<「電車のデザイン」水戸岡鋭治著>
◆デザイン書評「電車のデザイン」
1008:【デザイン系書評100連発】第8発
こんにちは!
デザインコンサルタントの木全(キマタ)です。一般の方に向けて工業デザインのエッセンスについて書いたり、デザイナーとの付合い方などについて書いています。御相談がありましたら、コメントをくださいね。コメントによるご質問には基本的に無料でお答えいたします。
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「デザイン相談室」の目次【2010.12更新】
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今回の不定期連載「デザイン関連書籍の書評100連発」は、「電車のデザイン」(水戸岡鋭治著・中公新書ラクレ)の書評です。
基本的には、いままで読んできたデザイン関連書籍の書評をするつもりですが、献本していただければ、書評を書かせていただきます。献本お待ちいたします(笑)。
■人に恵まれたデザイナー
「電車のデザイン」は、JR九州の車両や駅舎などのデザインで活躍しているインダストリアルデザイナー水戸岡鋭治氏の著作です。
総ページ数205ページのうち6割強にあたる128ページが、水戸岡氏が手がけた電車や駅舎などデザインを紹介するカラー写真で、さながら水戸岡氏のポートフォリオのようです。
残りの69ページの文章も、電車のデザインに関する内容というよりは、著者が日頃感じていることを綴ったエッセイという構成になっています。
写真がきれいで、写真のキャプションも小気味よく、エッセイも気負いがなくてすらすら読めるので、楽しく読了しましたが、書評を書こうと思ったら、はたと困りました。
なぜ困ったのか、考えながら再読したところ、その理由は、想定読者を思い描けないことにあるのだと気がつきました。
小説と違い、新書の場合はターゲットを明確にする場合が多い。この本も新書の形態をとっているので、ついついターゲットがあることを想定して読んでいたのです。
つまり、「電車のデザイン」というタイトルから考えると、ターゲットは電車オタクかデザイナーかと考えていたわけです。
でも、デザイナーの立場で読むと、この本はデザイナー向けではなく、一般読者をターゲットに想定しているように見えます。
また、電車オタクが読んでも、写真はうれしいと思いますが、エッセイにオタクが喜ぶような薀蓄が語られているわけでもありません。
不思議な新書だな、と思いながら、表紙をめくったとき、ふと、トップページの写真が目に入ってきました。
著者の水戸岡氏と九州新幹線・新800系つばめが並んで写っている写真です。
その写真を見たとき疑問が氷解しました。
この本のターゲットは、著者の水戸岡鋭治氏自身なのではないか?
一般的に、本は著者の主張をターゲットに伝えるために書かれるものですが、そうでない本も存在します。たとえば、伝記(もしくは自伝)。
ある人物の伝記の場合、その人物の生き様を多くの読者に伝えたいために書かれるのですが、伝記は、第一に伝記の人物その人に捧げられます。
この「電車のデザイン」は水戸岡氏の著作の体裁は取っていますが、たぶん、水戸岡氏に関わった人々が発案し、水戸岡氏のために纏め上げたものだと考えると、この本の不思議さが理解できます。
きっと、水戸岡氏は周りから慕われているでしょう。周りの人々に恵まれた方であり、優れたデザイナーなのだと思います。
■ことばの大切さ
そうはいいつつ、もちろん、デザイナーにとっても、デザインに関わる人たちにとっても役に立つ内容を読み取ることができます。
著者はエッセイの中で、なんどもことばの大切さを訴えています。
デザイナーはスケッチや図面を引くことが仕事ですが、その前段階としての「ことば(コンセプト)」の大切さ、それを関係者全員が共有、共感することの大切さを訴えています。
それは、写真のキャプションにはっきり現れています。
たとえば、11ページの800系新幹線つばめのキャプション。
「初代新幹線0系をモチーフとしたふっくらとした顔に、特徴的な縦目。新幹線の中で最も白いボディ上を、赤と金のストライプを引いたつばめが飛ぶ。伝統の特急の名称を引き継ぎ、名前を筆文字でボディにまとった。その名は「800系つばめ」。最新技術と日本伝統の匠の技を融合し南の大地から旅立った「日本の新幹線」である。2009年には、さらに和のテイストに磨きをかけ、新たに立体的な縦目を装備した新800系も登場した。」
まっすぐなことばが並ぶキャプションは、照れくさいけれど力強い。関係者を動かす「ことば(コンセプト)」とはこういうもの。本書の写真キャプションは、すぐれた「ことば(コンセプト)」の宝庫になっています。
最後に、一言。
是非とも水戸岡氏の真骨頂であるスケッチを見たかった。氏のスケッチは見た人すべてをうならせると評判なのだから。
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◆デザイン書評「電車のデザイン」
1008:【デザイン系書評100連発】第8発
こんにちは!
デザインコンサルタントの木全(キマタ)です。一般の方に向けて工業デザインのエッセンスについて書いたり、デザイナーとの付合い方などについて書いています。御相談がありましたら、コメントをくださいね。コメントによるご質問には基本的に無料でお答えいたします。
株式会社ビートップツー (木全が取締役を勤めています)
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今回の不定期連載「デザイン関連書籍の書評100連発」は、「電車のデザイン」(水戸岡鋭治著・中公新書ラクレ)の書評です。
基本的には、いままで読んできたデザイン関連書籍の書評をするつもりですが、献本していただければ、書評を書かせていただきます。献本お待ちいたします(笑)。
■人に恵まれたデザイナー
「電車のデザイン」は、JR九州の車両や駅舎などのデザインで活躍しているインダストリアルデザイナー水戸岡鋭治氏の著作です。
総ページ数205ページのうち6割強にあたる128ページが、水戸岡氏が手がけた電車や駅舎などデザインを紹介するカラー写真で、さながら水戸岡氏のポートフォリオのようです。
残りの69ページの文章も、電車のデザインに関する内容というよりは、著者が日頃感じていることを綴ったエッセイという構成になっています。
写真がきれいで、写真のキャプションも小気味よく、エッセイも気負いがなくてすらすら読めるので、楽しく読了しましたが、書評を書こうと思ったら、はたと困りました。
なぜ困ったのか、考えながら再読したところ、その理由は、想定読者を思い描けないことにあるのだと気がつきました。
小説と違い、新書の場合はターゲットを明確にする場合が多い。この本も新書の形態をとっているので、ついついターゲットがあることを想定して読んでいたのです。
つまり、「電車のデザイン」というタイトルから考えると、ターゲットは電車オタクかデザイナーかと考えていたわけです。
でも、デザイナーの立場で読むと、この本はデザイナー向けではなく、一般読者をターゲットに想定しているように見えます。
また、電車オタクが読んでも、写真はうれしいと思いますが、エッセイにオタクが喜ぶような薀蓄が語られているわけでもありません。
不思議な新書だな、と思いながら、表紙をめくったとき、ふと、トップページの写真が目に入ってきました。
著者の水戸岡氏と九州新幹線・新800系つばめが並んで写っている写真です。
その写真を見たとき疑問が氷解しました。
この本のターゲットは、著者の水戸岡鋭治氏自身なのではないか?
一般的に、本は著者の主張をターゲットに伝えるために書かれるものですが、そうでない本も存在します。たとえば、伝記(もしくは自伝)。
ある人物の伝記の場合、その人物の生き様を多くの読者に伝えたいために書かれるのですが、伝記は、第一に伝記の人物その人に捧げられます。
この「電車のデザイン」は水戸岡氏の著作の体裁は取っていますが、たぶん、水戸岡氏に関わった人々が発案し、水戸岡氏のために纏め上げたものだと考えると、この本の不思議さが理解できます。
きっと、水戸岡氏は周りから慕われているでしょう。周りの人々に恵まれた方であり、優れたデザイナーなのだと思います。
■ことばの大切さ
そうはいいつつ、もちろん、デザイナーにとっても、デザインに関わる人たちにとっても役に立つ内容を読み取ることができます。
著者はエッセイの中で、なんどもことばの大切さを訴えています。
デザイナーはスケッチや図面を引くことが仕事ですが、その前段階としての「ことば(コンセプト)」の大切さ、それを関係者全員が共有、共感することの大切さを訴えています。
それは、写真のキャプションにはっきり現れています。
たとえば、11ページの800系新幹線つばめのキャプション。
「初代新幹線0系をモチーフとしたふっくらとした顔に、特徴的な縦目。新幹線の中で最も白いボディ上を、赤と金のストライプを引いたつばめが飛ぶ。伝統の特急の名称を引き継ぎ、名前を筆文字でボディにまとった。その名は「800系つばめ」。最新技術と日本伝統の匠の技を融合し南の大地から旅立った「日本の新幹線」である。2009年には、さらに和のテイストに磨きをかけ、新たに立体的な縦目を装備した新800系も登場した。」
まっすぐなことばが並ぶキャプションは、照れくさいけれど力強い。関係者を動かす「ことば(コンセプト)」とはこういうもの。本書の写真キャプションは、すぐれた「ことば(コンセプト)」の宝庫になっています。
最後に、一言。
是非とも水戸岡氏の真骨頂であるスケッチを見たかった。氏のスケッチは見た人すべてをうならせると評判なのだから。
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