ワイルド・ソウル垣根 涼介幻冬舎 |
一九六一年、衛藤一家は希望を胸にアマゾンへ渡った。しかし、彼らがその大地に降り立った時、夢にまで見た楽園はどこにもなかった。戦後最大級の愚政“棄民政策”。その四十数年後、三人の男が東京にいた。衛藤の息子ケイ、松尾、山本…彼らの周到な計画は、テレビ局記者の貴子をも巻き込み、歴史の闇に葬られた過去の扉をこじ開けようとする。
呪われた過去と決別するため,ケイたち3人は日本国政府に宣戦布告する。外務省襲撃,元官僚の誘拐劇,そして警察との息詰まる頭脳戦。ケイに翻弄され,葛藤する貴子だったが,やがては事件に毅然と対峙していく。未曾有の犯罪計画の末に,彼らがそれぞれ手にしたものとは…?史上初の3賞(第6回大藪春彦賞,第25回吉川栄治文学新人賞,第57回日本推理作家協会賞)受賞を果たし,各紙誌の絶賛を浴びた不朽の名作。
「あれ?前に読んだ本,なんだったっけ…?」と,あの『クライマーズ・ハイ』をしばらく忘れてさせるほどの強烈な作品。折しも,小泉純一郎総理がドミニカ共和国への移民訴訟に対して遺憾の意を表明し見舞金給付に向けて動くというニュースが読んでいる最中に流れ,今も進行し続けている現実とリンクした,リアリティを感じました。首相談話にこの本の影響があったとはいいませんが,一度読んだ人にはものすごいインパクトを与える本であることはまちがいありません。
政府側の希望に満ちあふれた募集内容に応じ,手持ちの財産をすべて処分したばかりか親類から借金までして地球の反対側まで船で渡った移民たち。彼らを待っていたのは,耕地として整備されていないばかりか,酸性土壌で農業には全く向かないアマゾンの密林。マラリアや黄熱病,アメーバ赤痢など命にかかわる熱帯病の恐怖や過酷な気候,川の増水など一夜で苦労して開墾した畑が無に還る…。ゴム園の労働者として渡った人達も労賃を事前に約束された報酬の3分の1に削られた挙げ句,農民でもないのに開拓地に強制移住させられ,脱走できないようパスポートまで没収される。外務省の役人たちは視察にも来ないし,領事館に駆け込んだ移民たちは門前払い。いわば国家ぐるみの詐欺に遭い,戦後の食糧難の口減らし同然に南米に送り込まれ,多くは無念の思いで死んでいった4万人。本作の主人公たちは,その復讐のため外務省,そして日本政府に戦いを挑むのですが…。
戦後ブラジル移民の歴史,銃器,自動車,放送業界の現場,警察組織…ものすごい情報量とリアリティ迫る筆致に圧倒されました。そして,ケイや衛藤,貴子ら登場人物の生き生きとした姿に強く惹かれます。彼らは実在の悲劇の主人公である移民たちの代弁者でもあり,おそらくは著者の分身でもあり,そして読む者1人1人にも心の底から何か…義憤であったり,日本人の誇りであったり,世の中のルールやしきたりに閉じこめられた自分の本能であったり…を呼び起こさせてくれる,ものすごいパワーを放っています。
覚醒した怒りが三百発の弾丸と化す! 嵌められた枠組みを打破するために颯爽と走り出した男女の姿を圧倒的なスケールと筆致で描く、史上最強の犯罪小説。幻冬舎創立九周年記念特別作品。
という煽り文句に偽りなしの大傑作。さすが,社員1人あたり2億円を売り上げる幻冬舎(をいをい)。
◆衛藤…第1章の主人公。ケイの養父。
23歳で戦後日本政府の募集に応じてブラジル移民計画に参加。
アマゾンの最奥地クロノイテに入植するが,極貧生活を強いられる困窮の中,
同行した妻と弟を黄熱病で失う。
入植地を離れ,日本領事館への抗議も門前払いされた彼は
いわゆる“アマゾン牢人”として荷役,砂金獲り,ゴミ収集,娼婦のヒモなど
土地・職業を点々とした後,サンパウロの青果市場で
死に物狂いで働いて成功,財を成す。
仲間である野口夫妻を救いに入植地に戻ったのは12年ぶりのこと。
野口夫婦は既に亡く,その遺児・ケイと出会う。
◆ケイ(野口カルロス啓一)…衛藤の入植地仲間・野口夫妻の遺児。
他の家族がすべて病死あるいは逃亡した入植地で両親を失い,
親の敵である役人への恨みを抱きながらたった1人で生き延びていた。
衛藤に引き取られた彼は,養母の育て方か,育った風土の影響か
日本人とはかけ離れた激情型のブラジル人的性格に育つ。
外務省,そして日本政府に対する“復讐”計画の中心的存在だが
目撃や証拠を残しかねない奔放で突発的な行動でパートナーである衛藤を
やきもきさせる。
ラテン気質というか,性に開放的な言動で,計画の下見で見かけた
テレビ局職員・井上貴子を口説き,協力者として巻き込んでいく。
◆松尾…コロンビア麻薬組織の幹部。
ケイと同じ入植地で生まれ育ったが,幼少期に両親に連れられて脱出,
コロンビアに渡る途中,河賊に襲われ両親を失う。
ジャングルを1人さまよい歩くうちに麻薬シンジケートのボス
ドン・バルガスに拾われ,幹部候補となる養子の1人として育てられ
日本での密売の元締めとして送り込まれる。表の顔は貴金属店支配人。
◆山本正仁(まさひと)(偽名・田中伝三)…アマゾン牢人。
衛藤とはシェラ・ペラーダの金採掘場で一時行動を共にしていた。
一財産ともいえる量の砂金を手にしたが,40年後に再会した際には
一介の労夫に落ちぶれていた。
衛藤に援助を受け“復讐”計画をもちかけられた山本は恩義を返すべく
実行の2年前から50万円で買った戸籍「田中伝三」として生活,行動し
移動車両の調達や外務省のビルへの“工作"を担当。
■ブラジル
◆エルレイン…衛藤の2番目の妻。
出会った当時はベレンの娼婦。
日本領事館で門前払いを食らい行き倒れ寸前の彼を
自分の部屋に住まわせる。
彼女の好意に甘えながらも,同胞たちの悲惨な境遇を多数見聞きし
「国家」に激しい怒りを抱いた衛藤は,女のヒモに甘んじることを
潔しとせず,彼女の元を去る。
9年の苦闘の末,衛藤は一財を成して迎えに戻りエルレインと再会,
2人でケイを育て,一女を設ける。
・ハサン…レバノン出身のサンパウロの雑貨店のオーナー。
先の見えない衛藤に,その目標を達成するため彼の立場になって
職を紹介し,独立の際には資金も融資した。
「15年前,飢えていた俺をある男が助けてくれた。
その恩を,俺はお前に返す」
この第1章,100ページ余り読んだだけで日本人のレバノン人に
対する好感度が500%くらいアップしそうなかっこいい人物。
■NBSテレビ報道部
◆井上貴子…元女子アナで,報道番組『ジャパンエキスプレス』
ディレクター。女子アナは若さだけが勝負の使い捨て職業と
自ら配置転換を申し入れたのだが,仕事ぶりはぱっとしない。
外務省を取材に訪れた姿を,下見中のケイに見初められ,後日口説かれる。
ケイから得た情報で大スクープをものにした彼女は一躍
犯人と接触していたどころか籠絡され,それを隠して報道の現場に
立ち続ける呵責の念に苦しむ。
・木島プロデューサー…局の看板番組である『ジャパンエキスプレス』担当。
警察などからのネタ取引,素材使用を巡る他番組との駆け引きなど
局内外との交渉で強力な手腕を見せる。
・及川純一…貴子に惚れている若手ディレクター。
若いなりに仕事ぶりはなかなかのものだが,
うじうじした態度で好意を持たれ続け,貴子は正直むかついている。
■警察
◆秋津管理官…15年ほど前に京大を卒業後,数年フリーターを経て
国I試験をパスして警察に入省した変わり種。階級社会である警察で
上下関係なく歯に衣着せぬ物言いのため出世コースは外れているが,
卓越した洞察力,捜査能力で捜査一課特殊斑を任されている。
・田川課長補佐
・岩永捜査一課警部
それでは,かってに配役案をば-*********************************************
◆ケイ…唐渡亮さん(プロフィール)
やはり,ケイを演じる人に一番求めたいのは野性味。
唐渡さんの場合,あまり陽気な役というのを見たことがないのでどうかなと気にならなくもないですが,イメージとしてケイは長髪,そして松尾にド叱られて自分から頭を丸めるシーンがあるのでこの両方のヘアスタイルが 似合いそうというのも私的重要ポイントとして考えてみました。
今どきの売れ線となると坂口憲二さんの名が上がってくるでしょうが,やはり育ちのよさというか気の良さがなんか演技の歯止めになってそうな感じ。「速水もこみちの目と坂口憲二の体」の組み合わせならルックス的に最高って思ったりもしますが。既に養父・衛藤と同じ青果商を一から叩き上げて独立,成功しているだけに年齢的にはもう少し上,30代半ばくらいかな…
ケイン・コスギさん…こちらもお坊ちゃん気が抜けないし,喋らせたらアウトw
松岡修三さん…ただ暑苦しいだけだなw。堅苦しい性格はケイと真逆だし。
反町隆史さん…ワイルドさでは非常にポイント高いですが,
もう大人の落ち着きというか,最近は杉原千畝物語みたいに
強い意志を内に秘める役にシフトしてきてますから
ケイのような図々しいマイペース男のキャラはもうしんどいかな。
あ…思いついてしまった,あの男…
香取慎吾…やべ,マジ合いそう。
陽気だし,子どもっぽい性格を演じるのに無理がないキャラだし
ちょっとエキゾ顔入ってるし(『ドク』とかやってるし),
上背があるし,贅肉つきやすい体質(食生活)だけど
絞ればかなりマッチョな肉体だし,
長髪も丸坊主も似合いそうだし,
屈託なくテロっぽい犯罪やっちゃいそうだし,
スケベそうだし,女の子抱えて連れて行っちゃいそうだし(←そんな
シーンはない,こともない…?気絶させて拘束したりしてるなぁw)
まあ,これまで挙げた候補の人とは逆に,もう少し落ち着きが欲しいかな。
機関銃をぶっ放すシーンで「ぅわぁ~~。すげぇぇぇぇ~~」とか
言ってそうだよな。香取くんバージョンのケイだと。
けど,役との適合性はかなり高そう。同じSMAPの草ナギくんが
『黄泉がえり』『日本沈没』と話題映画の主演づいてるし,
香取くんもねぇ,ここで一発。…『ジュブナイル』でしたっけ?前,主演したの。
よっぽど注意しないとキャラ的に彼だけが浮いちゃいそうな感じがしますが…
◆松尾…北村一輝さん
南米マフィアの幹部でありながら,言動はかなり常識的。特にケイと比較したときの普通ぶりといったら「いいパパになれるぞ」って思っちゃいますよw。しかし普通の人間になろうにも,組織から抜けようとすれば死あるのみ。根がいい人であればあるほど,幼少期にのたれ死に寸前から育て上げてくれたボスの恩義もあり一生浦社会から抜け出せない悲哀が深まります。
ひと癖もふた癖もある役,しかも主人公の敵に回ったり,陥れるような役が多い北村さん,口髭とか生やして「カタギの人間からすれば別世界の人間,しかし南米系の組織の中では一目で浮いて見える東洋人の顔を持った異質な存在」を演じてほしいものです。マフィアといっても武闘派じゃないし,完全チューンナップしたFD(マツダRX-7)をぶっ飛ばすシーンなんかも似合いそう。
これが舞台だったら,唐沢寿明さんと寺脇康文さんのケイ・松尾コンビ
というのも面白いかなと思ったりしてます。どちらがどっち役か固定せず,
公演ごとに2人の配役を入れ替えて演るとかね。
◆衛藤…永島敏行さん
だいたいこの手の映画やドラマだと,少し前なら役所広司さんか真田広之さん,最近なら佐藤浩市さんをババンとメインに据えたらキャスティング一丁上がりという感がありますが,「かってに」キャスティングだけにここはこだわりたい。
男臭さ,たくましさ,仕事場で大立ち回りを演じるケイを見つけてぶん殴る父性,今どき急速にテレビの画面から消えた男の姿を体現する人といったらこの人かなと思いました。衛藤は20代前半から,死の床につく晩年まで年齢幅が広いので1人で演るか,キャストを分けるかもポイントなのですが,1人でいけるかなと。
ちょっと調べてみたら,コメ作りに凝っておられるそうで,まさにイメージ通りですなw。
◆山本正仁…柄本明さん(青年期/デンジャラス・ノッチさん)
最初登場する際にずんぐりした男という記述があるので極楽とんぼ・山本圭壱さんのイメージかなという気がしました。が,メインは現在の初老の姿(1940年頃生まれだから60代後半)であり,衛藤の恩義に報いるため着々と計画を実行する,忠実さとか真面目さを表現することを考えると,むしろやせ型の人,柄本さんなんかいいんじゃないかなと思います(それにしても証拠一つ残さない山本の完璧な工作員ぶりは,60過ぎまで素人だったくせに出来すぎだろという気がしないでもないですが,そのへんの説得力を持たせるためにも実力派のベテラン俳優さんに)。柄本さんの顔,声だと辛酸をなめてこの年までやってきた雰囲気が出しやすそうですしね…。
◆井上貴子…長谷川京子さん
彼女の場合,私が条件として考えるのは,
・元女子アナで華があり,
・ちょっとお高く見える顔立ちで,だけど序盤はダメ社員
・ケイに「バカ野郎っ!!」とくってかかる姿に多少は迫力がほしい
・九州出身は別に重視しない(見た目都会的で構わない)
といったところでしょうか。
長谷川さんの場合,「怒り気味のタレ目」が非常に華があって高そうで
『ドラゴン桜』で演じた空回り熱血女教師に見られるように,見ていてもどかしさを感じさせる演技には定評があります(それっていいのやら悪いのやら…?)から,かなり条件的によろしいんじゃないかと思いました。
ほかにまず思いついたのが小雪さん。ですが,「バカ野郎っ!!」がちょっと堅そうで次点以下とさせていただきました。
また,貴子は人並みにエロい女性で,そこをケイに籠絡されるわけでもありますが,ハセキョーと小雪さん,どっちがエロいほうが嬉しいかといったら…すいません,不謹慎で。
松雪泰子さん,稲森いずみさんといったスラリとしすぎている人はちょっと違う感じがするし
篠原涼子さん,菅野美穂さん,水野美紀さんといった「働くお姉さん」役が板についてきている女優さんも“娘さん”的というか,ちょっとかわいらしすぎるかなと。
・木島プロデューサー…大杉蓮さん
辣腕ネゴシエーターぶりをぜひ発揮してほしい。
グラサンにポロシャツの襟立てて,トレーナーを背中にかけたベタな業界人の姿でw。
ついでに,『ジャパンエキスプレス』のメインキャスターは長谷川初範さんでね。
・及川純一…佐藤隆太さん
『離婚弁護士』の間宮元カレ役のイメージだなこりゃ。
◆秋津…佐々木蔵之介さん
基本的に善人キャラが多い佐々木さんですが,ちょっとひと癖ある
切れ者キャラというのもよいのではないかと。
◆エルレイン…シルビア・グラブさん(プロフィール)
白人顔で,人なつっこそうなかわいらしさと母性,さっぱりした色気を感じさせる彼女でいかがでしょうか。
日本語に加え,英・仏・伊・独語に堪能ですがブラジルの共通語であるポルトガル語がないのはご愛敬(スイスと日本のハーフなのでラテン系は縁遠かったようで)。
舞台女優の方なので大柄かと思ったら164cmとふつうの体格ですね。永島敏行さんが182cmありますから,このカップリングだと「ダイナマイトバディのブラジル女と小柄な日本男」の取り合わせにはなりませんが。
ほかの配役案としては叶恭子とか思いつきましたけど,肉感的な体とケバい化粧くらいがイメージに合うくらいで,失礼ながら彼女だと逆に役のほうが穢れそうな気がしました。
衛藤とエルレインの娘・マリアの役には簡単ですがベッキーさんで。
・ハサン…ラモス瑠偉さん
ブラジル出身だけどアラブ系じゃないよな…でも細かいところはおいといてw。
イメージとしてはもっとどすの効いた人が希望だけれど,
私の知っている範囲では彼が近かった。
『ワイルド・ソウル』 作品に関して作者・垣根涼介氏コメント
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ラティーノ・ラティーノ!―南米取材放浪記垣根 涼介幻冬舎かっぱらい・強盗は当たり前!暴動,テロで渡航延期勧告も日常茶飯事!喜怒哀楽全開で人々と語り合い,大地の声を聞きながら突き進む,2002年の四月~六月,ブラジルとコロンビアの各地を飛び回った取材旅行の体験をつづった傑作放浪エッセイ。このアイテムの詳細を見る |