エスティマ日和

『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』2章まで収録の、エッセイ集です。独立しました。

連続小説『空からやって来た少年』第1話

2010年02月08日 | 連載
ぼくちゅう以来の、ひさびさの連続ものです。

『空からやって来た少年』

その第1話:教えて(1)

少年などというものは、夢も希望も未来もあって、
それを空いっぱいに広げているようなイメージがあるけれど

実はそうしたものは、おろかで、浅く、
常に昨日観たテレビとか、おととい借りたマンガの影響がモロであったりして
夢というには、あまりに恥ずかしいシロモノだった。

その日も、僕は、田んぼのあぜ道の小高い所に座って
延々と、はてしない空を
夢見がちな瞳で見つめていた。

単純に稲刈りの手伝いに飽きただけだったように思うが。

とにかく空を見ていた。

少年が空を見つめているのは、なんとなくカッコイイ。
それが秋の空ならなおさらだ。
風が髪などをゆらしていけば、もう、ゆるぎもしない「主人公」なんだから。

「どうしたの?」
と、母。

たぶん、息子が「稲刈りに飽きた」ということも
とっくに悟っていたと思うのだけれど。

その母に向かい
「ああ、母ちゃん。空って広いね」。

今思えば、「手伝いは」どうしたの?という質問に
「空って広いね」は、泣けてくるほどバカな答えだ。

それでも、

「ああ、そうだね」。

母はいつも彼女がそうするように、
この時も、子供の夢想につきあった。

「空って、でっかいよなー」

なまいきに草などをくわえ、
草の上にねころぶ少年。

おそらくは、ゆうべテレビで観た
「勝海舟」だか「坂本龍馬」かなんかの話に影響されただけなのだが

そういう日には、空を見上げていれば、
「大物になれる」と、信じてうたがわなかった。

 いずれ天下とってやる!

でも、今夜、テレビでメロドラマをやれば
きっと、今度は夜空を見上げて

 ひとりの女性のために生きよう!

そう決心するにちがいないのだが。

でも、この時点では、まだメロドラマを観ていないので、
空を見上げていれば、いずれ天下をとれる、と信じて疑わない。

「あの空はさー。世界中につながってるんだよね?母ちゃん」

ほらね。

でも、母は、そんな僕を、百も承知でありながら

「ああ、そうだね」。

僕のとなりに腰掛けて、愚息のにわか大志につきあったりもした。
母親もたいへんだ。

「母ちゃん。ボク、大物になれるかな?」

「そうだねぇ・・・・」
母は、ちょっとだけ考えこんで、

将来、天下をとるかも知れない少年に向かって、

「その前に、お前がねころんだとこ。ヤギがフンしたんだけど」

「え~~~~~~~!」

 早く教えろよ!

少年の世界に君臨する野望は、
ヤギのフンによって、もろくもくずれさった。

少年などというものは、せいぜいその程度。


   つづく・・・