木全賢のデザイン相談室

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書評「陰翳礼讃」(谷崎潤一郎著)

2011年07月12日 | デザイン系書評100連発
<「陰翳礼讃」(谷崎潤一郎著)>


◆書評「陰翳礼讃」谷崎潤一郎著
1012:【書評100連発】第12発


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 前回のブログ「過剰装飾は日本の文化」に引き続き、日本の日常の美意識について書いてみようと思います。今回は、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の書評というかたちでお知らせします。



「ハレ」と「ケ」のデザイン

 かざりの文化は、日本文化の「陽」の側面です。

 民俗学の「ハレ」と「ケ」の分類でいえば、かざりは「ハレ」非日常のデザインです。

 今回取り上げるのは「ケ」日常のデザインです。

 永い歴史と伝統を持つわが国には、辛いことの多い淡々と過ぎゆく「ケ」と、浮世の憂さを忘れ熱狂する「ハレ」を巧に使い分けて生きてきました。そして、それぞれに違う美意識を育ててきました。

 谷崎潤一郎が昭和8年(1933年)に発表した「陰影礼讃」には、「ケ」の美意識が凝縮されています。

 私などが解説するのは大変おこがましい限りで、是非皆さんに読んで、戦前の日本の美意識に想いを馳せていただきたいのですが、モダンデザインの視点に絞ってその内容を簡単に紹介してみます。



陰影礼讃 日常のデザイン

 「陰影礼讃」は光と素材感と質感を手がかりに、日本のモノや建築がもっていた陰翳の美しさについて考察しています。

 日本の建築は、軒の深い大きな屋根の下に闇を作り出し、深い軒からの遠い光を障子の和紙を通して、やわらかい弱弱しい光にして室内に取り込み、闇とかぼそい光が織り成す陰翳を美の基準にしてきた。

 それは、気候風土や建築材料などの制約によるものが大きいかもしれないが、自然を解明し征服しようする西洋の思想とは異なり、環境を受け入れ暮らしていこうする日本人の智慧が生み出した美意識だろう。

 「陰影礼讃」の真骨頂は、その陰翳の美学の詳細な解説です。


 昔の厠のたたずまい

 古い日本家屋の室内に漂う闇の幽玄、その中で食す漆器の味噌汁や羊羹の楽しみ。

 陰翳の中でのみ引き立つ日本人の肌の色や、女性の白粉(おしろい)や鉄漿(おはぐろ)の美しさ。


 「その羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑らかなものを口中に含む時、あたかも室内の暗闇が一個の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くもない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。」

 こういう美意識を日本人は持っていました。



陰影の美学

 谷崎は、夏の夜に山紫水明の幽玄を求めて行った先の旅館のどぎつい照明や、寺院本堂が明るすぎ全く有難味がなくなっていることや、歌舞伎の明るすぎる舞台照明が女形の美しさを半減していることなどに辟易し、西洋文明がもたらした工業製品の有難さを充分認めながら、もし日本が海外の助けを借りず独自で工業化を進めていたら、闇を追い払う西洋の思想ではない、陰翳の美意識に基づいたモノづくりができたのではないかと空想しています。


 我々は西洋文明を受け入れたことで、いろいろなことで損をしている。


 谷崎は、実際の生活で西洋の便利な機器を排除することは不可能だが、せめて文学の世界だけでも陰翳の美学を取り戻すことができないかといい、次のように結んでいます。


 「まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。」


 谷崎の時代から七十年が過ぎ、コンビニの照明を例に挙げるまでもなく、日本はヨーロッパ以上に闇を追い払ってきました。

 それは、軍国主義と十把一絡げに、陰翳の美学も含め戦前の考えすべてを否定し、西欧化・貿易立国に邁進してきたわが国の歴史によるものかもしれません。

 様々な面で、今までのやり方の見直しが迫られている現代に、「陰翳の美学」という日本の美意識は何かを教えてくれるはずです。



 節電で暗くなった街も、日本の美意識を再認識する機会になるかもしれません。




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