この物語の中で、生涯を一般的には日陰の仕事と思われているストリップ劇場の照明係で過ごしてきた男、“おいどん”のエピソード(モデルとなる人物は実在している)がモノローグで語られる。男はその気になれば(1つの劇場で長く勤め上げれば)、劇場の支配人になるなど、彼なりの出世コースは幾度となく用意されたそうだ。しかしその男はそんな話を身分不相応だと受けることなく、全国各地の劇場を渡り歩く風来坊を通したと言う。風来坊と言うと、物書きになりたいとか、ミュージシャンになりたいとか、険しくまた儚い夢を追いかける者が通る道だが、その男にはそんな大それた野望もなく、単に自分には定職は似合わない、身分不相応だと思っていたらしい。
先ずそうした人物に敬意を持って眼差しを注ぐ視線が、先ほど述べたような私の感性からするととても素晴らしいと感じる。しかし前述と同じ結論を導いてもつまらない、本題はこの男にも独自の哲学があり、それは尊重されるべきだ、と言う話。
当然、日の当たらない職業ゆえ、収入は少なく、生活保護に頼りながら暮らしているとのこと。今は生活保護は受けてないらしい、どうやら踊り子さんの“ヒモ”としてお小遣いが少し入るらしい。どちらにしても、堂々とスポットを浴びるにはややためらわれる話。
だが、こういう職業はかつてはいっぱいあった。苦学学生のバイト先がストリップ劇場だったなんて話もそんなに珍しい話ではなかった。当時は庶民の価値観の中にも「職業に貴賤なし」と言うことが根付いていたのだと思う。
時代が変わり、バブルの時代にこんな3Kな仕事はほとんど姿を消し、再び不況がやってきて、この男とは違うが日の当たらない職業が増えてきた。しかしつまらないプライドだけが残り、職業の貴賤だけが残っている。もちろん辛くて耐えられない仕事はやめるべきだが、社会もまた、ホームレスは世にごまんといるのに、彼らが街に出てきて「右や左の旦那様~」と物乞いを始めたらすぐに警察を呼ぶ冷酷な時代になった。
私たちの国は貧乏になった、それを少しは自覚した方が良いと思う。そして、貧乏を自覚すると言うことは、卑屈になることではなく、周囲の貧乏に寛容になることから始めるべきではないのか。
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