出ることを恐れている自分が居る。こういう時、私は自分の感覚に従うことにしている。
「うーん、仕方ないな、寝るか…」
座敷わらしが遊びに来たら見られるようにと、部屋の照明の豆電球を点けていたのだが、私は紐を引っ張って部屋を真っ暗にした。
「・・・」
古い木造建築が、全ての音を吸い込んでいる様な感覚だ。
「・・・・・」
吸い込まれる音と一緒に、私の意識も闇の中に引き込まれて行った。
「ドとんっ!」
突然だった。
「何かが降って来た!」
眠っていたはずの私の意識は、なぜか脳だけが覚醒していた。自分が寝ている布団の左側に、何かが落ちて来た振動を感じた。
「いや、これは人の感覚?」
ふと自分が子供の頃に、高い場所から飛び降りて遊んでいた時の感覚がよみがえる。
「子供くらいの体重?」
確認をしたい。だが私の目は開かず、体も動かない。意識だけが鮮明だ。
「たたたた、たたっ!」
いきなり小さな足音が、布団の左側から始まった。
「!」
床の振動が布団越しに背中に伝わって来る。足音はすぐに頭上から右側に移り、なんと私の掛け布団の上、丁度腹の上を通過して行く。
「!!」
腹に乗られても痛くは無いのだが、確かに子供の足の様な感覚が腹の上を通過して行った。だが不思議と恐怖感は無い。
「たたたた、たたっ!」
足音はまだ止まらず、もう一度左側から頭上へ、そして右側に回って行く。その時だった、
「どんっ!」
「!!!」
何かが、いや、誰かが私のお腹の上に飛び乗った。
「うわぁああああ!」
私は歓喜した。
「間違いない、小さな子供だ!座敷わらしだ!来てくれたんだっ!」
それは小さな子供が、父親のお腹に飛び乗ってくる様な感覚だ。
「嬉しいなぁ…」
私の目は開かず、体も動かないのだが、自分のお腹に乗っている存在が、とても楽しそうにしているのが伝わって来る。
「会えたぁ…」
そして私の意識はそこで吸い込まれるように薄らいで行き、そして消えて行った。
翌朝、朝食を取る為に大広間に向かう。
「わらしには会えましたか?」
着物姿の非常に物静かな女将が『槐の間』の家族連れに訊いている。
「私たちは会えませんでしたけど、子供たちが見たそうです」
母親が答える。
私の隣の部屋で、私と同じ様に一人で宿泊していた若い男性は、
「直接は会えませんでしたけど、お土産として床の間に置いたオモチャが、部屋の反対側の角に落ちていました。しかも袋が破れていました」
と答える。
「わらしには会えましたか?」
女将が味噌汁をよそいながら、私にも尋ねる。
「…ってことがありました」
私の少しだけ長い話が終わると、女将は淡々とした表情で答えた。
「そうですかぁ…」
女将は物静かにそれだけを口にすると、何も言わずに大広間から引っ込んで行った。
あれは私が自分で望んで見た夢だったのだろうか、いや、あの時の感覚はそれまで生きて来て、一度も感じたことのない感覚だった。
私は、今でもあれは実体験だったと思っている。
緑風荘が無事に再建されることを願っております。
霊感がある人は、マッチョと同じ会社に勤めている人(元Pじゃないよ)です。
チクリンに関しては、肌が非常に白いので、脚と脚の間についても議論が交わされましたが、だれも怖くて突入しておりません。
カミヤミさん、突撃願います!