一眼レフカメラ(提案モデル) /1985年/キヤノン/ルイジ・コラーニ
◆1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」その2
【家電デザインの話をしよう】
こんにちは!中小企業のデザインコンサルタントの木全(キマタ)です。
中小企業の方々に向けて工業デザインのエッセンスについてお知らせしています。
中小企業のデザインのお悩み、なんでもご相談ください。
都内近郊であれば、初回は無料でお伺いして、ご相談を承ります。
designsoudan★goo.jp(★を@に)
2014年に上梓した拙書「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)で唯一心残りだったのが、取り上げた新旧の家電製品写真350枚がモノクロ写真だったことです。これから、本文と一緒に隔週で少しずつ350枚の製品写真をカラーでお届けしていきます。
今回は、第一章「面白い家電デザイン」1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」(その2)です。流線形は1930〜40年代のアメリカで〈デザイン=流線形〉と言われるほど流行しました。
■第一章「面白い家電デザイン」1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」(その2)
工学的性能と、ミッドセンチュリー(1950年代の古き良きアメリカ)への懐古趣味や懐かしい未来をイメージさせる流線形は、現在で もデザインモチーフとして使われています。本来の流線形は、潜水艦のように先端が丸く後端が尖ったティ アドロップ(涙滴型)が基本ですが、製品デザインの世界での流線形は、直線を使わない有機的形体の一つと理解されているようです。
おそらくそれは、ドイツのデザイナー、ルイジ・コラーニの影響だと思われます。コラーニも、自身のデザインの特徴的な曲線について「空力学的」で「女性的な曲線」であることを意識していると発言しています。確かに彼の造形からは、そのどちらも感じることができ、80年代の日本のデザイナーはその未来的で魅力的な曲線に憧れました。それ以来、空力学と無縁だった家電・雑貨等のデザインにおいて、流線形は有機的形体のひとつになりました。
<ルイジ・コラーニ>
(Luigi Colani 1928-)
ドイツのインダストリアルデザイナー。
自然をモチーフにした生物的な曲面を持
つデザインで知られ、70 〜 80年代の
未来派デザインを先導した。
空力学にまったく関係ないにもかかわらず、流線形を素直に取り入れ、今でもデザイナーに強い印象を残している製品に、イスクラ(旧ユーゴスラビア)の電話機とフィリップ・スタルクのレモン絞り器「ジューシーサリフ」があります。
●電話機(イスクラ・クラーニ)/イスクラ(旧ユーゴス ラビア)/1979年
●レモン絞り器(ジューシーサリフ/アレッシー (イタリア)/1990年/D:フィリップ・スタルク
<フィリップ・スタルク>
(Philippe Starck 1949- )
フランスのデザイナー。建築・インテリア
・家具・食器・出版・インダストリアル
デザインなど、さまざまな分野のデザイン
を手がけている。日本では東京浅草の
「アサヒビールスーパードライホール・
フラムドール」(1989年)が有名
電話機が楔形の流線形である必要も、レモン絞りが昔のSF映画に出てくる宇宙船のような流線形である必要もないのですが、それでも、見ているだけで心が和み、ついつい手を伸ばして 身近に置いておきたい気分になります。
アメリカの認知科学者ドナルド・A・ノーマンも著書『エモーショナル・デザイン』の中で、そのような微笑みを誘うデザインが重要だと指摘しています。
<ドナルド・アーサー・ノーマン>
(Donald Arthur Norman 1935- )
アメリカの認知科学者、認知工学者。
主著『誰のためのデザイン ? 』で提示した
人間中心設計のアプローチは、ヒューマン
インターフェイスやユーザビリティに
大きな影響を与えた。
■個性的なフォルムを持つ流線形の製品たち
ならば、なんでも流線形にすれば微笑みを誘うのかといえば、そうではなさそうですし、世の中の製品をすべて流線形にすればいいというものでもありません。このあたりのバランス感覚を「センス」と呼ぶのかもしれません。流線形とは違う有機的形体の製品にも印象深いものがあります。カメラ・ペン・マウスなど、手に持って扱う製品によく見ら れ、たとえば、カメラでは次のような製品がありました。
●コンパクトカメラ (オートボーイJET)/ キヤノン/1990年
●コンパクトカメラ(アイボーグ)/コニカ/1991年
●防水コンパクトカメラ (ベクティスGX4)/ ミノルタ/1997年/ D:シーモア・パウエル
有機的なデザインのカメラ
CAD/CAMなど生産技術が高いほど、なめらか
で複雑な三次曲面が可能になるため、
CAD/CAMが普及し始めた90年代には、技術力
をアピールするために三次曲面を多用した
有機的なフォルムの製品が数多く現われた。
今見ると少しやりすぎの感も否めませんが、それには大きく二つの理由があります。日本が元気のいいバブル景気 (87〜91年)、いざなみ景気(02〜19年)の時期だったこと、それとCAD化による生産技術の向上です。どんな形状でも生産可能な高度な技術を、有機的形体で元気よくアピールしたのです。景気循環や技術革新は常にデザインに影響を与えます。
著作のご紹介
「デザインにひそむ<美しさ>の法則」(ソフトバンククリエイティブ新書)
「売れる商品デザインの法則」(日本能率協会)
「中小企業のデザイン戦略 」(PHPビジネス新書)
「売れるデザインの発想法」(ソフトバンククリエイティブ新書)
「マインドマップ デザイン思考の仕事術」(PHP新書)
「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)
◆1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」その2
【家電デザインの話をしよう】
こんにちは!中小企業のデザインコンサルタントの木全(キマタ)です。
中小企業の方々に向けて工業デザインのエッセンスについてお知らせしています。
中小企業のデザインのお悩み、なんでもご相談ください。
都内近郊であれば、初回は無料でお伺いして、ご相談を承ります。
designsoudan★goo.jp(★を@に)
2014年に上梓した拙書「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)で唯一心残りだったのが、取り上げた新旧の家電製品写真350枚がモノクロ写真だったことです。これから、本文と一緒に隔週で少しずつ350枚の製品写真をカラーでお届けしていきます。
今回は、第一章「面白い家電デザイン」1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」(その2)です。流線形は1930〜40年代のアメリカで〈デザイン=流線形〉と言われるほど流行しました。
■第一章「面白い家電デザイン」1-4「製品は流線形の洗練を受ける 」(その2)
工学的性能と、ミッドセンチュリー(1950年代の古き良きアメリカ)への懐古趣味や懐かしい未来をイメージさせる流線形は、現在で もデザインモチーフとして使われています。本来の流線形は、潜水艦のように先端が丸く後端が尖ったティ アドロップ(涙滴型)が基本ですが、製品デザインの世界での流線形は、直線を使わない有機的形体の一つと理解されているようです。
おそらくそれは、ドイツのデザイナー、ルイジ・コラーニの影響だと思われます。コラーニも、自身のデザインの特徴的な曲線について「空力学的」で「女性的な曲線」であることを意識していると発言しています。確かに彼の造形からは、そのどちらも感じることができ、80年代の日本のデザイナーはその未来的で魅力的な曲線に憧れました。それ以来、空力学と無縁だった家電・雑貨等のデザインにおいて、流線形は有機的形体のひとつになりました。
<ルイジ・コラーニ>
(Luigi Colani 1928-)
ドイツのインダストリアルデザイナー。
自然をモチーフにした生物的な曲面を持
つデザインで知られ、70 〜 80年代の
未来派デザインを先導した。
空力学にまったく関係ないにもかかわらず、流線形を素直に取り入れ、今でもデザイナーに強い印象を残している製品に、イスクラ(旧ユーゴスラビア)の電話機とフィリップ・スタルクのレモン絞り器「ジューシーサリフ」があります。
●電話機(イスクラ・クラーニ)/イスクラ(旧ユーゴス ラビア)/1979年
●レモン絞り器(ジューシーサリフ/アレッシー (イタリア)/1990年/D:フィリップ・スタルク
<フィリップ・スタルク>
(Philippe Starck 1949- )
フランスのデザイナー。建築・インテリア
・家具・食器・出版・インダストリアル
デザインなど、さまざまな分野のデザイン
を手がけている。日本では東京浅草の
「アサヒビールスーパードライホール・
フラムドール」(1989年)が有名
電話機が楔形の流線形である必要も、レモン絞りが昔のSF映画に出てくる宇宙船のような流線形である必要もないのですが、それでも、見ているだけで心が和み、ついつい手を伸ばして 身近に置いておきたい気分になります。
アメリカの認知科学者ドナルド・A・ノーマンも著書『エモーショナル・デザイン』の中で、そのような微笑みを誘うデザインが重要だと指摘しています。
<ドナルド・アーサー・ノーマン>
(Donald Arthur Norman 1935- )
アメリカの認知科学者、認知工学者。
主著『誰のためのデザイン ? 』で提示した
人間中心設計のアプローチは、ヒューマン
インターフェイスやユーザビリティに
大きな影響を与えた。
■個性的なフォルムを持つ流線形の製品たち
ならば、なんでも流線形にすれば微笑みを誘うのかといえば、そうではなさそうですし、世の中の製品をすべて流線形にすればいいというものでもありません。このあたりのバランス感覚を「センス」と呼ぶのかもしれません。流線形とは違う有機的形体の製品にも印象深いものがあります。カメラ・ペン・マウスなど、手に持って扱う製品によく見ら れ、たとえば、カメラでは次のような製品がありました。
●コンパクトカメラ (オートボーイJET)/ キヤノン/1990年
●コンパクトカメラ(アイボーグ)/コニカ/1991年
●防水コンパクトカメラ (ベクティスGX4)/ ミノルタ/1997年/ D:シーモア・パウエル
有機的なデザインのカメラ
CAD/CAMなど生産技術が高いほど、なめらか
で複雑な三次曲面が可能になるため、
CAD/CAMが普及し始めた90年代には、技術力
をアピールするために三次曲面を多用した
有機的なフォルムの製品が数多く現われた。
今見ると少しやりすぎの感も否めませんが、それには大きく二つの理由があります。日本が元気のいいバブル景気 (87〜91年)、いざなみ景気(02〜19年)の時期だったこと、それとCAD化による生産技術の向上です。どんな形状でも生産可能な高度な技術を、有機的形体で元気よくアピールしたのです。景気循環や技術革新は常にデザインに影響を与えます。
著作のご紹介
「デザインにひそむ<美しさ>の法則」(ソフトバンククリエイティブ新書)
「売れる商品デザインの法則」(日本能率協会)
「中小企業のデザイン戦略 」(PHPビジネス新書)
「売れるデザインの発想法」(ソフトバンククリエイティブ新書)
「マインドマップ デザイン思考の仕事術」(PHP新書)
「デザイン家電は、なぜ『四角くて、モノトーン』なのか?」(エムディエヌコーポレーション)