小児アレルギー科医の視線

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小児への新型コロナワクチン(2023年4月更新)

2023年04月01日 16時15分32秒 | 予防接種
オミクロン株の出現以降、新型コロナ感染症(COVID-19)は、
「子どもに少ない感染症」 →「子どもに多い感染症」
に変わってきました。
すると、
「子どもに新型コロナワクチンを接種すべきか否か?」
という問題にあらためて直面します。

前項目で、オミクロン株以降の小児COVID-19の臨床像を書きました。
ポイントは、

・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。

これを踏まえて、現時点での小児へのワクチン推奨度を再考したいと思います。
この項目も、主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)のWEBセミナーを参考にメモを起こして書いています。

ちなみに、日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は、
子どもの臨床像・ワクチンの効果と副反応のデータが集まるとともに、
子どもへのワクチンに関してコメントを発表・更新してきました。

2022年1月時点で、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種も意義がある
2022年9月27日には、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と言葉を換えて発表。
2022年11月2日に、
健康な6ヶ月〜4歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
これらの経緯についても触れてみます。

まず、現在日本で小児に接種可能なmRNAワクチンは以下の通りです。

<初期接種>
注)初期接種回数は6ヶ月〜4歳では3回、それ以外は2回。
【6ヶ月〜4歳】
①(1価)コミナティ(6ヶ月〜4歳用:mRNA量は3μg)初期接種0.2ml×3回、
【5〜11歳】
②(1価)コミナティ(5〜11歳用:mRNA量は10μg)0.2ml×2回
【12歳以上】
③(1価)コミナティ(mRNA量は30μg)0.3ml×2回
④(2価)コミナティRTU・・・初期接種には用いない
⑤(1価)スパイスバックス(mRNA量は100μg)0.5ml×2回
⑥(2価)スパイスバックス・・・初期接種には用いない

<追加接種>
① 未定
② 初期接種と同量(0.2ml)を2回目接種から5ヶ月以上開けて
③ 初期接種と同量(0.3ml)を2回目接種から5ヶ月以上開けて
④ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.3ml(mRNA量30μg)
⑤ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.25ml(mRNA量50μg)
⑥ 2回目接種から3ヶ月以上開けて、0.5ml(mRNA量100μg)

注)
④ 従来株とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5対応)の2価ワクチン
⑤ 従来株とオミクロン株(BA.1またはBA.4/5対応)の2価ワクチン

…接種量・接種間隔・接種回数がバラバラで間違わずに接種するのが大変。
現場に立つ人間としては、
「誤接種しやすいよう意地悪に設定している」
ようにさえ、見えてしまいます。

さて、現在の接種率の実績です;

       (高齢者)  (5-11歳)(6ヶ月-4歳)(全体)
1回以上接種: 92.6%     24.1%   3.7%   81.7%
2回接種完了: 92.4%    23.3%     3.3%    80.3%   
3回接種完了: 91.2%     9.2%     1.6%    68.5%

と、高齢者は90%以上の人が3回接種を完了している一方で、
小児では接種率が低く、とくに4歳未満では5%にさえ達していません。

実は医師の間でも子どもへの接種に対する考え方は温度差があり、
一枚岩ではありません。
ですから、保護者の皆さんが迷い、躊躇するのは当たり前ですね。

さて、第8波がほぼ終息した2023年4月の今、
健康な子どもへのワクチン接種はどう考えるべきでしょうか?

日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会では、2022年1月時点で、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種も意義がある
と発表しました。
当時はまだオミクロン株への有効性のデータがなく、
手放しに推奨と言うより、ちょっと腰が引けた言い回しになっています。

その後、オミクロン株に対する有効性のデータが集積されてきました。

信頼性の高い統計(系統的レビュー、メタ解析)では、
オミクロン株流行期であっても、
・発症を半分に減らす
・入院を3分の1に減らす
・MIS-Cを20分の1に減らす
ことが判明しました。

アルゼンチンからの報告では、2回接種の効果は、
・発症予防効果は2ヶ月後には50%未満へ低下
・死亡予防効果は保たれる
という内容。

他にも、以下の報告があります(JAMA)。
・2回接種の効果はオミクロン株に対して3ヶ月持たないが、追加接種後は再上昇し3ヶ月以上持続する → 追加接種すれば有効性は期待できる。

副反応に関しては、米国ACIPによると、
・局所の痛みは16-25歳よりやや軽い。
・全身症状(熱、倦怠感、頭痛など)は16-25歳よりも軽い。
・心筋炎の発症は、12-24歳の10分の1程度で、いずれも軽症。
と報告されています。

日本における心筋炎の頻度は、100万人あたり、
(10代)3.7人(ファイザー)、28.8人(モデルナ)
(20代)9.6人(ファイザー)、25.7人(モデルナ)
であり、COVID-19自然感染の心筋炎発症頻度である、
(12-17歳)450人(海外データ)
(15-39歳)834人(国内データ)
より二桁少ない発生率です。

以上をまとめると、健康な5-11歳の子どもへのワクチンを考える際の材料として、

・2回接種1ヶ月以内のオミクロン株感染予防効果は10-50%程度で、
 この効果は3ヶ月持たない(しかし追加接種で回復)
・2回接種後1ヶ月以内のオミクロン株入院予防効果は50-80%(長期的な効果は不明)
・副反応は、局所反応も全身反応も16-25歳と比べて少ない。
・副反応としての心筋炎も12-24歳の10分の1程度で、いずれも軽症。

・小児の感染例が激増し、重症例・死亡例も増えた。
・日本の子どもは中枢神経合併症が多い。

にたどり着き、森内先生は「意義がある」から「推奨する」に変更すべき、
という意見でした。

日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は2022年9月27日に、
健康な5-11歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と言葉を換えて発表。

では、より低年齢の「健康な6ヶ月-4歳」への接種はどうでしょうか?
判断材料となる情報は、

・5-11歳よりも重症化リスクが高い。
・オミクロン株への有効性のデータがすでにある。
(CDC:2回接種では有効性が期待できないが、3回接種で約80%)
・日本のデータでも、オミクロン株流行期の治験で、発症予防効果が73.2%。
・副反応はプラセボ(偽薬)とほとんど変わらない → ないに等しい。

上記を根拠に、日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は2022年11月2日に、
健康な6ヶ月〜4歳の子どもへのワクチン接種を推奨する
と発表しています。

森内先生は子どもへの新型コロナワクチン接種の是非(YES-No)を考える要素を列挙し、
わかりやすく説明してくれました。

(YES)
・感染を防ぐ
・重症化を防ぐ
・MIS-Cを防ぐ
・後遺症を防ぐ
・社会の流行を防ぐ
・子どもの日常を取り戻す
・コロナ前の社会経済活動により早く戻す

(No)
・感染予防効果は小さい
・重症化は極めてまれ
・日本人・オミクロン株ではMIS-Cはまれ
・子どもの後遺症の実態は不明
・流行阻止効果は疑問
・学校の感染拡大は続く
・非常に高価なワクチンで費用対効果に劣る

そしてオミクロン株に対するワクチンの効果と副反応が明らかになってきた現在、
(YES)の項目を再評価すると、

✖️ 感染を防ぐ
〇 重症化を防ぐ
〇 MIS-Cを防ぐ
? 後遺症を防ぐ
✖️ 社会の流行を防ぐ
✖️ 子どもの日常を取り戻す
? コロナ前の社会経済活動により早く戻す

となり、苦戦している状況が見えてきます。
簡単にまとめると、

健康な子どもへの新型コロナワクチン接種は、
・重症化を防ぐが流行を防ぐ力はない。
・接種義務はなじまない(かもしれない)。
・初期接種は推奨、オミクロン株対応の追加接種も推奨。
・子どもの重症例が減ってきた段階(疾病負荷減少)で、接種の意義は減る。

重症化リスクのある子どもへの接種は、
・重症化を防ぐ力がある。
・積極的に推奨。

となります。

最後に、2023年3月末にWHOが新型コロナワクチンに関する指針を改訂しましたので小児に関する部分を紹介します。

▢ 健康な生後6ヶ月〜17歳の子ども・青年への接種は優先度が低い。
・この対象への初期接種やブースター接種は安全で有効。
・しかし疾病負荷は小さい。
・他の確立した小児ワクチンと比べると、公衆衛生上のインパクトは小さい。
      ⇩
国毎に、疾病負荷、費用対効果、他の縁高政策における優先度を考慮して決定すべし


<参考>
■ 新型コロナワクチン接種ガイダンスを改訂/WHO
ケアネット:2023/03/31)より抜粋;
   世界保健機関(WHO)は3月28日付のリリースで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種ガイダンスを改訂したことを発表した。今回の改訂は、同機関の予防接種に関する専門家戦略アドバイザリーグループ(SAGE)が3月20~23日に開催した会議を受け、オミクロン株流行期の現在において、ワクチンや感染、またはハイブリッド免疫によって、世界的にすべての年齢層でSARS-CoV-2の抗体保有率が増加していることが考慮されたものとなる。SARS-CoV-2感染による死亡や重症化のリスクが最も高い集団を守ることを優先し、レジリエンスのある保健システムを維持することに重点を置いた、新たなロードマップが提示された。
 今回発表された新型コロナワクチン接種のロードマップでは、健康な小児や青年といった低リスク者に対するワクチン接種の費用対効果について検討されたほか、追加接種の間隔に関する推奨などが含まれている。
 改訂の主な内容は以下のとおり。

・ワクチン接種の優先度順に、高・中・低の3つグループを設定した。
【高優先度群】
高齢者、糖尿病や心臓病などの重大な基礎疾患のある若年者、生後6ヵ月以上のHIV感染者や移植患者などの免疫不全者、妊婦、最前線の医療従事者が含まれる。
この群に対して、ワクチンの最終接種から6~12ヵ月後に追加接種することを推奨している。
【中優先度群】
健康な成人(50~60歳未満で基礎疾患のない者)と、基礎疾患のある小児と青年が含まれる。
この群に対して、1次接種(初回シリーズ)と初回の追加接種を奨励している。
【低優先度群】
生後6ヵ月~17歳の健康な小児と青年が含まれる。
この群に対する新型コロナワクチンの1次接種と追加接種の安全性と有効性は確認されている。
しかし、ロタウイルスや麻疹、肺炎球菌ワクチンなど、以前から小児に必須のワクチンや、中~高優先度群への新型コロナワクチンの確立されたベネフィットと比較すると、健康な小児や青年への新型コロナワクチン接種による公衆衛生上の影響は低く、疾病負荷が低いことを考慮して、SAGEはこの年齢層への新型コロナワクチン接種を検討している国に対し、疾病負荷や費用対効果、その他の保健の優先事項や機会費用などの状況要因に基づいて決定するように促している。

・6ヵ月未満の乳児における重症COVID-19の負荷は大きく、妊婦へのワクチン接種は、母親と胎児の両方を保護し、COVID-19による乳児の入院の低減に効果的であるため推奨される。

・SAGEは新型コロナの2価ワクチンに関する推奨事項も更新し、1次接種にBA.5対応2価mRNAワクチンの使用を検討することを推奨している。

<参考文献>

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