小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

解決されない「化学物質過敏症」

2024年10月04日 06時39分55秒 | 予防接種
化学物質過敏症・・・約20年前のアレルギー学会ではたくさん演題発表がありました。
しかし最近はあまり見かけません。
原因・メカニズムが解明されたという話も聞きません。
ただ、TVでは時々取りあげられますね。

最近の状況を知るために本を買ったのですが、
こちらに紹介されていました。

<ポイント>
・化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する、脳過敏(中枢性感作)な疾患であることがわかってきた。わかりやすくいえば、気管支喘息は気管支が過敏な疾患、アトピー性皮膚炎は皮膚が過敏な疾患、化学物質過敏症は脳が過敏な疾患ということになる。
・脳が関与していると思われる疾患を中枢性感作症候群と呼び、同じ概念と考えられる疾患としては片頭痛、慢性疲労症候群、線維筋痛症などが存在する。

やはりというか、想定内の結論ですね。
最近では慢性腰痛もこの要素があると指摘されています。


▢ 潜在患者1000万人以上の「ナゾの病」化学物質過敏症とは何か
2024/08/20:集英社オンライン)より一部抜粋(下線は私が引きました);

「化学物質過敏症」を聞いたことがあるだろうか。身の回りにある“刺激”に体が反応し、さまざまな症状を引き起こす病で、誰にでも発症し得るが、その正しい認知は広まっていない。そんな「ナゾの病」の臨床・研究に第一線で携わる渡井健太郎医師に話を聞いた。

▶ 潜在患者1000万人以上でも広まらない認知
 どんなに医学が進歩しても、いまだ全容解明に至っていない病がある。
 世間一般、また医療従事者の間にすら認知が十分に広がっていないにもかかわらず、現在の患者数は国内で100人に1人の約120万人。重篤なアレルギー疾患や精神疾患と誤診されやすいため、潜在患者は1000万人以上ともいわれている。しかも、ある日突然花粉症になってしまうように誰にでも発症の可能性があり、患者数は増加傾向にあるという。
 その病とは「化学物質過敏症」。10年以上前になるが、筆者はこの病を発症した当人や家族を取材したことがあり、ある人は空気中に漂う香料、タバコ、排気ガスなどに鋭く反応し、不特定多数の人が利用する電車やタクシーにも乗ることができない。
 食事は有機野菜に頼らざるを得ず、ご飯が炊けるときの匂いや新聞や雑誌で使われているインクの匂い、さらに窓の外から聞こえる子どもの大きな声で体調を崩すという人もいた。
 一度罹患すると日常生活や社会活動に支障をきたし、それだけでも問題なのに、周囲の理解を得られないことから孤独感を深め、当人のみならず家族までをも苦しめるとてつもなく恐ろしい病だと感じていた。
「患者さんは多種多様な化学物質や環境条件、日用品や薬剤、食物からの微量な刺激にも敏感に反応し、その7割程度に臭覚過敏が認められます。症状は、
 じんましん、めまい、頭痛、呼吸困難、吐き気、腹痛や疼(とう)痛
など人により実にさまざまで、受診すべき診療科がわかりにくく、ドクター・ショッピングを何年も繰り返してしまう。ようやく化学物質過敏症と診断されたのは、発症から10年後という例も多いです」
そう話すのは、湘南鎌倉総合病院免疫・アレルギーセンター部長の渡井健太郎医師である。
 15年ほど前からアレルギー科医として患者と向き合う過程で喘息や薬剤アレルギー、食物アレルギー、花粉症といった一般的なアレルギー症状とは明らかに異なる患者がいることを知り、生き地獄のような日々を送る患者を救いたいと、化学物質過敏症の解明に向けての研究を続けている数少ない医師の一人だ。

▶ 多大なストレスに山奥で暮らす患者も
 渡井医師は続ける。
「同僚の医師が『一番なりたくない病気は何だろうと考えたとき、化学物質過敏症かもしれない』と言っていました。命にはかかわらないけれど、生きているほうが当然いい……とはなかなか思えない。また診療に当たる医療従事者側も、多大なストレスから人に対して攻撃的な一部の患者への対応で心をすり減らし、最後はもう診られないと診療拒否に至るケースもあります。化学物質過敏症とは、患者にとっても医療従事者にとっても非常に過酷な病です」
 となれば、なおさら一日も早い治療法の確立が望まれるが、大規模な臨床試験に基づく科学的根拠に乏しく、現段階では化学物質過敏症に保険適応の治療法はない。
 「発症につながる根本的な原因がはっきりしていない、それが大きな理由です。患者さんが反応しやすいものとして洗剤や柔軟剤に含まれる香料、またここ数年ではコロナ禍以降頻繁に使われるようになった消毒用アルコールなどの揮発性物質がありますが、ではそれらを排除した生活を送ればこの病が治るかといったらそうでもない。これらがきっかけで引き起こされてはいても、それ自体が根本原因とは言い切れないのです」
 化学物質などからの曝露(さらされること)を避けるため、人里離れた山奥で生活しているという患者がいる。でもその生活を続けていたら治るかというと、治ってはいないのだという。あくまで回避にすぎず、転地療法や対症療法ともいえない根本の解決策ではないからだ。

▶ しぼられつつある「ナゾの病」のカラクリ
 では、直接の原因として何が考えられるのか。その答えを導き出そうとした国内外の研究結果をまとめると、一つの有力な仮説が出ているという。基礎医学的な研究結果のみならず、実際に診療にあたる医師の治療経験を併せてみても、ここに来てかなり確証の高いものとなっている。
 「化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する、脳過敏(中枢性感作)な疾患であることがわかってきました。わかりやすくいえば、気管支喘息は気管支が過敏な疾患、アトピー性皮膚炎は皮膚が過敏な疾患、化学物質過敏症は脳が過敏な疾患ということになります。
 脳が関与していると思われる疾患を中枢性感作症候群と呼び、同じ概念と考えられる疾患としては片頭痛、慢性疲労症候群、線維筋痛症などがあります。これらに対し、脳の敏感さを抑えてあげられるような薬の投与ができないか。そして、それが症状を軽くし、本当にこの病で困っている患者を救う有効な方法なのではないかと考えられています」
 過剰に反応する化学物質をある程度避けることは必要だが、そこにポイントを置くのでなく、模索しているのは脳や神経にアプローチする治療法である。
 「ごく簡単な例ですが、スギ花粉症の人に花粉がバンバン飛んでいる映像を見せると体が自然に反応し、鼻水が出たりする。確かにスギ花粉が悪さをしてアレルギーを引き起こしてはいますが、こうした現象は脳からきている部分も多分に関与していて、原因には大きく分けて2通りが考えられるのです。
 局所麻酔薬アレルギー疑いの患者さんを調べたときも、検査で単なる生理食塩水を投与したところ、局所麻酔薬を投与されたときと同じような症状を訴えた例もあり、アレルギーや過敏症では脳が関与する、いわゆる“気のせい”と言える部分もあながち否定できない。まだ仮説段階ながら、こうした感覚や脳の問題が化学物質過敏症では大きいのではないかと考えています」

▶ 化学物質過敏症かも…と思ったら
 実際に患者を診ていると、化学物質との闘いをひたすらやり続けている人ほど治りが悪い印象を受けるという。
 これには反論する患者も少なくないと思われるが、渡井医師は「患者との信頼関係が成り立ってから」と前置きしたうえで、「化学物質との闘いは、あるところまでで制限して、気にしすぎない生活を送ってみるのも一つの手かもしれません」と、アドバイスしている。
 化学物質過敏症は血液検査などの具体的な数値による診断基準がなく、診断法としては問診が主体だ。このため、まずは化学物質過敏症以外の他疾患を除外することが重要とされる。
 そのうえで、化学物質過敏症患者を診た経験がない医師には難しいが、経験のある医師なら5分ほど話を聞けば大方診断がくだせるという。
 受診方法としては、まずは身近な病院のアレルギー科、咳などの症状が出ているなら呼吸器内科も対象となる。そこで化学物質過敏症はアレルギーとは異なる疾患なので、「アレルギーなのか、そうではないのか」を判断してもらうことが第一段階として重要だ。
 渡井医師はこのほど『化学物質過敏症とは何か』(集英社新書)を上梓し、この病気の詳細を記した。「患者への理解を深めるとともに、アレルギー科以外の専門の診療科との連携も必須となるため、医療従事者にもより関心を寄せてもらいたい」と話す。
 出版後の反響は小さくなく、患者の家族から「やっと化学物質過敏症という病気の理解ができたました」と、感想をもらったという。
 「アレルギー科医としてこの病に精通し、確実な治療につなげていきたい。そして、このようなやっかいな病を引き起こす原因の一部が脳へのストレスだとすれば、過敏症の予防のために、ストレスのかからない、ストレスをかけない生活をみんなで考える。そんなことも必要なのかもしれないなと感じています」
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新型コロナ罹患後症状を再定義(2024年6月)

2024年06月25日 06時18分51秒 | 新型コロナ
コロナ罹患後症状(旧呼称:コロナ後遺症)について知識を整理している際、
こんな記事が目に留まりました。

米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

…確かに、今まで定義が各国でまちまちだったため統一した基準で報告されず、
データを集積・解析することが難しかった面があります。
例えば、罹患後症状の頻度が5〜70%、とか。

さて、従来の定義は以下のようでした;

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過した時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

では記事の内容を見てみましょう。

現在の日本ではWHOの基準を引用して説明されることが多いのですが、
今回の提案でも概ね内容は同じです。
ただ、発症までの期間と持続期間の数字が、
・発症・症状消失後、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・症状持続期間は3ヶ月以上
と少し異なりますね。
  
(上記記事から一部抜粋:下線は私が引きました)
 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。
 Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。…本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。
 本定義によると、
Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する
としている。
 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。
 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。
 主な症状は以下のように記載されている。

・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。
・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。

 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。

・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。
・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。
・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。
・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。
・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。
・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。
・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。
・・・

※ NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

<参考文献・参考サイト>
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片頭痛の治療 by 勝木Dr.

2023年05月23日 22時03分04秒 | 予防接種
私は小児科医ですが、
時々頭痛の相談で受診する患者さんがいます。

基本はアセトアミノフェン(カロナール®、コカール®)頓服、
効きが悪いときはイブプロフェン(ブルフェン®)頓服、
それでも効きが悪いときは漢方薬(五苓散、呉茱萸湯)を併用しています。

また、このブログ内でもたびたび取り上げてきました;

①(2014.03.14)「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)
②(2014.03.23)「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)
③(2017.09.18)「片頭痛のポイント2017」
④(2018.05.03)「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?」
⑤(2021.08.01)「子どもの片頭痛 アップデート2021」
⑥(2022.09.04)「子どもの頭痛

今回、WEBセミナーで偏頭痛に関する勝木将人Dr.のレクチャーを聴講したので、メモを残しておきます。

頭痛の社会的損失
・健康な生活に支障が出る疾病の順位(WHO)
 ①脳卒中
 ②頭痛
 ③認知症
・片頭痛の年間有病率は8.4%
・欠席/休息による損失(アブセンティーズム)よりも、
仕事や学業のパフォーマンス低下(プレゼンティーズム)の方が、
経済損失は重大

HIT-6(Headache impact test)
①頭が痛いとき、痛みがひどいことがどれくらいありますか?
②頭痛のせいで日常生活に支障が出ることがありますか?
③頭が痛いとき、横になりたくなることがありますか?
④この4週間に、頭痛のせいで疲れてしまって仕事やいつもの活動ができないことがありましたか?
⑤ごの4週間に、頭痛のせいでうんざりしたりイライラしたりしたことがありましたか?
⑥この4週間に、頭痛のせいで仕事や日常生活の場で集中できないことがありましたか?
 ⇩
  • HIT6スコア36~49点:ほとんどまたは、 全く日常生活に影響なし
  • HIT6スコア50~55点:中程度の影響
  • HIT6スコア56~59点:かなりの影響
  • HIT6スコア60~78点:重大な影響
ふつうの偏頭痛と慢性片頭痛
(ふつうの片頭痛)
・嘔気、光過敏、音過敏などの特徴あり
・痛み止めでコントロールできる
・予防治療が効く
 ⇩ 年間3%が移行
 ⇩ 7割は治療で元に戻る
(慢性片頭痛)
・嘔気、光過敏、音過敏などの特徴がなくなる
・痛み止めでコントロールができない(薬が効かない)
・診断:月に15日以上痛い、そのうち8日以上が片頭痛

頭痛治療の3本柱

1.急性期治療
(弱)
 ⇩ ①漢方薬(五苓散、呉茱萸湯、葛根湯など)
 ⇩ ②鎮痛薬(アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなど)
 ⇩ ③トリプタン製剤 
(強)④Lasmiditan(レイボー®)

・効果不十分な場合はNSAIDsとトリプタンの併用を考慮。
・ERで重症者が来たら、
 嘔吐→ 補液+制吐剤
 アセリオ点滴
 スマトリプタン皮下注や点鼻(血管収縮に注意)
 レイボー内服
・急性期治療の効果は、服用2時間後の頭痛の消失または明らかな軽減で判断される。

2.予防治療
(弱)
 ⇩ 漢方薬(五苓散、呉茱萸湯、葛根湯など)
 ⇩ 降圧薬(ロメリジン、プロプラノロール)
 ⇩ 抗てんかん薬(バルプロ酸など)
 ⇩ 抗うつ薬(アミトリプチリンなど)
 ⇩ CGRP(※)関連製剤(注射薬。ガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブ)
(強)
※ CGRP:カルシトニン遺伝子関連ペプチド

・予防治療を行うことで、
 ✓ 痛みの回数が減る
 ✓ 痛みの強さが減る
 ✓ 痛みの持続時間が減る

3.頭痛ダイアリー
・自分の頭痛の特性を知ることができる

頭痛ダイアリーの3ステップ

(ステップ1)頻度を知る
頭痛のあった日、ない日を記録して、
月に何回頭痛があるか、
月に何回痛み止めを使ったのかを把握しましょう

(ステップ2)症状を知る
頭痛の性状や頭痛に伴う症状を把握しましょう
強さ10段階の〇、嘔気、まぶしい、うるさい、動くとつらい、
ガンガンする、左側が痛い、持続時間は〇時間・・・など

(ステップ3)誘因を知る
頭痛を起こすきっかけを理解しましょう
ストレス、月経、食べ過ぎ/空腹、寝過ぎ/寝不足、天気、
疲れ・・・など

急性期治療薬の使い分けとタイミング

(誘因) 漢方薬
(予兆期)漢方薬
(前兆期)カロナール、痛み止め
(頭痛期)カロナール、痛み止め、しぶとい場合はレイボー
(寛解期)しぶとい場合はレイボー
(回復期)しぶとい場合はレイボー

★ 最適なトリプタンのタイミングは・・・
・痛くなり始め!(頭痛期初期)
・じっとしていても痛みがわかる
・体を動かしたり前屈みになると痛い

(誘因)月経、ストレス、睡眠、人混み、運動、食べ物、飲酒、ニオイ
(予兆期)過食、あくび、疲労感、集中困難、抑うつ、肩こり、感覚過敏
(前兆期)キラキラ、ピリピリ、耳鳴り
(頭痛期)吐き気、嘔吐、光音過敏、嗅覚過敏、体動困難
(寛解期)眠気
(回復期)食欲低下、疲労感、躁鬱

NSAIDsの使い方
・軽症-中等症片頭痛発作の第一選択薬
・妊婦にはアセトアミノフェン一択
・市販薬のような合剤はSG顆粒
・効果がなければトリプタンを追加(併用)

トリプタンの使い方
・中等症以上の片頭痛発作に用いる
・1/3が Non responder
・日本で使えるのは5種類
イミグラン®(スマトリプタン)のみ皮下注と点鼻薬がある
・禁忌:虚血性心疾患、脳血管障害の既往、片麻痺性・脳幹性片頭痛

各トリプタン製剤の特徴
 ・・・2時間空けて追加内服可能

イミグラン®(スマトリプタン)
・注射や点鼻が可能
・妊婦でも有用性投与可(最も無難)

ゾーミッグRM®(ゾルミトリプタン)
・口腔内速溶錠(水なしで飲める)

レルパックス®(エレトリプタン)
・効き目が長い

マクサルト®(リザトリプタン)
・口腔内速溶錠(水なしで飲める)
・立ち上がりが早く切れも良い

アマージ®(ナラトリプタン)
・効き目が長い

レイボー®(Lamiditan)
・セロトニン1F 受容体作動薬
・発作消失率が高い(頭痛がスパッとなくなる)
・めまい、脱力感が起きやすい
・めまいなどは2-4時間くらいで消える(らしい)
・100mgではなく50mgから処方(勝木Dr.私見)
・薬物乱用頭痛の離脱に用いる(断薬中の反跳痛を早めに抑えたい)
・寝るときになっても痛いとき(めまいが出ても睡眠中・・・)
・土日や欠勤時など仕事を休んでも良いとき(めまいが出ても問題ないとき)

漢方薬の選択方法と使い方
・片頭痛+冷え→ 呉茱萸湯
・片頭痛+天気やむくみ→ 五苓散
・緊張性頭痛、運動不足による頭痛→ 葛根湯
・高齢者の頭痛、高血圧の頭痛→ 釣藤散
・頭痛全般→ 川芎茶調散

<漢方薬の投与方法>
・急性期薬としても予防治療としても使える
・1日3回まで自己調節可
・1週間毎3回→ 2回→ 1回→ 頓服と減量を指示

予防治療はいつまで続ける必要があるか?
・効果判定には少なくとも2ヶ月を要する。
・予防治療の効果は、発作頻度または日数の50%以上の減少で判断する。
・有効性を確認した上で、有害事象がなければ少なくとも3ヶ月、妊よう性が良好であれば6〜12ヶ月は継続する。
・片頭痛のコントロールが良好になれば予防薬を緩徐に減量し、可能であれば中止する。

予防治療薬
・副作用が一石二鳥となるように選択したい。
 ✓ 高血圧→ ARB、降圧薬
 ✓ 振戦、緊張→ プロプラノロール
 ✓ 不眠、不安→ アミトリプチリン、バルプロ酸

プロプラノロール
・妊婦でもOK。
・立ちくらみ
・低血圧に注意
・リザトリプタン併用禁忌
・喘息など禁忌
・効き目も副作用もマイルド

ロメリジン
・立ちくらみ・低血圧に注意
・妊娠禁
・効き目も副作用もマイルド

バルプロ酸
・眠気に注意
・妊娠禁
・効き目は強いが副作用も強い

アミトリプチリン
・眠気と吐き気に注意
・慣れるまで制吐剤を併用
・効き目は強いが副作用も強い

CGRP関連製剤(予防治療薬)

エムガルティ
・最初2本ローディングドーズ
・即効性
・自己注射デバイスが使いやすい
・値段がネック

アジョビ
・1本/月でも3本/3ヶ月でもどちらもOK。
・通院負担の軽減
・副作用が比較的少ない印象
・注射は痛め

アイモビーグ
・受容体抗体
・完全ヒト型mAB
・便秘の副作用

妊娠希望や妊婦の治療
・基本はカロナールと五苓散、さらに塩酸プロプラノロールとイミグラン
△ 呉茱萸湯
△ レクサプロ
△ CGRP関連製剤

授乳中の治療
・基本はカロナールと五苓散、予防薬は使用不可能

いろいろな頭痛

緊張性頭痛
 → 鎮痛薬、筋弛緩薬、葛根湯、運動療法など

群発頭痛
・酸素投与+イミグラン皮下注射
・発作期のワソランやステロイド
・エムガルティ300mgが海外では使える
・脳神経内科など専門家へ

同じ人が複数の頭痛を持つこともある
・ある日は片頭痛、ある日は緊張性頭痛・・・
運動・入浴・飲酒で、
 悪化し嘔気あり→ 片頭痛
 改善し嘔気なし→ 緊張性頭痛

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子どもの頭痛

2022年09月04日 17時40分02秒 | 予防接種
ここで扱う“頭痛”は、風邪や副鼻腔炎、髄膜炎など感染症や頭部打撲による「原因のある急性頭痛」(二次性頭痛)ではなく、頭痛発作を繰り返す、あるいは慢性の頭痛である「片頭痛・緊張性頭痛」(一次性頭痛)です。

小児科の当院でも、時々頭痛の相談を受けます。
問診で「二次性頭痛」でないことを確認できれば、痛み止めを処方して、
「痛くなり始めたら飲んでね、痛みが完成するまで待つと効かないよ」
とアドバイスします。

基本はアセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®坐薬)で、
効果が今ひとつの場合はイブプロフェン(ブルフェン®)が一般的。
ただ、この2剤でも手応えがない場合、
困ったことに“次の一手”がないのです。

一方、大人の片頭痛薬は日進月歩で、
トリプタン製剤や近年では抗体医薬も開発され、
その著しい効果が注目されています。

小児に使用できる頭痛薬は限定されているのが現状です。
どうも、片頭痛治療の分野では小児は置いてけぼりをされている印象が否めません。

このブログでも繰り返し取りあげてきました;
①(2014.3.14)「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)
②(2014.3.23)「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)
③(2017.9.18)「片頭痛のポイント2017
④(2018.5.3)「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?
⑤(2121.8.1)「子どもの片頭痛 アップデート2021

ここで小児の片頭痛の特徴を再度、押さえておきましょう;

<小児の片頭痛>

疫学
・世界統計では小児全体で3.8〜13.5%、学童生徒では1.7〜21.3%
・日本の統計(Gotoら)では小学生で3.5%、中学生で5.0%
・就学前は男児>女児、小学生では男児≒女児、思春期以降は男児<女児
・周期性嘔吐症(自家中毒)、腹部片頭痛からの移行例が少なからず存在する。
・家族集積性:母親が片頭痛65%、父親が片頭痛17%
・頭痛の種類と頻度(東山・舘野:2000年報告);
 (頭痛名)  (頻度)(平均年齢)(年齢範囲)
 片頭痛     21%  11.0    7-15
 筋収縮性頭痛  35%  10.5    7-15
 ODに伴う頭痛  16%  13.1   10-15
 ストレス性頭痛 14%  11.8    7-15
 分類不能    14%   6.4    4-9
※ OD=起立性調節障害、「ODに伴う頭痛」と「ストレス性頭痛」は緊張型頭痛 

症状

・頻度:多くても月に4回程度
※ 月に16日以上ある場合は群発頭痛、慢性連日性頭痛を考える。慢性連日性片頭痛では複数の頭痛が合併している可能性も考慮する(例:前兆のない片頭痛+慢性緊張型頭痛+薬物乱用頭痛など)。
※ 週に3日以上鎮痛剤を使う場合は薬物乱用性頭痛を考える

・誘因:低気圧、寝不足あるいは過眠、まぶしい光、騒音、臭い、ストレスおよびストレスからの解放、激しい運動、炎天下、天候・気温・気圧の変化、チョコレートやチーズなどの特定の食物、アルコール、空腹、高山(2000m以上)、月経(思春期女児)、アレルギー疾患、鼻炎・副鼻腔炎、歯科疾患の合併・共存、鎮痛剤やカフェインの過剰内服、など

・経過:予兆 → 前兆 → 頭痛発作
予兆)疲労感、気分変調・なんとなく変な感じ、首こり・肩こり、生あくび、集中力低下、過食、感覚過敏、頭がボーッとするなど
前兆)前兆出現後60分以内に頭痛が発現
 視覚症状:閃輝暗点が最多、ほかに感覚症状・言語症状
発作)強い頭痛(典型的には拍動痛、両側性の前頭側頭部痛が多い)、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏
※ 小児では腹部症状、顔面蒼白、突然無口になる、啼泣など頭痛以外の症状が前面に出ることが多い。
※ アロディニア(異痛症、異常感覚):眼周囲、頭皮、前腕部などに起こる痛み、不快なピリピリ感、違和感。手や腕のしびれ感、動きにくさ、など
回復)一晩寝ると翌朝には軽快(ただし月経関連頭痛は持続時間が長い)

診断】★ ICHD-3(国際頭痛分類第3版)の診断基準(18歳未満)
・持続:2〜72時間(成人:4〜72時間)
・部位:片側性あるいは両側性の前頭側頭部痛(後頭部はない)
・程度:中等度から重度で動作により増悪
・性質:拍動性(脈打つ頭痛)
・他症状:悪心・嘔吐、光過敏・音過敏
※ 診断基準にはないがニオイ過敏もよくある
・家族歴:多い(特に母親)
・前兆:視覚症状、感覚症状、言語症状
※ 出現後60分以内に頭痛が発現する

→ 小児でよく見られるのは典型的前兆を伴う片頭痛

鑑別診断】片頭痛と緊張型頭痛の違い

        (片頭痛)  (緊張型頭痛)
発作的頭痛:    +       ー
持続時間:   1〜72時間   30分〜7日間
頭痛の部位: 片側性〜両側性  両側性
       前頭・側頭部   後頭・頭全体
頭痛の性状:   拍動性    圧迫・締めつけ感
頭痛の程度: 中等度〜重度   軽度〜中等度
日常生活:   支障あり    影響は少ない
運動・風呂:  悪化、不可能   軽快傾向
随伴症状:  前兆、悪心・嘔吐  肩こり・筋緊張
       光・音・臭い過敏  めまい感
家族歴:    多い      少ない

※ 成人の片頭痛の持続は4〜72時間
※ 典型的な前兆のある片頭痛は全体の20〜30%にとどまる。
※ 肩こりは緊張性頭痛のみならず片頭痛の約70%に合併・前駆する。

片頭痛の診断は“片側性”や“前兆”などのよく知られた症状よりも、体動による悪化、嘔気・嘔吐、光・音・臭い過敏、日常生活の支障度、家族歴を重視した方が正確である。

合併症
・成人領域:うつ病、精神疾患(不安障害など)、虚血性脳血管障害、てんかん、発達障害、アレルギー疾患(気管支喘息など)

治療

片頭痛発作時
・暗めの涼しい静かな部屋で頭を冷やして安静にさせる。
・鎮痛剤投与:頭痛早期(嘔吐開始前、アロディニア出現前)が基本。
 アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®):10mg/kg/回
 イブプロフェン(ブルフェン®):5mg/kg/回
・制吐剤:鎮痛剤と併用する
 ドンペリドン(ナウゼリン®)
・トリプタン製剤:小児保健適応なし

予防治療
・適応:片頭痛発作が頻回(鎮痛剤使用が週2回または月10回以上)、鎮痛剤の効果不十分、頭痛持続時間が長い(半日以上)、嘔吐合併が多い、頻度の多い緊張型頭痛の併存例、薬物乱用頭痛合併例、心理・社会的要因の関与が大きい例、など。
・年少児にはシプロペプタジン(ペリアクチン®)2-4mg/日
・小学校高学年以上の年長児にはアミトリプチリン(トリプタノール®)10-20mg/日・・・緊張型頭痛にも有効
・成人領域では従来アミトリプチリン、バルプロ酸、プロプラノロール、ロメリジンなどが使用されてきたが、近年抗体医薬の有効性が高く評価されつつある。
・予防薬投与の基本:最低1-2ヶ月間の投与後に効果判定する。原則夜1回少量な衣服で開始し、最低3-6ヶ月続け、中止はゆっくり漸減する。

生活指導】誘因の回避
・朝寝坊、昼寝、寝過ぎ、寝不足を避ける。
・休日でも早起きして朝食は必ず食べる。
・炎天下での帽子やサングラスの着用。
・人混みや満員電車を避ける。
・ゲームやテレビの制限。
・適度の運動やマッサージ、頭痛体操
・生理周期の正確な把握

予後
・10年後の経過で、片頭痛持続:41.8%、寛解:38.2%、緊張性頭痛に変化:20%



まあ症状や頻度はわかるのですが、どのテキスト・資料を読んでも、
「アセトアミノフェンかイブプロフェン」
しか記載がなく、
「トリプタン製剤は小に適応がないので他に有効薬がない場合に患者家族に十分説明し、同意書を作成して使用すべし」
というスタンスです。

そこで漢方使いの私は考えました。
漢方薬で頭痛に対処しよう、と。
調べてみると、じつは頭痛は漢方の得意分野であることがわかってきました。
長くなってしまったので、続きは次回へ。


<参考>
▢ 市民公開講座「小児の頭痛」
 東邦大学佐倉病院小児科:舘野昭彦、小島泰子
▢ 小児・思春期の頭痛患者;誰が診るのか?如何に診るのか? 一次性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛)の診断と治療(第53回日本小児神経学会総会) 
 荒木清
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子どもの片頭痛 アップデート2021

2021年08月01日 06時53分16秒 | 予防接種
子どもの片頭痛に関して、以前から興味を持ち、参考書が発売されると読んでみて、このブログに記録してきました;

①(2014.3.14)「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)
②(2014.3.23)「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)
③(2017.9.18)「片頭痛のポイント」
④(2018.5.3)「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?」

大人に使用できる片頭痛の薬は日進月歩で痛みをコントロールできつつありますが、子供の片頭痛の治療薬は旧態依然で、私が医者になった頃(30年前)から変わらず、アセトアミノフェンかイブプロフェンしか選択肢がないのです。

最後の④の結論として、
小児片頭痛患者に対してはアセトアミノフェンあるいはイブプロフェンを第一選択薬とし、無効の場合は「マクサルト®RPD錠(リザトリプタン)を、体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠使用可能(25kg以上40kg未満では1/2錠)
現時点では小児の片頭痛に対してトリプタンは第一選択薬とはならず、アセトアミノフェンやイブプロフェンが無効な、日常生活への支障度が高い頭痛に対し、小学校高学年以上の体格であれば使用を検討してもよい。 」 
と記載しました。
あれから3年、某学会のWEB配信で小児の頭痛に関するレクチャー「子どもの片頭痛(安藤直樹Dr.)」を視聴しました。果たしてアップデートできる内容があったでしょうか?

残念ながらトリプタン製剤に関してはこの4年間も進歩がなく、2021年7月現在でも小児に保険適応のある薬剤は日本に存在しません。

それでも専門家は、アセトアミノフェン/イブプロフェン無効の患者さんには、保険適用外であることを説明してトリプタン製剤を処方している現状があります。

もし保険適用のない薬を処方して副作用が発生して訴訟になったとき、
裁判所の判断基準はガイドラインではなく添付文書である、と聞いたことがあります。
つまり、学会がガイドラインで推奨している薬でも、厚労省の認可がなければ、トラブル発生時に処方医個人の責任にされてしまうのです。

専門家ではない一般小児科医の私は、どうしたらいいのでしょう?
近隣の総合病院にも小児頭痛の専門家はいません。
専門家は「一般小児科医も子どもの片頭痛を診療していただきたい」とおっしゃいますが、保険適用のない薬ばかりを並べられても手が出せません。

講演では「アセトアミノフェンよりイブプロフェンの方が有効」との説明があり、私にとっては新しい知識であり、今まで読んできた書籍には見当たりませんでした。
ただ、イブプロフェンはいわゆるNSAIDs(エヌセイド)の仲間であり、長期服用により胃腸障害が出やすい薬剤です。

また、現在改定中のガイドラインでは、予防治療の推奨薬が以前とは大幅に入れ替えられることも知りました。
もっとも、以前の推奨薬にシプロヘプタジン(商品名:ペリアクチン)という風邪薬の鼻水止めが入っていることからして「?」の私でしたが。

以上、「成人の片頭痛治療薬は日進月歩で抗体薬も登場、一方の小児適用のある治療薬は乏しいままで30年間進歩なし」と云わざるを得ない現状をあらためて認識した次第です。

ワクチンの「暗黒の20年間」と同じようなもどかしさを感じます。


<メモ>

小児片頭痛
・頻度:
 小学生3.5%(男4.0、女2.9)
 中学生4.8~5.0%(男3.1~3.3、女6.5~7.0)
・小児片頭痛の診断はICHD‐3(国際頭痛分類第三版)を用いる

□ 小児片頭痛診断基準
前兆のない片頭痛
A. B~Dを満たす発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.片側性
 2.拍動性
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、
  あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心または嘔吐(あるいは両方)
 2.光過敏および音過敏
E. ほかに最適なICHD-3の診断がない

慢性片頭痛:片頭痛患者がそれ以外の頭痛を伴って非常に回数が増えている状態
A. 片頭痛様の頭痛または緊張型頭痛様(あるいはその両方)が月に15日以上の頻度で3か月を超えて起こり、BとCを満たす。
B. 「前兆のない片頭痛」の診断基準B~Dを満たすか、「前兆のある片頭痛」の診断基準BおよびCを満たす発作が併せて5回以上あった患者に起こる
C. 3か月を超えて月に8日以上で以下のいずれかを満たす
 1.「前兆のない片頭痛」の診断基準CとDを満たす
 2.「前兆のある片頭痛」の診断基準BとCを満たす
 3.発作時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは麦角誘導体で改善する
D. ほかに最適なICHD-3の診断がない

小児片頭痛疑い症例の特徴:診断基準を一項目満たさない例が多い
・随伴症状が基準を満たさない例が約60%いる。
・持続時間が2時間未満と短い例が約30%。
・発作回数が少ない。
→ 経過観察し、基準を満たすようになるかどうか判断すべし

周期性嘔吐症候群
A. 強い悪心と嘔吐を示す発作が5回以上あり、BおよびCを満たす。
B. 個々の患者では症状が定性化しており、予測可能な周期で繰り返す
C. 以下のすべてを満たす
 1.悪心、嘔吐が1時間に4回以上起こる
 2.発作は1時間~10日間続く
 3.各々の発作は1週間以上の間隔をあけて起こる
D. 発作完結期には全く無症状
E. その他の疾患によらない(特に、病歴及び身体所見は胃腸疾患の徴候を示さない)

腹部片頭痛
A. 腹痛発作が5回以上あり、B~Dを満たす
B. 痛みは以下の3つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.正中部、臍周囲もしくは局在性に乏しい
 2.鈍痛もしくは漠然とした腹痛(just sore)
 3.中等度から重度の痛み
C. 発作中、以下の少なくとも2項目を満たす
 1.食欲不振、2.悪心、3.嘔吐、4.顔面蒼白
D. 発作は、未治療もしくは治療が無効の場合、2~72時間持続する
E. 発作間欠期には全く無症状
F. その他の疾患によらない(特に、病歴及び身体所見が胃腸疾患または腎疾患の徴候を示さない、またはそれらの疾患を適切な検査により否定できる。)

小児・思春期の片頭痛治療薬

急性期】強い推奨/エビデンスの確実性B~C
 いずれの薬剤も頭痛発症からできる限り早期に十分量を使用することが推奨される。
 第一選択はイブプロフェン。アセトアミノフェンはイブプロフェンほどではないが有効である。
 NSAIDs やほかの鎮痛薬にて効果が得られない際にはトリプタンを考慮する。
 トリプタンは12歳以下で推奨される薬剤(しかし保険適用はない!)は以下の通り;
・スマトリプタン(イミグラン®)
・リザトリプタン(マクサルト®):効き目は早いが効果が切れるのも早い
・エレトリプタン(レルパックス®):じわっと長く効いて副作用が少ない
・ナラトリプタン(アマージ®)
 スマトリプタンとナプロキセンの併用も有効。

予防治療】弱い推奨/エビデンスの確実性B~C
 確立したものはないが、以下の薬剤が候補に挙がる:
・アミトリプチリン(トリプタノール®)
・トピラマート(トピナ®)保険適用外
・プロプラノロール(インデラル®)
・塩酸ロメリジン(ミグシス®)
などを副作用に注意しながら少量より開始する。


薬剤使用過多による頭痛
A. 以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛は1か月に15日以上存在する
B. 1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3か月を超えて定期的に乱用している
C. ほかに最適なICHD-3の診断がない

 エルゴタミン 10日/月以上
 トリプタン  10日/月以上
 アセトアミノフェン 15日/月以上
 NSAIDs   15日/月以上
 複合鎮痛薬  10日/月以上

小児の片頭痛予防治療薬の変遷

(2013年)慢性頭痛の診療ガイドライン
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®)
・バルプロ酸ナトリウム(デパケン®、セレニカ®)保険適用、てんかん患者より少ない量で有効
・トピラマート(トピナ®)

(2021年)頭痛診療ガイドライン2021年(案)
・アミトリプチリン(トリプタノール®)保険適用
・トピラマート(トピナ®)保険適用外(治験がうまくいかなかった)、副作用が多いため小児では使用しにくい
 ★ 2012年「プロプラノロールによる片頭痛治療ガイドライン」(暫定版)
・プロプラノロール(インデラル®)喘息で禁忌、リザトリプタンとの併用禁忌
・塩酸ロメリジン(ミグシス®)副作用が少なく使いやすい

予防治療が必要な患者・目安
 片頭痛が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3回以上の場合に要検討。
 急性期治療のみでは管理できない頭痛も適応。

・発作が1~2日/月なら不要
・発作が3~4日/月なら考慮
・発作が5日/月以上なら開始
・学校を終1回以上のペースで休むようなら予防治療を開始した方がよい、投与期間はまず3か月を目安。

CGRP関連抗体薬
反復性および慢性片頭痛に対する予防薬として期待される薬剤
・Eptinezumab
・Fremanezumab
Galcanezumab:日本で唯一使用可能(成人のみ)
・Erenumab

<参考>
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子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?

2018年05月03日 11時50分24秒 | 小児医療
 子どもの片頭痛は悩ましい病気です。
 なぜって、診断できても使用できる薬が限定されているからです。

 えっ、片頭痛の薬ってたくさん発売されてるはずでは?

 という感想を持つ方もたくさんいると思われます。
 しかし、片頭痛の治療薬として有名なトリプタン製剤は、大人には使えても子どもには使えません。
 その理由は、日本では「保険適応がない」からです。
 保険診療で認められているのは、かぜでよく処方されるアセトアミノフェンとイブプロフェンしかありません。
 それらを使っても効きが悪い、何とかして・・・という患者さんにどうしたらよいのでしょうか?
 私はそのような患者さんには漢方薬を勧めてきました。

 さて、最近発売された小児の頭痛関連本を購入して読んでみました。

□ 「小児・思春期の頭痛の診かた〜これならできる!頭痛専門小児科医のアプローチ〜」(藤田光江監修/荒木清・桑原健太郎著、南山堂、2018年)



 もちろん、一番の興味は「薬物治療」の項目。
 そこには「日本では認可されていないけど外国では認可されている、あるいは臨床治験データで安全性が確認されている薬剤は、アセトアミノフェン/イブプロフェンが無効の場合は使用可」と記載されています。
 これが現時点での小児頭痛専門家のスタンスのようですね。
 「日本では認可されていないけど外国では認可されている」というギャップを早くなくして欲しいものです。
 しかし日本の医療行政は慎重で石橋を叩いて渡る傾向があるため、ワクチンでも外国との“ワクチンギャップ”が埋められなくて問題視されてきた経緯もあります(HPVワクチンは逆に“お手つき”して社会問題化しましたが)。

 この本を読んだ結論です;
小児片頭痛患者に対してはアセトアミノフェンあるいはイブプロフェンを第一選択薬とし、無効の場合は「マクサルト®RPD錠を、体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠使用可能(25kg以上40kg未満では1/2錠)


<備忘録>

□ 片頭痛のメカニズム
 硬膜血管周囲の三叉神経の軸索に何らかの刺激が加わり、CGRP(calcitonin gene-related peptide)やサブスタンスP(SP)などの神経ペプチドが放出され、血管が拡張し、血漿タンパクの漏出および肥満細胞からのヒスタミンの遊離などにより神経原性炎症が生じることで発症する。三叉神経終末の刺激が順行性に伝えられると三叉神経核に至り、さらに視床を経由し大脳に至り、痛みとして自覚される。

□ 小児の片頭痛に対する第一選択薬はイブプロフェンとアセトアミノフェンである(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)。
 
□ アセトアミノフェン
 10〜15mg/kg/回を4〜6時間空けて使用する。1回最大投与量は500mgで、1日1500mg以内にとどめる。
 2013年には静注製剤が承認された。
 1日1500mgを超える投与量を長期使用する場合は定期的に肝機能検査を行う。
 アセトアミノフェンの作用機序:代謝物であるAM404が中脳、延髄、脊髄後角のカプサイシン(TRPV1)受容体やカンナビノイド(CB1)受容体を活性化して鎮痛効果を発揮している。

□ NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
 NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)に阻害的に結合し、プロスタグランディンなどの合成を抑制し、疼痛閾値を上昇させることで鎮痛作用を発揮する。化学構造の違いにより多くの種類に分類される;
・サリチル酸系:アスピリン
・アントラニル酸系:メフェナム酸
・アリール酸系:ジクロフェナク、インドメタシン
・プロピオン酸系:イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン
 しかし、小児に対するNSAIDsの使用は限定的にすべきである。アスピリン、ジクロフェナク、メフェナム酸は、インフルエンザ流行期において急性脳症発症のリスクを高めると指摘されており、添付文書上においても15歳未満には原則使用不可と記載されている。

□ イブプロフェン
 イブプロフェンは小児に最も使用されている安全性の高いNSAIDsであり、アセトアミノフェン同様に国際的にも小児への使用が推奨されている薬剤である。
 5〜10mg/kg/回を6〜8時間空けて使用する。1日40mg/kg以内にとどめる。最も多い副作用は肝障害であり、長期に使用する場合には肝機能検査が必要である。

□ トリプタン製剤
 作用機序:頭蓋内血管平滑筋に存在する5HT-IB受容体を介し、血管収縮作用を示す。また三叉神経終末に存在する5HT-ID受容体を介して神経ペプチド放出を抑制する。これらの相乗効果により、神経原性炎症を抑制し、頭痛発作改善に効果を示す。
 トリプタンは小児の場合、成人ほどの効果を実感できないことをしばしば経験する。これは小児片頭痛の持続時間が成人より短いためなのか、受容体感受性が小児ゆえ未熟なのか、不明である。
 現時点では小児の片頭痛に対してトリプタンは第一選択薬とはならず、アセトアミノフェンやイブプロフェンが無効な、日常生活への支障度が高い頭痛に対し、小学校高学年以上の体格であれば使用を検討してもよい。
 米国FDAが認可した小児片頭痛に有効なトリプタンは以下の通り;
・アルモトリプタン
・リザトリプタンOD錠
・ゾルミトリプタン点鼻
・スマトリプタン・ナプロキセン複合錠
 上記のうち日本で使用可能なものはスマトリプタン点鼻イミグラン®点鼻液)とリザトリプタン内服マクサルト®RPD錠)であるが、トリプタン製剤は日本ではすべて小児適応がないという困った状況である。

□ トリプタン製剤の使用の実際
 錠剤は体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠を、25kg以上40kg未満であれば1/2錠を使用する。
 1日2回まで使用可能であり、投与間隔は2時間空ける(ナラトリプタンだけは4時間)。
 トリプタンは片頭痛が生じてから時間が経てば経つほど効果は得られにくくなる。とくに中枢感作により生ずるアロディニア(異痛症)を呈した場合には、ほぼすべての鎮痛剤やトリプタンが無効となるため、そこに至る前までに使用しなければならない。

 大学病院頭痛専門外来での調査では、約2割の片頭痛患児がいずれかのトリプタンを処方されており、いずれかのトリプタンが有効であった患児は90%であった。最初に使用したトリプタンが無効であっても、別のトリプタンが有効であった症例もある。

□ トリプタン製剤の副作用と禁忌;
(副作用)胸部圧迫感、悪心・嘔吐、傾眠
(禁忌)
・虚血性心疾患、脳血管障害
・片麻痺性偏頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、網膜片頭痛
・エルゴタミン製剤との併用
・リザトリプタンとプロプラノロール

□ スマトリプタン(イミグラン®)
 トリプタン唯一の点鼻液があるため利用価値が高い。小児に対しても複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。
 悪心・嘔吐の随伴症状が多い小児の場合は内服困難例も存在するため、点鼻液はよい適応になる。ただし咽頭、舌後方に感じる強い苦みは点鼻薬独特の副作用であり、事前に十分説明しておく。

□ リザトリプタン(マクサルト®)
 最高血漿中濃度到達時間が最も短く、また血中半減期も短いため、効果発現が早く、持続時間の短い小児の片頭痛に対して有利な製剤である。スマトリプタン同様に小児に対する複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。口腔内崩壊錠があるため、登下校時や学校での授業中に適切なタイミングで内服しやすいという利点がある。
★ 片頭痛予防薬として使用されるプロプラノロール(インデラル®)との併用は禁忌。

□ 薬剤使用過多による頭痛(国際頭痛分類第3版)
 3ヶ月以上にわたり使用頻度が増す場合は予防薬使用を検討する。
・アセトアミノフェン:15日/月以上
・NSAIDs:15日/月以上
・トリプタン製剤/複合鎮痛剤:10日/月以上

□ 予防薬
 片頭痛発作の頻度が多く、薬物頓用でも生活に支障が出る場合は予防治療を考慮する。
 成人では月に2回以上あるいは6日以上が目安であるが、小児はケースバイケースで判断する。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬で、かぜの際の鼻水止めとして日常的に処方されている。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。眠気、食欲増進の副作用がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。ボストン小児病院の検討によると、アミトリプチリンは最も多く使用されている予防薬である。副作用として眠気、口渇、便秘に注意が必要。
・その他:バルプロ酸(デパケン®ほか):抗てんかん薬、塩酸ロメリジン(ミグシス®):カルシウム拮抗薬、プロプラノロール(インデラル®)β-遮断薬、トピラマート(トピナ®):新規抗てんかん薬・・・
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片頭痛のポイント2017

2017年09月18日 06時45分43秒 | 医療問題
 多くの人が悩んでいる片頭痛。
 外国有名雑誌の総説を解説した記事を見つけましたので抜粋・紹介します。

■片頭痛は前駆期にトリプタン系薬を開始、制吐薬を併用せよ!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2017年09月14日;メディカル・トリビューン
 N Engl J Med(2017; 377: 553-561)に片頭痛の総説がありました。この著者Andrew Charlesは米・UCLA神経科のHeadache Research and Treatment Programのディレクターだそうで、特に片頭痛を研究しているようです。世界最新の片頭痛の総説です!
 この片頭痛総説の最重要点は下記8点です。

・前兆は視覚変化、痺れ、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚接触で不快感)
・50歳以上の頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛を考える
・生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
・片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めてまれ
・SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす! すぐに中止!
・トリプタン系薬は前駆期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
・片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
・CGRP(calcitonin gene-related peptide)受容体のモノクローナル抗体が治験中


1.50歳以上の頭痛は片頭痛ではない
 この総説によると片頭痛の初発は10~14歳から急増し35~39歳まで増加後に減少し、特に閉経後は減少するそうです。片頭痛は基本的に若年者の疾患であり、「50歳以上で始まる頭痛は片頭痛でなく二次性頭痛」と考えます。
 片頭痛は、女性に多く男性の2~3倍で、ピークでは女性のなんと25%に発症しているというのです。女性の4人に1人が片頭痛というのには驚きました。また女性の25人に1人はなんと月間15日以上の慢性の頭痛があるそうです。
 "Migraine"の語源を調べたところ、ギリシャ語の"hemikrania"(片側の頭痛)が訛って"migraine"になったのだそうです。片頭痛の前兆として視覚変化(visual changes: 波線、輝点・暗点の出現)が有名ですが、痺れ(numbness、tingling)、構音障害、めまい、アロディニア(皮膚を触ると不快感)などもあります。

2. 1時間以上続く前兆、72時間以上続く頭痛は片頭痛ではない!
 片頭痛の視野障害って、一体どういう風に見えるんだろうと思っていたのですが、YouTubeに動画がアップされていました。
 この総説によると、視覚、知覚、構音障害は徐々に進行するものの1時間以内に治まり、 「1時間以上続く前兆は片頭痛でなく、二次性頭痛を考えよ」とのことです。また片頭痛での頭痛や頸部痛は突然でなく、徐々に始まり4時間から72時間続きます。「72時間以上続く頭痛も片頭痛でなく二次性頭痛を考えよ」なのです。
 典型的片頭痛の症状は以下の通りです。

【典型的片頭痛の症状】
・4~72時間続く典型的な発作
・発作間には症状がない
・頭痛や頸部痛が突然でなく徐々に始まる!
・視覚、知覚、構音障害が徐々に進行し1時間以内に治まる!
・頭痛の前後にあくび、頸部痛、羞明、音過敏、疲労、気分変化がある
・片頭痛の家族歴がある

 一方、二次性頭痛を考えるのは以下のような症状のときです。
 50歳以上で発症する頭痛は片頭痛ではないのです!

【二次性頭痛を示唆する症状】
・新たな頭痛発症(特に50歳以上)!
・72時間以上続く頭痛 ・視覚、聴力、構音障害の変化が1時間以上続く!
・突然の頭痛、神経症状 ・神経検査で異常
・発熱、全身症状がある

3. 生活指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」
 片頭痛を引き起こすライフスタイルとしては、「不規則な食事、不規則な睡眠、カフェインの不規則摂取、ストレス」があります。また女性では生理の前、生理中に多いのです。以上から片頭痛は環境、ホルモンの変化、日々の不規則な食事、カフェイン、睡眠と関係すると言えます。ですから運動は片頭痛を減らすには合理的(sensible)なアプローチです。
 患者への指導は「規則正しい食事、睡眠、運動、そしてカフェインを取らないこと」でしょうか。どうしてもカフェインをやめられない場合は、不規則的でなく規則的に飲むべきのようです。ただし片頭痛に対するライフスタイルのRCT(Randomized Control Trial)はありません。
 カフェインと片頭痛がどう関連するのか「Up to Date」で調べてみました。カフェインは頭痛にある程度有効な場合もあるのですが、日常的にカフェインを摂取しているときは慢性片頭痛や鎮痛剤のrebound headacheを起こすというのです。
 毎日カフェインを摂取している場合の慢性片頭痛のOR(オッズ比:1より大きいと有害)は2.9(95%CI 1.5~5.3)、鎮痛薬のrebound headacheのORは2.2(同 1.2~3.9)だそうです。「へー」と思ったのはcaffeine withdrawalの最も多い症状が頭痛なのだそうです。ですから頭痛持ちの方はカフェインはやめた方がよさそうです。

4. 片頭痛診断には頭痛より光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つ!
 この総説に「片頭痛発作のタイムライン」の表がありました。片頭痛のきっかけは、食事、光、音、匂いなどが引き金になることがあります。片頭痛は、①前駆症状(Premonitory)期→②前兆(Aura)期→③頭痛期→④後発症状(Postdrome)期の順で進行します。機能的画像診断では視床、視床下部、脳幹、皮質の活性化が見られるそうです。
 ギザギザの歯車が見える前兆期の前に前駆症状期があります。この時期のみに起こる症状はあくび、頻尿などです。また前駆症状期から後発症状期まで継続する症状があります。頸部痛、疲労感、気分変化、光・音過敏性です。嘔気は前駆症状期で少し遅れて始まり後発症状期まで継続します。頭痛だけでなく頸部痛も起こりうることに注意です。
 また前兆期から頭痛期の前半まで続く症状に、視野変化、痺れ、構音障害、認知能低下、めまいがあります。
 頭痛は頭痛期のみにあります。片頭痛の程度は人によりさまざまで、①から④まで全てがそろうわけではありません。
 頭痛期から後発症状まで続くのは、アロディニアなどです。
 片頭痛の診断は頭痛よりも光・音過敏性、嘔気、機能障害の方が役立つそうです。前兆や認知機能不全、めまい、疲労感などがあると医師は画像診断をオーダーしがちですが、症状が徐々に始まり一過性であれば不要だそうです。頸部痛も片頭痛で多いそうで、頸椎病変と間違われ頸椎の画像診断が行われてしまいます。また、片頭痛は医師や患者により副鼻腔由来と間違われ「sinus headache」などと診断されます。
 以下に簡単な片頭痛の診断クライテリアがあります。これを見ると「仕事や勉強の忌避が最低1日ある」という条件があり、片頭痛の方に仕事や勉強を強要してはいけないんだなあと思いました。また、「へー」と思ったのは頭痛がないphaseでは羞明(photophobia)がより強いのだそうです。

【簡単な片頭痛のクライテリア】(ID Migraine validation study)
 このクライテリアは93%の陽性的中率(陽性の場合に真に陽性である確率)です。過去3カ月、最低、次の2つを伴う頭痛が存在する。
・嘔気あるいは胃部不快感(sickness to stomach)
・羞明(頭痛のないときは羞明がより強い)
・仕事や勉強の忌避が最低1日ある

 また前兆がない場合の片頭痛の診断クライテリアがあります。

【前兆なしの片頭痛の診断】 (ICHD-3:International Classification of Headache Disorders3版)
 次のクライテリアを満たす最低5回の頭痛発作があること。
・4~72時間続く頭痛(未治療または治療失敗の場合)
次のうち、最低2つの特徴がある
・片側性
・拍動性
・中等度から重度の頭痛
・頭痛の為、散歩や階段昇降などの日常動作を避ける
・頭痛発作中、最低次の1つがある;嘔気/嘔吐、羞明(photophobia)、音声過敏(phonophobia)

 私は今まで片頭痛って血管拡張による拍動でズキズキ(throbbing)すると思い込んでいたのですが、この20年でこれに対し疑問が持たれるようになった(refuted、反駁する)のだそうです。片頭痛の治療は血管を収縮させることではないというのです。なんと鼻粘膜血管収縮薬は片頭痛の原因になります。また片頭痛発作で脳虚血や脳梗塞が起こることは極めて稀だそうです。

5. SSRI、PPI、経口避妊薬、HRT、鼻粘膜血管収縮薬、オピオイドは片頭痛を起こす!
 私の場合、今まで片頭痛の患者にはトリプタン系薬(スマトリプタン、リザトリプタンなど)を処方してそれでおしまいでした。今回、この総説を読んで大変驚いたのは次のような片頭痛誘発薬があり、これらをまず中止せよということです! これらの中止で劇的に片頭痛が軽快する患者がいるそうです。
 この片頭痛を誘発する薬に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)が入っているのに仰天しました。よもやこんな薬が片頭痛の原因になるなんて思いもよりませんでした。また血管を収縮させる鼻粘膜充血除去薬、なんとオピオイドが含まれているのにも驚きました。オピオイドは、週1回か2回の内服でも片頭痛をひどくすることがあるのだそうです。知らないということは恐ろしいことだとつくづく思いました。

【片頭痛を誘発する薬】
・SSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)
・PPI(オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど)
・経口避妊薬 ・閉経後HRT(ホルモン補充療法)
・鼻粘膜血管収縮薬(ナファゾリン、テトラヒドロゾリン・プレドニゾロン配合、トラマゾリン)
・オピオイド

6. トリプタン系薬は前駆症状期に開始! NSAIDs併用も可。制吐薬を併用せよ
 片頭痛の治療にはトリプタン系薬(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン)がやはり有効です。しかし1錠700円から900円以上もしますから、つい患者は使用開始を遅らせがちだというのです。米国の保険会社は1カ月当たりの処方量を制限していますが、これはエビデンスに基づきません。トリプタン系薬は頭痛が始まる前に開始した方がより有効です。ですから前駆症状のときに開始するよう説明せよとのことです。
 トリプタン系薬が著効しない患者は、頭痛が既に中等度以上になってから内服するためと思われます。こうなるとmedication-overuse headache(MOH)と言って、月15回以上頭痛があってトリプタン系薬を10日以上使用する患者が出てきます。効かないので薬を継ぎ足すためです。ポイントは「前駆症状のときにトリプタン系薬を開始せよ!」です。トリプタン系薬が奏効しない場合は、NSAIDs併用が有効な場合があります。
 制吐薬(メトクロプラミドなど)も重要でありERでは非経口投与も可です。嘔気がある場合、トリプタン系薬はスマトリプタンなら経鼻、皮下注も可能です。
 頭痛薬の効果は以下のような感じです。NSAIDsはアスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセンなどです。小生、今まで頭痛薬としてまずアセトアミノフェンを出すことが多かったのですが、「あまり効かないんだなあ」と知りました。これからは頭痛にはまずNSAIDsを出してそれからトリプタン系薬にしようと思いました。

・トリプタン系薬:2時間で頭痛軽減16~51%、頭痛消失は9~32%
・アセトアミノフェン:2時間で頭痛軽減19%、 頭痛消失 9%
・NSAIDs:2時間で頭痛軽減17~29%、頭痛消失7~20


7. 片頭痛予防にプロプラノール、カンデサルタン、トピラマート、三環系抗うつ薬、Cefaly deviceが有効
 次に片頭痛の治療でなく予防です。片頭痛が週1回以上、月4回以上起こる場合は予防治療を行います。特に、β遮断薬のプロプラノール、ARBのカンデサルタンは40%で有効です。「なんでARBのブロプレスなんだい?」と思って調べたのですが、よく分かりませんでした。経験的にブロプレスに辿り着いたのでしょうか?
 また抗痙攣薬のトピラマート (商品名トピナ)や三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(商品名トリプタノール)、ノルトリプチリン(商品名ノリトレン)が使われます。
 トピラマートは食欲抑制作用もあるので、特に肥満患者に使用します。三環系抗うつ薬は不眠のあるような患者に使うと良いそうです。ただし同じ抗うつ薬と言ってもSSRI(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミン)は片頭痛誘発薬ですので要注意です。
 米国ではボツリヌス毒素も使用されるのですが、日本国内では顔面痙攣には適応があるものの片頭痛には承認されていません。またneuromodulationと言って、眼窩上神経を電気刺激するCefaly deviceと呼ばれる機器があり、米食品医薬品局(FDA)で片頭痛予防に推奨されています。この孫悟空の冠みたいな道具を毎日20分、前額部に装着するのだそうです(外部リンク参照)。
 また最近の動向として、神経伝達物質のneuropeptideであるCGRP(calcitonin gene-related peptide)が片頭痛を誘発するのだそうで、CGRP受容体に対するモノクローナル抗体が片頭痛に有効であるとして現在、PhaseⅡ、Ⅲの段階だそうで間もなく市販されそうです。

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「アイスクリーム頭痛」の対処法

2017年08月07日 07時50分00秒 | 小児医療
 冷たいアイスを急いで食べると「キーン」と頭が痛くなることを「アイスクリーム頭痛」と読んでいます。英語では brain freeze(脳のフリーズ)。
 正式な医学名は「翼口蓋神経節神経痛」だそうです。
 その対処法を解説した記事を紹介します。
 簡単に言うと「ゆっくり食べる」こと。

 まあこれも当たり前といえば当たり前ですね(^^;)。

 メカニズム的には偏頭痛と近似しているとの記載あり。

■ 「アイスクリーム頭痛」が起きる仕組みと予防法
HealthDay News:2017/08/07:ケアネット
 キンキンに冷えたスムージーやアイスクリームがおいしい季節だが、あまり急いで食べると一瞬だがひどくキーンとする頭痛が起きることがある。この頭痛は「アイスクリーム頭痛(brain freeze)」と呼ばれるもので危険性はないが、少しの心がけで防げる可能性があると、頭痛専門医である米テキサスA&M大学医学部のStephanie Vertrees氏はアドバイスしている。
 同氏によると、アイスクリーム頭痛は医学的には「翼口蓋神経節神経痛」と呼ばれる。「翼口蓋神経節は口蓋の奥にある神経の束で、冷たい食べ物に敏感。そのため、冷たい食べ物が喉を通っていくときにこの部分に触れると神経が刺激され、その情報が頭痛を起こす脳の領域に伝わる」と、同氏は説明する。
 この神経節は片頭痛や群発頭痛の原因となることでも知られており、その予防法を探すための研究が続けられている。片頭痛の患者では、アイスクリーム頭痛が治療に役立つ可能性もあるという。「誰にでも必ず有効だとはいえないが、アイスクリーム頭痛を起こせば片頭痛を緩和できる可能性がある」と同氏は話している。
 ただ、多くの人にとっては、アイスクリーム頭痛に伴う一時的な不快感は和らげるか、できれば完全に避けたいと考えるものだろう。同氏が紹介するアイスクリーム頭痛を避ける方法は以下の通り。

・冷たい食べ物は、急がずにできるだけゆっくり食べること。そうすれば自分の口の中で食べ物を温めることができる。
・冷たい食べ物は、口内の前の方に含むようにすること。口内の奥の方を刺激するとアイスクリーム頭痛を引き起こす可能性があるため。
・アイスクリーム頭痛が起きそうだと思ったら、舌を口蓋に押しつけると痛みが和らぐ可能性がある。舌の温かさで副鼻腔と翼口蓋神経節を構成する神経が温まるため。

 Vertrees氏は、「アイスクリーム頭痛は危険なものではなく、放っておいてもすぐに軽快する。つい急いで食べたり飲んだりしてしまうという人は、アイスクリーム頭痛について理解し、ゆっくりと食べたり飲んだりすることを心がけるとよいだろう」とアドバイスしている。
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「小児の頭痛ー診かた・考え方の実践ー」(小児科診療 Vol.76 No.8, 2013)

2014年03月23日 15時18分14秒 | 小児医療
 第2弾は医学系雑誌の「小児の頭痛」特集号。
 啓蒙書と違い、科学的根拠(エビデンス)に基づく記述が明解で心地よい。
 お役立ち情報をメモメモ。

 国際頭痛分類はトリプタン製剤を有効に使うためのスキルという視点から作られたものらしい。事前に基礎疾患の除外をストイックに行う必要があります。
 小児に片側性が少なく、拍動性も少ないという現象は、本当にそうなのか、表現できないだけなのかという疑問が最後までつきまとうのは「痛み」という主観による症状で診断する疾患ですから仕方がないのでしょう。
 片頭痛発作中の頭痛の性質に変化があることを教えていただきました。ピークに至る過程では拍動性、その後は炎症が中心になるので非拍動性になり、トリプタン製剤が効くのは前半の拍動性頭痛である、という記述は服用指導をする際のポイントになります。
 トリプタン製剤が「小児適応がない」事実を受け入れ、学会の指診などを参考に手探りで使用するのが現状です。臨床現場としては、早くこのようなストレスなく診療できる環境にしていただきたいものです。

※ なお、頭痛=片頭痛ではありません。この項目のメモは「他の病気を除外した」という前提での記載とお考えください。


片頭痛の症候と診断(神戸市立医療センター西市民病院小児科:安島英裕)
・1980年代に発売されたトリプタン製剤は、鎮痛剤ではないにもかかわらず片頭痛に著効し、片頭痛の発症機序として三叉神経血管説(Moskwitz)が正しいことを証明することになった。これ以降、片頭痛の研究や診療が飛躍的に発展した。
・1988年に国際頭痛分類初版が公開され、2004年に第2版へ改訂された。その中で「トリプタン製剤が有効そうな患者を捜すときは、この分類の前兆のある片頭痛や前兆のない片頭痛の診断基準に基づいて患者を診断しなければならない。」と記載されており、極論すればトリプタン製剤の使用を念頭に作成された典型的な片頭痛を診断する基準だとも解釈される。逆に診断基準から外れる例については、生命に関わり後遺症を残す可能性のある疾患を見逃さないことが大切である。

前兆のない片頭痛の診断基準】(ICHD- code1.1)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある(注1)
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)(注2-4)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.片側性(注5・6)
 2.拍動性(注7)
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心又は嘔吐(あるいはその両方)
 2.光過敏および音過敏(注8)
E. その他の疾患によらない(注9)


(注)
1.1.1「前兆のない片頭痛」と2.1「稀発反復性緊張型頭痛」は時に鑑別が困難であると思われる。したがって、発作を5回以上経験していることを診断の要件とした。発作回数が5回未満の例は、それ以外の1.1「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たしていても、1.6.1「前兆のない片頭痛の疑い」にコード化すべきである。
2.片頭痛発作中に入眠してしまい、目覚めたときには頭痛を認めない患者では、発作の持続時間を目覚めた時刻までとみなす。
3.小児では片頭痛発作の持続時間は1-72時間としてよいかもしれない(ただし、プロスペクティブな日記研究により、小児においては未治療時の発作持続時間が2時間未満であり得ることのエビデンスは、プロスペクティブな頭痛日記により確認する必要がある)。
4.発作が3ヶ月を越える期間にわたり15日/月以上生じている場合には、1.1「前兆のない片頭痛」としてコード化すると共に、A1.5.1「慢性片頭痛」(2006年に新しい基準が公表された)としてコード化する。
5.幼児の片頭痛は両側性である場合が多い。成人にみられる片側性の頭痛パターンは思春期の終わりか成人期のはじめに現れるのが通例である
6.片頭痛はふつう、前頭側頭部に発生する。小児における後頭部痛は、片側性か両側性かを問わず希であり、診断上の注意が必要である。
7.拍動性頭痛(pulsating)とは、ズキンズキンする(throbbing)、あるいは心臓の拍動に伴い痛みが変化することを意味する。
8.幼児の光過敏及び音過敏は、行動から推測できるものと思われる。
9.病歴及び身体所見・神経所見より頭痛分類5-12を否定できる、または、病歴あるいは身体所見・神経所見よりこれらの疾患が疑われるが、適切な検査により除外できる、または、これらの疾患が存在しても、初発時の発作と頭蓋疾患とは時間的に一致しない。

(著者の補足)
B. 頭痛の持続時間
 小児の片頭痛は1-3時間で落ち着くことも多い。中には30分ほどのものもあるが、数十秒~数分の頭痛を繰り返す場合は二次性頭痛の可能性を考慮する。片頭痛が72時間を超えて持続する場合は、片頭痛の診断に「片頭痛発作重積」(ICHD- code1.5.2)を付記する。
C.
1)片側性:
 片頭痛がいつも同じ部位で起こる人は少なく、発作のたびに部位が変わる方が多い頭の両側が痛くても痛みに左右差があるならば片側性とし、左右差がない場合や頭全体が一様に痛い場合は両側性とする時に片側性、時に両側性の場合は両者を記載する。成人では片側性が60%、両側性が40%であると報告されている(Silbersteinら)。小児では両側性が多いが、本当に左右差がないのか、それを表現できないだけなのかは不明である。筆者の施設では片側性が40%であり、小学校高学年以降に片側性が増える
 片頭痛は三叉神経の支配領域である前頭側頭部に発生し、頭頂部痛もよくある。ただし後頭部痛は三叉神経の支配領域から外れ、とくに小児では片側性、両側性を問わず希であるため二次性頭痛の鑑別が必要である。
2)拍動性:
 拍動性は幼少時には少なく、50歳以上でも不明確になるので血管の硬度なども影響するかもしれないが、本当に拍動性ではないのか、表現できないだけなのかは不明である。小学校低学年では拍動性を訴える児が増える。この拍動性の痛みは片頭痛の始まりからピークにかけてみられ、この時点ではトリプタン製剤が著効するが、ピークを過ぎると痛みの主体は血管性から血管周囲や神経の炎症へと変化して拍動性が失われ、非拍動性の頭痛に変化する。また、片頭痛が軽く経過すると拍動性にならず終わることもある。これを機械的に診断基準に当てはめると、片頭痛患者の多くが拍動性/非拍動性頭痛の両者を経験するため、緊張性頭痛を持つという結果になってしまう。
3)中等度~重度の頭痛:
 筆者は寝込むほどのつらい頭痛を重度、寝込むほどではないが勉強や遊びがつらいと感じる頭痛を中等度、生活に支障のない頭痛を軽度と表現してもラテ居る。本人の訴える重症度と生活支障度に乖離があるものは精神疾患の可能性も視野に入れる。
D.
1)悪心または嘔吐
 小児は悪心がなくても嘔吐する場合がある。繰り返す嘔吐がいじめの対象になることもあるので注意が必要である。成人では悪心はあっても嘔吐の頻度は減ってくる。小児周期性症候群(code 1.3)、腹部片頭痛(code 1.3.2)では嘔吐や腹痛が強すぎて片頭痛に気づいていないことも多い。
2)光過敏および音過敏
 両者が揃わないと1項目とならないが、小児では両者が揃わないことが多い。付録診断基準の前兆のない片頭痛(code 1.1)では、悪心、嘔吐、光過敏、音過敏、臭過敏のうち2項目あれば診断基準Dを満たすので、こちらを用いてもよい。
 光過敏は、片頭痛痔の症状として「まぶしいから電気を消して欲しい」と訴える、頭から布団を被って寝込む、などがみられ、片頭痛の誘発因子としては強い光や水面に反射する光やネオンなどが挙げられる。
 音過敏は、片頭痛の症状として「周りの音や友人の声が気に障る」などの打った江波みられ、片頭痛の誘発因子としては大きな声や音などがある。教師が日光の差し込む窓際に経って大声で怒鳴った際に片頭痛が起きる児もいる。
 臭過敏は、片頭痛時の症状として、ふだんは気にならない花や香水やタバコの臭いが気になる、などがみられ、片頭痛の誘発因子として不快な臭いなどがみられる。プールの消毒液の臭いが苦手な児もいる。

前兆のある片頭痛
 成人も小児も前兆がない方が多く、前兆がある場合も毎回ではない。
 片頭痛は「三叉神経血管説」で説明できるが、前兆は「皮質拡張性抑制」という別の機序が加味され、発症機序に異なる点があるため、それぞれ別の片頭痛として扱う。前兆には視覚症状、感覚症状、言語症状の三つがあり、その責任病巣は大脳皮質である。
・視覚症状・・・陽性徴候:閃輝暗点、 陰性徴候:視覚が低下あるいは消失
・感覚症状・・・陽性徴候:チクチクする異常知覚、陰性徴候:感覚鈍麻(小児期ではあまりない)
・言語症状・・・陽性徴候:ない、陰性徴候:失語性言語障害(小児期ではあまりない)

◇ 予兆
 前兆の有無にかかわらず、片頭痛の数時間ないし1-2日前から生じる以下の症状は予兆と呼ばれる。
 頭痛が起こりそうという予知感、首や肩のこり、生あくびが多い。ほかに活動性更新、疲労感、倦怠感、意識消沈、うつ、集中困難、光や音に対する過敏性、悪心、満腹感、下痢、霧視、顔面蒼白など。

◇ めまい
 片頭痛に伴うめまいは vertigo も dizziness もあり、予兆としても前兆としても記載される。

◇ 片頭痛の誘発要因
・血管が拡張する状況:人混み、高温、多湿、運動、発汗
・ストレス:緊張から解放されてホッとしているときにおきやすい。成人では週末に、小児では下校時や下校後。
・運動:階段を昇るときなどにおきやすい。
・睡眠:片頭痛はぐっすり休むことで改善することが多い。不規則な時間帯の睡眠や、睡眠不足や睡眠方は片頭痛の誘因となる。
・不規則な食事:とくに朝食抜きは低血糖刺激により昼食前に片頭痛をおこしやすい。

◇ 片頭痛の経年変化
 片頭痛は15-20歳前後で発症することが多く、25-30歳頃に頭痛のつらい時期があり、40歳を過ぎると痛みの程度は徐々に軽くなり、寝込む機会も減り、嘔吐も少なくなる。


小児の片頭痛治療(宇多野病院小児神経科:白石一浩ほか)
・小児の片頭痛に対するトリプタン製剤、予防薬は保険適用外使用であり、使用にあたっては説明、同意が必要である。よって、原則は「薬の使用は必要最小限に」となる。

急性期治療
・アセトアミノフェン(カロナール®):保険適用は「小児の鎮痛薬」。
・イブプロフェン(ブルフェン®):保険適用は「小児での急性上気道炎に関連する解熱・鎮痛薬」。
・鎮痛剤投与が必要なとき:遊びを止めるほどの頭痛が1時間以上継続したとき、眠れないほどの強い頭痛の時。
・トリプタン製剤:海外の小児に於いて、プラセボ対照群を置いた検討で有効性が報告されているのは、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)とリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)の3つである(※)。
日本頭痛学会の「慢性頭痛の診療ガイドライン」では、小児のトリプタン製剤について「体重40kg以上、12歳以上の小児であれば、成人と同量のトリプタン製剤を使用可能と考える」を見解を述べているが、現時点ではすべてのトリプタン製剤の添付文書に「小児等での安全性は確立していない」と記載されている。
・エビデンスを考えると、小児片頭痛の急性期治療として、アセトアミノフェン(10kg/kg/回)もしくはイブプロフェン(5mg/kg/回)が推奨される。両者で効果が不十分な場合、筆者は以下の条件でトリプタン製剤の使用を考慮している;
①感じが小学校高学年以上で、片頭痛と診断できる。
②体重が40kgを越えている。
③てんかん、心疾患の既往がない。
 使用薬剤は海外でのエビデンスの高いリザトリプタン(マクサルトRPD®)、もしくはゾルミトリプタン(ゾーミッグ®RM)の口腔内崩壊錠か、スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)を成人量で使用している。

予防的治療
・筆者は、鎮痛剤乱用を防ぐ意味から、週に2回以上になる症例では予防的治療を提案している。
・プラセボ対照群との比較で有効性が報告されているのは、7歳以上でのプロプラノロールと6歳以上でのトピラマートのみである。日本の小児片頭痛の予防薬についての検討はほとんどない。
・筆者は、小学生までは、まずシプロヘプタジン(ペリアクチン®)かアミトリプチリン(トリプタノール®)を使用している。中学生以上では、上記2剤に加えて、塩酸ロメリジン(ミグシス®)、プロプラノロール(インデラル®)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)を考慮している。

 今、必要なのは、「頭痛時には早めに薬を飲んで学校へ」ではなく「頭痛時にはゆっくり家で休みましょう」と言える社会をまずおとながつくることである。

トリプタン製剤の小児使用に関するエビデンス
スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®):12-17歳の738例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。使用量は20mg。
リザトリプタン(マクサルト®):6-17歳の96症例で、プラセボ対照群との比較に於いて有効性が報告されている。投与量は40kg未満では5mg、それ以上では10mg。プロプラノロールとの併用は禁忌である。
ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®):6-18歳の32症例で、プラセボ対照群との比較において、ゾルミトリプタン2.5mg内服群では頭痛改善率が有意に高かったと報告されている。

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「子どもの頭痛~頭が痛いって本当だよ~」(藤田光江著)

2014年03月21日 15時59分05秒 | 小児医療
メディカル・トリビューン社、2013年発行。

~帯のフレーズ~
 わかってあげることから始めよう。
 頭痛持ちの悩めるお子さんとその家族に。
 幼児から思春期の頭痛の全てがこの一冊に。
 幼稚園や小・中学校の先生もこれで安心。

「子どもの頭痛」はまず大人が理解し、共感するところから治療が始まります。
 疑問や不安をまず解決!
 子どもでも頭痛になるのですか?
 食事で気をつけることは?
 学校は休ませるの?


著者の肩書きは、
北海道大学医学部卒業、医学博士。
筑波学園病院小児科、東京クリニック小児・思春期頭痛外来で診療。
子どもの頭痛をライフワークにしているベテラン小児科医です。

「子どもの便秘」が一段落付いたので、今度は頭痛の患者向けプリントを作るべく手元の本を読み始めました。
一般向け啓蒙書なのでとても読みやすく、1日で読み終わりました。

子どもの頭痛に関する知見が俯瞰でき、知識の再確認とアップグレードができました。
子どもの頭痛の特徴として、
・持続時間が短いことがある:おとなの診断基準は4-72時間のところ、子どもは1-72時間に設定。
・片頭痛といっても必ずしも片側性ではない:診断基準には「年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい」とある、しかし後頭部はあり得ない。
などなど。
また、古くは「自家中毒」と呼ばれた「周期性嘔吐症」が世界的には片頭痛の分類に組み込まれていると聞いていましたが、その正確な位置づけを確認できました。
痛みの程度を「視覚ペインスケール」というツールを使って把握する工夫とか、「薬が必要な頭痛は片頭痛、ガマンできる頭痛は緊張型頭痛」というコメントも参考になりました。

さて、小児の日常診療の中で、頭痛の相談があるとまず処方するのが解熱鎮痛剤です。
風邪で熱が出たときに処方される薬と同じなのです。
代表的なのがアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐薬、カロナール®、コカール®など)であり、インフルエンザにも安全に使用可能な薬です。
これでダメならエルゴタミン製剤(ジヒデルゴット®)という流れでした。

一方、おとなの片頭痛診療は日進月歩で、現在は「トリプタン製剤」全盛期。
しかし小児適応(子どもへの使用許可)がなかなか出してもらえません。
臨床の現場では、アセトアミノフェンでは効果不十分な例には子どもにもトリプタン製剤が見切り発車的に使用されているとの噂も聞きます。

解決したい私の疑問は「子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使用可能か? 可能なら何歳から?」というもの。
この本の中では、「スマトリプタン(イミグラン®)点鼻薬は12歳以上に使用可」とあり、この情報だけでも読んだ甲斐がありました。
錠剤のリザトリプタン(マクサルト®)、ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)も子どもの片頭痛に有効であるとのデータあり。
一方、スマトリプタン(イミグラン®)、エレトリプタン(レルパックス®)は子どもの片頭痛に有効であるとのデータはないとのこと(しかし実際使用して有効例が多いと記されています)。
しかし「イミグラン点鼻液®」の添付文書には「小児等への投与:小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。」と正式に許可されてはいません。
処方の際には「保険適用外使用」であるという「説明と同意」が必要になりますね。

※ ネットで検索すると以下の文章がありました;
「子供の片頭痛によく使われているのは、欧米でも子供の片頭痛によく使われている、リザトリプタン(マクサルトRPD錠)です。副作用が少なく、安全性が高いと評価されています。嘔吐などの強い子供には、スマトリプタン点鼻薬が良いようです。」


それから、慢性化して薬物治療無効例は、やはり心の問題、社会的不安・ストレスが悪化因子になるとも記されています。
便秘にしても、起立性調節障害にしても、うつにしても、この要素が必ず登場します。
「本人が気づき、成長して乗り越えるのをじっと見守って待つ」のが基本と書いてありました。

親業は切ないですねえ・・・。

参考になるHP
日本頭痛協会
 「知っておきたい学童・生徒の頭痛の知識」(養護教員用頭痛冊子2013年版)
□ 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本神経学会・日本頭痛学会)
□ 「国際頭痛分類第2版」「国際頭痛分類第3β版」(日本頭痛学会HP)
 ・・・日本頭痛学会のHPはリンクを張れないようブロックされているので、上記名称で検索してください。



メモ
自分自身のための備忘録。

画像検査が必要な緊急性のある頭痛
□ 救急車を呼んで画像検査ができる病院へ
・今まで経験したことのないような激しい頭痛
・意識消失又はけいれん
・進行する神経症状(片麻痺など)
□ できるだけ早く画像検査ができる病院へ
・後頭部痛(吐気/嘔吐を伴う)
・朝の嘔吐を伴う頭痛
・物が二重に見える、ふらつくなどの神経症状
・頭痛のために睡眠中に目が覚める
・以前からの頭痛の強さや頻度が増す等変化したとき


病院受診前のメモリスト
□ 頭痛の始まった時間
□ 痛む部位
□ 痛みの強さ:日常の動作で痛みが強くなるなど
□ 痛みの性質:ズキンズキン、ガンガンと脈打つ痛み、頭が締め付けられる痛みなど
□ 頭痛の起きる頻度:1ヶ月に何日くらい起きるか
□ 痛みの持続時間
□ 頭痛の前ぶれ:前兆の有無、あるとしたらどんな前兆か
□ どんなときに起きやすいか:天候、食品、睡眠不足などの誘発因子
□ 頭痛に伴う症状:吐気、嘔吐、光・音・においに敏感になるなど
□ 家族の頭痛の有無
※ 今まで罹った病気、不眠や不登校などの有無も。

国際頭痛学会による頭痛分類(ICHD-)

一次性頭痛
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.群発頭痛と他の三叉神経・自律神経性頭痛
4.その他の一次性頭痛

二次性頭痛
5.頭頚部外傷による頭痛
6.頭頸部血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.物質またはその離脱による頭痛
9.感染症による頭痛
10.ホメオスターシスの障害による頭痛
11.頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛
12.精神疾患による頭痛

頭部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛
13.頭部神経痛及び中枢性顔面痛
14.その他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛


片頭痛の分類(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
1.前兆のない片頭痛
2.前兆のある片頭痛
 ① 典型的前兆に片頭痛を伴うもの
 ② 典型的前兆に非片頭痛様の頭痛を伴うもの
 ③ 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
 ④ 家族制片麻痺性片頭痛
 ⑤ 孤発性片麻痺性片頭痛
 ⑥ 脳底型片頭痛
3.小児周期性症候群
 ① 周期性嘔吐症
 ② 腹部片頭痛
 ③ 小児良性発作性めまい
 ④ 小児交代性片麻痺
 ⑤ 良性発作性斜頚


片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
【前兆のない片頭痛】
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
 (年少児では1~72時間)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.片側性:年少児では両側性(前頭側頭部)でもよい(※1)
2.拍動性
3.中等度~重度の頭痛
4.(歩行や階段昇降などの)日常的な動作により頭痛が増悪する、もしくは頭痛のために日常的な動作を避けようとする
D. 頭痛発作中に以下のうち少なくとも2項目を満たす(※2)
 (年少児の場合、行動から推測される)
1.悪心
2.嘔吐
3.光過敏
4.音過敏
5.におい過敏
E. その他の疾患によらない

※1) 年少児の場合は、片側のこともあれば、両側のこともある。両側が痛む頭痛でも、患者が年少児で前頭部もしくは側頭部が痛む場合には片頭痛のこともある。
※2)片頭痛の発作時は「静かなくらい部屋で寝ていたい」と感じるのが特徴である。これは音過敏や光過敏のため。におい過敏が現れている場合は、例えば電車内の香水の匂いなどにより頭痛が悪化することがある。頭痛を訴えながらも平気でテレビを見ているようであれば、痛みの程度はあまり強くないか、片頭痛以外の頭痛と考えられる。


緊張型頭痛の診断基準(国際頭痛分類第2版、新訂増補日本語版、2007年より)
A.
1.稀発反復性緊張型頭痛:平均して1ヶ月に1日未満(年間12日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
2.頻発反復性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に1日以上15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上
3.慢性緊張型頭痛:3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に15日以上(年間180日以上)の頻度で発現する頭痛
かつ、B~Dを満たす
B. 頭痛は30分~7日間持続する
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも3項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感または締め付け感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない
D. 悪心(食欲不振は起こりうる)、嘔吐、光過敏、音過敏がない
E. その他の疾患によらない


片頭痛と緊張型頭痛の相違点

(項目)   (片頭痛) (緊張型頭痛)

発作的な頭痛  (+)   (ー)

持続時間  (4-72時間) (30分~7日間)(※1)
      (1-72時間:年少児)

部位    (片側性    (両側性) 
      年少児では両側性:前頭部/側頭部)

性質     (拍動性)  (非拍動性)(※2)

強さ    (中等度~重度)(軽度~中等度)

日常的動作による悪化(+) (ー)

悪心・嘔吐   (+)   (ー)(※3)

光・音・におい過敏(+)   (ー)

家族歴     濃厚    希薄

※1)慢性緊張型頭痛:絶え間なく続くことがある
※2)圧迫感または締め付け感
※3)食欲不振は起こりうる
 片頭痛と緊張型頭痛という両タイプの頭痛が起こる人がいる。このような頭痛に対し、以前は「混合型頭痛」という病名が使われていたが、現在は使われなくなった。両方が起こるとしても、ある時点で起きているのは片頭痛か緊張型頭痛のどちらかなので、片頭痛があり、緊張型頭痛もあると診断されている。
 
群発頭痛
 ある時期に激しい頭痛が集中するタイプで、頭の片側に起こる。若い男性に多く、子どもに起こることは希。部位は眼窩部、眼窩上部、側頭部のうち1つ以上の部位で持続時間は15分~3時間。発作が起こる頻度は「2日に1回」から「1日に8回」。
 頭痛に伴って、頭痛が起きている同側に、次のような症状を少なくとも1つ伴う。
①「結膜の充血」または「流涙」、あるいはその両方。
②「鼻閉」または「鼻漏」、あるいはその両方。
③「眼瞼浮腫
④「前頭部及び顔面の発汗
⑤「縮瞳」または「眼瞼下垂」、あるいはその両方。
⑥「落ち着きがない」または「興奮した様子

小児周期性症候群
 小児の場合、頭痛以外の症状が強く、頭痛が現れていなくても片頭痛と診断されることがある。片頭痛に移行することが多いといわれている病気で、いずれも乳幼児期に発症することが多い。発作以外の時は症状が全くなく元気である。
周期性嘔吐症
 悪心と嘔吐が見られる周期性の発作。発作が始まると1時間に少なくとも4回は嘔吐が続く。発作は1時間~5日間続く。治療は、水分が不足しないように点滴で水分を補給し、吐気を軽くする薬が使われる他、片頭痛の特効薬であるトリプタンが使用されることもある。
腹部片頭痛
 へその周囲が発作性に痛む。1~72時間続き、痛みの程度は中等度~重度。さらに食欲不振、悪心、嘔吐、顔面蒼白のうち、少なくとも2つの症状が現れる。
 海外ではよく見られるようだが、日本ではこの病気と診断される子どもは少ない。
小児良性発作性めまい
 重度の回転性のめまい発作。数分~数時間で自然に治まる。めったにない病気。耳鼻科での検査や脳波検査、頭部画像検査では異常がない。一過性で症状は消えるが、反復することもある。
小児交代性片麻痺
 体の左右いずれかに、交代制に見られる片麻痺の発作が反復する。生後18ヶ月までに発症する。
良性発作性斜頚
 頭部が片側に傾く症状がみられ、傾くだけでなく、少し回旋を伴うことがある。常に同じ側とは限らず、数分から数日間続いた後、反対側に傾くこともある。生後1年以内に発症し、顔面蒼白、刺激に敏感になる(易刺激性)、倦怠感、嘔吐、運動失調(年長児の場合)などの症状のうち、少なくとも1つは現れる。希な病気。

起立性調節障害(OD)、不登校と頭痛
 片頭痛を持つ子どもの生活歴:小学生では友達が少ない傾向にあるが、行動面での問題はない。中学生では指導的立場にあり人気もある。
ODと頭痛
 慢性反復性頭痛の子どもの中でODの診断基準を50%が満たす。ODの子どもには一次性頭痛の片頭痛が多く、緊張性頭痛がそれに続く。また、ODをもつ不登校児では、緊張型頭痛が片頭痛より高率。
不登校と頭痛
 頭痛による不登校状態で受診する子どもは、片頭痛が共存していることもあるが、毎日続いている頭痛は慢性緊張型頭痛である。しかし緊張型頭痛の痛みは軽度~中等度にとどまるのがふつうで、登校できないほど強い頭痛にならないはず。この慢性連日性頭痛は、何らかのストレスや緊張のため、身体症状として頭痛が強く前面に現れている状態だと考えることができる。
 頭痛が解消しても、遅刻して学校へ行けない場合には、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。
※ 不登校と関連した慢性連日性頭痛の調査を行ったところ、慢性連日性頭痛がある不登校児は、その全てに精神疾患(適応障害、不安障害、転換性障害)が認められた。それに対し、不登校のない慢性連日性頭痛では、精神疾患が認められる子どもは20%にとどまった。
ODと不登校
 ODだけなら、生活指導や薬の効果によって、昼頃には体調がよくなり、遅刻して登校することができる。
 一方、遅刻して登校することがどうしてもできない子どもには、何らかの心理・社会的要因があると考えられる。このような場合、何かがきっかけとなり、学校がこの子にとって、大きな不安要因になって、身体疾患である起立性調節障害の症状が強くなったと考えられる。

精神疾患に関連した頭痛(国際頭痛分類第2版より)
 一次性頭痛(片頭痛、反復性緊張型頭痛、特に慢性緊張性頭痛)は精神疾患をしばしば共存している。幼児期、小児期、青年期に診断される睡眠障害、分離不安障害、学校恐怖症(不登校)、適応障害やその他の障害(特に注意欠陥・多動性障害、行為障害、学習障害、遺尿症、遺糞症、チック)では、小児の頭痛の支障度と予後への影響が大きいので、注意深く見つけ出し、必要があれば治療sれなければならない。また、頭痛が神経疾患によるものかどうか確定するために、頭痛と同時に精神疾患が存在するかを最初に決定することが最も重要である。すなわち、最低限、全体的な不安、パニック障害、抑うつのような一般的に共存する精神症状について問診することは重要である。

発達段階から見た小児の主な頭痛

幼児から小学校低学年
1.片頭痛(軽度)
2.緊張型頭痛(稀発・頻発反復性)
3.てんかんに関連した頭痛

小学校高学年から高校生
1.片頭痛(軽度~中等度~重度)
2.緊張型頭痛(頻発反復性・慢性)
3.起立性調節障害の頭痛
4.心理・社会的要因関与の頭痛
※ 片頭痛を経験している子どもに、思春期になってストレスがかかるようになると、慢性緊張型頭痛が加わり、治りにくい慢性連日性頭痛になってしまうことがある。

あらゆる年齢(上記疾患に加えて)
1.炎症性疾患、高血圧を伴う疾患
2.耳鼻咽喉科、眼科、歯科疾患
3.脳腫瘍など脳神経外科疾患

片頭痛は遺伝するか?
 家族集積性がある:子どもが片頭痛の場合、男子/女子にかかわらず家族に頭痛持ちが居る割合は80%(母が片頭痛は60%)。
 ただし、片頭痛の遺伝子に関しては、家族制片麻痺性偏頭痛という特殊な片頭痛の遺伝子が見つかっているのみで、一般的な片頭痛に関しては現在の所特定の遺伝子は発見されていない。そのため、複数の遺伝子と環境因子が発症に関係している多因子遺伝病であると推測されている。
 しかし、「国際頭痛分類第2版」の診断基準には、頭痛の家族歴は含まれていない(以前使われていた小児片頭痛に関するいくつかの診断基準には含まれていた)。

痛みの評価法~幼児にも使える「視覚ペインスケール」
 幼児期までは症状を言葉で表現する能力が未熟。言葉による表現に頼らずに痛みを評価する方法として「視覚ペインスケール」が有用である。どの程度の痛みかを、スケールの表情から本人と保護者に選んでもらうと、本人の訴えている痛みと、保護者から見た客観的な痛みの程度の療法を評価することができる。



前兆の「閃輝暗点」とは?
 片頭痛の前兆として知られ、見ようとするところが暗くぼやけ、その周りがキラキラ光って見える現象。
 著者の外来では、子どもの片頭痛のうち女子の35%、男子の26%が「前兆のある片頭痛」だった。

特殊型「脳底型片頭痛」
 一過性に津日のような症状のうち少なくとも2つが現れる;
・構音障害:おしゃべりがしづらくなる
・回転性めまい:周りがグルグル回る
・耳鳴り/難聴:耳が聞こえにくくなる
・複視:物が二重に見える
・両眼の視覚障害:物が見えにくくなる
・運動失調:よろめいたり倒れやすくなったりする
・意識レベルの低下:意識がぼんやりする
・両側性の感覚障害:両手足がチクチクしたりムズムズしたりする
※ これらの症状はてんかんの発作でも見られるため、症状が現れている場合には脳波の検査を受けてんかんでないことを確認しておくことも必要である。

薬物乱用頭痛
 頭痛に対する急性期治療薬を、1ヶ月に10日あるいは15日以上使用することが、3ヶ月を越えて続いていて、この薬物乱用によって、頭痛が現れたか、あるいは頭痛がはっきりと悪化した場合をいう。

子どもの頭痛の慢性化リスク要因と対処法
慢性化のリスク要因
1.片頭痛の既往
 回数の少ない片頭痛に緊張型頭痛が加わり、慢性化していることが多い。
2.気持ちを言語化するのが苦手な、いわゆるよい子にストレスがかかると、頭痛が慢性化しやすい。
3.年齢的要因
 思春期(特に中学生が要注意)
4.共存症のある場合
1)起立性調節障害
2)精神疾患(適応障害、不安障害、身体表現性障害、抑うつ状態、発達障害)
対処法:慢性化の早期発見
 回数が少ない時期に、正しい片頭痛の診断と対処法を知り、回数が多くなったら早めに受診する。
 
小児一次性頭痛の簡易診断アルゴリズム
① 二次性頭痛の除外
② 日常生活の支障度→ 小さい→ 片頭痛(軽度)、反復性緊張型頭痛
  ↓
 大きい
  ↓
 ③1ヶ月何日頭痛があるか
  → 15日未満→ 片頭痛(中等度~重度)
    → ④前兆はあるか→ ある:前兆のある片頭痛
             → ない:前兆のない片頭痛
  → 15日以上→ 慢性連日性頭痛
    → ⑤心理・社会的要因は?→ ある:慢性緊張型頭痛
                 → ない:慢性片頭痛


頭痛の発生頻度
片頭痛
□ 3-19歳の調査:男児1.4-13.8(平均6.0)%、女児2.1-28.4(平均9.7)%、全体の有病率は7.7%
□ 中学生の調査(安藤直樹医師):男児3.3%、女児6.5%、全体では4.8%
 思春期前では男女ともに2.5%前後、思春期になると男児4%、女児6.4%。成人では女性が男性の3倍。
緊張型頭痛
□ 7-19歳の調査:男児0.9-19.1(平均10.1)%、女児1.7-23.2(平均14.5)%。

 一般病院(筆者の勤務病院)の小児科外来に頭痛を訴えて受診した2-15歳では、片頭痛57%、緊張型頭痛16%、片頭痛と緊張型頭痛の共存4%、2次性頭痛3%、分類できない頭痛20%。

小児片頭痛の治療の基本
1.正しい片頭痛の診断
2.非薬物療法
① 誘発因子(まぶしい光、チーズ、チョコレートなどの食品)があればそれを避ける
② 睡眠時間:年少児ほど十分な睡眠が必要
③ 規則正しい食事や水分摂取、適度な運動などの生活リズム
④ 過程、学校、習い事などにおける心理・社会的ストレスの把握
3.薬物療法
① 急性期治療
② 予防薬

片頭痛に使う薬
急性期治療
 鎮痛剤は頭痛が始まったら、あるいは頭痛の前兆が短い場合は前兆が起こったらすぐに服用する。できるだけ早く十分な量を服用するのが、薬を良く効かせる上手な使い方。
 子どもの頭痛の第一選択薬は解熱鎮痛剤のイブプロフェン(ブルフェン®、ユニプロン®)アセトアミノフェン(カロナール®、コカール®、アンヒバ®、アルピニー®ほか)
 吐気を伴うときは、制吐剤のドンペリドン(ナウゼリン®)メトクロプラミド(プリンペラン®)を併用する。
 これらを使用しても十分な効果が得られない場合は、トリプタン製剤(※)の使用を考える。
 ただし緊張型頭痛には、片頭痛ほど薬が効きません。
※ トリプタン製剤は片頭痛の特効薬で、その一種である「スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻液®)」は12歳以上で有効例多数。イミグラン点鼻液®は苦味があるので嫌がる子どももいる。上を向いて点鼻すると、喉に液が垂れて強い苦味を感じる。正面を向いたまま点鼻し、鼻孔を数分間押さえるようにすると、あまり苦味を感じない。キャンディを舐めながら点鼻することもオススメ。
※ イブプロフェンやトリプタンは現状では「適応外使用」になる。しかし、決められた量を使用している場合には、海外でも問題になる副作用は報告されていない。イブプロフェンやアセトアミノフェンが効かない場合や、頭痛に伴ってひどい嘔吐を繰り返す場合には、QOLの改善を期待して、トリプタン系薬剤の投与を考えるべきである。
予防薬
 繰り返す片頭痛により日常生活に支障をきたしている場合は予防薬の投与を考える。
 すぐに効果が現れるわけではなく、まったく頭痛が起きなくなるとも限らない。有効かどうかは8~12週間使用してみてはじめてわかる。
ロメリジン(ミグシス®、テラナス®):カルシウム拮抗薬。思春期の学童に有効例多い。
シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬。10歳以下によく使用される。けいれん誘発作用があるので、発熱時は中止するなど慎重に使用する必要がある。
アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。思春期以降でよく使われ、緊張型頭痛の予防薬としても効果があるため、片頭痛と緊張型頭痛が共存する患者さんにも効果が期待できる。
トピラマート(トピナ®)バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®。バレリン®、ハイセレニン®):抗てんかん薬。子どもに使用する場合は定期的な肝機能検査が必要。

緊張性頭痛の治療

1.非薬物療法・生活指導
・疲労、食事を抜く、不規則な睡眠、ストレスなどが関連していることがよくある。習い事、塾、部活動などで生活が加重になっていないか、家庭や学校などの集団生活における人間関係に問題はないかなど、子どもの置かれた生活環境を見直す。
・心理・社会的要因や精神疾患が関与していることがある。
・早寝早起きを励行させて生活リズムを整え、栄養バランスのとれた食事を規則正しくすること、適度な運動を勧める。
・ゲームやテレビは時間を制限する。ゲームやテレビに長時間集中し、同じ姿勢を取り続けることによって、首筋のこりや肩のこり、あるいは眼精疲労が起こりやすくなる。そもそも、発達途上の子どもにとってゲームやテレビに集中するのは百害あって一利無しである。
※ 成人の場合は長時間のパソコン作業で緊張型頭痛が起きやすい。
・何をする場合でも、長時間同じ姿勢を続けないように心がける。

2.薬物療法
 片頭痛のように発作性ではなく、持続する頭痛のため鎮痛剤を使用するタイミングが難しい。
 使用される鎮痛剤は片頭痛と同じくイブプロフェンとアセトアミノフェンである。
 おとなでは予防薬として、抗うつ薬のアミトリプチリンや抗不安薬のエチゾラムが使われることがある。緊張を和らげて快眠をもたらす薬であるが、子どもに対する効果の研究は片頭痛ほど進んでいない。

慢性連日性頭痛

1.概要
 頭痛の最重症型。
 1日に4時間以上の頭痛が、1ヶ月間に15日以上あり、それが3ヶ月異常持続している場合に診断される。
 分類上は慢性片頭痛、慢性緊張型頭痛、持続性片側頭痛、新規発症持続性連日性頭痛という4つのタイプからなるが、おとなでも子どもでも多いのは慢性片頭痛と慢性緊張型頭痛である。
 思春期以降では精神疾患の共存と薬物乱用頭痛を考える必要がある。日本は子どもの薬物乱用頭痛は少なく、むしろ心理・社会的要因が関与する頭痛が多くを占める。
 片頭痛と緊張型頭痛の共存は12~14歳の中学生に多く見られ、心理・社会的要因のあるものはないものに比べ難治性になりやすい傾向がある。

2.治療
1.非薬物療法・生活指導
 基礎に片頭痛があったとしてもそれだけということはなく、何らかのストレスや緊張があり、そのために身体症状として頭痛が前面に出ている状態と考えられ、基本的に難治であるのでこの頭痛と気長に付き合っていく覚悟がまず必要である。

「頭痛ダイアリー」の活用
 小学生までなら、睡眠不足などの生活習慣が原因になっていることが多い。
 中学生であれば、心理社会学的要因が誘因になっていることがよくある。しかし、頭痛を訴えている子どもたちは、自分で原因に気づけるほど成熟していない。その「気づき」を促すのに有用なツールが「頭痛ダイアリー」である。
 頭痛ダイアリーは小学生までなら保護者が記入する。保護者は子どもから聞き出すのではなく、基本的に子どもを観察して記入する。中学生には自分で記入させる。
 生活の状況を責めたり、改めるように諭してはいけない。本人が自分の状態に気づき、何とかしようと思うまで待つことが大切である。

心に問題がある頭痛の対応の基本
 子どもと親を別々に面接する。
<子どもへ>
①頭痛はしばらく続くので、頭痛があってもできることから始めよう。
②今日からまず家族の一番身近な人(母親?)に思ったことをストレートに言おう。
③頭痛ダイアリーに頭痛の様子と日常生活、できれば気持ちも書こう。
<親へ>
①この頭痛は治りにくく、鎮痛薬は効かないので、気長に経過を見ていこう。
②心にあることを言語化できない子に強い頭痛が続くことが多いので、本人に気持ちを吐き出させる環境を整えよう。
③根掘り葉掘り聞くより、親は黙って見守る方が有効。反抗的になることは、自我の形成の証で回復の一歩と考える。

親子のカウンセリング
 必ず親子別々に行う。
 思春期にさしかかる小学校高学年から中学生の頃、子どもを取り巻く環境は厳しくなる。こうした中で、いわゆる「よい子」タイプで自分の気持ちを適切に表現できないためストレスをため込んでしまい、そのために強い頭痛が起きていることが多い。
 このような場合、カウンセリングを通じて、本人の心の葛藤を言語化できるようになると、その頃から頭痛は軽減し始め、そして1年くらい経つと、頭痛の訴えは聞かれなくなるか、発作性の片頭痛のみとなる。親からは、子どもは押したり引いたりするよいも、見守りながらそれぞれの成長を待つしかないと、悟った意見が聞かれるようになる。
 子どもの頭痛の専門医として、特に慢性緊張性頭痛に不登校などの心理・社会的要因を伴うような患者さんに接していると、「親子の心の成長にとことん付き合わずには、子どもたちの難治な頭痛は治せない」という境地にたどり着く。

2.薬物療法
 心理社会的要因が絡む頭痛には、鎮痛剤はあまり効果が期待できない。
 抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール®)は小児期や思春期の片頭痛と緊張性頭痛の予防薬として使用されている。
 抑うつ状態、強迫性障害、睡眠障害、社会不安が強い場合には、抗不安薬のエチゾラム(デパス®)アルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)、あるいは抗うつ薬のフルボキサミン(ルボックス®、デプロメール®)を症状に応じて使用し、一定の効果が得られている。
 ODが共存している場合には、低血圧治療薬のミドドリン(メトリジン®)、漢方薬の小建中湯補中益気湯などを使用する。

薬物治療がうまくいかないとき
生活環境を見直す:睡眠は十分に取れているか、食事は規則的に取っているか、過密なスケジュールになっていないかなど。
診断を見直す:緊張型頭痛には片頭痛のトリプタン製剤は効かない。片頭痛の薬を8週間以上使用しても効かない場合には、片頭痛が種ではなく、慢性緊張型頭痛が主となっている頭痛である可能性がある。
セカンドオピニオンを求める。
鎮痛薬の使い過ぎをチェック:1ヶ月間に鎮痛剤の使用が10日を越えている場合には、生活環境を見直すことや、予防薬を服用することを考える。予防薬を使用するときは、数ヶ月間服用して頭痛のない状態が続いていたら、服用量を半分にしてみる。それで頭痛が多くならなければ、減らした量を続ける。悪化した場合は元に戻す。治療の目安は、頭痛によって生活に支障があるかどうかで、生活に支障のない状態にコントロールすることを目指す。



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