羊蹄学園大学社会学部講義集

北の大地に突如としてできた架空の大学。
かつてないテーマで綴る社会学とは?

佐山武雄の塾戦争第25回~役割放棄の塾(6)

2006-01-18 11:57:42 | 塾戦争影の第1章
(6、塾の役割を放棄する塾Ⅱ)
今日の2コマ目です。

北海道の塾の模擬試験についてですね。

北海道には「北海道学力コンクール(略称「道コン」)」という小中学生対象の模擬試験があります、
進学会は不参加ですが、それ以外の道内の塾はほとんど参加しており、参加していないと塾は「モグリ」扱いされてしまうくらい信頼されている北海道最大の模擬試験です。
この道コンは、佐鳴主導の静岡県進学模試のように特定の塾が引っ張っているのではなく、道コンの問題作成・主催を主事業とする、全く別の会社がやっています。
愛知の模擬試験とその点は似ています。
そのため公正性が感じられ、信用を勝ち取り今では北海道では唯一で最大の、ほぼ北海道の学習塾全部が参加する模擬試験にまでなったと言えるでしょう。
ただ…ここでも静岡や愛知のように大手学習塾の勢力争いが見え隠れします。
なぜなら、前述のように進学会は不参加ですし、昨年北海道に進出した秀英も不参加の方向だからです。

練成会はしかし参加しています。
…と言いたいところなのですが、ここ数年そうは言い切れない状態になっています。

確かに練成会の中学3年生は参加しています。
高校入試を前にして、より正確な志望校合格のデータを入手するためには当然のことと言えます。
ところが、それ以下の学年は不参加なのです。

もともと「小学生の塾生については道内ナンバー1」と明確に言っていた練成会は、小学生に関しては、道コンへの不参加を貫いていましたが、問題は中学1年生と2年生です。
この2つの学年については、もとは参加させていたのです。
それが今では、札幌地区の「札幌セミナー」と個別指導部門を除き、帯広など札幌以外の都市にある練成会は不参加で、塾独自の模擬試験を実施しています。
なぜそうなったのでしょうか。

私はその疑問を練成会の上層部に尋ねた、という人の話を聞いたことがあります。
その人は中学校時代、練成会に通っていた、いわばOBで、素朴な疑問として自分が塾生だったときは道コンをやっていたのに、今は中3のみしかやっていないのはなぜか?と聞いたそうです。
返ってきた答えは意外なものでした。

「生徒が自分の成績で気持ちが落ち込んでしまうから」
つまり全道一斉の模擬試験を実施すると、札幌とそれ以外の地域の生徒の学力差が明るみになって、札幌以外の生徒の多くは気持ちが沈み、学習への意欲をなくすから、というのです。
いわば生徒の意欲を言い訳にした、自分たちの塾としての能力の無さを暗に認めているかのような回答に私は愕然となりました。
しかし一方で、その答えを聞いて、ひとつのことを思い出しました。

北海道は高校進学において典型的は公立偏重の土地柄です。
その進学の際に実施される公立高校入試は、他の都府県と同じく、国語・数学・社会・理科・英語で行われますが、配点は他とは違い、1教科60点満点、つまり5教科で300点満点となっています。
問題は平均点です。
北海道全体の平均点はここ十数年、おおむね5教科合計170点台で推移しています。
300点満点の170点ということは、単純計算すると1教科平均35点前後、ということになるはずです。
しかし実際はそうはなっていません。
教科によってばらつきがあり、毎年必ず40点前後と、年によっては極端に平均点が高くなる教科が出現するからです。
その平均点が高くなる教科は国語だったり社会だったりまちまちなのですが、反動として平均点が低くなる教科は毎年必ず決まっています。
その教科は数学です。
平均点は30点前後で2002年度に至っては25点…
つまり60点満点の半分も得点できない点数が、北海道全体の平均点だというのです。
なぜ数学だけそうなるのか。
北海道の教育関係者にその原因について尋ねると決まって言うセリフがあります。
「札幌は別に問題ない。地方や田舎の生徒のレベルが低すぎて足を引っ張り、それでこの平均点になってしまう」
ちなみに北海道の公立高校入試の問題は全国的に最も難易度が低い、と言われています。

…何だか道コンをめぐる練成会の話と似ているように感じるのは私だけでしょうか。
いずれにせよ、このことからわかるのは、北海道の公立高校入試の状況が何年も何ら変わっていないと言うこと、そして練成会は当然ながら、進学会も含め2つの大手学習塾がこれだけ北海道で多くの生徒を獲得し、受験指導しているのも関わらず、入試の結果を見る限り教育水準の向上にさほど寄与していない、ということが言えるわけです
つまり塾なのに塾としての目的・役割を全く果たしておらず、「大手学習塾」という中身の伴わない看板だけで道民の支持を得てきた、と言わざるを得ないのです。

「影のプロローグ」で紹介した志学会などは道コンにおける、全道平均や北見地区平均点数と志学会平均点数を比較した表を必ず広告に掲載し、自分たちの指導のすばらしさを喧伝します。
しかし同時にこれはこのような喧伝ができない大手学習塾をあざ笑っているかのように私の目には映ります。

でもあざ笑うのは当然かもしれません。
業界を牽引するところがこの有様なのですから、「本当に塾の役割を果たしているのか」と言いたくなってしまいます(無論、それ以前に北海道の学校教育がおかしいと言えるのだが)。

現に秀英の入塾テストでは、静岡県中部・愛知県東部で88%が合格するのに対し、昨年進出した北海道札幌では75%の合格にとどまっており、このことからも北海道の小中学生の学力の低さが推察できると思いますし、だからこそこのような学力水準・大手塾の中に割って入ることに秀英は自信を持ち、一足飛びに一気に北海道に進出してくるのです。
…と書いてしまうと、何やら秀英はきちんと塾の目的・役割を果たす、正義の味方のように見えてしまいます。
確かに指導システムは進学会や練成会より、中部という受験の大変な地域で鍛えられただけあって優れているかもしれません。
しかし前述した通り、模擬試験を、他の塾と同調せず、単独で実施しているなど、問題視できる面もまた見受けられます。

そうです。
一見すばらしいと思える塾にだって、全くスネにキズがないということはなかなか言えないのです。
ではどのようなキズなのか。
…ということで探ってみると、佐鳴にも秀英にも、あるんですねぇ…というところで今日はここまで。

次回からは影の第2章「太陽の罪」に入ります。

それでは、また。
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