最近というのか近年といえばいいのか、閣僚の「トンデモ」発言に対して国民から批判・非難を浴びたとき、よく使われる言い訳が、「誤解を与えたならば撤回し謝罪する」という言い回し。
先週も、スタンドプレーが目立つ目立ちたがり屋の西村康稔コロナ担当大臣が、「命令応じぬ飲食店には金融機関からも働きかけ 西村担当相」との発言が多くの批判を浴びその後、、森山裕国対委員長と林幹雄幹事長代理が官邸を訪れ、加藤勝信官房長官に「誤解を招く発言をしないように」と釘を刺した。
そして翌日には、「酒提供で金融機関働き掛け撤回 西村担当相に批判噴出、方針転換」となり、加藤勝信官房長官は同日午後の会見で、西村大臣の「働きかけ」発言を撤回した。
だがこれで騒動は収まらなかった。
国税庁酒税課はすでに7月8日、酒類業中央団体連絡協議会各組合に対して、所属する酒類販売業者に「休業要請に応じない飲食店との酒類取引停止」を求める“依頼書”を配布。これについてはいまだ撤回されていないという。
あまりにも素早い国税庁酒税課の対応だったのだが、どうやら西村康稔コロナ担当大臣の発言は個人的なものではなく、半ば強制的ともいえる“金融機関への働きかけ”が新型コロナウイルス感染症対策本部で作られた案であったことを加藤勝信官房長官は9日の午後の会見で証言した。
問題は、この新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長は菅義偉が務めており、7月8日に開催された時も、菅義偉は午後5時5分から同22分まで17分間出席していたにも関わらず、7月9日午前、前日の西村大臣の発言に法的根拠があるかについて記者団に問われ、「どういう発言なのか承知していない」と平然と回答していたということである。
政治ジャーナリストの安積 明子はこんな危機感を指摘していた。
「政治でもっとも恐ろしいのは、権力を行使しながらその責任が不在であることだ。トップはたとえ自分が直接関知していなくても事実を把握する義務があるが、それを怠ってしまった原因はひとえにガバナンスの欠如に相違ない。」
「今回はある意味でそれ以上に深刻だ。法治主義がおざなりにされ、政治家の言葉がいとも簡単に撤回されるという現状からは、民主主義の根幹自体がないがしろにされているとしか思えない。」
ガバナンスが明らかに欠如していると指摘された菅義偉なのだが、その地元の横浜市長選でも、その影響力はないらしい。
すでに、先週には、「菅首相の“お膝元” 横浜市長選の『混迷』がいよいよ深まってきた…!」と言われてきたが、改めてその混迷ぶりをみてみよう。
「横浜市長選で自民党が分裂選挙へ 菅義偉首相の地元で異例事態」
菅義偉首相の地元、横浜市の市長選(8月8日告示、22日投開票)をめぐり、自民党が「分裂選挙」となる見通しになった。 自民党市連は11日、市内で総務会を開いて選挙戦での対応を協議し、国家公安委員長を辞職して出馬表明した同党の小此木八郎衆院議員(56)への推薦を見送ることを決めた。近く4選出馬表明が見込まれる現職林文子市長(75)を推す動きもあり、小此木氏での一本化を断念。最終的に自主投票で臨むことになった。 小此木氏は、出馬で辞任するまで自民党神奈川県連会長を務め、首相に近いことでも知られる。ただ出馬に際して、首相の肝いり政策であるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に反対を打ち出した。市連内には、反対に転じた小此木氏に批判的な声もあったという。 首相は神奈川2区選出で、横浜市西区、南区、港南区が地元。その首相のおひざ元で自民党が分裂選挙となるのは、異例だ。告示まで1カ月を切っており、結果次第では、首相の求心力にも影響しかねない。首相の地元の首長選だけに、今秋の衆院選の情勢にもかかわるとみられている。 横浜市長選では、小此木氏のほか、これまでに横浜市立大元教授の山中竹春氏(48)、作家で元長野県知事の田中康夫氏(65)、東京地検特捜部元検事の郷原信郎氏(66)ら8人が立候補を表明し、候補者乱立の様相をみせている。一部で、自民党参院議員の三原じゅん子厚労副大臣(56)の擁立論も浮上している。 |
「八紘一宇」で有名になったあの三原じゅん子の名前まで上がってくるほど、自民党内の混乱・混迷はよくわかる。
従来の「常識」では首相のおひざ元の首長は、国との密着ぶりを掲げて自民党の息のかかった候補者が選ばれていたはずである。
今回の横浜市長選で異例なのは菅義偉がかつて秘書をやった政治の師と仰ぐ小此木 彦三郎の三男の小此木 八郎が、菅義偉肝いり政策であるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致に反対を打ち出し、国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣(防災)という現職を投げ出して立候補したことであった。
さらに、国家公安委員長は目前に迫る東京五輪・パラリンピック警備の最高指揮官でもある。
与党内では「東京五輪直前の辞職はありえない」(有力閣僚)との批判が噴出する一方、野党からは「菅政権の内部分裂の始まり」(立憲民主幹部)との声が出るのは当然であろう。
そして、今度はさらにとんでもない話が持ち上がっていた。
「菅総理、カジノ招致の『収賄問題』をめぐり、自民党内でささやかれている『ヤバすぎる噂』」
■「反対派」黙認のワケ 「寝耳に水。開いた口が塞がらない。青天の霹靂。狐につままれたよう。いくら言っても足りませんよ」(自民党横浜市議) 小此木八郎国家公安委員長が、横浜市長選への出馬を決めた。しかも、最大の争点にして菅政権の肝煎り政策であるIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致反対を掲げるというから、自民党内は大混乱に陥っている。 |
政治ジャーナリストの泉宏はすでに10日前には、こんな記事を書いていた。
「小此木氏、『横浜市長選出馬』の複雑怪奇な舞台裏」
市長選をめぐる一連の動きについて、永田町では「誰が味方で誰が敵かわからない、複雑怪奇なドタバタ劇」(閣僚経験者)との声も広がる。 そもそも、自民党内最大のIR推進派は菅首相と二階俊博幹事長とみられており、IR汚職事件で逮捕・公判中の秋元司衆院議員(自民を離党)は二階派の一員だ。政界では「秋元氏は捜査の過程で『自民党の大物が何千万円ももらっている』などと供述した」(司法関係者)との噂も広がる。 小此木氏がIR横浜誘致反対で当選すれば、和歌山誘致に意欲を示す二階氏にとっては「ライバルが減る」ことにもなる。また、二階氏と気脈を通じる小池百合子東京都知事も、かねて五輪後の築地跡地へのIR誘致に関心を示しているとされる。「まさに魑魅魍魎が蠢く横浜市長選の舞台裏」(自民幹部)だ。 |
それにしても、まさに「誰が味方で誰が敵かわからない」のが政界なのである。
そもそも小選挙区制になる前の「中選挙区制」では自民党は複数の候補を擁立し、お互いが競い合うことで自民党の票数を伸ばしてきた経緯がある。
それが小選挙区制になり、全国の選挙区の候補者の決定は幹事長が握っている。
しかし地方選ともなれば幹事長の影響力は及ばないのだが、「秋元司被告が、取り調べで菅総理の名前を出した」とか、「秋元氏は捜査の過程で『自民党の大物が何千万円ももらっている』などと供述した」という噂話にも、決して「火のないところには煙は立たず」なので、「付け火」をしている輩がいてもおかしくはない。
IRの誘致は政治家にとっては莫大な利権が絡み、和歌山誘致の二階俊博幹事長と五輪後の築地跡地へのIR誘致を狙っている小池百合子都知事らの名前が挙がってくること自体が、すでに菅義偉のガバナンズ失墜を象徴しているのではないだろうか、とオジサンは思う。