羊蹄学園大学社会学部講義集

北の大地に突如としてできた架空の大学。
かつてないテーマで綴る社会学とは?

佐山武雄の塾戦争第4回~光のプロローグ(3)~

2005-12-05 11:05:31 | 塾戦争光のプロローグ
(3)0円戦争へ
本日2コマ目です。

ここでは秀英の進出話に呼応しての、北海道の大手をはじめとする学習塾の新たな動きについて語っていきますが…それは2005年の春、秀英が札幌とその近郊にいきなり16校舎の建設を開始したことで、明らかになってきました。
まずはそれについての新聞記事を見てみましょう。

以下は、4月14日の日本経済新聞(北海道版)の記事です。

札幌で高校受験に向けた学習塾や家庭教師派遣会社の競争が過熱している。学習塾大手の秀英予備校が7月に札幌市に初めて進出。北大家庭教師センター(札幌市)は受験結果で授業料の一部を返還する新コースを設けた。ニスコ(同市)など個別指導教室の拡充を進める学習塾も増えており、高校進学率が全国平均より高い札幌では今後も生徒獲得合戦が激しくなりそうだ。

…記事にはこの後札幌市内の中堅学習塾(こちらの主観ではあるけれど、あくまで大手ではない学習塾)と、家庭教師の会社の動き、そして、札幌セミナー(札幌地区の練成会)のことが書いてあります。
早い話先手を打とうとしているわけです。
ところが、この後、秀英はとんでもない手に打ってきました。
B2サイズの巨大な新聞折込チラシとそこに掲載された全講師の迫力ある写真、北海道のテレビ局で宣伝番組を放映、CMも北海道の民放各局で連日連夜流れる…広告宣伝に相当な力を入れ、瞬く間に北海道の子供たちやその保護者、そして塾関係者を圧倒させてしまいました。
しかしこれだけではありません。
中部では有力でも北海道では無名の秀英が、それでも北海道の初動で一定の生徒を獲得するには自分たちの力を何としても誇示し、話題性を作り、ウケを良くし、注目を浴びなければなりません。
…ということで、何と新規開校記念として夏期講習会を無料にすると言い出したのです。
以下の2005年6月9日の毎日新聞(北海道版)の記事を見てみましょう。

大手学習塾、「秀英予備校」(本部・静岡市)が7月、小中学生を対象とした塾を札幌市内と近郊で16教室をオープンする。3、4万円する夏期講習受講料を無料にして「北海道進出」をアピールしている。これに対し、迎え撃つ地元の大手学習塾も「受講料0円」を打ち出し、値下げ合戦の様相をみせている。少子化や不景気の影響もあり、生徒の“囲い込み競争”は一層激化しそうだ。(注・記事中の地元の大手学習塾とは前述の進学会のこと)

大手の学習塾、これを一言で定義するのは難しいです。
しかしこの記事を読んでもわかるように、秀英が北海道進出にあたり、生徒を一気に確保するために潤沢な資金をバックに、立派な校舎や、よい講師を確保するだけでなく、夏期講習の授業料を無料にする、これは並大抵の学習塾では出来ないことです。
そしてこのやり方に追随し、対抗できうる塾、このような塾も並大抵ではできないことは確かです。

そう考えると明らかに、秀英と進学会は大手の学習塾と言えるだろうし、進学会と血みどろの勢力争いを北海道で繰り広げ、前述の札幌セミナーを抱える練成会もまた、大手と言えるのではないのでしょうか。

…まぁそれはそれとして、とにかく2005年の春から札幌の学習塾業界は大騒ぎとなり、初夏になってからの進学会と秀英の夏期講習の無料化の応酬に至っては、いつしか「0円戦争」などと呼ばれるまでになりました。

7月の声を聞くと、秀英のホームページには、北海道の夏期講習生徒申し込み数の速報値が出されるようになりました。
それによると、6月27日には2055名だったのが、7月15日には3230名になっていると書かれてありました。
順調に生徒募集が進んでいると言っているようです。
 一方、進学会も7月4日18時の集計で札幌圏の申し込み数が10000人突破と、ホームページに朱書きされた文字を躍らせるようになりました。
「0円戦争」の勝者はこちらだ、と言わんばかりですし、どちらもこの夏の生徒獲得に心血注いでいるのがわかります。

しかし、校舎数が圧倒的に違う以上、単純に比較することはできません。
地元の進学会のほうが校舎数は圧倒的に多いわけですから、申し込み人数で進学会のほうが黙っていても生徒数が多くはなるはずだからです。
一方で、あくまで秀英はまだ北海道の立ち上げでいわば初動であり、途中経過にすぎません。
今後の推移を見て判断すべきと思われます。
詳しい現状の数字については私からも後々お話しますが。

ですがとにもかくにも初動で秀英は一定数の生徒獲得に成功し、進学会に焦りを生じさせました。
そして…進学会の冒頭のような醜態に至った、と思われます。
秀英の参入により、生徒獲得にかつてない四苦八苦していた中での、勇み足だったと言えるでしょう。

けれども!
重ねて言いますが、北海道での塾の争いはこれではまだ途中経過に過ぎません。
秀英の北海道進出が実際にどれ程、業界に影響を与え、大手と言われる学習塾のシェアを侵食するのか。生徒数などはっきりとした形で出るのはもう少し時間がかかりますし、何よりまだまだ塾業界の右往左往は起こるものと思われます。

まぁ秀英の北海道進出は成功なのか否か、近い将来、明確な「結果」が白日の下にさらされるのは間違いないでしょうが。

その「結果」は如何なるものか。
そこに思いをはせる前に、秀英や進学会、練成会といったここで挙げた大手の学習塾が今日まで歩んできた道のりを詳しく見ていき、そして彼らの過去から今日の状況…中部から進出してくる秀英という塾に、なぜ北海道の進学会や練成会は焦らねばならなかったのかをとらえ直し、今後を占っていこうと思います。

さぁ、プロローグは終わりました。
次からはいよいよここまでとりあげた秀英、進学会、練成会など個別の塾について語っていきます。
次回は進学会からです。

それでは、また。
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佐山武雄の塾戦争第3回~光のプロローグ(2)~

2005-12-05 10:15:40 | 塾戦争光のプロローグ
(2)巨艦上陸
こんにちは。

前回は「あのこと」で終わりました。
では「あのこと」とは何か…今日は2コマにわたってその説明をしたいと思います。

そもそも「あのこと」とは・・・それは中部地方を席捲していた大手の学習塾が北海道に進出してくるという話です。

まずは昨年(2004年)の12月の北海道新聞の記事を読んでみましょう。

東海地方が地盤の学習塾、予備校の大手「秀英予備校」(静岡市)が来年五月から、小学五年~中学三年対象の塾を、道内で展開する。専用校舎と正社員講師を売りものに、来年度は札幌圏に約二十校を新設、三、四年後には全道五十校に広げ、札幌での大学受験予備校開設も視野に入れる。少子化の逆風の中、道内大手の進学会(札幌市)などとの競争が過熱しそうだ。

どうでしょう。
私は先程の進学会の醜態は、このことからくる焦りによって生まれた、と考えています。
まぁ焦るのは当然なのかもしれません。
早い話、中部の学習塾が一足飛びに海を越えて、北海道の学習塾と正面衝突、ということであり、北海道の塾業界を牽引してきた進学会としては思いもよらぬ事態に直面するのですから。

しかし…そうは言っても秀英予備校の北海道進出がどれほどの話で、なぜ進学会はあれほどの醜態、もしくは焦りを見せなければならなかったのか、イマイチよくわからないと思います。
そういうわけで、まずは秀英予備校というところがどんなものなのか、それを簡単に紹介します。

秀英予備校(以後、秀英と呼びます)とは、静岡に本社を持つ、小中学生への受験指導を中心とした学習塾です。
近年では高校生向けの大学受験指導も充実させているため、予備校の看板を掲げていますが、主体事業は小中学生向けの受験指導です。

発祥の地は静岡。
そこから秀英は、隣県の愛知・神奈川・山梨にも校舎展開し、昨年は岐阜県、そして今年は北海道への進出を、というわけです。

今では150以上の事業所(校舎)抱え、通う生徒は小中高合わせて、2万5千人を超える、大手の中でも大手の塾です。
講師は大学受験部の時間講師などを除き、全員正社員講師(秀英の全講師陣における正社員講師比率は90%を超え、株式公開している塾ではトップの高率)で、校舎は独立の専用校舎ビル。
また教育環境だけでなく、経営面においても業界初の東京証券取引所一部上場を果たすなど、健全さを示しています。

…という学習塾がやってくるわけです。

もともと北海道の学習塾は長年、前述の「北大学力増進会」でおなじみの進学会、そして「札幌セミナー」や「練成会」の練成会グループ(以後、統一して「練成会」とする)、この二大勢力が、札幌やその他の都市を席捲し、大手塾の存在というものを許してきませんでした。
話題性も規模も資本力もある秀英の進出はこの勢力図を一気に崩しかねない、否、二大勢力のみならず北海道の業界全体にとっても大変な、センセーショナルな出来事なのです。

では北海道の大手をはじめとする学習塾は、この夏の秀英の進出までにどのような動きを見せてきたのでしょうか。

今日はそれについてもう1コマ講義したいと思います。
それでは、また。
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佐山武雄の塾戦争第2回~光のプロローグ(1)~

2005-11-30 14:53:23 | 塾戦争光のプロローグ
(1)焦燥の夏
こんにちは。

さていよいよ講義に入るのですが、そもそもなぜこの講義をこの時期にやろうと思い立ったか、それをまずは語っていこうと思います。

思い立ったのは今年の夏です。
その時、焦っている…私は、そんな風に思ったものです。

ご存知の方も多いと思いますが毎年、5月の連休が終わると、世間の連休疲れも何のその、多くの業界業種は夏の商戦にシフトします。
教育産業とも言われる、主に小中学生への受験指導をウリにする塾業界も例外ではなく、夏休みに開催する「夏期講習会」の生徒募集のテレビCMやインターネット告知、新聞折込チラシが目に付くようになります。
夏は受験の天王山と言われており、塾にとって顧客である生徒獲得の絶好のシーズン、一年の塾の収入もここでの成否で決まることから、当然のように力が入ります。
2005年、今年もその季節がやってきました。
どこもあの手この手と大変そうです。

…といった中で、長年塾業界を草葉の陰から見、そしてこうして講義をしようとしている私はかつてない違和感を覚えました。
何かが違う、と。
特にインターネットの大手塾のホームページを見て、そう感じます。
確かに「夏期講習会募集」の告知はある。
それはいつもと変わらない。
でも…それだけなのです。
どんな内容で、どのくらいの量を、どういう理念や目的を持って授業をするかということに全く触れていない塾があまりにも多いのです。
あるのは講習会の期間と会場、対象学年、そして事前説明会の日程と会場、そして講習会お申し込みフォーム…そう、まずは講習会に通うべきか迷う小中学生やその保護者に対し、とにかく話を聞きに来い、もしくはとっとと申し込んでくれ、と言わんばかりなのです。

私は宙を仰ぎました。
生徒をとりあえず集めることが、あまりにも前に出すぎていないか、と。

実際に夏が来て、夏期講習会の時期に入った途端」、今度はこのような新聞記事を目に飛び込んできました。
以下は、2005年7月29日の北海道新聞の記事です。

進学会(札幌)が運営する「北大学力増進会」の札幌東本部が今月中旬、夏期講習の受講を申し込んだ中学生とその保護者に対し、所属する中学校のクラス名簿と、小学校時代の卒業アルバムの貸与を求める文書を配布していた。

 記事には、札幌市教委がプライバシー保護のために外部提供を禁じているにも関わらず、受講生とその保護者向けにクラス名簿や卒業アルバムを、対象家庭に入試情報を郵送するための資料として活用する目的で貸与させてほしいという内容の文書を配っていること、別の本部に至っては名簿集めキャンペーンと称して、提供してくれた生徒にはノートなどを配っていたこと、が書かれています。

進学会とは北海道の最大手の学習塾です。
そのような塾ががこのような醜態をさらしたのです。
ちょっと前ならいざ知らず、個人情報保護が叫ばれている昨今、少し考えれば「バレたらヤバイ、違法性のあること」とわかるはずなのに(現に記事では、この行為についての地元中学校教頭の憤り、札幌市教委の批判、更には個人情報保護法の観点からの専門家の指摘が綴られている。ちなみに進学会はこの件について取材拒否している)。

私は再び宙を仰ぎます。
2002年の新学習指導要領実施後もなお続く、教育界の混迷。
とりわけ公教育の荒廃が叫ばれる中で、その対極をなす私教育の存在が高まり、黙っていても塾がクローズアップされているご時勢なのに、なぜこの有様なのだろう、と。
とりわけ進学会は北海道の最大手なのに、
何をそんなに危ない橋を渡る危険を犯しているのだろう。

だからこそ…
焦っている…私はそう思ったのです。

しかし私にはなんとなくわかっていました。
進学会の場合、焦っているとすれば理由はひとつ。
「あのこと」に起因している、と。

そしてそれは塾業界が大きく動くきっかけになるのではないか。

私は、私なりに長年、塾業界での見聞を広げてきました。
ならばその見聞の集大成であり、今後のために全てを吐きだす「塾業界について」の講義は、業界の大転機となる今しかないのではないか。
私はこうして、塾についての講義を、この一件を契機にやってみようと思い立ったのです。

私の講義はこの夏の出来事をスタートに進んでいきます。
しかしまだプロローグです。
これからこれから。

今日はここまで。
それでは、また。
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