小児アレルギー科医の視線

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「抗NMDA受容体脳炎」

2016年12月10日 16時53分47秒 | 医療問題
 この病気、私は知りませんでした。

■ <「悪魔取りつかれた病」>26歳女性、5年越し闘病の記録
(毎日新聞 2016/12/10)
 少女に取りついた悪魔に神父が挑む映画「エクソシスト」(1973年、米国)。少女が奇妙な形相をしたり、体をベッドから浮かせたり、ブリッジのように身体をそらせたまま階段を下りたりするシーンが話題になった。関東地方に住む綾子さん(仮名、26)は5年前、米国留学中に映画の少女のような状態に陥った。医学界で「以前なら悪魔に取りつかれたとして祈とう師が扱っていた」と指摘されるこの病は「抗NMDA(エヌ・エム・ディー・エー)受容体脳炎」。綾子さんも入院中、ベッド上を跳びはねるなど不可解な動きが続いたが、5年越しの闘病の末、今では自転車に乗れるほどに回復した。綾子さんの家族は闘病の様子を撮影した動画を提供し「映像を見てもらうことで病気への理解が深まれば」と話した。

【動画】「エクソシスト」さながら 全身硬直し不随意運動

 抗NMDA受容体脳炎は今でこそ「治る病気」だが、2007年に病名がつく以前は、ホラー映画さながらの症状の連続に医師も手をこまねいてきた。幻覚や幻聴などを伴う不安定な精神状態や不自然な体の動きが出るのが特徴で、重い場合は死に至る。
 発見当初は卵巣腫瘍に対する免疫反応の結果と考えられ、「若い女性の病気」とされていた。卵巣にできた腫瘍は、脳を構成する神経組織を含んでおり、その腫瘍をやっつけようとできた抗体が脳の神経細胞膜に分布するNMDA受容体を攻撃してしまう。研究が進むにつれ、子どもや男性にも発症することが分かった。
 しかし、この病気はいまだ医師の間でも広く知られているとはいえない。患者が受診するのは内科、精神科、脳外科、産婦人科、神経内科など多岐にわたり、各科の連携が不可欠だが、診療科によっては病名さえ知らない医師が少なくないのが現状だ。
 綾子さんは米国留学中の2011年10月に発症した。治療の第一歩は抗体を抑え込むことだ。抗体を作らないよう、卵巣に腫瘍があれば早期に摘出し、免疫反応が起きないようにする。併せて免疫反応を抑制する薬を大量投与したり、血漿(けっしょう)を入れ替えて体内から抗体そのものを取り除く。しかし、綾子さんの卵巣に腫瘍は見つからなかった。免疫抑制剤などの治療は奏功せず、当時は予防的な見地から、米国では珍しくなかった左右両方の卵巣の摘出手術を受けて、ようやく病態が回復。発症から1年後の12年10月にチャーター機で帰国した。その後も国内の病院で治療を続け、14年7月に退院。てんかん発作を抑える薬とホルモン剤を服用しながら、自宅と通院でリハビリに取り組んでいる。
 動画はもともと米国で入院中の綾子さんの状態を家族間で共有しようと米国で付き添った父や母らが撮影したものだ。そのうち提供されたのは、米国の病院で撮影された11年11月から、帰国して入院中の13年1月までの9本。口を突き出したり、すぼめたりとか、手や足が勝手に動いている様子、ベッド上で激しく跳びはねている状態などを映し出している。母親(54)は「多くの医師にこの病気を知ってもらい、患者が救われること、また病気治療の研究が進むことを期待したい」と話している。



<参考>
■ 「脳に棲む魔物」加藤忠史Web Site     
■ 「抗NMDAR抗体陽性脳炎 診断」神経疾患治療マニュアル
■ 「抗 NMDA 受容体脳炎の臨床と病態」臨床神経学 48巻11号(2008:11)
■ 「抗 NMDA 受容体抗体脳炎の臨床と病態」 臨床神経学 49巻11号(2009:11)
■ 「抗 NMDA 受容体脳炎における臨床スペクトラムと治療戦略:現状と問題点」臨床神経学 54 巻 12 号(2014:12)
■ 「抗NMDA受容体脳炎の診断には、CBAによる抗体検査を」金沢医科大学総合医学研究所田中 惠子 先生
■ 「卵巣成熟嚢胞性奇形腫に合併した抗 NMDAR 脳炎の 2 症例」静岡産科婦人科学会雑誌(ISSN 2187-1914) 2014年第3巻 第1号
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