<ル・コルビュジェ設計のサヴォア邸>
◆製品の「きれいさ」とは?(その2)
84:【デザイン相談室】第84発
こんにちは!
中小企業のデザインコンサルタントの木全(キマタ)です。
中小企業の方々に向けて工業デザインのエッセンスについて、毎週更新してお知らせしています。
中小企業のデザインのお悩み、なんでもご相談ください。
designsoudan★goo.jp(★を@に)
木全のデザイン実績
木全のデザインセミナー実績
墨田区「無料商工業アドバイザー派遣」 ※墨田区に事業所のある方限定。
昨年から平日ほぼ毎日一言ずつ、ツイッターでつぶやく事にしました。
よろしければ、フォローしてやってください。
http://twitter.com/#!/kimatan0313
■よくある中小企業からのデザイン依頼の内容
中小企業さんとお付き合いをさせていただいて、よく言われるのが、次のような言葉です。
「うちの製品、もうちょっとかっこよくしてください。」
「もっとかわいくしてください。」
「もう少し美しい形にしたいんです。」
「きれいな製品にできませんか。」
これらのご依頼にお答えするのはなかなか難しいです。(笑)
「かっこいい」「かわいい」「美しい」「きれい」
曖昧模糊としていて、人によって感じ方がまったく違う言葉で、こんな便利な言葉はないのですが、これを具体的な形にするのはとても難しい。
前々回製品の「きれいさ」とは?(その1)というお話をしました。
しばらく、製品の「きれいさ」と「美しさ」について考えています。(念のため、このあとの議論は、あくまで製品に関するものです、とおことわりして)
■きれいと美しい(続き)
画家の安野光雅の著書「絵のある人生」(岩波新書)の中に、画家岸田劉生の以下の発言が引用されています。
『美しいときれいは違う』
『「きれい」は「汚い」の反対語に過ぎないが、美術で言うところの「美しい」は美醜の両面性を持ち、人の心を打つものだ』
パブロ・ピカソの「ゲルニカ」は、きれいな絵画ではありませんが、見る人の心を揺さぶるものがあります。美はそれを見る人の感性の中にあり、「きれいきれいな絵は心に響くけれど、すぐに飽きる」と安野は書いています。
工業デザイナーのパパネックは「地球のためのデザイン」(鹿島出版会)の中で、以下のように書いています。
『一見して、精神的価値のあるインダストリアル・デザイン製品であるといえるようなものはない。』
『グライダーの純粋なラインは賞賛できるが、飾り気のない優雅さが誘発する美学的反応が、心に崇高な感情を呼び起こすことはまれだろう。』
難解な言い回しですが、グライダーの空力学的な曲線は「きれい」だが、誰もが心を打つような「美しさ」ではない、工業製品に一目見て心に響くような「美しさ」はないといっているのだと思います。
どちらも、工業製品は外観が「きれい」なだけで、心に響く「美しさ」と違うと言っています。
掃除をして「きれい」になった部屋が工業製品で、模様替えをして「美しく」なった部屋が美術作品と言うわけです。
つまり、「きれい」が、商品に求められている「色・形」の基準です。
■商品の「きれいさ」とは
では、商品の「きれいさ」とはいったいどのような基準で評価すればいいのでしょうか?
劇作家・評論家で大学教授も歴任されている山崎正和の著書「装飾とデザイン」(中央公論新社)の中にその答えがあるようです。
山崎教授は、商品の外観形状に関して、世の中にある造形は「装飾」と「デザイン」しかないと喝破しています。
「装飾とデザイン」の中で次のように書いています。
『装飾とは「何かのための装飾」であり、つけたし・過剰・逸脱が大きな特徴で、サグラダ・ファミリアを見ると、すべての部分が、生き物のように波打ち、うねり、誇張され、部分が全体に反乱を起こしている。
装飾はいったん始まると限りなく増殖を繰り返し、造形のお祭り騒ぎとなり、教会が奇怪な岩の塊や巨大な植物のように見えてくる。
反対に、いわゆるモダンデザインは基本形・単純・秩序が特徴で、サヴォア邸は、一切の装飾や部分さえもなく、極限にまで単純化された四角い箱が宙に浮いただけの抽象的な幾何学形体になっている。
サヴォア邸に見る基本形が先にあり、そこに「なにかのための装飾」が施されていって造形ができあがっていくのだろう。
この二つの建築物が同じ時代の建築家によって設計されたとはとても考えられないくらいに異質で相容れないものであるのもかかわらず、この基本形と装飾は対立する概念ではなく、人間が創造する造形はすべて、この基本形と装飾の両極の間のどこかに位置する。
基本形と装飾の二項対立は地域や時代や様式を超え、人間のものの見方の普遍的な両極性の指標と重なる。
基本形―装 飾
秩 序―逸 脱
単 純―過 剰
整 然―混 沌
軽 快―重 厚
規則性―多様性
明るい―暗 い
普遍性―個別性 など。』
この「基本形と装飾の二項対立」の軸が「きれいさ」の評価軸です。
もちろん、「秩序・単純・整然・軽快・規則性・明るい・普遍性」に近いほうが「きれい」になると考えていいと思います。
(この項、続きます。)
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◆製品の「きれいさ」とは?(その2)
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こんにちは!
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中小企業のデザインのお悩み、なんでもご相談ください。
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■よくある中小企業からのデザイン依頼の内容
中小企業さんとお付き合いをさせていただいて、よく言われるのが、次のような言葉です。
「うちの製品、もうちょっとかっこよくしてください。」
「もっとかわいくしてください。」
「もう少し美しい形にしたいんです。」
「きれいな製品にできませんか。」
これらのご依頼にお答えするのはなかなか難しいです。(笑)
「かっこいい」「かわいい」「美しい」「きれい」
曖昧模糊としていて、人によって感じ方がまったく違う言葉で、こんな便利な言葉はないのですが、これを具体的な形にするのはとても難しい。
前々回製品の「きれいさ」とは?(その1)というお話をしました。
しばらく、製品の「きれいさ」と「美しさ」について考えています。(念のため、このあとの議論は、あくまで製品に関するものです、とおことわりして)
■きれいと美しい(続き)
画家の安野光雅の著書「絵のある人生」(岩波新書)の中に、画家岸田劉生の以下の発言が引用されています。
『美しいときれいは違う』
『「きれい」は「汚い」の反対語に過ぎないが、美術で言うところの「美しい」は美醜の両面性を持ち、人の心を打つものだ』
パブロ・ピカソの「ゲルニカ」は、きれいな絵画ではありませんが、見る人の心を揺さぶるものがあります。美はそれを見る人の感性の中にあり、「きれいきれいな絵は心に響くけれど、すぐに飽きる」と安野は書いています。
工業デザイナーのパパネックは「地球のためのデザイン」(鹿島出版会)の中で、以下のように書いています。
『一見して、精神的価値のあるインダストリアル・デザイン製品であるといえるようなものはない。』
『グライダーの純粋なラインは賞賛できるが、飾り気のない優雅さが誘発する美学的反応が、心に崇高な感情を呼び起こすことはまれだろう。』
難解な言い回しですが、グライダーの空力学的な曲線は「きれい」だが、誰もが心を打つような「美しさ」ではない、工業製品に一目見て心に響くような「美しさ」はないといっているのだと思います。
どちらも、工業製品は外観が「きれい」なだけで、心に響く「美しさ」と違うと言っています。
掃除をして「きれい」になった部屋が工業製品で、模様替えをして「美しく」なった部屋が美術作品と言うわけです。
つまり、「きれい」が、商品に求められている「色・形」の基準です。
■商品の「きれいさ」とは
では、商品の「きれいさ」とはいったいどのような基準で評価すればいいのでしょうか?
劇作家・評論家で大学教授も歴任されている山崎正和の著書「装飾とデザイン」(中央公論新社)の中にその答えがあるようです。
山崎教授は、商品の外観形状に関して、世の中にある造形は「装飾」と「デザイン」しかないと喝破しています。
「装飾とデザイン」の中で次のように書いています。
『装飾とは「何かのための装飾」であり、つけたし・過剰・逸脱が大きな特徴で、サグラダ・ファミリアを見ると、すべての部分が、生き物のように波打ち、うねり、誇張され、部分が全体に反乱を起こしている。
装飾はいったん始まると限りなく増殖を繰り返し、造形のお祭り騒ぎとなり、教会が奇怪な岩の塊や巨大な植物のように見えてくる。
反対に、いわゆるモダンデザインは基本形・単純・秩序が特徴で、サヴォア邸は、一切の装飾や部分さえもなく、極限にまで単純化された四角い箱が宙に浮いただけの抽象的な幾何学形体になっている。
サヴォア邸に見る基本形が先にあり、そこに「なにかのための装飾」が施されていって造形ができあがっていくのだろう。
この二つの建築物が同じ時代の建築家によって設計されたとはとても考えられないくらいに異質で相容れないものであるのもかかわらず、この基本形と装飾は対立する概念ではなく、人間が創造する造形はすべて、この基本形と装飾の両極の間のどこかに位置する。
基本形と装飾の二項対立は地域や時代や様式を超え、人間のものの見方の普遍的な両極性の指標と重なる。
基本形―装 飾
秩 序―逸 脱
単 純―過 剰
整 然―混 沌
軽 快―重 厚
規則性―多様性
明るい―暗 い
普遍性―個別性 など。』
この「基本形と装飾の二項対立」の軸が「きれいさ」の評価軸です。
もちろん、「秩序・単純・整然・軽快・規則性・明るい・普遍性」に近いほうが「きれい」になると考えていいと思います。
(この項、続きます。)
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