小児アレルギー科医の視線

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子宮頚癌に対する世界の戦略

2017年10月26日 14時05分58秒 | 予防接種
 子宮頚癌に対策の世界の動向は、
① 細胞診+HPV検査併用からHPV検査単独健診へ
② HPV検査+HPVワクチン併用が最新の健診形式

 となっています。
 日本は子宮頚癌健診受診率が低く、ワクチン接種率も低い・・・比較対象にもならない後進国とみなされてしまうようです。

■ 子宮頸がん検診、日本はもはや完全に後進国!? 〜HPVワクチンの接種も含めて再考を
2017年10月13日:メディカル・トリビューン
 日本における子宮頸がん検診の受診率は30~40%と低く、欧米先進国の水準とはかけ離れていると指摘される。さらに、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについても、接種後の有害事象をめぐる問題が解決されていない。こうした中、海外では子宮頸がん検診のパラダイムシフトが起こっているという。昭和大学産婦人科学講座教授の松本光司氏が第26回日本婦人科がん検診学会(9月2~3日)で報告し、「HPVワクチン接種を含め、わが国の子宮頸がん予防戦略について再考する時期に来ている」と指摘した(関連記事:「子宮頸がんワクチン『停止世代』の未来は?」)。
海外はHPV検査単独検診の時代へ
 子宮頸がん検診は1950年代に細胞診を用いた方法で始まった。しかし、細胞診は細胞の形態的変化による診断であるため感度・再現性が乏しく、時に見落としがあった。
 そこで、米国では2003年に細胞診とHPV検査の併用検診が導入され、以降先進諸国ではHPV検査を導入した検査法を推奨する国が増えている。
 HPV検査は、子宮頸がんに関連するウイルスを分子生物学的手法により検出するため、客観的で感度が高い。「病気の原因になるウイルスを見つける検査」なので、将来発症するリスクが高い人を早期に拾い上げることができる。一方、単にウイルスに感染しているだけで、病変を持たない患者も陽性反応が出てしまうという欠点もある。しかし、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)分類でグレード2以上(CIN2+)の病変をほぼ見逃しなく検出することができ、HPV検査陰性者ではその後も3~5年間CIN3以上の発症リスクが極めて低いため、HPV検査陰性者では検診間隔の延長が可能となる。さらに欧州では最近、一歩進んだ子宮頸がん検診の予防戦略として、「HPV検査単独による検診を先行して実施し、HPV検査陽性者を細胞診で精検(トリアージ)する」という手法への転換が加速しているという。
海外で新たに併用検診を導入しようという国はない
 なぜ細胞診とHPV検査の併用検診ではなく、HPV検査単独検診なのか。
 オランダで29~61歳の女性4万人以上を対象に行われた、子宮頸がん検診に関する集団ベースの大規模ランダム化比較試験POBASCAM(Population-Based Screening Study Amsterdam)では、初回検診の5年後にグレード3以上の前がん病変(CIN3+)が発見される確率は、細胞診陰性では0.45%であったのに対し、HPV陰性例では0.21%、細胞診陰性およびHPV陰性(ダブルネガティブ)例では0.19%であった(Lancet Oncol 2012; 13: 78-88)。
 すなわち、5年後にCIN3+が発見されるリスクは、細胞診単独検診に比べてHPV検査単独検診では大幅に減少するが、併用検診とHPV検査単独検診ではほとんど変わらなかった。米国で併用検診を受検した33万1,818人の追跡データでも、初回検診後5年以内に子宮頸がんが発見されるリスクは、併用検診とHPV検査単独検診でほとんど差がなかったと報告されている(Lancet Oncol 2011; 12: 663-672)。
 松本氏は「海外ではこれらのデータを見て、HPV検査単独検診に舵を切った」と言う。オランダでは既に今年(2017年)2月、HPV検査単独検診を国の対策型検診として導入している。同検診では、陰性者に対する次回の検診は30歳代では5年後、40歳代では10年後としている。
 またオーストラリアでも、今年12月1日にHPV検査単独検診を導入予定である。さらに両国では、在宅で実施可能な「自己採取式HPV検査」を国の検診プログラムとして今年正式に導入、あるいは導入予定である。加えてイタリア、スウェーデン、ニュージーランドでも、2018年までにHPV検査単独検診を導入する予定であるという。同氏は「欧州を中心に、HPV検査単独検診の導入は今後さらに加速するものと考えられる」と指摘した。
 一方、わが国では細胞診単独検診導入後、ようやく一部の自治体で併用検診を開始している状況であり、厚生労働省は2013年度から併用検診の検証事業を行っている。わが国独自のデータを得ることも大切ではあるが、欧州では10年前に行われたスタディの追試であり研究ベースでは10年も遅れを取っていることになる。同氏は「海外で新たに併用検診を導入しようという国はない。日本はこのまま突き進んでよいのか」と問題提起した。
ワクチンと組み合わせた新しい頸がん予防戦略も
 また、子宮頸がん予防のもう1つの重要なツールは「HPVワクチン」である。現在、海外ではHPVワクチンとHPV単独検診を組み合わせた新しい子宮頸がん予防戦略「HPV-FASTER」が提唱されている
 HPV-FASTERプロトコルでは、45歳までの女性を対象にまずHPV検査を行う。同検査陽性者では精検を行うが、陰性者にはワクチンを接種し、検診間隔をHPV検査単独検診の場合よりもさらに延長させる。これに4価ワクチンよりも予防効果が高い9価ワクチンを組み合わせれば、検診は生涯に1~2回で済むようになるかもしれない、と考えられているという。
 こうした海外の動向とは対照的に、わが国では2013年6月以降、既に4年以上もHPVワクチンの積極的接種勧奨が中止されたままである。中止までの2年半の間に公費助成でワクチン接種を受けた"ワクチン世代"では既に効果が認められているにもかかわらず (図2)、接種勧奨再開のめどは全く立っていない。海外と比べて検診では10年、ワクチンでは5年以上遅れを取ることになる。

図2.子宮頸部初期病変患者におけるHPV16/18型の占める割合



(図1、2ともに松本光司氏提供) 

 松本氏は「日本はこのままで取り残される...。HPVワクチン、検診ともにその在り方を再考すべき時期ではないか」と呼びかけた。
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