木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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「かわいい」はデザインの入口(その1)

2010年07月06日 | 造形の構成原理(コツツボ)
<フィリップ・スタルク「ジューシーサリフ」>


◆「かわいい」はデザインの入口 (その1)
302:【造形の構成原理】第102発


 こんにちは!
 デザインコンサルタントの木全(キマタ)です。一般の方に向けて工業デザインのエッセンスについて書いたり、デザイナーとの付合い方などについて書いています。御相談がありましたら、コメントをくださいね。コメントによるご質問には基本的に無料でお答えいたします。

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 モノマガジンを発行しているワールドフォトプレスのムック「デザインがわかる9号」に書いた記事を、数回に別けて転載します。

 ムック「デザインがわかる」誌上では、たくさんの写真で実例を示しながら説明しています。残念ながら、このブログではそれは難しいです。

 ご興味がおありでしたら、ムック「デザインがわかる9号」をご購入ください。 

 ムックにあわせて文体が普段と違います。その点、ご了承ください。


「かわいい」はデザインの入口

 製品の外観デザインの良し悪しの評価は難しい。

 工業デザイナーは、製品デザインは有意性(美しさ)と有用性(効率)から成り立っていると考えている。そして、見た目の良し悪しを決める有意性(美しさ)の評価基準は「きれい」と「かっこいい」だと考えられているが、実は「かわいい」も大切な評価基準だ。

 「かわいい」は人類の遺伝子に組み込まれたデザインの評価基準であり、この感覚は人類であれば、誰もが身につけている。

 しかし、残念ながら現代社会は、製品デザインにおいて、この感覚をあまり重要視していない。そうであるにも拘らず、身の回りの製品を改めて見直してみると、意外と「かわいい」ものが多いことに気がつく。


デザインはわからない

 製品の外観デザインの良し悪しは、なかなか評価が難しい。

 ユーザーではなく、製品デザインを担当してきた工業デザイナーは、いったい製品デザインをどのように考えてきたのだろう?

 時代をさかのぼってみよう。工業デザイナーの第一世代であるレイモンド・ローイは口紅から機関車まで、なんでもかんでもデザインした。

 レイモンド・ローイといえば流線形(ストリームライン)だ。一九三〇~四〇年代のアメリカでは、流線形が工業デザインと同義語になるくらい大流行し、飛行機から鉛筆削りまで流線形でデザインされた。

 当時、棺桶まで流線形にデザインされたと言われている。最近でもフィリップ・スタルクのレモン絞り器「ジューシーサリフ」(一九九〇年発表)は流線形をモチーフにして一世を風靡した。

 では、なんでも流線形にしてしまえば優れたデザインなのかといえば、もちろんそんなことはない。流線形はデザインの一つのスタイルだし、流行であり、レイモンド・ローイもフィリップ・スタルクも、クライアントや市場の要望に答えるために流線形のデザインをしたはずで、流線形だけがデザインだと考えていたわけではない。工業デザイナーも時代の流れから逃れられるわけではない。

 ということは結局、流線形が流行であったように、製品デザインはいずれも一時の流行に過ぎず、芸術作品のようにその美しさを評価する価値のないものなのだろうか?

 しかし、自動車や家電製品など、少なくとも数年間毎日接する製品が、まったく美的な評価の対象にならないのだとしたら、ユーザーとしては、ちょっと悲しい。工業デザイナーも、みんなが悲しい思いをするためにデザインをしているわけではないし、できれば、製品を使うことで嬉しくなってくれるようにデザインしたいと望んでいる。

 やはり、デザインはわかりにくい。


モダンデザインの評価基準

 工業デザイナーの端くれである筆者も、製品デザインの美しさとは何か、今までいろいろ考えてきた。一般的に製品のデザインは有意性と有用性から成り立っていると言われている。有意性とは形それ自体が持っている意味、つまり見た目の「美しさ」のことであり、有用性とは性能や使いやすさなどの「効率」だと言われている。

 ここでは、形自体が持っている見た目の有意性(美しさ)に注目したい。

 流線形の場合、飛行機や自動車の流線形は、流体力学の法則に従い速度と燃費が向上するなど、形が有用性に大きく寄与しているが、鉛筆削りやレモン絞り器の流線形は、有用性ではなく、形の有意性(美しさ)で評価されている。

 流線形は、生まれた当時ダイナミズムとモダニズムの象徴という有意性を持っていたが、現代では古きよき時代(ミッドセンチュリー)への郷愁という有意性も併せ持っている。

 そのような意味で製品の形自体が持っている見た目の有意性の評価基準とは何か?

 それがわかれば、「デザインがわかる」ようになる。少なくとも評価できるようになる。

 どんな口紅もどんな自動車もどんなレモン搾り器も、すべて同じ基準で評価できたら、それは「デザインがわかる」ようになったと言ってもいいだろう。

 思わせぶりな書き方をしたが、四半世紀工業デザイナーを生業としてきた筆者の結論は、「工業デザインの有意性(美しさ)とは、外観のきれいさと、製品に込められたコンセプト(物語)のかっこよさ」だ。

 製品デザインの有意性(美しさ)の評価基準は「きれい」と「かっこいい」であり、「きれい」であることが製品デザインの最低基準となってしまった現代においては、「コンセプトのかっこよさ」が重要な評価基準になっていると筆者は考えている。

 例えば、ダイソンの掃除機は「掃除を積極的に楽しむ道具」「吸引力が衰えないダブルサイクロン方式」というライフスタイルや性能のコンセプト(物語)を、電動工具のような力強くカラフルな掃除機の形にしたから、「かっこいい」のだし、無印良品はシンプルなライフスタイルという物語を圧倒的な種類の商品群にして提示したから「かっこいい」のだ。

 しかし、「コンセプトのかっこよさ」という評価基準があっても、実はまだデザインはわかりにくい。

 それは、ダイソンや無印良品が「かっこいい」のは、コンセプトだけではなく、そのコンセプトを二〇年以上貫き通してきたという歴史的事実に基づいているからだ。つまり、歴史を知らないと「かっこよさ」はわからない。二〇年間の歴史を知らない人が、ダイソンの掃除機や無印良品のパッケージを見ても、かっこいいと感じないこともありうるのだ。


「かわいい」は外観デザインの基準

 ここまでは、いわゆるモダンデザインによる製品デザインの評価基準だが、実はもうひとつ、とても大切な評価基準がある。

 それが「かわいい」だ。

 <この項、続く>



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつも参考にしてます (マツダ)
2010-07-08 10:16:35
はじめまして、
先月よりこちらのブログを覗かさせていただいております。
私もベンチャー企業ではありますが、プロダクトデザインを担当しております。しかし、小さな会社ですので側らでは販促業務も行う、何でも屋的な業務になってます。なので、デザイン性能からマーケティングまでを掲載されているこちらのブログは、今まで勉強してきた事を再認識できるとてもありがたい場所です。
>「コンセプトのかっこよさ」が重要な評価基準になっている

との言葉に今日も「やっぱりそうだよな~」などと同感してしまします。
デザイン=「見た目の良さだけが仕事」と変な偏見がいつも周りに有りますが、有意性と有用性をがもっとデザインの仕事に定着してほしいと願っています。

長文となりすみません、これからもブログ楽しく参考にさせていただきます。
返信する
マツダ様、コメント感謝です。 (木全)
2010-07-08 19:44:47
マツダ様

長文のコメント、ありがとうございました。
バタバタしており、コメントのブログへの反映とお返事が遅れ、申し訳ありませんでした。

このようなコメントをいただけるととてもうれしいです。

4年以上続けて、最近、若干息切れがしていましたが、またがんばってブログを続けていこうと思いました。

今後ともよろしくお願いいたします。

木全賢 拝
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